本日、ポアロにて早めの夕飯なり。
事務所のみんなで時折来るのだが、古き良き喫茶店という感じでクセになる味わいなんだよな、喫茶ポアロ。
俺はナポリタンが好みである。
隣の席では、いつもの女子高生組がなにやら盛り上がっている。
俺らと下校時間が被ったらしく、喫茶ポアロの中はわりかし賑わっている。
どうも、彼女らでバンドを組んで、米花町カウントダウン演芸大会に出るつもりらしい。
って今十二月末かよ。昨日は正月やったんやぞ。
まさか…味を占めたヨグ=ソトースが逆転の発想で幾度もお正月が来るようにした……?
うーん。まあ、考えすぎだろう。たぶん。
園子ちゃんがドラム、世良さんがベース、蘭ちゃんがキーボードということで半強制的に決まっていく。
世良さんはどうやらベースが弾けるらしい。
ちらっと隣の席の俺たちを見てからからと笑った。
「まあ、本当はそっちの諸伏さんの方がベースは上手いんだけどな」
『ははは。だから他人の空似だって。俺は楽器は弾けないぞ?』
などと軽く言葉遊びに興じている。
INT高い人がよくやる無駄にピリピリしたお遊びだ。
これでも本人達は軽く戯れあってるつもりらしい。怖や怖や。
俺は諸伏さんが楽器を弾くところは見たことがない。
が、おそらく本当のことだろう。
ライフルバッグに楽器を入れて偽装して持ち歩いてたって前に言ってたし。
持ち歩いているのにいざという時演奏できねば片手落ちだからな。
注文した料理持ってきてくれた梓さんが、「お待たせしましたー」と言ってコーヒーとナポリタンを机に置いてくれる。
ここのコーヒー美味しいんだよな。専門店のブレンドはさすが違う。
マモーさんが頻繁に連れて行ってくれる店は、高過ぎて俺の安舌では良さが分からん時があるんだよな。
盛り上がる園子ちゃんの姿を見ながら、俺はひょいと顔を出して声をかけてやる。
「なら曲は俺が書いてやろうか?みんなで弾く曲が必要だろ?」
「………え、黄衣さん作曲とかできるの?」
「趣味でちょっとな」
俺が適当に相槌を打つ。
するとニヤついた降谷さんが園子ちゃん相手にヒソヒソと耳打ちした。
園子ちゃんは耳打ちされた内容に仰天して大声を出した。
「えーーーッ!?黄衣さんが世界的シンガーソングライターのテツチャプトル…!?!?」
「しーっ、しーっ!」
なんかいらんことをバラされているようだ。
別に隠してないが、こういう美味しい要素は自分で摂取したかった気がしないでもない。
いややっぱいいわ。
クラークケントじゃないんだし、正体を隠してうんちゃらは恥ずかし過ぎる。
でも降谷さんはひとまず睨んでおく。
降谷さんはてへぺろという様子を隠しもせずにニヤニヤとコーヒーを飲み出した。
すっかりニャル野郎に染まってしまって。
ここは俺が一度鉄拳制裁すべきかもしれない。
シュッシュッとシャドーボクシングのポーズをとる。
怖いぞ強いぞ、旧支配者ハスターの御成だぞ!
そしてコナン君に「暴れないの」と注意されてしおっとなるなど。
諸伏さんと降谷さんが生ぬるい顔でこっちを見ている。
『相変わらずすごく弱そう』
「いいジム紹介しようか?」
弱げだと言いたいらしい。
うるせー俺の触手は当たれば死あるのみなんやぞ!!オラァン!!
などとまったりしていると、向かい側の大荷物の客が派手に笑い出した。
「ぶぁはははははははは!!!」
「フカすならもうちょっとマシな嘘にしとけよ!」
「ひっひははは!俺の正体テツチャプトルって、小学生かよ!」
爆笑している客達はミュージシャンらしい。
大きな黒いバッグは、よく見ればギターが入っているようだった。
でもまあ俺の立場だったとしても街で聞いたらSNSで笑い飛ばす類のネタ話だとは思うので、これに関しては言い訳できない。
だが対面で笑い飛ばすのは性格悪いぞ。
園子ちゃんが「なによ感じ悪いわね」と文句を言っている。
優しい子だ。一緒に笑っても罪はないシーンだったのに。
コナン君はアイスコーヒーを飲みながら「言われてるよ黄衣さん」と淡白に促した。
早いとこ騒ぎを収めろという意味だ。
夕飯中騒いですまんな……。
しかし、ふーむ。
俺だけ受けて立ってもいいのだが、なんとかして降谷さんにも責任を取らせたいな。
俺はまったりとぺこぺこしながら笑っていた二人組の客に話しかけた。
「そのギター借りてもいいですか?」
「あん?いいぜいいぜ、一曲お披露目してもらおうじゃねえか」
借りたギターの状態は良好で、よく手入れされて使い込まれていた。
性格は悪いが音楽には真摯なようだ。
「どうもどうも。すみません。一曲ご清聴願いますがよろしいでしょうか」と周りに一応確認する。
俺たちと女子高生、その二人以外はおばあさんが一人だけだったが、おばあさんもどうぞどうぞ、と了承の意を示してくれた。
すまないねホンマに…。
選択コンテンツは先日リリースしたばかりの新曲だ。
俺のボーカル付きだからちょうどよかろう。
降谷さんの脳に直接アクセスし、いい具合に切り取った曲の一部の譜面を叩き込む。
降谷さんが「!?!?」と目を見開いて声を上げるのを堪えた。
で、ギターを降谷さんに渡して「付き合ってくれるよな?」と圧をかける。
ウッ…となりながらも技術的にも弾ける範囲だったのだろう。
降谷さんは嫌そうに頷いた。
まあ、弾けなかったとしても弾けるように仕立て上げたから問題ないんだが。
こんな変な空気にした責任は取ってもらうんじゃよ。
思考を同調させ、脳内に架空のリズムを作成してタイミングを合わせる。
俺はいつも英語の楽曲と日本語の楽曲を同時にリリースするのだが。
今回は日本語版を採用するとしよう。
喉の状態を調整して、音階ではなく周波数で音を軽く確認する。
その緻密なコントロールで描き出す音楽魔術は「勇気づける・一歩踏み出す力を与える」精神効果に属するものだ。
ではその一部をご開帳しよう。
俺の生音声を耳で聞くと一味違うぞ。
「─────、─────!」
喉を震わせて、しかし完璧に統制された音を喫茶ポアロの店内へと響かせる。
降谷さんのギターもピッタリ合っているようだ。
彼も弾きながら俺の音楽魔術を読み取ったようで、興味深そうに音に聞き入っている。
歌詞の一番を中心にアレンジしたショートバージョンだ。
少しばかりの演奏を終わらせたら、俺は「ご清聴ありがとうございます」と締めくくった。
純粋な女子高生組が「凄いな!!!」「黄衣さんめっちゃんこ歌上手い!!」と声を合わせて俺たちを褒めてくれた。
やったぜ。ピースピース。
降谷さんも蘭ちゃんに「安室さんもギター弾けたんですね!凄かったです!」と言われて困っている。
謙遜している風を装って「彼の助手程度ですよ」とさらりと流したようだ。
内心このぐらい当然だけどなの副音声が滲むプライド妖怪である。
その隣で諸伏さんが「俺も弾けるもん。俺が大元だもん」などとブツブツ文句を言っている。
どうやら諸伏さんが降谷さんにギターを教えたらしい。
向こう側のお客さんも呆然としているようだ。
納得したのかは知らないが、そこを確定させても俺の側にいいことは何もない。
そのままそっとしておくとしよう。
本当はあのまま笑い話にしておいた方が正体が広まる恐れはなかった。
だからこれは単に俺の気持ちの問題でしかない。
……いやこれもし次あっても笑い話にしておこう。
スカッとジャパンじゃねーんだから顔から火出るわ。
おのれニャル谷さんめ。
絶対俺が目にもの見せてやる。
またシュッシュッとシャドーボクシングをすると、「脇。拳も下がってる。猫背」と萎びた顔の降谷さんに言われてしまった。
よほど弱そうだったらしい。憐れまれているようだ。
ちっくしょうなんか俺も格闘技習おうかな。
しぶしぶ座ると、園子ちゃんがヒソヒソと「えっ、ねえ、さっきの本当の本当なの!?」と声をかけてくる。
「うん。趣味垢がとんでもないことになったけど正真正銘楽団俺一人」
「うっそ。え、あたしたちのバンドに曲書いてくれるってのはリップサービス?」
「本気だよ。自分の作った曲を他人に弾いてもらうのって嬉しいだろ?だからさ」
「わ、わぁ……!」
ほら、と俺のY◯utubeアカウントの管理画面を見せれば、園子ちゃんがちいかわになってしまった。
そして何やら女子高生組で相談会を素早く開催。
そして議論が終わると、決意に満ちた顔で「じゃ、じゃあ一曲お願いします!」と頭を下げてきた。
「ヨシ来た!任せとけ!」
「蘭!これは優勝間違いなしよ!動画撮って旦那にも送ってやるのよ!」
「う、うん。新一も褒めてくれるかな…」
「頑張って練習するわよー!世良ちゃんも!いくわよいくわよー!!!」
園子ちゃんたちは盛り上がっている。
しかしギターがいないようで、この後梓さんを引き摺り込んで、今度一緒に練習にすることになった。
流れで講師に降谷さんを呼んで、世はまさに大バンド時代だ。
諸伏さんが静かに「だから俺も……」と恨み節を唱えている。
気合いは十分。俺もしっかり作曲せねば。
蘭ちゃんが楽しそうな様子を見て、コナン君も端っこでこっそりニコニコしていたのであった。
・黄衣ハスタのシャドーボクシング
弱そう。弱い。
しかし筋力は人外のそれであるため、雑に壁とか殴り抜けることができる。
同じ感じで本来の姿でも触手を振るう。
その時のダメージは公式ルルブに則り、触手 命中力100%/ダメージ:死 のそれである。
・テツチャプトル
実は肉声だと音声魔術が10倍ぐらい出力できるライブ向きの曲。
あっという間にY◯utube楽曲ランキングのトップに躍り出た。
リリース曲のうち一つ(人の心を楽しませる、がコンセプトの英語曲)が歴代再生数2位まで激進したが、一位の子供向け番組を抜けなかった。
国内ランキングは傷ついた心を癒す日本語曲が一位になっている。
現在は姿を隠し大手メディアにまったく姿を現さない謎のシンガーソングライターとして度々注目の的だったり。
山ほど大手レーベルからお誘いがかかってるしライブの懇願が来てるが、こちらは趣味と割り切って断っている。
なので曲の販売は一切されておらず、収益化はされてないが自動でつく広告と戦いながら視聴者は音楽を再生しているようだ。
楽曲販売が切望されている。
歌詞があるものに関して必ず日本語と英語の両方を同時公開するので、日本人ではという噂が立っている。
何故か巨大宗教団体:黄色の印の兄弟団に推されている。