ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ひたひたと

 

 翌朝、俺たちは朝イチで宮野さんの言っていた製薬会社へと足を運んだ。

 

 調査は幽霊組、俺たちはSNSなどのネットデータを総浚いした。

 しかしながら。

 すでに宮野志保本人はどんなに探しても影も形も見当たらなかった。

 机に荷物が残ったままで、諸伏さんが聞いた噂話と総合して考えると、もしかしたらどこかに連れていかれたのかもしれなかった。

 

 「姉が殺された件についてジンに噛み付きでもしたか」とは諸伏さんの推理だ。

 

 一応、今後一週間ほどは引き続き調査をするということで方向性は打ち合わせ済みである。

 

 宮野志保の件は早くも暗礁に乗り上げているが、そうはいっても今日は平日。

 コナン君は学校だ。

 

 小学校から帰宅したコナン君は、同級生の誘いで図書館へと行くらしい。

 コナン君は宮野志保の件のためにそれを断ろうとしていたが、所詮なんの情報もない今は諸伏さん達の調査結果待ちだ。

 俺たちにできることは何もない。

 

 仕事も今は組織の製薬会社を調べるために空けているし、コナン君もあまり付き合いが悪いと学校で浮いてしまう。

 

 というわけで、ぶすくれたコナン君が少年探偵団にせっつかれている今現在である。

 

「おせーぞコナン!」

「早くしないと行っちゃいますよコナン君!」

 

 事務所の前で少年探偵団がわあわあと口々に声を上げている。

 うーん小学生のパワー、侮りがたし。

 

 実に暇そうに文句を言っているので、奥から諸伏さん用のお菓子を取り出してきて彼らの前で見せてみる。

 諸伏さんには後で別のを買って補填すればよかろう。

 

「待っている間お菓子でも食べるかい?」

「えっ、ほんと!?歩美食べる!」

「よっしゃー!うな重あるかな!」

「あるわけないじゃないですか元太君…」

 

 探偵事務所に招き入れて、ソファに皆を座らせる。

 奥でコナン君が「絶対諸伏さん怒るだろ…」と呟いた。

 いやいや、子供用だぞ?いくら我が事務所のフードファイター枠とはいえ、そんな大人気ない反応はしないはず…。

 

 なお、コナン君は先方に提出する書類の最終確認中だ。

 これだけ終わらせて図書館に行くつもりが、いくつかミスが見つかってここまで時間がかかってしまっているのだ。

 なお、ミスの原因は俺。

 すまん……すまん……。

 

 俺がやや小さくなりながら子供達の様子を窺えば、彼らは案外おとなしくソファの上で足をぶらぶらさせていた。

 

 まだまだ子供のため各種能力は低いが。

 それでも、小学生平均からすれば驚異的なEDU(学力)だ。INT(知性)も高い。

 流石コナン君と一緒に行動しているだけはある。

 少年探偵団、と名乗るのに十分すぎるハイスペックの片鱗が見えていた。

 

 暇を持て余したのか、少年探偵団の一人、おにぎり頭の子が俺に話しかけてきた。

 

「なあなあ、黄衣の兄ちゃんは探偵なんだろ」

「コナン君が学校から帰った後普段お手伝いしてるって聞きました!」

「歩美も歩美も!」

「ん、そうだよ。黄衣探偵事務所は主に警察が捜査を取りやめた未解決事件…コールドケースを中心に活動しているんだ」

 

 こーるどけーす?とおにぎり頭君が首を傾げた。

 

 公安信者さんからの紹介で、俺たちは全国の不審死、失踪などの各種日の当たらない事件を主に取り扱っている。

 既に時効が過ぎているケースも多々あるが、それでも依頼人は絶えない。

 僅かな希望を、真実を求める願いは俺が思っていたよりもずっと多いということなのだろう。

 

 最近は名も売れてきて、直接持ち込まれる事件も増えてきた。

 諸伏さん達を養うには十分な金もコンスタントに入ってくるようになったし、なんとか軌道には乗ってきていると言っていい。

 

 話を聞いて、「おーっ!」と少年探偵団の歓声が響いた。

 いやまあ、その八割はコナン君と諸伏さんが解き明かしたのだけれどな。

 俺は完全に手掛かりのない失踪など、ほんの一握りを魔術を使って、ちょいと調べているに過ぎない。

 

 と、その辺でコナン君も書類のチェックも終わったらしい。

 全てを封筒の中に入れて「これ、確認済みだから送っといてください!」と言って少年探偵団へと合流した。

 「おせーぞ!俺腹減っちまった!」「元太くんがお腹減ってるのはいつものことですよ」「コナン君!行こ行こ!」と口々に騒いでコナン君の手を引いた。

 

 俺は引きずられるコナン君の後ろ姿に手を振って、笑顔を作った。

 

「了解。ありがとなコナン君、行ってらっしゃい」

「行ってきます!」

 

 慌ただしく駆けていく彼らは実に生命力豊かで、なんとなくこちらも笑顔になってしまう。

 来週は阿笠博士とキャンプにも呼ばれているらしいし、充実しているようでなによりである。

 

 ちなみに、諸伏さんと宮野さんは調査の続きで留守にしているので、この事務所は俺一人だ。

 俺も書類整理の続きをせねばなるまい。

 

 と、その時のことである。

 ふと、ピリリとした感覚が俺の神経を走った。

 俺の化身にして巨大術式、「ハスターの瞳」に何か異常があった証だ。

 

 すぐさま「ハスターの瞳」へとアクセスして、その術式の自己修復プログラムを作動させる。

 

「……彼方より来たりて饗宴に列するもの(Feaster from Afar)、接続。全術式自己チェック開始」

 

 数秒。

 返ってきたのは軽微なエラーが幾つかと、大神ヨグ=ソトースの異常由来の不具合だけだった。

 これだけなら特に特筆すべきことはない。

 だが怪しい。怪しすぎる。

 

 手作業で一つずつ術式を紐解いていく。

 チェック開始から3時間ほど経った後だろうか。

 俺が最近増設した対旧支配者降臨阻害の術式の一部に、僅かに張り替えられた形跡が見つかったのだ。

 

 どうやら俺の十重二十重に張ってあった阻害術式を掻い潜り、地球に降臨した奴がいるらしい。

 しかもわざわざ開けた穴を丁寧に塞いで、俺が気付くのを承知で偽装工作をした奴が。

 

 絶対ニャルラトホテプじゃん………。

 

 他にもどこに何が仕掛けられているか分からない状態だ。

 全術式手作業で探すことを考えたら気が遠くなるが、危険性を考えたらやらねばならないだろう。

 

 そこでふと、コナン君の帰りがやけに遅いことに気がついた。

 時刻はすでに午後7時。

 

 ここの図書館は6時に閉まるはずだから、もう帰ってきていなければおかしい。

 普通の小学生なら途中で道草を食っている可能性も否定できないが、相手はコナン君だし。

 

 遠く図書館へと焦点を合わせて「視」てみれば。

 そこには真っ暗な図書館と、そこで息を潜める子供達の姿が映った。

 あんな灯りの消えて施錠された図書館内で、何かから隠れるように小さくなる姿は異様の一言。

 どうやら悪戯で隠れている感じでもなさそうだし。

 一体何をしているんだ?

 

 そこでふよっと視界を掠める、半透明な姿。

 諸伏さんと明美さんが帰ってきたようだ。

 

『ただいま、はー、疲れた!』

「お疲れさん、収穫はどうだった?」

『やっぱり宮野志保は帰ってこなかったよ。昨日の夜に言い争いがあったところを見るに、宮野志保は独房に入れられた可能性が高い』

「独房の場所はわかったのか?」

『不明だ。あの製薬会社からそう遠くはないはずだと信じたいが』

 

 あまり状況はよろしくないようだ。

 不安に押しつぶされそうな宮野さんが、それでも己を抑えて気丈に振る舞っている。

 

『あれ、少年は?』

「それが、図書館行ったっきり帰ってこないんだ。もういい時間だから図書館を確認してたんだけど、なんか様子が妙で」

『妙?』

「なんだか影に隠れて……うーん」

 

 と、そこで視界の先の図書館で、棚が一斉に倒れていくではないか!

 轟音で倒れていく大きな本棚がドミノ倒しに一、二、三。

 その先にいた男性が一人、ちょうど下敷きになって倒れ込んだ。

 

 その様子を見て、少年探偵団が喜んでハイタッチしあっている。

 いや、どういう状況だよ。

 

 仕方ないので時間の大神ヨグ=ソトースにアクセスして経緯を確認する。

 

「……コナン君、図書館で麻薬を発見したらしいな」

『は!?』

「しかも殺人もあって、おまけに犯人に見つかって追いかけられたらしい」

『ええ!?工藤君は無事なの!?』

『少年の引きの強さどうなってんだ…』

「今、犯人を返り討ちにしたとこっぽい。これから迎えに行く必要があると思う。あと警察呼んでるっぽいから事情聴取も」

『うーん、さすが少年』

 

 諸伏さんが宇宙猫になってしまったが、それは俺も同じことだ。

 小学生だけであの行動力、ホームアローンさながらだ。

 

 きっとこれから事情聴取で、保護者責任で俺も怒られるに違いあるまい。

 至極気が乗らないが、小さな探偵君の活躍を讃えて、俺は図書館に急行したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 はっと、降谷零は目を覚ました。

 

 見ていたのは酷い悪夢で、額には玉のような汗が浮かんでいる。

 

「………」

 

 セーフティハウスはしんと静まり返っている。

 TVもなく、ベッドと机が一つだけの寝るためだけの部屋だ。

 ベッドの上で髪をかき上げて、ぼんやりと天井を見つめる。

 

 まだ夜までかなりの時間があるが、今夜も仕事があるため今のうちに仮眠をとっていたのだ。

 不規則な仕事時間ゆえに睡眠が浅いのはいつものことだったが。

 こうも寝れた気がしないとなると、仕事に影響が出そうで嫌になる。

 

 降谷は気だるい眠気が醒めるのを待ち、しばし目を瞑った。

 

 そういえば、明日の夜が黄衣ハスタとの約束の時間だ。

 

 黄衣ハスタ。

 違法薬物所持の疑惑があり、その所持量から推察して、売人である可能性が高い。

 公安の協力者であるが、違法組織の内側の人間を獲得工作でもってエスとするのは公安の常套手段。

 つまり、もともと売人だった可能性が高いということで。

 

 降谷零は不愉快さに息をついた。

 贈り物だなどとくだらない。あんなふざけた死にたがりの願いを叶えてやる義理はない。

 君永課長があのタイミングで降谷に彼を引き合わせた理由が見えないのが不可解だが……。

 

 降谷はそこで布団から体を起こし、少しだけ目を見開いた。

 なんだか妙に身体が軽い。

 こんなに眠りが浅いのなら大層重く気だるさに包まれることになるだろうと踏んでいたのに。

 

 顔を洗うため洗面所に向かったところで、降谷は違和感に気がついた。

 

 鏡に映る己が、ニタニタと悪意の滲んだ笑みを浮かべていたのだ。

 まるで降谷を嘲笑するように、ゾッとするような瞳が己を捉えている。

 思わず息を呑んで。一歩後ずさって。

 

 そして。

 鏡に映った己と目が合う。

 

─────特に、何も問題ないな。

 

 そう、思い直した。

 

 何が鏡の己が見ているだ、馬鹿馬鹿しい。

 今夜の仕事もさっさと終わらせて、明日の黄衣ハスタとの話し合いに備えよう。

 

 ああ、黄衣ハスタに会う時が楽しみだ。

 

 なにせ、あんなに面白い玩具は他にないからな。

 他に類を見ないくらい頑丈で、楽しくて。

 己にとって唯一の親友であると言って相違ないだろう。

 

 そこまで考えて、降谷零は眉間に皺を寄せた。

 

 はて、黄衣ハスタが親友?

 数度顔を合わせたぐらいの人間を友人と言えるほど、己は人好きではないのに。

 そもそも、奴は、

 

───旧支配者だ。己と同じ、上位存在。

 

 そうそう。

 俺と同じ、理の外から来た存在。

 だというのに、奴といったら人間に合わせて己を全力で矮小に見せようとする始末だ。

 なんて健気!見ていて飽きないとはこのことだ!

 

 降谷零は愉快な気持ちになって、鼻歌を歌いながら顔を洗った。

 やっぱり拭いきれぬ違和感が胸を撫ぜ上げる。

 

 顔を洗ったら、次は仕事のために服を着替える必要がある。

 バーボンとしての衣装を摘み上げ、一つ一つ体を動かして着替えていく。

 が、とても面倒くさい。

 いつもやっていることなのに、いや。

 こんな面倒なことをせずに、体をぐにゃりと変形させていつも通りやればよかったのだ。

 

 不定形に身体をしならせようとして。

 そこで、己の身体が変形しないことに気付いた。

 

「……?」

 

 おかしいな、と降谷零は首を傾げた。

 まだ馴染みきっていないのかもしれない。

 ……馴染むってなんだ?やはり先ほどから何かがおかしいような。

 

 プルルル、とデフォルトの着信音。

 バーボンのスマホに電話がかかってきたのだ。

 

 面倒くさい気持ちになりながらも、バーボンとしての役を羽織って電話に出る。

 

「はい、バーボンです」

『予定が30分早まった。すぐ例のブツを持って集まれ』

「ジン、急に言われても困ります……が、分かりました。間に合いそうなので急ぎます」

『フン。遅れたらテメェの額に風穴が開くだけだ』

 

 それだけ言って電話は切れた。

 

 降谷零は嘆息した。

 旧支配者ハスターに情けで見逃されたに過ぎない羽虫が、大きな口を叩くものだ。

 だが、そういうところも人間の愚かさ、すなわち面白さだと思えば味わい深い。

 

 そのままニタリ、と嗤って謳うように声を上げる。

 

「今回は特別に、バーボンとしての役割を果たして差し上げましょう。感謝してくださいね?」

 

 その部屋には降谷零は一人きり。

 返事のない室内で、拭いきれぬ違和感に苛まれていた。

 

 

 なぜ俺は、俺に向かって話しかけているんだ?

 




次回!ニャルラトホテプ退散!(伝統的予告ネタバレ)
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