世間は夏休みである。
昨晩は皆で怖い映画を見た。
毛利探偵に激しく勧められ、沖野ヨーコ主演の「ゾンビブレイド・死霊の晩餐会」をサブスクで視聴したのだ。
割とトンチキな内容で、ゾンビブレイドを持った沖野さんがゾンビを根絶やしにする感じのC級ホラーである。
でも意外と演者たちの迫真の演技もあり、内容も迫力があった。
ありすぎて俺はまた加護を連打してしまったが。
頑張って人に加護を付与するのは我慢したので、たぶん無人の貸別荘が夜光り輝くなどしただろう。
諸伏さんが運転手をしながら、俺に話しかける。
『だから確認に行くのか?変な加護が残ってないか確認しに』
「違う違う。単に前に討伐した怪異の状況を確認しに行くだけだよ。な、降谷さん!」
「黄衣君は昨日思わず自分が何かやらかしたんじゃないかと気にしてるんだろう。すでに怪異の鎮圧は確認済みだ」
「なんで話を合わせてくれないんだよ!!!ニャルの風上にも置けない降谷さんめ!」
『それは置かれた方が不名誉なのでは?』
諸伏さんのツッコミが心に突き刺さる。
まぁ…ニャルの名誉は人間の不名誉だね……。
降谷さんは後部座席で仕事をしながら「本体は君に甘すぎる」と言い切った。
コナン君はニャル製ゲームをプレイ中。
少年探偵団の皆の資源を持ってマグマに沈んだため、練習を厳命されたらしい。
この間コナン君のプレイ風景を見たニャルが「おかしい…そうはならないはずなのに…」と険しい顔をしていた。
下には下がいる。想定を超える、じゃない。
想定を下回る羽虫の存在にニャルは世界の広さを感じたようだ。
より完璧なゲームを目指すべく、アップデートの構想を練っていた。
さて、到着したのは件の映画の舞台となる貸別荘だ。
俺は周囲をぐるぐると周り、変な術式が残っていないことを確認して一息をついた。
同じく降谷さんがついてきて「凄い加護の跡だな」と呆れたような声を出した。
「いや、映画がな。もう人類がピンチだと思うとな。もうな」
「C級映画に感情移入しすぎだろ…現実に人類のピンチなんて腐るほどあるだろうに」
「見えてる物は最低限救う、が俺の今の信条なんだよ!俺を誤認させるほどのものを作る人間が悪い!!」
俺が開き直ると、降谷さんは大きなため息をついた。
「そうだとして、ゾンビブレイドは違うだろう。僕も出る前に少し見たが」
「……まあ、サメ映画的なサムシングはあったね。シュールギャグというか。でもいい出来だったよ」
「どうしてその仕上がりで加護を連打できるんだ。出口が緩んでるんじゃないか」
切れ味鋭い言葉に俺はダメージが蓄積してくる。
うるせー!俺人間が酷い目に遭うのは地雷だって言ってるだろ!
大抵の映画は人間が酷い目に遭うんだ!だから見ないようにしてるのに!
と、ぐるりと回って帰ってくると、コナン君たちが服部君と話し込んでいた。
ここ大阪じゃないのに、というか群馬なのに。
「お、来たんか黄衣サン。おおきに」
「どうも服部君。君の方はこの山の中の貸別荘に何か用があったのかい?」
「俺は大滝はんの依頼や。この近くにゾンビが出たとかなんとか、ケッタイな話があったみたいやしな。黄衣サンもこの件聞きに来たんか?」
「いや。俺は観光」
そう答えると、コナン君が「さっき討伐した怪異の確認に来たって言ってた」とジト目になる。
「それはそれ、これはこれ!」
「………、なんや怪異が出たっちゅー話か?」
「まあね。グラーキの従者が少しだけ。既に討伐済みだよ」
旧支配者グラーキ。
ウニみたいな形をした旧支配者だ。
その棘で人を刺して液を注入することで、「グラーキの従者」と呼ばれるゾンビを作ることができる。
少し前の話だが。
グラーキがコソコソ従者を拵えていたので、俺への宣戦布告とみなして殴りに行ったのだ。
ついでにニャルも祭りと聞いて参戦。
グラーキはそこまで弱くない旧支配者だが、すごく魔術が上手いわけでもなく、強大な権能があるわけでもない。
俺だけでも倒せたが、ニャルも加わったことで形勢は絶対有利へと傾いた。
そうしてタコ殴り劇場と化し、グラーキはボコボコにされた挙句遠い宇宙に蹴り出されたというわけだ。
この時のことをニャルが「これが夫婦の共同作業ってやつですね♡」とか抜かしていたが。
ヤンキー夫婦過ぎることになるので、認めたくない気持ちが少しあったり。
ともかく。
グラーキはケジメ付けさせて回線切断して放り出してもう一度ボコるなどしておいた。
だから今の地球に脅威はない、ということである。
ちっ、俺のシマに手を出すとか身の程弁えろや!ぺっ!
とりあえず暴れられて盛り上がったニャルは、その勢いのままに走り出そうとした。
「この勢いで王宮の盆踊りを荒らしに行きましょうよ!」とちょっとドライブ誘うみたいに言われたが、俺は謹んで辞退させてもらった。
それはお前、過去何回かやってニャルが消し飛ばされてるやつじゃねーか。
今まで俺はあまりに怖かったので王宮荒らしごっこには不参加を貫いている。
一応心配だったので、毎回王宮の端っこに隠れて見てたけれども。
アザトースは王宮荒らし自体も踊りの一環として満足することが多いが。
外神の集団に追いかけられてデスorダイの極地は免れない。
前の時は副王ヨグ=ソトースのこぶしが炸裂し、ニャルは虹色に輝いて爆散した。
復活に500年ぐらいかかったはずだ。
懲りないニャルは「あそこで右に避けてれば逃げれてた」などと供述していたが。
少しは懲りた方がいいと思う。
俺の話を聞いて疑り深い視線が集中する。
「ともかく、もうこの場は問題ないよ。グラーキの従者もいない」
「本当かなぁ」
「ホントホント。俺念入りに確認したし。棘の一本とかは落ちてるか分からないけど、そのぐらいだし」
「ダメすぎる!!!」
コナン君に激怒された。
降谷さんも目を三角にして「君は、危機管理能力がな、わかるな?」と、懇々と説教モードに入った。
「降谷さんは死者が出ても気にしない側だろうが!!」
「気にするに決まってるだろ!畑に無断侵入されて除草剤撒かれたみたいなもんだぞ!」
『畑の野菜、俺氏。個人的には大きくて立派な白菜がいい』
「諸伏さんは安室さんを無限に肯定するのどうかと思うよ」
コナン君のツッコミに俺は深く同意した。
割と全肯定ボットになりがち。
服部君が「こらあかん。オモロさで負けとったら俺の立つ瀬があらへん!」と危機感をあらわにしている。
大阪のプライドが刺激されたようだ。
服部君が「ほな、ゾンビの残りが居らへんか調べに……」と言ったところで、バンが別荘前へと止まった。
撮影機材を持った複数人だ。
降りてきた男性が、俺の姿を見ておおっ!?と驚いたような様子を見せた。
「もしかして黄衣ハスタ?」
「はい。『ゾンビブレイド・死霊の晩餐会』の撮影地観光に来てまして。そちらは?」
「ならちょうどいい!こちらはその続編の予告フィルムを撮りに来たんですよ!」
どうやら彼らは「ゾンビブレイド・死霊の晩餐会」の撮影チームのようだ。
プロデューサーらしき人が、「皆さんも撮影見学して行きますか?」と誘ってくれる。
「いえ、大変嬉しいお誘いですが、少し野暮用がありまして。もし撮影現場で会うことがありましたら、その時はどうぞよろしくお願いいたしますね」
「勿論ですとも!」
ホクホク顔のプロデューサーさんから離れて、服部君に合流する。
服部君が「ええんか?」と言ったが、俺は首を振った。
「別荘の中に怪しい怪異は存在しないしな。一応周辺の棘探しだけでもしておこうか」
「よっしゃ、頼むで黄衣サン!」
「僕あの人たちのことが気になるんだけど…」
『同意見だ。なんか修羅場の香りがするんだよなぁ』
「どちらにしろそれは捜査一課の仕事だ。僕たちが解決する必要はないだろうさ」
降谷さんが淡白に言い切るが、諸伏さんはモニュモニュと何かいいたげな様子だ。
「どうしたヒロ」と降谷さんが問うと、諸伏さんは視線を逸らした。
『ここ、群馬県警だし。ミッちゃん、警部になったんだろ?ちょっと迷宮入りが心配で』
「………帰り際に立ち寄るだけ立ち寄るか」
降谷さんは前言撤回して頷いた。
山村警部、全然信用されてない件。
俺は「いい人だとは思うんだよ、人としては」とフォローを入れるに留めた。
・グラーキ
現在回復のため療養中。
ヤンキー夫婦にボコられてすごく文句を言っている。
とはいえちょっと後悔中。
「グラーキの黙示録」を読んだ人間側からお誘いがあったから気軽に乗ってしまったが、あの気狂いのことを考えれば断るべきだった。
あの狂神ども!野蛮神!頭ニャルラトホテプ!!(悪口)
・王宮荒らしごっこ(不定期開催)
ニャル発案のスリル満点のゲーム。
宇宙の中心にある白痴の魔王アザトースの宮殿に乗り込んで、フルート部隊を蹴散らし太鼓を全部ひっくり返すなどする。
無論外神に鬼ほど追いかけられる。
今のところ、これでアザトースが目を覚ましたことはない。
アザトースが目を覚ます、というのは単に騒ぐだけでなく別の条件が揃う必要がありそうだ。
ただ、アザトースの腹に太鼓を投げ込んだニャルは強烈な一撃を受けて消し飛んだ。
・ニャルラトホテプ
スピード狂めいている。
王宮荒らしに参加しないハスターに疑問を抱いている。
あんなにスリル満点なのに……?
ゲーム性が足りないのかもしれない。フルートを何本盗めるかの得点を競うべきか。