グラーキ退治済みの屋敷周辺に、怪しげな銀髪黒服の男がいたなり。
みんなで囲って事情聴取している現在である。
銀髪マフィアは手に一メートルはあろうかという紫の棘を重そうに引きずり、森から出たところで車を待っていたようだった。
どうやらグラーキの棘のかけらがまだ残っていたらしい。
ハンカチ二枚に葉っぱを何重にも包んで即席ミトンにして、それ越しに持っているようだ。
うーん有能探索者。
銀髪マフィアは俺たちを見て、げ、という顔をした。
降谷さんが眉間に皺を寄せて進み出る。
「この件を任せた覚えはないんだが」
「この近くを通ったら湖があって、嫌な予感がしたから来てみただけだ。このザマはなんだバーボン」
「……ちっ、つくづく危険に聡いなお前は」
降谷さんはブツブツ「なんでこんな有用な人材が長年犯罪組織なぞに」「ゴミ処理を早めるか」と呟いている。
たしかに彼は第六感というか、獣の直感、危機察知能力がずば抜けて高いからな。
探索者としては超有用だと思う。
銀髪マフィアはため息をついて「もうすぐウォッカも来る。この棘を運ぶためのものを買いに行かせたからな」と答えた。
相方に棘の持ち運び用の梱包材を買わせたから、こんな森の中で一人突っ立っていたらしい。
確かに車に積んで転がったりしたらゾンビ祭りだからな。
妥当な判断だ。
そんな話をしているうちに、黒いポルシェ356Aがやってきた。
古びた車だ。公道を走っているとちょっと感動する。
車から降りた相方の黒服が「買ってきやしたぜ兄貴っ!!!」とパァッと微笑んだ。
なんかこのマフィア、褒めてアピールする大型犬みたいなテンションだな。
そして隣にいる俺の姿を見て、「ウオッ!?!?黄衣ハスタ!?」とビビり散らかした。
銀髪マフィアを庇うように前に出るが、明らかに怯えて覇気がない。
俺に二回も睨みつけられてるのだから、そりゃ怖くて仕方なかろう。
でも、その上で銀髪マフィアを守ろうとしている。
闇堕ちした忠犬ハチ公ぐらいの雰囲気ではあるかもしれない。
面倒臭くなったのか、降谷さんが進み出て話を巻くべく指示を出した。
「回収物は調査後すぐに神座神社に奉納予定だ。担当者にはそう伝えて、対処を急がせろ」
「!……わかった。ウォッカ、梱包材を貸せ」
「へい兄貴!というか、誰といるかと思ったらバーボンかよ」
「現在お前たちの上司は僕だ。口は慎むことだ」
「けっ、偉ぶりやがって」と小さく相方マフィアが文句を言っている。
コナン君が俺の後ろに隠れて、こっそりと様子を伺った。
なお、服部君は木陰でその他大勢みたいな空気で気配を消そうと頑張っている。
面白いけど目立ってるんだよなぁ。
しかし、相方マフィアはやはり疑問が出てきたのか、首を傾げて棘を指差した。
「しかし、結局なんなんですかいそいつは。急に森ん中で車を止めて、血相変えて湖際に転がってたそいつを回収しようとしてやしたけど」
「知らん。ただヤバいと思っただけだ。───少なくとも」
言葉を切って銀髪マフィアは目を細めた。
「見た感じは甲殻類の殻みてーなナリだが、持てば金属並みに重い。中は空洞で何も入ってないのに、先端からは常に液体が滲み出ている」
「……そいつぁ奇妙だ」
「総合して。俺には、毒蛇の牙みてぇに見えた。とびきり危険な、だ」
おお、と俺は思わず感心してしまった。
グラーキの棘は獲物に突き刺し毒を流し込むための棘だ。
毒蛇の牙とはかなり近い類のものになる。
俺は頷いて少しばかり解説した。
「それはグラーキの棘。一応封印処理しとくけど、扱いは細心の注意を払ってくれ。間違っても人に刺さらないようにな」
「刺さるとどうなる」
「ゾンビになる。正確には、本能だけで動く死体、グラーキの従者になる」
太陽に当たると「緑の崩壊」という特徴的な現象も起こるため、地球上での活動は得意ではない。
これはグラーキの従者が泡立つ液体と化して無力化する現象だ。
あまり陽光の届かない極寒の星とかなら気にしなくていいんだけどな。
「ま、本物のゾンビみたいにねずみ算式には増えないから安心してくれ。ただ、外宇宙の超存在の端末を増やすのは厄しか呼ばない」
「………あの狂ったダンジョンの下層にいた奴らみてーなのか」
俺は曖昧に頷くに留めた。
うーん、つくづく旧支配者ラッシュダンジョンは狂ってるとしか言えない所業であった。
銀髪マフィアは手早く梱包し終えて、警戒と緊張をはらみながらもう一度棘を掴み直した。
「予定変更だ。担当者を呼び出してこれを預ける。いつもの廃倉庫に向かえ」
「ならヒロ、お前もついていってやってくれ。事は重大だ。話を早くするためにお前からも担当者に説明してほしい」
『了解』
降谷さんの追加指示に、諸伏さんが後に続く。
まあ、被害者を出した場合は最悪旧支配者降臨が起こると考えたら緊急には違いあるまい。
今のグラーキはボコボコにされて千年は休養が必要だが……。
意地でよろよろ登場するかもしれないし。
車に乗り込む前。
銀髪マフィアはこちらにチラリと微笑んだ。
「……この棘の他にも、何か危険がある気がする。気をつけろ、ハスター」
「おわーーーっっっ!?!?」
俺は素早く距離をとって、降谷さんの後ろに隠れた。
遠距離で直視されてなければ俺のことを呼んだわけではないかもしれない、という理屈だ。
幸いにも距離があったから、少し術式が緩んだ程度で済んだ。
後ろにいたコナン君を突き飛ばしてしまい、めちゃくちゃ睨まれるなどする。
すまんて。
なお、銀髪マフィアを含めたそれ以外の周囲の全員が「!?!?!?」と俺の珍行動に驚愕をあらわにした。
降谷さんがギロリと俺を睨んで嫌そうな顔をした。
「なんだどうした、ゴキブリみたいな怪異でもいたか」
「それはいたら悲鳴をあげるけど!そうじゃなくて俺のことは黄衣ハスタと呼んでくれ!」
「同じじゃないか。そんな悲鳴をあげるほどのことか?」
「名前を呼ばれると俺の正体がまろび出る。今ここで、すぐ」
「なんかの妖怪か何かか???」
降谷さんにめちゃくちゃ訝しげな顔をされた。
うるせー妖怪ニャル化身のくせに!
そっと後ろで諸伏さんが「ひゅーどろどろ」とか小声で幽霊ポーズをするなどしている。
すげえ太さの肝だ。
見つかった瞬間、キレた降谷さんに瓶詰めにされるに違いないのに。
コナン君が笑いを堪えるために「ブッフォゴホッガハッ」と咳き込んだ。
銀髪マフィアは長い沈黙ののち。
「そうか」とだけ言って、去っていった。
たぶん完全にコント集団だと思われたのだろう。
言い訳し辛くてちょっぴり不服。
その後、木陰で気配を消していた服部君が「なんや、M-1でも目指すんか?」などとコメントを残した。
それは否めねぇな。
さて、その後の捜索では何も見つからなかった。
そりゃグラーキがコソコソしてた時点であらかた探したし、見つかったら俺の目節穴すぎるんだよな。
いや一本見つかった時点で節穴か。
でも言い訳させてもらうとあのグラーキの棘は俺対策で視線避けがかけてあったから、「ハスターの瞳」で探す分には見つけづらかったのだ。
ほんとほんと。俺がサボったわけではないです。
そのように降谷さんに激しく睨まれながら繰り返し弁明すれば、「フーン」とだけ言われた。
なんでや。ほんまやってん!
それと、今更ながら、銀髪マフィアが回収したのが手柄としての実績を積むためだと理解する。
降谷さんは「ウォッカの待遇交渉に使おうとしているんだろう」とどうでもよさそうに補足してくれた。
相方犬とゴールデンの多頭飼いなんかな。
ひとしきり捜索し終えたら、帰り際にあの事件の起きそうな貸別荘へと向かう。
するとすでに入り口からして不穏な気配が漂っていた。
血相変えた撮影スタッフさんが、スマホの電波を確認するように、スマホをかかげてフラフラと行ったり来たりしているのだ。
どうもかなり困っている様子。
車を降りて駆け寄ると、スタッフの女性さんが半泣きで声を上げた。
「どうしました?」
「あなたは昼にお会いした!大変なんです!うちのプロデューサーがぐったりして息がなくて!」
俺が「ッ、向かいます!どの部屋に!?」と問う間にも、すでにコナン君と降谷さんと服部君は駆け出していた。
俺も慌ててその後を追う。
ここはスマホも圏外で、救急車が呼べなかったらしい。
状態を確認して、治療できるようなら俺がしよう。
しかし。
被害者であるプロデューサーさんは、二階の部屋ですでに亡くなっていたようだった。
部屋は散らかっていて、死体はベッドに寝かされている。
他のスタッフさんが寝かせたのだろう。
床には散らばった瓶、そして椅子に立てかけられたスマホがある。
服部君が周囲を見分してから、スマホに手を取る。
「こら毒を飲んだみたいやな。シアン化カリウム。しかも自分で毒を呷って、動画まで撮っとるやないか」
「そうだな。だが一体何故わざわざ……スマホには遺書、か。自殺に見えるが」
「そうだね。でも、この映像内の被害者、髭がない……」
なにやら探偵たちが相談しているので、俺はスタッフさんたちの対応に当たろう。
不安そうな撮影スタッフたちを集めて、事情を聞いていくのだ。
ついでに、すでに亡くなっていることも話しておく。
まあ、状態を確認したなら薄々気付いていたかもしれないが。
詳しい事情を聞いていくと、どうやら撮影中に行方不明になっていたとのことらしい。
いなくなったのをそこまで気にしていなかったが、死んでいるの見つけたのはつい先ほどとのこと。
ともあれ、俺の車で電波の通じるところまで移動して警察を呼ぶでよかろう。
そのように考えたところで、突如。
俺の「ハスターの瞳」が俺に照射される魔力を検知した。
俺への宣戦布告だ。
考え込む降谷さんに、俺はちょいと駆け寄って声をかけた。
「すまん降谷さん、緊急事態」
「っどうした。彼らからの聞き取り調査で何かわかったのか?」
「この別荘、囲まれてる」
降谷さんが目を見開いて「は?」と疑問を口にした。
半分開いたカーテンからは何も見えない。
降谷さんは素早く風を操作し周囲を上空から視認したから、彼も状況を理解しただろう。
そう。
俺がグラーキを退治してから、この短期間で。
グラーキの従者はすでに人為的に再生産されていたのだ。
屋敷をぐるりと囲むように、大量のゾンビたちが蠢いていた。
……おいおいおい、グラーキ君、君さぁ、あのさぁ。その蟹味噌ぶちまけてぇのかよぉオイ。あ?
・ハスター
性根がヤンキーなところがある。
猫奴隷ヤンキー概念。
人類には無限に甘い顔するが旧支配者には釘バット振り回してる。
・殺されたプロデューサー
棘を見てピンと来た。これを使えば「リアル」なゾンビ映画が作れると。
集めたエキストラ達をそのままゾンビへと変えて、最高な一作を作るつもりだった。
狂気:フェティッシュ。
なお殺されたのは全然別件。
・殺人犯
全然普通にプロデューサーを殺した一般人。
ゾンビとか知らん…何それ…怖……。
・グラーキ
一般狂気プロデューサーが棘を悪用しただけの無罪の旧支配者。
仕様上刺したら従者になってしまうので、慌てて従者を動かして一箇所に集めただけ。
魔力照射も「こいつらの処理頼んだ!」のつもり。
可哀想に、この後カチ切れたヤンキーが釘バット持ってやってくる。