若干悪臭のする部屋で、俺はミ=ゴと向かい合った。
ミ=ゴは変装を解かないまま───というか、解くのが面倒なだけだろう───机を挟んで俺の前に正座した。
「か、神様っすよね?」
「そうだな。聞きにきたんだ。お前が何故地球に無断で足を踏み入ったのか、いつ退去するかを」
ミ=ゴは緊張した面持ちで体をカチコチにした。
訴えは下記の通り。
別の星への採掘活動に行く途中で、ガス欠居眠り運転で地球に突っ込んでしまった。
燃料もなく脱出できず、今まで無断で採掘をサボって音信不通を貫いている。
星に帰ってもあらゆる意味で死ぬだけだ。
だったらここで一旗上げてやろう、ということで人間として活動しているとのこと。
なおその活動とは、自分の宇宙船の写真を撮ってUFO雑誌に投稿して金を得るだけである。
「いやもっと、こう、色々あるだろ……」と諸伏さんが後ろで呟いている。
ホントだよ。
ミ=ゴ姿で官邸まで言って「宇宙人です保護をお願いします」って言うだけで一生困らなかっただろうに。
なお本人は「でも怖いじゃん…宇宙船売るのも勿体無いし」とコメントしている。
にしても場末のUFO雑誌はねーんだわ。
さて、一通り話を終えたあたりで再びチャイムが鳴った。
どうやら来客のようだ。
対応するミ=ゴがドアを開けると、別人のように痩せた千葉刑事の姿がチラッと見えた。
軽く喋っている内容が漏れ聞こえてくる。
どうやら近所で猟奇殺人事件があったらしい。
近くの防犯カメラにミ=ゴの人間姿が映っていたから、何か知らないか聞きにきたようだ。
気になってらしいコナン君が「ねえ、殺人事件って何があったの?」と声をかけている。
「コナン君!どうしてこんなところに!?」
「このおじさんが依頼主なだけだよ。それで、事件って?」
「あ、ああ。昨日夜遅くに頭を割られて脳を抜き取られた死体が杯戸高校で見つかってね。身元はUFO雑誌編集者の中津恭吾って名前のようだけど」
「……それって怪異案件じゃないの?」
コナン君が視線を鋭くして問いかける。
千葉刑事もその言葉に頷いた。
「うん。その可能性は高いから、今上に判断を仰いでいるよ。僕はその事前調査役」
「なるほど。お疲れ様千葉刑事」
「君も気をつけるんだよ!」
ミ=ゴから目撃証言を得られないと見るや、千葉刑事は先を急ぐのか足早に去っていった。
降谷さんが底冷えするような表情でミ=ゴを睨みつけた。
「本当に知らないんだろうな」
「ちっ、知らねーよ。神様でもねーくせに」
ミ=ゴは降谷さんに舌打ちして吐き捨てた。
このミ=ゴ節穴か?
降谷さんはニャルラトホテプの化身だし、ミ=ゴはニャルのことも信仰してるくせに。
まあ俺は偽名もあって連想しやすかったのだろうが、ポンコツミ=ゴ過ぎる。
降谷さんは穏やかな、しかし威圧に満ちた態度で詰問を続けた。
「僕が丁寧に話しているうちに吐けば大目に見よう」
「はぁ?知らねーって言ってんすけど。神様のパシリが偉そうじゃね?」
「……無理やり口を割らせるのは面倒なんだが」
ギリギリとした重圧が立ち込め始めたので、仕方なく俺が仲裁に入る。
降谷さんがキレてこの菌糸類を八つ裂きにすると面倒だしな。
「おおっとそこまで。本当に知らないのか?俺の前で嘘は無いって誓えるか?」
「……そ、それは」
ミ=ゴは後ろめたそうな表情で視線を逸らした。
おやおや。
本当に。殺しているらしい。
人間を。
「お、俺!写真を投稿してる雑誌があるんすけど、その編集者に言われたんすよ!こんなCG丸出しの写真じゃなくて本物を撮ってこいって!」
「…………」
「これが本物のUFOだって言っても笑い飛ばされて、俺のこと馬鹿にするから!」
だからちょいとお仕置きで脳を取り出して放置してるだけ。
後で肉体を再生させて元に戻すつもりだった、と。
ミ=ゴはそのように白状して。
「ね、ね?」と媚びるように俺に同意を求めてくる。
俺はそれに答えず、質問した。
「その脳はどこにあるんだ?」
「ここっす」
ゴミでいっぱいの戸棚から、ミ=ゴが円筒状の容器を取り出す。
中の脳にはまだ魂が残っているようだ。
だが脳だけで五感が遮断されて三日目。
かつ施術が雑だったのか、魂はすでに半壊している。
これでは肉体を戻しても呻くしかできない狂人になるだけだ。
俺は淡い笑顔を浮かべた。
たしかに、ミ=ゴ的には脳を詰めるのはそこまで重い内容では無い。
お仕置きから気に入った生き物を手元に置くためまで、広く一般的に行われる行為である。
だが、それが免罪符になることはないのだ。
俺は微笑んで、ミ=ゴに囁きかけた。
「───習わなかったのか、地球人に指先一つたりとも触れるなと。旧支配者ハスターの怒りを買うから手を出すなと」
「え、で、でも誰も加護もついてないし、その程度のもんなのかと思って」
「星ごと護ってるからな。その必要がないんだ」
俺はペロリと舌で唇を湿らせて、笑みを深めた。
何故か降谷さんたちが何も口出ししてこない。
ただ黙って、俺の言葉を待つばかり。
別に発言しても良いのに。
まあ、なんにせよ審判は決した。
恨むなら、この哀れなほどに無能なミ=ゴを恨むべきだろう。
種を滅亡に追い込む個とは、昔から知性体にはいるものだ。
可哀想だが仕方ない。
そう言えば少数だが地球にこっそり定住したミ=ゴもいるんだったか。
そちらも駆除しておこう。
クスクスと笑って俺は立ち上がった。
「やっぱりやめだ。太陽系にヒト以外の知的生命はいらない。邪魔だし、見栄えが悪い」
「あ、あの、俺…」
「口を開いて良いとは言ってないぞ?」
動かすべき手足を剥奪し、丸坊主にして取り上げた手足をごみの山に放る。
どちゃり、と身体が汚らしい床に転がった。
「っっっぎゃぁあああああ!?!?」と、ミ=ゴが人間らしい悲鳴をあげた。
そんなふうに叫ばれると、人間でもないのに可哀想になってしまうからやめてほしい。
でもまあ、最後ぐらい好きに叫ばせてやるか。
「許す。無様に泣いて喚いて良い。俺はニャルのように上手く弄べないからな。お前の好きなように叫んでくれ」
「が、ギッッ……あ、ぁ、俺、違っ!」
「叫ばないのか?ふむ。仕方ないな」
追加で、末端神経からやすりをかけるようにじわじわと魔術で優しく破壊してやる。
俺のささやかな親切だ。
俺の命令を守れるように、補助してあげたのだ。
「ぎゃああああ!!!」と再び悲鳴が上がった。
もちろん近所迷惑になるから、きちんと防音結界を張ってある。
七転八倒しながら叫び回る姿を見て、俺は満足して頷いた。
でもバタンバタン動かれて鬱陶しいので。
胴を杭で縫い付けて、そのまま前に立って。
そこでコナン君に服の裾を掴まれた。
強く強く握る手が、微かに震えている。
「………ダメだ。そんなことしちゃ」
「ん?どうした、何かあったか、コナン君?」
「犯罪者をッ!犯罪者を私刑にするのは認められてない!」
コナン君が叫んだ。
訳がわからず、俺は首を傾げて瞬いた。
「でもコレは人間じゃ無いだろう?」
コナン君が息を呑む。
人ではない。
なんにせよそれに尽きるだろう。
俺の寛容は、俺の愛情はただ人間だけのものだ。
こんな羽虫に払われるべきは何一つとして存在しない。
降谷さんが、慎重に、まるで距離を測るようにゆっくりと俺から距離を取る。
「待て、今後のことを考えると生かしておいてもらった方が都合がいい」
「え。なんかに使うの?」
「もし財界がミ=ゴとの交流を望んだ場合だ。外交を思えば、あまり下手な歴史は作りたくない。今なら手を出された事実だけが残るはずだ」
なるほど、俺が勝手に精算しては逆に損、と言うことらしい。
俺は納得してミ=ゴから剥奪していた四肢を戻して、痛みを取り除いてやった。
「喜んでくれ。お前をすり潰すのはやめておいた。特別なんだぞ?」
「…ひ、ひっ!?」
「本当に反応が悪いな。感涙に叫んで頭を擦り付ける場面なのに。お前が変なのか?」
つい、まじまじと観察してしまう。
変なミ=ゴが地球に来てしまっただけなのかもしれない。
汚部屋うっかり居眠り運転ミ=ゴだし、仕方ないか。
話の流れからミ=ゴを燻煙で太陽系から一掃するお掃除も延期だろう。
まあ、人間がそれを望むならやぶさかでもない。
ミ=ゴの技術を手にして医療が大きく発達するかもしれないし。
ブレイクスルーで宇宙に進出しちゃうかもしれない。
その時は俺も守護のありかたを変えなければならなくなるな。
人間が宇宙で神話生物に会った時に生きていられるように、一から加護のやり方を見直すのだ。
俺は未来を思ってニコニコした。
ただ、なぜか。
コナン君が、俺をバケモノでも見るかのように震えていたのが気がかりだった。
・ミ=ゴ
やばい個体が種族を危機に晒すVer.2
賢いものは地球なんて地雷原には近付かない?それはそう。
生え抜きの愚かさが集う地、地球。
この後ミ=ゴ界は騒然とする。
現時点でミ=ゴの神官がハスターの荒ぶりを感じ取り鎮めるための儀式を進行中。
ハスターの突然の勘気に触れて、4億年ほど前に精神生命体が種族丸ごとが消し飛ばされてるので警戒はしてる。
・旧支配者ハスター
転生直後はもうちょっと人寄りだったが、「光」を他の外なる神に吸われたため感性が変化したとも言う。
ニャルと本当に気が合う奴が穏やかな神なわけないんだよなぁ。
人らしい喜怒哀楽と旧支配者の残酷さを併せ持つ、正真正銘の怪物である。
でも筋金入りの猫奴隷なので人間相手ならマジでどんなことされても許す。
・ビヤーキー
羽のある蟻のような怖げな神話生物。
種族として「神の言うカワイイ」を掲げて長年に渡り魔術を研鑽している。
かつてはそんなに愛されてなかった。
しかし、古代にビヤーキーの賢者が「神はカワイイが好きらしい」と言うことを発見。
種族総出で魔術で常にゆるキャラアリさんに化けることで寵愛を得るに至った。