霊魂探偵と共演が決まり、今日はレストランで打ち合わせである。
霊魂探偵・堀田凱人は詐欺師だが、同時に本物の霊能力者だ。
生得的に高い霊視能力を持っており、俺が擬態してることも見抜いている。
「出会ったきっかけってなんだったの?僕あったことないよね?」
コナン君が首を傾げて俺を見上げたので、俺は「あれだよあれ」と人差し指を立てた。
「昔俺が露天商やってた時期あったろ?その時に俺の作ったアクセサリーを爆買いする人がいて、それが堀田さんだったんだ」
「あのとんでもアクセサリーを回収するのに公安がどれほど苦労したか、君は分かってるのか?」
「いやー済んだ話だしぃ」
助手席の降谷さんが身を捩ってギロリと睨んできたので、俺はしおっと小さくなった。
降谷さんと協力関係になってからは事あるごとにめちゃくちゃ怒られたよね…。
悪用可能な怪異関連物品をばら撒くなって。
でも物理結界の効果があるブレスレットなんて悪用しようがないだろうに。
と、思ったが。
どうやら、自分ごと標的を爆殺して自分は生還するというアクロバティック殺人事件は起きたらしい。
俺が悪かった………。
ともかく。
そんな風に出会った堀田さんだが、細々と今まで付き合いは続いている。
霊魂探偵、としてTVで活動しつつ、怪異案件でない仕事を受けて日銭を稼いでいるようだ。
『怪異案件でない?能力者なのにか?それとも、能力が弱いとか?』
「いや、かなり上澄みレベルの霊視持ちだよ」
運転手の諸伏さんが眉間に皺を寄せているので、俺は彼の能力を語ることにした。
というか、意外と霊視持ちの人っているしな。
「まず、人類の中には一定数、霊視……というか、『目に見えないもの』が見える人がいるんだ」
それはある種の目と脳のエラーだ。
血統で遺伝することもあれば、突発的に後天的に発現する人もいる。
見えるものもまちまちだ。
不可視の霊魂を視認するのが一番一般的ではあるが。
それよりもっと広い範囲で感知する、目のいい人も中にはいる。
古代ハイパーボリアの住民のように、俺の「ハスターの瞳」に接続した人間の中には、時間軸に開けた視界を持つ者もいるだろう。
また魔術の分野でもよく見られる。
原始魔術「霊視」はその最たるものだ。
俺が普段諸伏さんを実体化してるのは、古エイボン式の「霊視」を改造したものだ。
彼、堀田凱人はその中でも非常に目がいい部類に入る。
だから俺を見てビビり散らかしたし、それを押してでも俺のペンダントを爆買いしようとした。
「でも、見えるだけで対処方法を持たないらしくて。頑張って見えないふりしてしぶとく生き延びてるらしいよ」
『ああー、なるほど。見えてたら寄ってくもんな。分かる。すごく分かる。少年も気をつけろよ』
「怖い話するの禁止」
コナン君が目を三角にして怒った。
諸伏さんは「恨めしやぁ〜」などとカラカラ笑って。
瞬時に隣から放たれる冷気に顔を硬直させた。
「恨めしかったか…ヒロ……」
『あっあっあっ、これは言葉の綾で、ほら、一般的に見られてたら近寄るもん的な話だから!』
「……三年、お前は誰にも顧みられることなく俺を見ていた。つい、視線の合った黄衣君に出会うまで、孤独と苦痛と飢えと寒さの中にあった」
『俺より怨霊みたいな空気出すのは止めよう!というかそれ隠してたのになんで知ってるんだよ!?』
降谷さんは「松田に聞いた」と枝垂れ柳の下に立つ幽霊みたいな相貌で嗤った。
どうやら自罰感情が瞬時に最大瞬間風速を記録して吹き荒れているようだ。
車の中がとても寒い。
諸伏さんが「あーーーー」と長い母音を垂れ流してしょっぱい顔をした。
『いや、そりゃあの頃はちょっと俺も荒んでたから、黄衣が見えることに気付いて「ちょっと乗っ取ってやろう」とかおもってたけどさ』
「そんなこと考えてたの!?俺ピンチじゃん」
『俺がピンチなんだよなぁ。素早く消滅できそう』
「……それはそうかもしれん」
俺は頷いた。
俺に突入してくる狂信者の霊は昔からいるが、普通にジュッ!!て消えるだけだし。
「ヒロを消そうとしたのか…?」とニャル怨霊降谷さんがじとっとこちらを見ている。
あまりに冤罪過ぎる。
話がくだらなくなってきたのかコナン君がスマホでゲームを立ち上げ始めた。
かしこい。とてもかしこい。
「しかし、そうか…」と気を取り直したらしい降谷さんが腕を組んで、悩ましげに嘆息した。
「そんな強い霊視持ちなら、僕もヒロも来ない方が事を荒立てなくて済んだな。この後遠方に依頼があるからついでに来てしまったが」
「いや、ちょうどよかったよ。街で出会ってネタとして話される前に口止めできるし」
「なるほど。それもそうか」
降谷さんは納得したようだが、コナン君は若干不機嫌だ。
ゲームをプレイしながらぶっきらぼうに問いかけてくる。
「どうしてそんな能力を持ってるのに、探偵の名前を使って詐欺なんてしてるの?」
「さぁ。本人は前に『どうせ見えてねぇんだし
一緒だろ。センセーショナルな方が売れるってもんだ』って言ってたけど」
「何それ」
コナン君はブスッと頬を膨らませた。
コナン君の怒りに同調するように、諸伏さんの頭に張り付いた星の精が「ゲタケダ!」と鳴き声を上げる。
まあ、クズではあるんだよな。
打ち合わせ会場に到着すると同時に、当の堀田さんがホテルの入り口から飛び出してきた。
「殺される!助けてくれッ!!!」
「うお、なんてもんつけてんだよ!」
堀田さんはスーツ姿でガタイがいい。
そんな人が泡食ってホテルから飛び出してこれば、そりゃ多少は注意を引く。
そしてその後ろには怨霊が一体。
ドロドロに崩れた怨霊に追いかけられていたので、慌てて車から飛び出して救助に向かう。
とっくに永久的狂気に陥った怨霊だ。
素早く分解してやれば、あっけなく怨霊は消え去った。
後から降りてきた諸伏さんがナムナムして震えながら冥福を祈っている。
そんな明日は我が身みたいな顔しなくても。
荒い息を整えた堀田さんが、冷や汗を拭って途切れ途切れに口を開いた。
「うおぉ…たす、助かったぜ黄衣の旦那!今日まで乗り切ればアンタが助けてくれると踏んでたが、後ちょっとで俺もお陀仏するとこだった…」
「珍しいな、あんたが危険な品に手を出すなんて」
「付き合いで断りきれなかったんだよ。それで、あー、そちらの………バケモノの皆様は?」
堀田さんがするっと俺の後ろに隠れた。
手前より大怨霊諸伏さん、ニャル化身黒い風の降谷さん、宇宙戦艦引っ提げたコナン君です。
「俺の仲間だよ」
「だろうな」
堀田さんは深く深く納得した。
コナン君が「僕は人間!僕は人間だよ!!!」と激しく憤って威嚇している。
「とりあえず全員、打ち合わせのレストランに案内しておくとするか。人間の飯が口に合うかは分からねぇがな」
「大丈夫。俺らはみんなご飯好きだから」
「食えりゃ人の魂でも炊いた米でもいいって話か?」
「相変わらず堀田さん俺のこと誤解してるよね」
軽口をたたきつつ、ホテルの中へ。
まだTVディレクターは到着していないらしく、俺たちのみの席となった。
降谷さんが「ところで」と、少し威圧的な笑顔を伴って堀田さんを睥睨する。
「ところで。堀田凱人さん、でしたよね。警察機構で怪異回収の任を受けてみる気はありませんか?」
「はぁ!?いくら金積まれてもやってられっかよんなこと!命あっての物種って言葉知らねぇのかよ!」
それはそう、と俺は頷いた。
降谷さんが眉間に深い谷間を刻む。
堀田さんがおっかなびっくりで体をのけぞらせながら、降谷さんへときちんと返答していく。
「近付かないこと。目を合わせないこと。知らないふりをすること。それができないなら、俺みたいな目を持つ奴らは死ぬだけだ」
「でもさ、霊魂探偵なんてしてたら本物も時々来るだろ?」
「それは適当に誤魔化して解決した風を装ってトンズラしてるから大丈夫」
あっけらかんとした返事にうーんと唸らざるを得ない。
悪人ではあるんだよな。
怪異ではない事件をさも怪異のように装って大袈裟に変なポーズして解決したフリをする。
まごうことなき詐欺師である。
本人いわく、壺は揉めやすいので売らないらしい。なんやそれ。
「でも旦那と知り合ってからはそれとなくあんたに仕事を回してんだ。別にいいだろ?」
「まあね……」
「本物の厄介ごとの10倍は、人の不安が生み出した幻が蔓延ってる。俺がやってんのはそういう不安を払拭するオシゴトってやつだ」
堀田さんは胸を張り、コナン君は大層不機嫌な表情で出されたジュースをズゴゴゴゴ、と吸っている。
降谷さんが「それは凄いですね!」と薄っぺらなお世辞を言っているが、目は笑ってない。
「ま、この能力には感謝してんだ。同業者はみんな引き時ってのを見誤って消えていったが、俺はこの目がある。やばい案件はすぐにわかるからな」
「でも今さっき俺になすりつけてきた面倒ごとなどありましたが」
「いやー旦那なら問題ないと思ってな!ははは!」
調子良いんだから。
と、電話だ。
目暮警部からなので、念のため堀田さんのいるここからは離れてトイレでするとしよう。
「少し席を外す!」と伝えて、俺はタタタと近くのトイレへと駆け込んだ。
コナンは調子の良い霊魂探偵を睨み据えて、口を尖らせた。
「……黄衣さん、ああ見えて怖い人だからね。あんまり利用するのはやめた方がいいよ」
「怖いのは見たらわかるっつの」
堀田は意外にも眉間に皺を寄せて深刻そうに答えた。
「なんだありゃ、ウルトラ怪獣かよ」と漏らしている。
分かっててこんな態度だとは安室も諸伏も思っていなかったのか、やや目を丸くして堀田を注視している。
「よく聞け偽ガキ」と、堀田は笑った。
「この世には、『都合が悪い奴』が沢山いる。機嫌が悪いと他人に暴力を振るう馬鹿、人を騙して金を巻き上げようと虎視眈々と狙っている詐欺師とかな」
「それっておじさんの自己紹介?」
「俺のは歴とした人の心を救うオシゴトだっつったろうが!」
堀田は吠えたが、誰からも賛同が得られず憮然として咳払いした。
「ともかく。俺にはそういう『俺に都合の悪い奴』かどうかが見える」
「読心術のようなものですか?」
「分からん。詳しく調べようとした時期もあったがな」
その口ぶりだと、結局分からなかったようだ。
安室さんは「そうでしたか」と静かにと言って続きを促した。
「たとえばそこの兄ちゃん、あんたはとびきり『都合が悪い』」
「僕は危害を加えようとはしていませんが…?」
「おおかた俺の力を何かに使おうとでも思ってんだろ。目玉だけ引き抜いても使えるか思案してるってところか」
「……」
にやりと堀田は笑い、服の裾を巡って腕にある刺青を曝け出した。
黄色の印だ。
「俺は黄衣の旦那と約束した。俺が酷ェ目にあったら仇を取ってくれってな」
「………へぇ」
「俺が酷ェ目に遭う事は防げねぇが。俺程度の小物のために旦那と事を構えるのは悪手だろうよ」
「なるほど。悪人らしく強かではあるということか」
安室は降谷として口調から薄っぺらい社交性を取り払った。
堀田は肩をすくめてクツクツ笑った。
「ま、ともかくだ。俺は俺に都合の悪い奴が分かるってのは理解したな?」
ちらり、と黄衣が向かった先を目線で指して神妙な顔をする。
「旦那は、いつだって『都合が良い』。機嫌が悪ィときも疲れてるだろう時も、いつだってそうだ。今日日実の親だってそこまで徹底的に味方じゃねぇ」
静かに、静かに堀田は腕を組んでため息をつく。
「例えば、心の底から愛犬家の大金持ちを犬が見上げりゃ、そう映るかもしれねぇな」と。
そのように言葉をまとめた。
タバコを咥えて火をつける。
コナンは視線を落として、そっと質問した。
「だから怖くても黄衣さんを頼るの?」
「都合の悪いもんに溢れてる人間に比べりゃ、旦那の方が100倍信じられる。あれはな、飼い主なんだよ」
「………」
「手を噛まれようがシッコ引っかけられようが、許して撫でてくる」
「……悲しくないの?」
「ハナからあんな怪獣と対等は無理ってもんだろ。俺はお高くて美味い餌を貰って、いい具合のおもちゃを放ってもらえりゃ満足だよ」
ふぅ、と煙を吐き出して堀田が安室へと視線を向ける。
「あー、あんたは別か。兄ちゃん」
「………どういう意味だ?」
「あんたも怪獣だ。旦那と比べるとえらく小型だが」
「残念ながら僕は彼のように博愛精神に富むわけじゃないぞ?」
「だな。ま、いいさ。ひたすら都合がいい事が自分のためになるってわけでもないしな」
タバコを灰皿へ落として、堀田はぼんやりと外を見た。
午前の光が白く大地を照らし出し、世はすべてこともなし。
平和に映って見えたのだった。
「叱られないガキはクソガキになるしかない。いい塩梅ってヤツだろうよ」
・霊魂探偵
本物の霊能力者。霊視等もある。
特徴的なのは、相手の思考と感情と、過去未来情報をごちゃ混ぜにした独特な視界。
個々の景色は分からないが、結果として「都合の悪い奴」と「都合のいい奴」が分かる。
これは物にも適用され、自身を害する怪異物品などはとんでもなく「都合の悪い物」として見えているようだ。
この視界のせいで人間不信気味。
→降谷さん
超デカい竜巻。見てるだけで咳が止まらなくなる。
非常に都合が悪い。
→諸伏さん
やばい悪霊。接触厳禁。
やや都合が悪い。
→コナン君
宇宙戦艦総司令偽ガキ概念。意味不明。
多分人間らしくいい奴。
ニュートラル。
悪事を成すなら都合が悪く、平和に暮らすなら都合がいい。
→星の精
悪霊の頭の上でくつろいでる触手の化け物。
ドチャクソに都合が悪い。
たぶん俺のことを美味しそうだと思っていやがる…!
→黄衣ハスタ
宇宙怪獣。あまりに大きくてよく見えない。
いつ見ても都合が良い。すごく都合が良い。
可哀想に、身の回りはペットだらけ。
あいつ友達っているのか?
・大勝利ニャル
無言でコロンビアポーズ。
そう、僕こそが唯一の親友にして妻。