ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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漆黒の追跡者〈ニャルの返礼準備中〉

 

「よぉ、裏切り者」

「何の用だ、アイリッシュ」

 

 ジンが呼び出された廃倉庫では、薄暗い中打ち捨てられた箱の上に腰掛けたアイリッシュが待っていた。

 

 埃っぽい空気に、底冷えする殺気が滞留している。

 アイリッシュはおもむろにジンへと銃を突きつけた。

 

「とぼけても無駄だぜ?テメェがサツと組んでるのは調べがついてるんだ」

「ハッ、馬鹿馬鹿しい。どんなガセネタを引っ提げてきたんだ?」

「これをみてもそう言えるか?」

 

 アイリッシュは荒っぽく写真の束をモルタルの床へと放り投げた。

 

 バラバラと散らかった写真には、怪異関連物を警視庁の公安に渡しているジンの姿が映り込んでいる。

 なるほど。

 最近周りをうろちょろしていた影はアイリッシュの手のものだったらしい。

 

 ジンはせせら笑った。

 

「組織にも知らせずこんな場所で一人俺を呼び出すとは、随分と杜撰なカマかけじゃねぇか。なぁ、アイリッシュ」

「………」

「これはバーボンを通じてRUMにも許可を取っている正式な任務だ。詳細は俺にも知らされてねぇが、文句を言われる筋合いもねぇ」

 

 ジンが銃を向け返せば、アイリッシュの瞳に強い殺意が映り込んだ。

 

「疑わしきは罰せよ、はテメェの格言じゃなかったか?」

「仇討ちの言い訳にするならもう少しマシなネタを持ってくるんだな、ファザコン野郎」

「………」

 

 しばらく、睨み合いが続く。

 アイリッシュは銃を下げ、ピラピラと両手を上げた。

 

「ふん、冗談だ。テメェに以前同じ文脈で撃たれそうになったもんでな。ちょっとした意趣返しさ」

「それで本題はなんだ。こんな茶番のために呼び出したわけじゃねぇんだろ」

「ああ。ベルモットをしばらく借りる。テメェに話を通しておかねぇと妙なタイミングで引き抜かれかねねぇからな。邪魔をするなよ」

「そいつはどうだろうな。あの方の命令もあれば、俺も全力を尽くす必要があるんでね」

「チッ、抜かせよ仲間殺し野郎」

 

 そのままアイリッシュは「話は終いだ」と言って立ち上がった。

 

 わざと無防備な背を見せて、廃倉庫を後にする。

 その背には滲み出るような恨みつらみと、殺意が滲んでいる。

 ジンを殺してやろうと虎視眈々と狙う、アイリッシュの無言の宣戦布告があった。

 

 ジンはくつくつと嗤った。

 

 そんなこと言えるほど身綺麗でもないくせに、弱い犬が吠えるのは無様でならない。

 所詮殺し殺されが世の常なのだ。

 例えば唯一無二の右腕たるウォッカが無惨に殺されても。

 

 ジンに文句を言える筋合いは無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 4県にわたり、6人の人が亡くなる連続殺人事件が起こったらしい。

 俺は外を眺めながら、会議の始まりを待ってパイプ椅子をギコギコ言わせている。

 

 今回の事件は大型のナイフによる刺殺事件だ。

 そして現場には暗号の刻まれた麻雀牌が置かれていたとのことで、合同捜査本部が設置されたのだ。

 

 俺はこの件が神話的事象に関連する可能性があるため、一般協力探偵を装って会議に参加している。

 

 降谷さんも諸伏さんも、二人とも俺の探偵事務所の所員に擬態して俺の隣に座っている。

 コナン君ももちろん参加。

 

 降谷さんが視線を前のスライドに固定しながら、俺に声をかけてくる。

 

「それで、どの程度の確率なんだ。『降りてくる』としたら」

「あー」

 

 まだ明るい空には、見えづらいが北極星が輝いている。

 

 この時間帯にあるはずのない位置で、天球に張り付いたように変わらぬ位置で。

 太陽の輝きに紛れてただ煌々と光を地上へと届けている。

 

「分からん」

「分からんじゃ困るんだが」

「いや本当に、暗幕がかかってて見えないんだよ」

 

 一週間前のことだ。

 

 俺の愛のプレゼントを受け取ったニャルラトホテプは、感情の限界を超えたらしい。

 その場で物理的に破裂したあと、「凄い返礼を用意してきます!!!」と叫んで屋敷から脱兎の勢いで逃げ出した。

 

 勿論止めようとしたが、間に合わなかった。

 奴は「凄いの用意します!凄いの!!」と意味不明な供述を残して高速転移。

 瞬く間に行方不明となったのである。

 

 それから一晩空けて、空に北極星が現れた。

 

 謎の北極星はすぐに各国の研究者の知るところとなった。

 世間を騒がせたその北極星だが、問題は、それが極大規模の魔術であることだった。

 

 頑張って俺が解析しているが、詳細は不明。

 

 可読性の著しく低いニャル魔術を読解するのは難しく、遅々として解析が進まないのだ。

 おおむね地球に何かを投射する、何かを地球へと「降り立たせる」魔術であること。

 そして発動は七夕の日、つまり7月7日だということはわかっているのだが。

 

 俺は突っ伏して「あ゛ーーーーー」と濁った母音を響かせた。

 あんな浮かれホテプ、どんな恐ろしいことをしでかすか分かったものではない。

 

 机に突っ伏したまま俺は降谷さんに声をかけた。

 

「降谷さんの方は何か分かること無いのか?」

「本体が浮かれているのは分かる。僕の思考までフワフワするぐらい浮かれてる」

「それは既知の情報なんよ」

 

 浮かれホテプ渾身のやらかしなんて、人間が滅びる未来しか見えない。

 しかもニャル自身はそんなつもりなくて、うっかりのレベルで滅びる大惨事だ。

 

 諸伏さんがうーんと悩んでから質問してくる。

 

『念話で話しかけてもだめなのか?』

「不在着信音声が流れるだけなんだよ。念話に不在着信なんてないのにニャル野郎め」

 

 ピーッという発信音の後にメッセージをお残しくださいって言ってたのに、肝心の発信音は流れないし。

 あのニャル野郎!

 

 俺がプリプリしていると、各県警の刑事さん達が到着したようだ。

 

 静岡&神奈川の横溝兄弟。

 埼玉の荻野警部。こちらはお初お目にかかりますかな。

 長野はいつもの暴走メンバー。

 群馬は「ヒロちゃん!」とコチラへ駆け寄ってくる山村警部だ。

 

「いやー、奇遇奇遇!ヒロちゃんもこの事件の解決に?」

『ああ。兄さんと一緒に居たみたいだけど、何か話してたのか?』

「え、やっぱりあの人ヒロちゃんの兄弟だったりしちゃったり?」

 

 ひょえ、と山村警部が大袈裟に仰け反ると、諸伏警部が進み出て静かに微笑んだ。

 

「ええ。私は景光の兄です。貴方が弟の知り合いだったとは、本当に奇遇なことがあったものです」

「目元とかそっくりだったから可笑しいなー、とは思ってたんですよ!そっかぁ、ヒロちゃんのお兄さんだったんだ!」

「このへっぽこが警官って、本当に大丈夫なのかよ」

 

 大和警部に胡乱な顔で眉を釣り上げている。

 山村警部が「失敬ですよアナタ!」とプリプリ怒った。

 

「僕だってやる時はやっちゃったりしちゃうんです!ねぇヒロちゃん!」

『いい奴ではあるんだ。場を和ませる才能があるから、被疑者もうっかり口を滑らせるかもしれない』

「その前に自分が口滑らせてたら世話ねぇだろ」

 

 ピシャリと大和警部が言い切って、山村警部がしおっとしょげ返った。

 何か県境の捜査で悲しいことがあったようだ。

 俺は親近感は湧いているのでノーコメント。

 

 降谷さんが耳元で「彼に強大な力を渡した時、君が生まれる」とジト目で囁いた。

 そんなやらかしマンか俺?

 

 憮然としていたが、コナン君に「迷惑度は黄衣さんの方が上かな」とか言われて無事に撃沈。

 俺は白い長机にのの字を書くなどした。

 俺も家出するぞコラ。

 

 そうして最後に入室してきたのは松本管理官だ。

 管理官はチラリと降谷さんを見て、何も言わずに席に着いた。

 

 どうも降谷さんは公安としての会議参加であるらしい。

 さらっと私服で俺たちに合流して来たから騙されていたけど、そりゃあそうか。

 

 

 会議自体は粛々と進んだ。

 

 七夕、今日、のメッセージを呟いた被害者の存在を議論しつつ、まだ麻雀牌の暗号も謎。

 頭脳労働と地道な足を使う捜査が双方必要な段階である。

 続報は刑事さん達の頑張りを待つしかないだろう。

 

 ふと見ると一人、どう見てもAPPが顔と一致していない刑事さんが紛れている。

 

 もしかして組織がらみでもあるのかな、と思いつつそちらにはノータッチ。

 降谷さんに任せておけばいいからな。

 

 ぽやぽやと話を聞きつつ。

 俺はニャルの対処をどうすべきかに思いを巡らせていた。

 





・ペットのテュフォンの獣
まだニャルと喧嘩中。
清々した、という顔で犬小屋でまったりしている。

・ニャル魔術
何かを地球に投射する魔術。
時空に暗幕を張ってその正体を隠蔽し、複雑に隠されている。
七夕の事件と何か関係があるようだ。
「ここまでの愛を!見せられたなら!!僕も全力の愛を示さねばなりません!!ええ!」

・愛の宝石
愛に質量を付与して作られた美しい万色に輝く宝石。
ニャルラトホテプの宝物。
サイズは拳大だが、空間的に折りたたまれており実際は凄まじく巨大。
旧支配者の感情エネルギーが煮え立ち、表面で爆発しながら強大な熱と光を振り撒いている。
その光が空間的重複によって万の色に輝いて見えるのだという。
取りまわしやすいように魔術が組まれ、周囲への物理的影響を気にすることなく普通の宝石のように手に持って眺めることができる。

・旧支配者ハスターのコメント
べ、別にそんな重い感情じゃなかったもん!
ほら、あれだ!
旧支配者の存在的規模が影響して愛が超巨星の恒星になっちゃっただけで!
俺が重い奴なわけじゃないから!!
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