捜査に進展があったらしい。
犯人候補の身柄を確保に成功したようなのだ。
その際目暮警部が腹を刺されて病院に運ばれたが、内臓を傷つける怪我ではなかったとのこと。
不幸中の幸いだろう。
男は残念ながら犯人ではなかったが、容疑者と思しき情報を吐いたらしい。
今警察がそいつの家に向かっているらしい。
コナン君は事務所にて本日の通常業務を終わらせながら、一連の大捕物の際の情報について考え込んでいた。
俺が事務所ででのんびりしている間に、コナン君は学校帰りに逮捕劇に参加していたらしい。
危険な橋を渡りよる。
コナン君がぽつりと、眉間に皺を寄せて口を開く。
「ベルモットが動いてたんだ。組織のメンバーが警察内部に紛れ込んでいるらしいって」
「無論だが僕のことじゃないぞ?」
「そんなの知ってるよ!揶揄ってるの!?」
隣で書類を持ったまま降谷さんがカラカラと笑った。
事はあまり良い状態とは言えないが、降谷さんは機嫌がいいようだ。
可哀想な星の精をムニムニしながら、頬杖をついてコナン君を揶揄っている。
本人曰く、浮かれホテプの波動を受けてどうしても上機嫌になってしまうとのこと。
星の精はブルブル震えてされるがままになっている。
今回の事件だが、組織も関係しているらしい。
なんでも、組織の人員が一般殺人犯に殺されてNOCリストの入ったメモリーカードを奪われたとのことだ。
さすが、この世界の一般人は屈強でいけねぇ。
こんだけお礼参りが定着した世界観だと、マフィアもおちおち寝てられないんじゃないかと思われる。
雑に殺した一般人の仇討ちで身体に爆弾巻いてアジトに特攻して来かねないし。
ともかく。
事態の収拾のために動いたのはアイリッシュという幹部だそうだ。
警察の誰かに化けて、事件の捜査に紛れ込んでいるらしい。
コナン君は顔を上げて俺を見た。
「なぁ黄衣さん。心当たりはなかったか?」
「いやぁ。前の捜査会議中に妙な人は見かけたけど、それは多分ベルモットだろうし。アイリッシュって奴のことはわからないよ」
第一、そんな道行く人の能力数値なんて一々覚えてられないからな。
キッドなど特徴的な能力値ならわかるが、そうでないなら見たところでフーンで済ませている話だ。
「安室さんは心当たりないの?」
「アイリッシュが潜入することはあらかじめ聞いていたが。誰に化けるかまでは教えてもらえなかったよ」
「本当に?」
「僕はアイリッシュにはあまりいい顔をされていなくてね。ジンの派閥だと思われているらしい」
降谷さんは肩をすくめて低脳な羽虫の企みを嘲笑う顔をした。
その言葉にピンと来たらしく、諸伏さんが目を見開いた。
『まさか俺が殺したピスコ、ジンの仕業として処理されてるのか?』
「らしいな。まあ、ジンとしても標的が先んじて誰かに殺られていたとしたら大失態だ。仕方のないことではあったんだろう」
『で、ピスコ派のアイリッシュが激怒、と。社内政治は相変わらず面倒臭いな』
「全くだ」
俺は話を聞きながら過去に思いを馳せた。
そういえば、前にコナン君と諸伏さんが組織がらみの事件に巻き込まれた時に、諸伏さんが組織員を憑り殺したといっていたような気がする。
俺は銀髪マフィアに命を狙われてそれどころではなかったが、あの時の話だろうか。
俺は思考を確かめるべく諸伏さんに声をかけた。
「ピスコって、たしか志保ちゃんの正体を知ったから諸伏さんが始末したって話してた奴か?」
『ああ。少年に手が伸びるのも時間の問題だったからな。取り憑いて吸い尽くしてやった……けどコレ黄衣的には別に問題ないよな!?』
不意に何かに気づいたような諸伏さんがバタバタと慌てて俺から距離をとった。
人殺しを咎められると思ったのかもしれない。
俺は「いや仕方ない場面だったんだろ!正当防衛、正当防衛」と手を振った。
何故か降谷さんがかなりの緊張を伴って俺を見ている。
なんで???
そんな俺人殺しに厳しそうに見えたか?
探偵やってて殺人事件なんていくつも遭遇してるけど、俺は殺人犯をぶっ殺すヤバい奴じゃなかっただろ?
俺の表情を見て諸伏さんがほっと息をついて席に戻る。
『でもアイリッシュが会議に紛れ込んでいたとして、少年が危ないんじゃないか?』
「ああ。灰原にも言われたよ。捜査会議に紛れ込んだベルモットを俺が追いかけたのを見られたかもって」
「あの後そんな迂闊なことをしてたのか君!?会議後にさっさと公安の方に戻ったが、失敗だったな…」
降谷さんがギロリとコナン君を睨みつけたので、コナン君はさっと俺の後ろに隠れた。
おおよしよし、俺が守ってやるぞ。
「そんな責めたらコナン君が可哀想だろ!」
「この駄神!無限に人を甘やかすんじゃない!」
「相変わらず君はいつも…!」と降谷さんに叱られて、俺とコナン君は同時にしおっとした。
いつも通りのまったり進行である。
しかし情報はここで膠着。
動きは翌日、コナン君が帰宅したあたりから始まる。
その日はコナン君が暗い顔で学校から帰って来た。
ランドセルをソファに降ろしてどかりと座り込めば、星の精が飛びついてくる。
コナン君は星の精をもしゃもしゃ撫でて、餅のように捏ねた。
星の精がゲタゲタ笑っている。
「どうしたコナン君、そんな顔して。何か学校であったのか?」
「……俺が工藤新一だって組織の奴らにばれたかもしれない」
今日は降谷さんは公安の仕事にかかりきりだ。
部屋にいるのは諸伏さんと俺だけだが、コナン君の様子が気がかりだったのか諸伏さんが温かいお茶を持って来てくれた。
「どうしてそう思うんだ?」
「俺の作った粘土細工と、俺の家にあった教科書が盗まれた」
「っ、指紋か!」
「ああ。俺の正体が工藤新一だと確信して、証拠を集めたんだ」
赤井さんは敢えて迎撃しなかったのかもしれない。
正体がバレればキールも道連れな立場な以上、彼は慎重な立ち回りが必要になる。
それとも、純粋にFBIとして動いていて留守だったか。
まあ、なんにせよブレスレットがある以上、コナン君の無事は約束されている。
ご両親と蘭ちゃん達を含めた学友が心配だが、そちらは俺が魔術的に守ればいい。
防衛態勢を整える算段を立てながら、俺はうむうむと頷いた。
コナン君は暗い話を打ち切るように明るい声を出した。
「それはともかく、魔術の方は解析は終わったの?」
「んー、半分まで解析が進んでる」
苦行のコード読解に勤しみ数日。
だいたいの術式の全貌が見えて来たところだ。
興味があるのか諸伏さんがソファの反対側に腰を下ろした。
『で、どんな感じだったんだ?その厄ネタは』
「おおむね百鬼夜行かな。あらゆるニャルが一堂に会して降り立って、可哀想な人間は逃げ惑うしかない」
『黙示録の日とかか?』
諸伏さんは訝しげな声を出した。
だいたい合ってる。悲しいことに。
術式は、東都タワー周辺にニャルラトホテプを無限召喚するだけの、非常にシンプルなものだ。
だが被害は絶大。
ニャルの化身は多種多様で、人間に被害をもたらすものも多い。
アフトゥなどは代表的な厄災だろう。
生きた密林そのものの化身で、あっというまに地球を覆い尽くして別の星へと枝を伸ばすのだ。
魔術式の半分が、「ハスターの瞳」による召喚妨害を迂回するための術式として割かれている。
あとの四割は謎。
どうにも、コレだけでは成立しない術式らしく、割符のような、組み合わせで意味を成すもののように見える。
コナン君がふうむと難しい顔をして首を傾げた。
「ということは、安室さんも呼び出されるの?」
「そう。仕事中の降谷さんは問答無用で呼び出されて、百鬼夜行の中を無意味に練り歩かされる」
「それ怒られない?黄衣さんが」
「骨は拾ってくれ」
ニャルが悪いのに何故か俺が激怒されて、鬼の公安課長にネチネチ文句を言われるのだ。
ぶーぶー。俺は不満を露わにした。
諸伏さんが生暖かい様子で「でもだいたい黄衣が元凶だしな…」と述べた。
今回俺は無実だ!!!
コナン君が憤る俺を放って話をスムーズに変えた。
「そう言えばマモーさん最近見ないけどどうしたの?」
『あの人なら手下に任せた会社運営が上手く行ってないらしくて。各界に泣き付かれて文句たらたらで一旦戻ったらしいぞ』
「た、大変だね…」
「マモーさん優秀だからな。完璧に引き継ぎはしたって言ってたけど、成果を出せるかはまた別問題だし」
財界で成功するってのは、単純な技術力だけの話じゃない。
人を扱う力、機を見る力、流れに乗る力。
あらゆる力と時の運、全てが必要になってくる。
世界の三分の一を統べる帝王の代わりなど、そうそう務まらないだろう。
マモーさんは果たして戻って来れるのか、各界が号泣して引き止めやしないか。
そんなことを思いつつ、これからに思いを馳せた。
ニャルは果たして何を目論んでいるのだろうか。
連続召喚して、どのように俺への返礼とするつもりだ?
だいたい、連続召喚だけでは少し単純すぎる。
おそらく、読み解けない魔術と合わせて完成するものだろう。
俺は大きくため息をついた。
・諸伏さんの能力
基本は通常の幽霊の能力に準拠。
ピスコ殺害方法もPOWを吸い尽くすという手法を取った。
内側には見えぬほどに小さな小さなxxxが隠されており、xxxxxxが上るたびに霊格が一回り成長する。
佐比売党の儀式の唯一の成功例。
・ニャル近況
七夕のためにせっせと準備している。
きっとハスターも喜んでくれるはず!
・マモーさん
部下にめっちゃ泣きつかれて仕方なく帰還して来た。
使えない猿どもを蹴り飛ばしながら業務を整理して檄を飛ばして経営を立て直している。
ただ回すだけなら回るようにしてあったのに!どうして変な独自色を出して失敗する!!
色を出すなら成功させろ!!!(憤怒)