ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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報告連絡相談、あと知らぬもの

 

 警視庁に行くと、降谷さんは仕事中であった。

 

 次々来る部下に指示を出しながらなにやら書類を仕上げて押印し、大変忙しそうだ。

 しかし俺の姿を見てすぐに「少し待ってくれ」と言って立ち上がった。

 

 その場で順番待ちの部下を下がらせてむむむむ、と若干唸る。

 黒い風が課長室に充満し、蠢き、一箇所へと集まっていく。

 そして数秒後、そこには降谷さんがもう一人出来上がっていた。

 

 降谷さんはよし、と頷いた。

 

「会議は予定通り行う。黄衣君の話は分体で聞くから気にするな。会議室は押さえてあるな?」

「はい。よろしくお願いいたします、降谷警視正」

 

 部下さんと会話をして、降谷さんAが足早に部屋を後にする。

 降谷さんBは俺に向き合い、改めて口を開いた。

 

「それで、どうした黄衣君」

「堂々と分身の術使うやんけ」

 

 俺はつい突っ込んでしまった。

 

 ここは課長用の個室だからたくさん人がいるわけではないが。

 それでも部下3人がその場にいた状態だった。

 

 そして部下さんも平然としているあたり、これが初回ではない。

 

「僕が人間でないことは周知の事実だからな。話は早い方がいいだろう」

「そうだけど。そうだけど俺でも人の目の前でポコポコ増えたりしないのに」

 

 怖いじゃんか増えたら。

 降谷さんが面倒臭そうな表情で「それで、昨晩の内容を話してくれるんだろう?」と話を逸らした。

 

 とは言え、話すことはそう多くはない。

 

 あの術式の概要は降谷さんも召喚された時点で分かっていたはずだ。

 つまり東都標本化計画だが。

 それでも抵抗できないからしょげていたのだろうし。

 

 俺は少し悩んでまず優先度の高いナイ神父の持って来た件について話すことにした。

 

「昨晩のことを受けて、ナイ神父…化身の一人がやって来て、星の智慧派の東都観光を打診して来たんだ」

「!!……目的は?」

「普通に昨晩の魔術の痕跡を研究するためらしいよ」

 

 俺のスマホに追加情報として暫定のスケジュール表が送られて来ていたので、降谷さんにも転送する。

 昨晩、智慧派の幹部が集まって急遽作成したものらしい。

 皆このビッグイベントを見逃す手はないとのことで盛り上がっていたとのこと。

 

 日程表を見て降谷さんが難しい顔をした。

 

「東都観光!ニャルラトホテプとハスターの魔術大戦を回ろう!」と七色のダサいワードアートが踊っている。

 

「……格安バス旅行か何かか?これは」

「いやぁ。単にWordを普段使わないから頑張っただけだろ。言ってやるなよ」

「はぁ。まぁいいだろう。公安で見張りをつけさせてもらうが、邪魔はしないと伝えておいてくれ」

「了解。というか、自分で言えばいいだろ?」

 

 あの行脚に参加した今なら、化身としての繋がりを通して念話できるはずだ。

 そのように聞けば、降谷さんは眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。

 

「彼は苦手だ」

「???なんで、凄い人間らしい化身だぞ、ナイ神父は」

「穏やかで理知的だが、さらっと人の柔らかいところを抉るんだ。『柔らかいままにしておけば後悔するぞ』と忠告をして」

「あー……」

 

 俺は返事に困った。

 

 しかしそれは彼なりの親切心に違いない。

 普段はその柔らかい部分を探り当てる鋭い感性を使って、人を社会的に殺して再起不能なまで弄ぶ人だし。

 直接忠告するなら普通に親切であるはずだ。

 

 俺の言いたいことが伝わったのか、降谷さんは梅干しみたいな顔になって来た。

 

「わかる。分かるが僕は心の整理がつかん。しばらく彼には触れたくない」

「なるほど。了解、ナイ神父には俺の方から話を伝えておくよ」

 

 きっと降谷さんの苦手意識をナイ神父側も察しているのだろう。

 だから俺に話を通して間接的に降谷さんにも伝えてもらえるようにした、と。

 

 うーむ、誠に難しいニャル間関係だ。

 

「それと、皮膚の兄弟団も東都観光に来たいって話があってさ」

「どいつもこいつも日本に何の用だ!」

「こっちは普通にニャルラトホテプ降臨の地に来ただけだよ。安全な団体だよ、古参弱小ニャルヲタサーみたいなもんで」

「何一つ信用が置けない」

 

 バサっと言い切って、降谷さんがクソデカため息をついた。

 いやマジのマジだから。

 俺の様子を見てさらに降谷さんは頑なな態度をとった。

 

「あの邪悪かつ超絶自己中な本体を崇めている団体が正気なわけないだろ」

「それはそう。でも、彼らはニャルから完全に放って置かれてて、彼ら自身もニャルをアイドルみたいに追っかけてるだけだから」

「完全なる狂気じゃないか」

 

 そう言われるとそんな気もする。

 

 でも、彼らは魔術で悪事を働かない。

 魔術はニャルに近づくための手段で、彼らにとって上等なペンライトでしかない。

 

 不躾に召喚術式を起動したりせず、接触魔術を試みて真夜中に話しかけて来たりしない。

 号泣して五体投地しないし、いつも礼儀正しく、遠くから静かにヲタク活動を続けている。

 

 まさに非常に弁えた羽虫、というやつなのだ。

 今までニャルに戯れにプチプチされずに生き残って来ただけのことはある。

 

 俺の説明に、降谷さんは大層複雑な顔をした。

 

 まあ、狂信者の突然変異みたいなものだしな。

 カルコサ新党のことを思い返せば、日本に入れるべきか悩むのはしょうがない。

 

 俺は持って来た本のことを思い出して、バッグからごそごそと取り出した。

 

「そう言えば、最近本も出したらしいぞ。これ」

 

 そう言って見せると「あ、今朝に君永副総監が見てたやつだ」と降谷さんが真顔で平坦な声を出した。

 見事なチベットスナギツネだ。

 俺は瞬いて聞き返した。

 

「え、信者さんが?」

「ああ。告知があってからずっと販売開始を待っていたと言っていた。昨晩DLして夜通し読んでいたと」

 

 あの熱量の本を一晩で読解するとは、公安信者さんも恐るべき人だ。

 

 ページこそ九十ページかそこらしかないが、これはニャル魔術の詰め合わせ。

 小ぶりだがどれも奇想天外な動きをする極めて高度な魔術なのだ。

 

 降谷さんは「表紙がな……」と呟いて首を捻った。

 表紙には触れてやるなよ。本は中身こそ全てだろ。

 

 降谷さんはノートPCに件の本のPDFを大映しにして、少し考え込むような仕草をした。

 

「一応、怪異関連品として公安のマーク対象には登録することになった」

「んー……相当魔術に熟達した人じゃないと活かせないと思うけど、マークして悪いものでもないか。降谷さんはちゃんと理解できた?」

「無理に決まっているだろう」

 

 降谷さんはイライラして吐き捨てた。

 彼ほど優秀ならば、通常二月もかければあらゆる物事を常人以上に習得できたことだろう。

 

 それが未だ、魔術に関してははいはい赤ちゃん。

 投げ出さず頑張っているだけ凄いというものだ。

 というか、こんな短期間で赤ちゃんにまでたどり着いたというのは恐るべき早さだし。

 降谷さんには頑張ってもらうしかない。

 

 降谷さんはしばし黙りこくったあと、PCを閉じて窓の方を向いた。

 

「ところで、今朝君は本体に何かしたか?」

「なにって?」

「本体が興奮するようなことだよ」

 

 降谷さんは頑なにこちらを向かないようだ。

 

 今朝というと、触手をちょっとカプってやったぐらいか?

 いやでもニャルがちょっと意味不明な反応をしたぐらいだし、降谷さんまで伝わるようなことには心当たりがない。

 

 「わからん」と首をかしげれば、降谷さんは顔を真っ赤にして歯軋りをした。

 

「揶揄うのはやめてくれ。それと、くれぐれも変な真似は慎むように。迷惑を被るのはこちらなんだ」

「お、おう……?」

 

 ニャル化身はみんなわからん。

 何故俺がセクハラしたみたいな空気になるのだ。

 

 降谷さんは咳払いして急いで話題を変えた。

 

「それと、アイリッシュの件はこちらで引き受けている。安心してくれ」

「………?わかった」

 

 俺は曖昧に頷くのみにとどめた。

 何かあったらしいが、俺はまだ知らないことだ。

 コナン君に詳細を聞くのを忘れていたな、思いつつ。

 降谷さんとの情報交換は今しばらく続いたのだった。

 





・今朝の降谷さん
朝っぱらから突然ニャルの盛り上がりが伝わって来てアクロバティックセクハラをされた人。
被害者。慰謝料支払ってもらったほうがいい。
あの魔術大戦を見て、自分の未熟さを再確認。
頑張ってコツコツ古エイボン式魔術の腕を磨いている。
この頃ようやくハスターの瞳にアクセスできるようになった。
火おこしを知った猿がスマホを手に入れた感じであり、当然使い方はわからない。
ひとまず手に持って振るなどした。

・アイリッシュ
コナン&松田&ジンから逃げ切ったようだ。
ジンへの恨みは依然として燃え盛っている。
協力者を手に入れた。
 

矢継ぎ早に黒鉄の魚影に移ります。
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