ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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服部平次来る

 

 あれから、降谷零と軽く情報交換して別れることになった。

 

 降谷零は相当に混乱していた。

 正気に戻ってこれまでのことを振り返れば疑問が山ほど湧いてくるようで、切迫した表情で矢継ぎ早に質問してきた。

 

 そのうち半分ぐらいは魔術と神話生物が関係してくるものであったが…。

 ニャルラトホテプに乗っ取られていたこともあり、ある程度事情をスムーズに把握してくれた。

 もちろん、SAN値が減るような情報も多々あったので「それは教えられない」と丁寧に説明させてもらったが。

 

 全ての質問に答え終わる頃には、日付も変わってしまっていた。

 

 少し懸念があるとすれば、降谷零の身体の今後のことだろう。

 今は俺が念入りにニャルラトホテプを退散させたから問題は起きないだろう。

 しかし、すでに彼の体は不可逆に───。

 

 いや、今考えても詮のないことか。

 何事もなければ、彼が生きている間に問題になることもあるまい。

 

 降谷さんは帰り際、「よければまた、ヒロと会わせてくれないか?」と切なげに漏らした。

 懇願するような目つきは揺れていて、彼がどれほどそれを切望しているかが読み取れた。

 

 少し悩んだが、今回と同じように俺同伴でヒロさんに会わせることを約束する。

 流石に幽霊を常に見えるようにするのは危険性が高いからな。

 諸伏さんと一言、二言言葉を交わして、別れの挨拶をする。

 

 諸伏さんも彼についていくかどうかかなり迷ったようだが、俺の方に引き続きいる事に決めたらしい。

 

『お前の方からは見えないだろうが、定期的に俺も顔を出しに行くよ』

「ふっ、それは困るな。私生活を覗くなんて悪趣味だぞ?」

『そんなの今更だろ。俺が死んでから、殆どゼロと一緒にいたんだ。勿論、プライベートな時間は適宜席は外しているぞ?』

「……!?!?ちょっ、それはお前、おい!」

 

 暫く降谷零の怒声と、揶揄うような諸伏景光の笑い声が夜の埠頭に響いた。

 その時の二人は本当に嬉しそうで、会わせてやれてよかったと心から思うことができた。

 

 その後。

 彼は一言、「本当にありがとう」と言いおいて、夜の闇の中に姿を消した。

 万感の思いが籠ったそれだけが、意外と不器用な彼の本心を表しているようだった。

 

 

 

 そんなわけで、小さなトラブルがありつつも俺たちは日常に戻ったわけだ。

 

 翌朝起き出したコナン君の第一声は恨めしげな「いじわる」の一言だったが、まあそれは別の話。

 コナン君は学校へ、俺たちは依頼の消化にと忙しく過ごす日々である。

 

 とはいえ、未だ宮野志保は見つからないままだ。

 姉の宮野明美さんは毎日夜遅くまで捜索を続けているようだが、結果は芳しくない。

 手掛かりのない現状、俺たちにできることは地道に探し続けることだけだ。

 

 対して、俺たちの事務所は日に日に名声が高まって来て忙しくなる一方だ。

 

 有名税なのか、手紙と依頼料だけの怪しげな依頼もちょくちょく見受けられるようになってきたし。

 この間の月影島などもそうで、放っておくこともできず迷惑していたりする。

 

 まったく、あのときのコナン君の縦横無尽さと言ったら、コミックヒーローさながらであった。

 

 血相変えて燃え盛る屋敷の中に突貫して。

 そこで自殺しようとする犯人を麻酔銃で眠らせて、そのまま異常なほど伸びる伸縮サスペンダーと異常なほど膨らむボール射出ベルトで窓から大ジャンプ。

 無事魔術を使わず脱出を成し遂げたのである。

 

 何度確認してもそこには魔術のマの字もなく、俺は背後に宇宙を背負うよりほかなかった。

 いやでもあれは魔術でしょ……。絶対物理法則を超越してたし。間違い無い。

 

 無傷で眠る犯人の様子を確認して、心底ほっとした顔で息をつくコナン君が思い出深い。

 目の前で死なせたりしない、助けられる人は助けたい、と。

 彼はどうもそのように決意しているようだった。

 

 

 と、そんなこんなで今朝である。

 

 今日も朝から事務仕事に勤しむ俺は、探偵事務所の窓側の席を陣取っていた。

 外がよく見えて日差しの暖かいここは俺のお気に入りの席だ。

 

 俺たち黄衣探偵事務所はコールドケース専門で動いている。

 そのため当時の情報があまり残ってない場合も結構あり、当時の資料のみ送られてくるケースも少なくない。

 

 先日送られてきた事件資料を確認するコナン君に、俺はPC越しに声をかけた。

 

「どうだい、コナン君。何かわかった?」

「んー、もう少し。三重のスポーツジムの件、やっぱり現場に行ってみたほうがいいかも」

「了解。なら今週の金曜日に予定入れとく」

「ありがと、黄衣さん」

 

 コナン君は小学生っぽい幼い口調で返事をした。

 最近仕事が増えるにつれて、コナン君が俺に敬語を使うことについて指摘する人が増えてきたのだ。

 つまり子供っぽくないというか、不自然というか。

 

 そのため、形だけでも違和感を消すために子供っぽい口調を練習中なのだ。

 まあ口を開けば子供とはかけ離れた鋭い推理まみれなので、儚い抵抗と言ったらそれまでではあるが。

 

 コナン君は資料の続きを確認しながら、ぶえっくしょい!と鼻を啜った。

 どうやら風邪を引いたらしい。

 

「体調が悪いなら寝てた方がいいぞ?まだ期限には余裕があるんだし」

「まだ平気。というか、黄衣さんなら魔術でパパッと治せたりしないの?」

「できるけどさ」

「できるのかよ。ならやってよ」

「だめ。なんでも魔術で頼りきりは精神に良くないからな。ほら、大人しく寝る!」

「ちぇっ」

 

 コナン君が口を尖らせたあたりで、ドアの向こうに人影がちらりと見えた。

 どうやらお客さんらしい。

 さて、一体どんな依頼───。

 

 

 

 突如。

 事務所の窓ガラスが派手に割れて。

 次の瞬間、俺は正確に額を撃ち抜かれた。

 目を見開く。景色が一瞬スローモーションに感じる。

 

 義体から噴水のように血が噴き出して、訳のわからぬまま力なく身体をデスクへ投げ出す。

 

 

 

 遅れて、自分が狙撃されたことに気がついた。

 どうやら降谷さんは確かに約束を果たしてくれたらしい。

 狙撃という俺だけを狙う方法へと誘導して、それを成し遂げてくれたのだ。

 

 俺本来の「目」でじろりと確認すれば、向かいのビルの屋上に狙撃手が確認できた。

 蝶のような目元の刺青が特徴的な、黒づくめの女。

 この恨みはらさでか…としばらく睨んでいると、ようやく思考が戻ってきたらしいコナン君が絶叫した。

 

「黄衣さんッ!!!」

 

 悲痛な声で俺に駆け寄ろうとしたので、慌てて「動くな!」と声を出して静止する。

 口が狙撃手から見て死角になっているのは幸いだった。

 今は狙撃手の視線が俺を捉えている。

 駆け寄られたら最悪コナン君まで撃たれてしまうかもしれない。

 

 それから数秒、俺の死を確信したらしい狙撃手の視線が俺から離れていく。

 もう心配しなくても問題ないだろう。

 

 と、そこで追加の人員のエントリーだ。

 

 ドアの向こうで様子を伺っていたお客さんらしき人が、「なんの騒ぎや!!」と叫んで扉を派手に開けたのだ。

 

 そして部屋の惨状を見て言葉を失ったようだ。

 俺に素早く駆け寄ってきて、現場の状況を確認する。

 

「額を一発で撃ち抜かれとる。こりゃ素人の仕業やあらへんで。一体…」

「うん、君は君でどうしてこの惨状を見てSAN値がかけらも減らないのかな」

 

 俺がむっつりと起き上がったのを見て、関西弁君は驚愕にのけぞった。

 

「死体が喋りおった!!!」

「まだ死体じゃないから!!死んでません!」

 

 関西弁君が動揺して「いや脈止まっとったやないか」と言いかけるが無視。

 そもそも脈は面倒臭いので実装してないのである。

 

 俺は血溜まりの中から無事な書類を救出し、近場のボックスティッシュで垂れた血を拭った。

 流石にティッシュじゃどうしようもないなこれ。

 拭ったら赤黒い跡がデスクの横にこびりついてしまったので、少しばかり嘆息する。

 

「せっかく買った封筒が殆どパァだよ。ったく、書類も印刷し直しだし」

「黄衣さん、本当に大丈夫なの…!?」

 

 コナン君が、未だ驚きの残る声色で恐る恐る聞いてくる。

 俺は「別にこれぐらい平気だよ」とひらひら手を振った。

 触手の先っぽが化けた義体にほんの僅かに穴が開いただけだからな。

 正直、人間に換算するなら蚊に刺された程度以下だ。

 

 話についていけてないのか、服部君がやや呆然としたように俺たちを見ている。

 

「どういうこっちゃ、確かにさっきの跡は狙撃の…」

「ところで君は依頼人さんかな。見ない顔だけれど」

「……俺は高校生探偵の服部平次や。この辺の探偵事務所に、工藤のこと聞いて回っとったんやけど」

 

 服部君は暫く黙ったあと頭をかいて、納得しきれないように吐き捨てる。

 それどころじゃなくなった、と言いたいらしい。

 そりゃそうか。

 

「もし血糊やったとしたら、どんだけ手がこんどんねん。鉄臭い匂いまでしとんのやぞ」

「ははは。まあそれはジョークってことで」

「タイミングも不自然や。俺がこの事務所に来たのは偶然。やったら、この坊主怖がらせるためだけに窓ガラスまで犠牲にしたっちゅーことか?」

 

 しゃがんで狙撃で割れた窓ガラスを確認して、服部君は目を細めた。

 面倒臭い人が居合わせてしまったものだ。

 組織の件に関わらせるわけにはいかないし、なんとか納得して帰宅してもらわねば。

 

 ふと、先ほどから黙ったままのコナン君を見れば、予想よりずっと暗い表情で俯いたまま立ち尽くしていた。

 いつもなら奴らの仕業だと理解して今すぐ狙撃手を追って走り出しそうなものなのに。

 

 俺が目の前で狙撃されたのがそんなにショックだったのか?

 俺は別にこの程度で死んだりしないのに…ふむ。

 

 と、そこで割れたままのガラス窓から冷たい風が吹き抜け、「くしゅんっ!」とコナン君がくしゃみをした。

 風邪気味なのにこの吹きっ曝しは体に毒だ。

 

「おう、なんや坊主、風邪か?」

「…う、うん」

「ならこいつ飲んどけや。精がつくで」

 

 そう言って持っていたトートバッグの中から瓶を取り出し、来客用にまとめてあった紙コップに注いだ。

 コナン君が困惑しながらそれを受け取り、口に含む。

 

「白乾児って酒や。体調悪い時はこれが一番やな。あ、ここに残り置いてくで」

「子供に何飲ませてるんだよ…」

 

 まあまあ、と服部君は鷹揚に手を振ったあと、一瞬、鋭い視線を部屋内のいくつかの箇所に向けた。

 

「窓ガラスは内側に向かって散らばっとる。つまり、外側から衝撃を受けたってことや。床には弾痕、一ミリに満たない飛沫血痕…」

「っ、」

「イタズラ、そういうことにしといたるわ。今回だけやけどな」

 

 それだけ言って、服部君は来た時と同じように玄関から去っていった。

 

 残るはこのぐっちゃぐちゃな事務所内の後片付けだけだ。

 派手に出血したからあちこち血だらけ。

 倒れた拍子に散らばった書類は踏み潰されて無惨に破れている。

 

 コナン君は半笑いで雑巾を手に取り、「はは、ルミノール反応を確認したらとんでもないことになりそうだね」とぼやいた。

 そりゃ、刑事さんが見たら事件性を確信する程度には酷い有様だ。

 ここで殺人事件とか起きたらややこしいことになりそうだ。

 

 ただ静かに血痕を拭いてくれるコナン君に、俺はそっと声をかけた。

 

「追わなくて良かったのかい、組織の狙撃手を」

「流石に一人で奴らを追ってたら命が幾つあってもたりねーよ。半透明になりたいわけでもないし」

 

 諸伏さん達みたいに?と冗談めかして肩をすくめるコナン君は、しかしその言葉の端々に無力感が滲んでいる。

 あまり良くない傾向だ。

 俺が死ぬことなんてあり得ないんだから、そんなに気にすることはないのに。

 

 そのあたりで諸伏さんと宮野さんも帰宅したらしい。

 部屋の惨状を見て二人は悲鳴をあげたようだった。

 

『ただいまー……っておわーー!?なんだこれ!』

『キャー!!』

「おかえりー。あっ、明日なんだけど急な依頼で黄昏の館とかいう場所に向かうことになったから」

『話が頭に入ってこない!!誰が死んだんだよここ!?』

「俺だけど」

『俺だけど!?!?』

 

 諸伏さんがひどく憤慨している。仕方ないだろ俺なんだから。

 

 と、そこで俺のスマホが着信音を鳴らし立てているのに気付いて電話に出る。

 スマホに表示された名前は「安室透」。彼の偽名だ。

 場にいる全員が、何故か俺の通話に意識を集中した。

 

 通話相手の第一声は、妙に平坦で緊迫した静かな声だった。

 

『無事ですか』

「おお、問題なく。約束通りの仕事サンキューな」

『……つくづく信じられない。キャンティが仕事をし損じるとは思えないし、貴方は間違いなく脳天に銃弾を喰らったはずだ』

「俺みたいなのは概してそういうものだよ。だから脅威なんだ」

『それも知識として分かっているつもりでしたが。つもりでしかなかったということですね。……なんにせよ、貴方が無事でよかった』

 

 電話の向こう側で心からの安堵の息を吐きつつ、降谷零は言葉を漏らしたようだった。

 

 思ったより方々から心配されて、俺は若干首を傾げた。

 うーん、俺はこの程度じゃ死なない…というより何の痛痒も与えられないって説明したつもりだったが。

 何故にそんなに心配性なんだ?

 

 俺は服についた血をティッシュで叩きつつ、首を傾げたのであった。

 




次回は烏丸蓮耶の屋敷、「黄昏の館」について。
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