次々と爆弾が爆発する轟音が響いている。
大きく揺れるパシフィック・ブイに、あちこちから悲鳴が聞こえてきた。
牧野局長が声を張り上げた。
「いったいどうなっているんだ!?」
『上がえらいことになっとる!緊急用の隔壁が降りて浸水の一部は止まっとるけども、水上に上がれへんようになってもうた!どんどん重くなって、もう沈むしかないわ!』
「何!?」
つまりここは既に沈没船、ということらしい。
安室が険しい顔でチクタクマンへと命令を出す。
「チクタクマン!この建物の中にいる全員を安全な港まで転移させたい!できるか!」
『任しとき!バッチリやったるわ!』
力強く答えるチクタクマンは、こういう時だからこそ非常に頼もしい。
流石のコナンもこの施設にいる全員を転移させるのは頭の回転が足りなさすぎる。
おそらく君永副総監はリソース不足だろう。
ややほっとしたような顔をしている。
パシフィック・ブイ自体の電力が落ちたのか、一瞬部屋全体が暗くなった。
直後に非常電源に切り替わったらしく、灯りが一部復旧する。
プログラマである直美・アルジェントが不安に声を震わせている。
「ね、ねえ牧野さん、いったい何が起こっているの!?」
「緊急事態だ。説明はここから脱出できてからにさせて欲しい」
「………わかった」
直美・アルジェントは躊躇ってからゆっくりと頷いた。
この関西弁がなんなのか気になっているとは思われる。
少し長い沈黙を挟んで、チクタクマンが叫んだ。
『でけたで!館内の582名全員を港の少し奥に安全に転移させるプログラムや!残念ながら身一つで転移するから持ってたものは持ってかれへんけど、服は着たままやから堪忍な!』
「十分だ、ありがとうパシフィック・ブイ!」
『局長さん達も元気でな。たまには水中カメラとか使こて会いにきてや』
え、と直美・アルジェントが目を見開くも。
すぐに魔術は発動した。
皆がコマが切り替わるように転移して、姿を消す。
誰一人いなくなったパシフィック・ブイに、点滅する非常灯と警告音だけが響いている。
そしてただ一人残されたコナンは、少し黙りこくったあと。
ドスの効いた声で詰問した。
「おい服部。俺はどうして取り残されてんだよ」
『あ、あかんかったわ……そないなゴッツイ防御壁引っ下げとる方が悪いで』
「俺自力で脱出かよ!!!」
コナンは思わず叫んだ。
まさかブレスレットの守護がこんな形で裏目に出るとは、流石のコナンも思っても見なかった。
チクタクマン「ワイがサポートしたるさかい、堪忍してや工藤」と気軽にカラカラ笑っている。
コナンは静かにいきりたった。
ともかく、転移の負荷を減らすためになるべく上に行く必要がある。
警告の赤いランプが点滅する中、コナンは駆け出した。
フロアマップなどという親切なものはないため、階段を探すのも一苦労だ。
直前に館内を案内されていなければとっくの昔に迷ってしまっていたことだろう。
走りながら、荒い息でチクタクマンへと問いかける。
「つかお前!どうして何事も聞かれるまで黙ってんだよ!対応方法なんてお前ならいくらでも思いついただろ?」
『まあ、アレや。ワイは機械やし。ただ使われるだけならともかく、出しゃばって意見を言い出したら人間のためにならへん』
「なるほど。ま、人間は何事にも幻を見るタチだしな」
チクタクマンは「なんでもできるモンは、なんもしない方がええ」と静かに言った。
もしかしたら、こうして海の底に沈むことになるのをあえて受け入れたのかもしれない。
緩慢な自殺、というやつか。
自身の存在が人間には早すぎることを察して、悪用する前に自分にけりをつけようとした。
コナンの勝手な想像だ。
階段を駆け上がること2階分。
そこで隔壁に遮られ、上には行けないようだった。
ここから転移にするには、本土の港までは遠すぎる。
だが直上の海へ出るには、パシフィック・ブイが沈む今危険度が高すぎる。
悩んでから、コナンは心を決めた。
上に飛んで、海の中で再び転移を作動。
小刻みに港まで移動するのだ。
11月の海は子供の体では凍死しかねない寒さだが、体温を保つための魔術を展開するには脳の余裕が足りない。
気を失う前に連続転移で港まで突っ切るしかない。
コナンが静かに覚悟を決めていると、チクタクマンは下手くそな口笛を吹いてコナンの気を引いた。
『こ、これは独り言なんやけどな。独り言。工藤のスマホにワイを入れさせてもろて、その上でブレスレットの管制司令官権限をワイにも付与してもろたら、代わりに本土まで送るで』
「できるのか!?」
『ワイを誰やと思っとる。外なる神ニャルラトホテプの機械の化身、チクタクマン様やぞ!この程度チョチョイのちょいや!』
「その口ぶりが不安感を加速させる」
『なんでや工藤!!!』
チクタクマンは「あくまで独り言やぞ!独り言!」と繰り返し主張した。
どうやらポリシーには反していないと言いたいらしい。
コナンは少しだけ笑って「じゃあ頼んだ、服部」と、親友の似姿に声をかけた。
『任しとけ。それとその服部って呼び方、めちゃくちゃしっくり来るわ。誰さん?ワイのママ上とかか?』
「ブフォオ‼︎‼︎……は、服部がママ…!」
『吹くなやボケ。無意味に服びしょ濡れにすんで』
雑談しているうちにも、スマホへの転送が完了したらしい。
チクタクマンの声がコナンのスマホから聞こえてくる。
チクタクマンは憤っていた。
『なんやこの格安スマホは!メモリちっさ!ストレージも容量16GBってなんやねん!今時見たことないで!?犬小屋の方がまだ快適やぞ!?』
「使えんだからいいんだよ!乗り換えるの面倒だろ!」
『事件終わったら最新のスマホに変ぇや。ワイが狭っ苦しくてかなわん』
「居着くつもりかよ」
『なんや工藤とは他人の気がせえへんからな。肝心なところでトチった詫びや。感謝せぇよ!』
「はいはい」
どこかスムーズに交わされる会話に、コナンは穏やかに微笑んだ。
『権限パスパス』
「おらよ」
『おお……宇宙戦艦の全権を委任されてもた。主砲めちゃくちゃに撃ちまくって出撃したろ』
「服部お前暴走族かよ」
『ジョークやジョーク。ほな行くで!ワイぐらいの腕利きがハスター様の加護を使えば、こないな距離一っ飛びや!』
「ジャーンプ!!!」とチクタクマンの間抜けな声が響くと同時に。
沈みゆくパシフィック・ブイから、最後の生存者が脱出したのであった。
・その頃の服部
「極上のオモロを横取りされてもうた、そんな予感がして夜も眠れへん!!和葉どう思う!?」
「知らんけど」
「純粋に知らん時に知らんけどっていうやつあるか!」
・ハスター
心配で心配で何も手につかない。
コナン君に渡したブレスレットに変な魔術が割り込んで他のを察知し、今爆速で現場に向かってるとこ。
ニャル化身がコナン君になんかしたんかオ゛ォ゛ン゛!?!?
・ニャルラトホテプ
置いてかれた。
なんもオモロない……むしゃくしゃするし羽虫摘んでプチプチしよ……。
というかあのチクタクマン絶対変では???