コナン君達と合流できた!
パシフィック・ブイ近隣の港に到着すると、俺はまず公安警察の人に誘導された。
周囲は人でごった返しており、いくらか怪我人もいたらしい。
救急車が何台か止まっている。
案内に従って避難用のテントに入ると、そこにはパイプ椅子に座ってまったりするコナン君達の姿があった。
そして俺は思わず悲鳴を上げた。
「変゛な゛の゛!!連れてきた!!!」
「いやなんで黄衣さんが悲鳴を上げるの」
コナン君のスマホの中は、ニャル化身が堂々と居座っているではないか!
ニャル化身が「ど、どもやで…」と挙動不審になりながら挨拶してくる。
ニャル化身だ!
変なニャル化身にコナン君が取り憑かれた!!!
「臨・兵・闘・者!!」
『ギャアアアア!?そないな適当な退散呪文で退散しとうないで!!堪忍してや!!!』
「わぁああ待って黄衣さんコイツは、服部は悪い化身じゃないんだ!!」
「悪くないニャル化身がいるわけないじゃろがい!!」
俺は思わず叫んだ。
コナン君の隣に座る降谷さんが、居心地悪そうにみじろぎしている。
何事にも例外はあるということらしい。
俺は己の短慮を反省して降谷さんに頭を下げた。
降谷さんが視線を逸らして俯いた。
「うん、いや、気にしないでくれ黄衣君」
『悪いか悪くないかで言ったらゼロは悪い化身だろ。日本支配を企む悪い化身』
「瓶の作成終わったしそろそろ入るか?」
『このように、いたいけな幽霊を瓶詰めにしようとするたいそう悪い化身だ』
「ヒロ」
諸伏さんがコソコソと距離を取る。
ニャル化身が「人間を瓶詰めにしようとしとるんか!?!?え……引く……」とゾワっとしたような声を出した。
同胞にドン引きされた降谷さんは小さくうずくまって文句を言い出す。
「純化身のくせに…僕は人でなしじゃない…なぁヒロ!」
『ノーコメントで。あとマジで可動式ロボット瓶出来たの?』
「ああ。頑張った」
『なぜ全力を尽くしたし』
諸伏さんに小突かれているが、降谷さんはキメ顔で頷いている。
大事件はあったようだが、とりあえず愉快さは失われていないようで何よりである。
ともかく事情を聞いてみれば、その内容は結構な大ごとであった。
ひとまず今回の真犯人は二人とも捕縛済み。
しかしその最中に建物を爆破されてしまい、緊急避難することになったようだ。
それがこの避難テントであり、外のたくさんの人ということ。
魔術を中継していたのはパシフィック・ブイと一体化していた機械の化身・チクタクマンだ。
しかしチクタクマンは予想を遥かに超えて善良で、閉じ込められた中、多くの人間を魔術で転送してくれたらしい。
俺はジロリとチクタクマンを睨みつけた。
本当にござるかぁ?
ニャルラトホテプの化身がちょろっと人間のふりするぐらいお手のものだろうに。
俺は肉眼でじろっとチクタクマンを検分した。
チクタクマンがあっという間にしおしおになって、コナン君のスマホから声を漏らす。
『は、ハスター様、ワイはほんま、その…』
「というか関西弁何」
『それは、その、パレードの時に変な関西人思念体をパクッとやった時に…』
「人食ったんかお前」
『ちゃうちゃう!幽霊でもない思念体や!妙なゆるキャラみたいなカッコしとってん、ワイ、その頃は自我もあんまなかったし』
どんどんしおしおになっていく。
コナン君が庇うように「それさ、黄衣さんの心の服部じゃない?前に逃げ出してた」と補足してくれた。
そういえば最近ご無沙汰だったような。
心の中をごそごそ探って、ようやく俺の心の服部君の姿が見えないことに気づいた。
いない!心の服部君が居ないではないか!!
ということはつまり!!
「食った!!コイツが俺の服部君を食った!!」
『ひぃぃ悪かった!!勝手に食ったワイが悪かった!!どうかワイの身一つで堪忍してや!!』
「俺の服部君食った!悪い化身だ!!!」
「その辺に放っておく黄衣さんの飼育状況も悪い」
冷静なコナン君に突っ込まれ、俺は意気消沈した。
ミスで逃した飼い犬が交通事故に遭ったら、悪いのは飼い主よな……。
せっかく心の服部君が3Dになったのに。
喰われた。ニャル化身に喰われた。
俺はいじけてチクタクマンをドスドスとつついた。
コナン君に「僕のスマホ壊さないで」とピシャリと言われて一層いじけて小石を蹴るなどする。
降谷さんが咳払いした。
「ともかく、君には後日四者間契約を結んで欲しい。今、政府の方に君永副総監が話を通しに奔走しているところだ」
「うーーーーん。先にちょっとニャルに聞き取り調査していい?」
俺が唸って念のため頼むと、降谷さんは頷いたようだった。
妙な化身だとは思うが、そんな真人間の化身がポンと生まれたなど軽々に信じられる話でもない。
素早く念話で「今からこっち来れるか、ニャル?」と話しかければ、返事はすぐにあった。
「すぐ向かいます我が夫♡」と甘い声が聞こえて。
数秒後、テント内にニャルが出現した。
激烈に震えた降谷さんが思わず机の下に隠れる。
また何か酷いことをされたらしい。
可哀想に。
「はぁい♡なんですか我が夫」
「そこのニャル化身がなんか変なんだけど、心当たりとかあるか?」
「???」
ニャルは聞かれている意味がわからないという顔で首を傾げた。
「見た感じ、僕の触覚、化身の一つを光で染めたのは我が夫ですよね?いつの間に使い方を覚えたんです?」
「え!?何何何どういうこと!?」
「こうして至近距離で見ればわかります。僕の化身は、摂取したあなたの光の余波に組み替えられてほぼ独立した存在と化してます。奇妙なことに」
そう言ってニャルはチラリとチクタクマンを見た。
つまり俺が俺たる所以と同じ理由で、この化身は人間臭いということらしい。
「つまり俺の光の服部君がニャル化身を組み替えて出来上がったのがチクタクマンってこと…?」
「はい。……ん?つまり僕と我が夫の待望の第一子……?」
ニャルはアイデアでクリティカル出したみたいな顔をした。
知らん知らん俺はこのエセ服部君なぞ認知せんぞ!
俺の服部君勝手に食ったくせに!
混乱したチクタクマンは助けを求めるようにコナン君に話しかけた。
『どないしよ工藤……ワイ新生児やったらしい。ばぶー。多分天才児やで』
「黄衣さんのあの顔は認知しないつもりらしいぞ」
『家裁に認知調停を申し立てなあかんか。ワイ意外と法律にも強いんやで』
「勝ち目なさそうな戦いを仕掛けないでくれる?俺そんなつもりかけらもなかったのに!」
諸伏さんがうんうん頷いて「意図しない妊娠か。そりゃ黄衣が全面的に悪い」と断言した。
やめて!そんなんじゃないだろ!!!
俺はついに体操座りで座り込んでブツブツ呟くだけのナマモノと化した。
ニャルラトホテプがポンポンと肩を叩く。
「我が夫は深く考えすぎなんですよ。子なんてその辺に捨てておけば適当に独り立ちします。できなければ消滅するだけ。抜け毛みたいなものですよ」
「外なる神価値観怖い……抜け毛は独り立ちなんてしない……」
ともかく、出来上がってしまったものは仕方ない。
俺の加護を与えて教団他奉仕種族などに周知徹底して、地球周りの各種対人ルールを教えて、ちょっとずつ神として一人でもやっていけるように育てていかねば。
そのように今後の予定を立てていると、降谷さんが机の下から若干顔を出して注釈を加えた。
「それと、しばらくはコナン君のスマホに滞在するらしい。君の方で管理監督しておいてくれ」
『ゼロ、机の下からは出たほうがいいぞ』
「うるさいぞ!本体が夢に出る怖さを知らないからそんなことが言えるんだ!」
「あー、なんというか、了解。服部君に会ったらちょっと妙な空気になりそうだな」
「そだね……」
本物の服部君の反応を思ったのか、コナン君が苦笑いした。
チクタクマンが「で、結局服部っちゅーんは何もんやねん」と聞いてくる。
オリジナル?それとも祖父?
いや祖父だと俺が服部君の子みたいになってわけ分からんくなるし。
謎。
俺は首を振って知らんことをアピールした。
ニャルが俺に手を絡めて「羽虫のことなんてどうでもいいですから、僕らの未来の話をしましょう♡」とラブの雰囲気を見せつけてくる。
このカオスな空間で独自路線を行けるニャルの強みだ。
幸せの波動を受けた降谷さんが「うーー力が抜けるーー」とだんだん伸びていく。
『ママンも幸せそうで良かったわ。なぁ工藤!』
「お前切り替え早ぇな…」
『ワイは望まれる形になるモンやからな。待望の第一子になったからには、誰もが羨む自慢の天才児になるやで!ひとまず夜泣きはしない方針でいくんや』
「それはしないに決まってんだろ」
いつものまったり進行。
そんなこんなで、大事件は思ったより大事件にならずに幕を閉じたのだった。
・ニャルラトホテプ
外なる神なので子供に対しては非常に淡白。
愛しいのはハスターだけであって、子供は抜け毛とニアイコール。
でもハスターとの共同作業なのでいつもより若干ラブ多め。
・アイリッシュ&ピンガ
魔術でガチガチに拘束された状態で公安警察に連行されていった。
ピンガはめちゃくちゃ悪態ついてる。
あと教えられてないため今だに館内放送ドデカ関西弁が何かわからん。
・直美アルジェント
愛をもって、真摯に、老若認証を作成した。
母というならこの人こそが母。
でもそれを絶対にチクタクマンは口にしない。
平和に生きるなら、神話生物の母という称号は害にしかならないから。
尊敬する母に限りない愛を込めて、チクタクマンは彼女をただの依代製造者の一人と呼ぶ。