学校から帰ってきたコナン君は、難しい顔をして悩んでいるようだ。
どうやらここのところ、新任の若狭先生とやらが気になるらしい。
むむむと唸りながら事務所へと入ってくる。
その姿を見て、降谷さんと諸伏さんが「おかえり」と声をかけた。
コナン君が「ただいまー」とランドセルをソファの上に降ろす。
コナン君の帰宅に気付いた星の精が、素早く起床してきたようだ。
さっきまで爆睡してたくせに、喜び勇んでベショッ!!とコナン君の顔面にアタックを決める。
コナン君はモゴモゴと文句を言いながら星の精を頭に移動させた。
いつもの定位置に移動した星の精は、上機嫌で「ゲタゲタゲタッ!」と鳴き声を上げた。
それを撫でくりまわしたあと、コナン君は気を取り直して席につく。
依頼はたくさんあるからな。
最近ではコールドケース案件より怪異案件の方が多いぐらいだが、それでもコナン君の力を借りることは極めて多い。
児童労働かぁ。
諸伏さんが大量の依頼を選別して、毛利探偵に渡せる仕事を抜き出し終えたようだ。
降谷さんが覗き込んで「ヤバそうな案件はあったか?」と声をかけた。
『徳島の連続不審死は気になるところだな。関係者からの依頼が来てた』
「あれか。県警が対応しているはずだが、初動でそれらしいものは見つからなかったんだろう?」
『だが昨日深夜に変な生き物が複数人に目撃されたらしい。空飛ぶイソギンチャクみたいなやつだとさ』
神話生物ってみんなそんな感じだから判断に困るな。
あえて言うなら飛行するポリプに似てるから、奴らの鳴き声である口笛に似た音が響いてないか確認を取る必要があるだろう。
今夜にでも現地に行くとするか。
俺も怪異案件の選別をして、俺の方で直接対応するものとせっせと分けている最中だ。
危険性が低いものは公安に回して、あっちの人員で回収してもらっているからだ。
しかしこれまでも俺が回した案件の中に、危険なものがいくつか紛れていたこともあり。
今では判断基準資料が公安側から提示されて、俺はそれに従う形となった。
なお、降谷さんにはめっちゃ怒られた。
何が危険性が低いだ!!一定条件を踏むと即死じゃないか!!とめっちゃ怒られた。
しょぼん。
降谷さんが「そういえば」と俺に視線を送ってくる。
「他国からの接触は今のところ来ていたりしないのか?米国があの程度で諦めるとは思えないが」
『確かに、神ほどの力がなくとも怪異案件での黄衣の活躍は目覚ましいし。被害を大きく抑えられる人材だもんな』
諸伏さんがうんうんと頷く。
現状、日本の怪異対策は俺頼りだし、そう言うこともあるかもしれない。
いや……人間には本来対処不可能、と言った方が正確か。
俺はやや首を捻って、これまでのエージェントの接触を思い返した。
「あちこちから来た他国のエージェントらしき人とのお茶会は発生してるよ。週1ぐらいの頻度で各国から来る」
「まさか受けたわけじゃないよな?」
降谷さんは嫉妬深い彼女並みの反応で俺を睨みつけた。
諸伏さんが「どうどう」と喰いつかんばかりの降谷さんを宥める。
「全部断ってるってば。まあ、他国でも被害が出てるのは確かだし、化身を置いてもいいかな、とは思ったけど」
怪異対策のアドバイザーとして、人格を与えた化身を各国に配置していくのだ。
俺は化身に人格を与えるのは嫌だが、人の被害を思えばそうも言ってはいられないからな。
俺はぼんやり天井を見上げて、今思いついた案を口にした。
「たとえばさ。1国に1人とかで化身を置くとかどうだろ。怪異対策専門の助言役って感じで」
「僕なら『我が国は歴史的に国家の集合体として成り立った』と主張して多くの化身を配置させるな」
ぴしゃりと降谷さんが俺の案を一蹴した。
どうしてそんな薄汚い発想が瞬時に思い浮かぶの???
信じられない気持ちで降谷さんに非難の眼差しを向ける。
すると諸伏さんが真顔で追加攻撃を仕掛けてきた。
『なら、俺は『国連を通して化身配置のための情報を取りまとめる』として配置権限を横取りするな。あと一部国には『某国は国家として認められていない』と主張して敵国への配置を阻害するぞ!』
「どんどん汚い発想出す!!!やめて俺が人間不信になる!!!」
「もっと出るな。『某国は国内情勢の関係上化身配置は極めて危険であり、人質として危害を加える恐れがある』。敵国への決め台詞だ。一晩語り明かしてもいい」
「汚い流石公安汚い!!!」
俺は耳を塞いでコナン君の後ろに逃げた。
コナン君はコールドケースの書類をまとめながら「そんなピュアでどうして古代に国家運営できてたの…?」と生温い顔をしている。
俺はべしょべしょに泣いた。
「ハイパーボリア成立時は初代王様がその辺全部やってくれたもん……。国際関係怖い……」
『うーん温室育ちの神』
まったりした顔の諸伏さんが俺をバッサリと一刀両断した。
個人レベル、村レベルで汚いことはたくさん経験してきたが…。
思えば、国家レベルでの汚さは割と未経験だ。
俺はいじけて星の精の触手を2本づつ片結びにしていった。
星の精はたいそう迷惑そうな顔をして「クスクス!」と俺を注意した。
すまん。
でもこの気持ちをどこに発散すればいいかわからなくて。
その辺で事務所に来客が来たようだ。
チーン、とエレベーターチャイムがこちらまで聞こえてくる。
コナン君が慌ててソファの上のランドセルを片付けた。
ニコニコと現れたのは沖矢さんだ。
トートバッグになにやら書類とノートPCを入れ、片手を上げて挨拶してくる。
素早く降谷さんがいきりたった。
「帰れFBI!!!」
「FBI?僕は大学院生ですが…?」
「そんなガタイの良い大学院生がいるか!!」
「広い屋敷を借りていますので、毎日の掃除で鍛えられたかもしれません」
平然と嘘八百を並べ立てる赤井さんの仕草は実に自然だ。
降谷さんは怒り狂うチワワみたいに吠えついている。
相変わらず、どうして降谷さんは赤井さんが絡むとこんな小物臭を撒き散らしてしまうのか。
少なくとも波長というか、赤井さんのマイペースさの全てが癪に触っているのは間違いない。
加えて赤井さん自身、無意識に兄属性として振る舞うので「貴様に下に見られる覚えはない!!」と降谷さんの激怒を煽るのだろう。
まあ、間違いなくこの場面では降谷さんの方が格下に見えるが。
「黄衣君。今何か考えていなかったか?正直に言え」
「なんでもないっす」
ギロリと睨みつけられ、俺はニャル化身の思考検閲に恐怖を覚えながら口を噤んだ。
諸伏さんもコナン君も、皆素知らぬ顔で仕事をするフリをしている。
君子危うきに近寄らず、ということらしい。
ソファに座った沖矢さんが、ゴソゴソとカバンから書類を取り出した。
ぴらりとA4一枚、アメリカ英語で書かれた書類だ。
「君にオファーだ、黄衣君。ステイツで君を招いてパーティが企画されている。是非とも出席してくれないか?」
「貴様大学院生ならそれらしく振る舞えないのか!?!?」
「はい?僕の研究所でお世話をなってる人から話をいただきまして」
「おい……その雑な変装今すぐ剥ぎ取ってもいいんだぞ……」
降谷さんが地獄から響いているみたいな声を出している。
沖矢さんは大袈裟に肩をすくめて「やれやれ」と欧米仕草をした。
それで怒りの臨界点を突破したらしい。
降谷さんに燃える三眼が浮かび、ジリジリと黒い風が渦巻き始めている。
今までずっと黙ったままだったチクタクマンが引き気味で冷静なコメントを残した。
『同胞キレすぎやん?キレ芸は今時流行らへんで』
「病気なんだ。そっとしておいてあげてくれ」
俺の言葉に降谷さんはパキポキと拳を鳴らして威嚇するなどした。
俺は急いでコナン君の後ろに隠れて、頭を庇う姿勢をとったのだった。
・赤井さん
恋人とまったり暮らして非常に充実している。
実は灰原にネチネチ嫌味を言われて虐められている。
沖矢でいる必要がなくなったら結婚式を開きたい。
・ニャルラトホテプ
その頃、せっせとゲーム第三弾を製作中。
意外とゲーム制作にもハマった模様。
ハイパーボリアをお題にしたコロニーシミュで、プレイヤーはそこの神となり人々を導くと言う設定で作っている。
一定繁栄度を超えたら確率でクトゥルフが来る仕組み。
お試しプレイしたハスターを発狂させた。
・各国
ハスターを迎え入れようとせっせと活動を続けている。
化身1国に1人となったら間違いなく陰謀が渦巻くのでやめた方がいい。