米国からのお誘いはおおむね「尊敬するあなたの話を聞きたいわ!」みたいな内容のヨイショ祭りであった。
超一流だけを集めます!
あなたのために最高の贅沢を用意します!
みたいな、名誉欲とか諸々をくすぐる甘い毒に満ち溢れている。
沖矢さんが「ずいぶん熱烈なラブコールだ。君も大変だな」とHAHAHAと笑っている。
他人事みたいに言いおってからに。
俺はプレッシャーで触手全部しおしおだというのに。
コナン君の頭から離れてふわふわと浮かんだ星の精が、沖矢さんに興味を持ったらしい。
恐る恐るふらりと沖矢さんの方に向かっていく。
コナン君が「あっコラ!」と言っているのも聞かず、触手を一本、そろーっと伸ばした。
沖矢さんはどこぞの名画みたいに人差し指を伸ばし、触手にぴとりとくっつけた。
星の精は新しい友人の誕生を喜んだようだ。
触手を全部ざわめかせて嬉しそうにした。
【ゲタゲタゲタッ!】
「この引き摺り出された腸の固まりは何なんだ?」
『ライ、形容酷すぎ。飛行するイソギンチャクぐらいにしておいてやってくれ』
「ふむ。……鉤爪と、なんだ、口もあるのか。鋭い歯だ。ヤツメウナギに似ているが、猛獣に似た鋭さでよくわからんな」
【クスクス?】
体をまさぐられ、星の精はくすぐったそうにしている。
止めて、というように星の精が沖矢さんの頭をポンポンと触手で叩く。
沖矢さんはそれを受けてすぐに離して、そのまま星の精をわしゃわしゃしてやった。
星の精は大層機嫌良く「ゲタゲタゲタッ!!」と笑った。
コナン君がやや引き気味に沖矢さんを見た。
「す、昴さんよくコイツのことそんな触れるね…絶対怖い怪物な見た目なのに」
「なに、君たちが放し飼いにしているというのなら、それだけの理由があると思ったまでだ」
肝があまりに太い。
ますます気分を害したらしい降谷さんが「チッ、FBIが調子に乗りやがって」とブツブツ文句を言っている。
もう赤井さんが何言っても気に食わないらしい。
鎮まりたまえ、鎮まりたまえニャル化身。
俺は咳払いして沖矢さんと向き合った。
「ともかく、このお誘いは受け取ったよ。考えるから時間が欲しい」
「了解した。日程は決まってないから、結論が出たら教えてくれ」
「はーい。上がヤキモキするだろうし、早めに結論を出すよ」
そのように返してお誘いの紙をデスクにピン留めした。
沖矢さんはたばこ型の禁煙飴を口に含み、コロコロと転がす。
「そう言えば、君の嫁の新作ゲーム、博士と子供達がやっていたから、一緒に俺もプレイしたよ。早期アクセスとのことだが、今作も中々手がこんでいて凄いな」
「…………」
俺は静かにソファの裏に隠れた。
聞こえないフリで耳を塞ぎ、無言でしゃがみ込む。
沖矢さんが「?????」と宇宙猫の顔でコナン君を見ている。
コナン君が苦笑して視線を逸らした。
「昴さん、触れないであげて。黄衣さん、ずっとトラウマを引きずってるみたいで」
「???何故だ、作り込まれた良いコロニーシミュレーションだと思うが」
沖矢さんの言う新作ニャルゲームは、国家経営系コロニーシミュだ。
現在PC向けに早期アクセス中。
お値段1000円。
いくつかの神格からプレイヤーの操作する神を選んで、人々を集めて一つの大きな街にしていく形になる。
ゲーム性は選ぶ神によって適性が大きく違うが、国民はおよそMAXで100名前後。
それぞれに性格があり、生き様があり、人間関係があり、家族があり、また寿命がある。
プレイヤーは神として彼らに命令を下して街を広げて怪異による被害を防ぎ、「楽園」の成立を目指すことにある。
信仰が集まれば新たな権能を獲得できるし、森を切り拓き建物を作り、国民の訴えとドラマを時に見過ごし時に聞き入れ、飢えと病を取り除き生活を安定させる。
襲ってくる怪異も多種多様なので国民を守るのにも力が入る。
AIによって非常に個性のある、かつ多様な発言をする国民には愛着が湧く人も多いだろう。
俺は湧いた。
名前もついているし、愛嬌のある顔グラもある。
神による洗礼でプレイヤーが新しい名前をつけることもできる。
俺は98時間ほどのプレイでひとまず楽園まで到達した。
かなりやりこんでるとか言ってはいけない。
しかし、ある日クトゥルフがやってきて全ては終わってしまった。
奴は突然やってきて俺の楽園をめちゃくちゃに蹂躙したのだ。
住民の大部分が死んで、コメントログに愛しい人を失った泣き喚く遺族だけが残されて。
そうして、無事に俺は心が崩壊したというわけである。
どうやら街の作り方次第ではクトゥルフも超えられるらしい
が、傷付き切った俺は体操座りで机の下でしばらく泣いた。
ニャルはめちゃくちゃ慌てて俺を慰めてくれた。
「次に羽虫のコロニーを作る時はクトゥルフを撃退できるようにと!その気持ちで作っただけで…!」と塞ぎ込んだ俺を抱きしめたりしてくれた。
ただ、俺はひたすらメソメソしてうずくまった。
まあ、ともあれ沖矢さんが知るはずもないことだ。
よろよろと復活して、「凄い作り込みのゲームでは…あるよね…」とギリギリ同意寄りの回答を絞り出す。
沖矢さんとしては普通に世間話しただけだ。
ただの世間話が致命傷になる俺が悪い。
俺の横に星の精がやってきて、俺の頭をヨシヨシしてくれた。
良い星の精はわしゃわしゃしてあげようねぇ。
星の精はゲタゲタと笑って上機嫌でコナン君の頭の上に戻った。
定位置らしい。
ふむ、という顔で沖矢さんが話を移してくれた。
「それでだ。今度阿笠博士が満天堂の新型ハードの設計に携わる予定でな。君の妻にそのハード用のゲームを開発しないかとお誘いがあったらしい」
「え、マジ!?阿笠博士凄いな!?」
「君の嫁に対抗すべく、タブレット型の画面でコントローラーなしのままコントローラーのプレイ感を損ねない機構を発明したんだ」
それは起動と同時に液晶面にわずかな凹凸を出現させて、それを振動や動きであたかも立派なコントローラーでプレイしているように錯覚させるのだという。
言うが易しというべきか。
どう考えても魔術側の技術だと思うのだが、深く考えてはいけないのだろう。
沖矢さんは腕を組んで「……彼が在野にいるのは、多分アインシュタインが浮浪者をやっているようなものだぞ」とわずかに苦言を呈した。
たぶん日本への、延いては降谷さんへの親切心だ。
図星を突かれた降谷さんが「表に出ろよFBI!!!」と素早くブチギレた。
どうどう、鎮まりたまえ。
「それで、君の妻からまだ返事が来なくてな。メールで連絡したんだが返信もないようだ」
「あー。ニャルは製造者サポートなんて殊勝な真似しないもんな。なら俺の方で声をかけ……うーん」
俺はちょっと唸らざるを得なかった。
ニャルが企業勤めと足並み揃えるなんて器用な真似ができるだろうか?
俺が降谷さんに視線を向ければ、降谷さんは青ざめて激しく首を横に振った。
チクタクマンの方も念のため確認するが、そちらも「あかん、あかんに決まっとるやろ!」とのことだった。
俺はキリッとした顔をして沖矢さんに向き直った。
「すまん。妻は……そう、少し気難しいので」
「そうか。君達がそう言うのならそうなのだろうな。博士と満天堂の方にも伝えておこう」
「助かる」
詳しく聞かずそう言うものとして飲み込んでくれる赤井さんには助けられることも多い。
俺はうんうんと頷いたのだった。
・コロニーシミュレーションゲーム
RimWorldを下地に国民に人格を付与して、クトゥルフ風味にしてSCPみたいなのが多種多様なので災害としてポップする、そんな感じ。
今ニャルは人間以外の国民(ビヤーキー、ムーンビースト、イスの偉大なる種族)などを増やそうとしている。
・博士作満天堂新ハード「Switch3」
タブレット型で、かつタブレットと同程度の価格で製造できる新発明が盛りだくさん。
まるでゼリーのように自在に変形・固形化できる謎すぎる液晶。
裏面を太陽光に当てておくことで異常な充電効率を発揮して、普通にゲームする分には太陽光で十分なレベルとなる太陽光パネル。
など、ツッコミどころ盛りだくさんである。
・満天堂役員のコメント
「この太陽光パネルはゲームに搭載している場合ではないと思う」