ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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妃弁護士のSOS〈揺れ動く司法の形〉

 

 蘭ちゃんから電話があって、現在毛利探偵事務所に急行中なり。

 何かわからんが緊急事態らしい。

 

 家には俺と学校帰りのコナン君のみだったので、出るのはすぐだ。

 車を止めるスペースはないので、探偵事務所から急いで蘭さん達のいる事務所兼家まで走っていく。

 

 星の精は置いていかれる気配を察知して爆喚きしたので、コナン君が肩掛けバッグの中に押し込んで連れてきた。

 今は大人しくバッグの中でくつろいでいるようだ。

 

 短い距離を疾走して、毛利探偵事務所まで来る。

 到着すると、真っ先に蘭ちゃんが迎えてくれた。

 蘭ちゃんはどうもかなり困惑しているようで、あちこちに視線をうろちょろさせている。

 

「黄衣さん!あの大変なの!お母さんが悪い人たちに攫われたみたいで!」

「ッ!蘭姉ちゃん!妃さん本人から助けてってきたの!?」

「う、うん。でも場所もわからなくて、今お父さんが個別チャットにしてるとこ」

 

 毛利探偵は蘭ちゃんのスマホを見てうんうん唸っている。

 

「黄衣!いいところに来た!知恵貸せ!」

「どんな状況だ、毛利さん」

「蘭が英理からのメッセージをグループチャットに登録しちまって、犯人が英里になりすましてわけが分からねぇ状態になったんだよ」

「ううむ。それで、個別チャットに変えて本人確認?」

「おう。それで本人は特定できたが……どこに攫われてるか全く分からないと来た」

 

 ふむ、と俺は一つ頷いた。

 

 なら話は早い。

 妃弁護士とは顔見知りだから、「ハスターの瞳」で見れば一瞬だ。

 口を開こうするその前に、コナン君が険しい顔で声を出した。

 

「なら服部、端末をハッキングしてGPSで辿れねぇか?」

『できるで。ほんならこのプログラムを開いてもらうんや。リンクを開いて、もらうだけでええ』

 

 秒にも満たぬ間に、チクタクマンはプログラムを作成し終えたらしい。

 それを毛利探偵に転送したようだ。

 

 「あん?」とも毛利探偵が訝しげな顔をした。

 

『グループチャットに投下してみい。開くと同時に端末はワイのもんや。んで、魔術プログラムが作動して本物の方には防護魔術がかかるっちゅー仕組みやで!」

「おい、グループチャットでいいのかよ?」

『犯人が逃げんようちょいと中の個人情報覗かしてもらお思てな』

 

 俺はチクタクマンの手早い動きに、思わずおお、と歓声を上げた。

 さすがは機械の化身。

 俺もプログラムなら魔術で組めるが、こうもシームレスではないからな。

 

 毛利探偵はまだ不安げに「魔術ってお前、大丈夫なのかよ」と眉を下げている。

 

 彼は俺を通して魔術の危険性はよく知っているからな。

 心配なのもわかる。

 

 が、チクタクマンは機械文明と魔術文明、双方に卓越したハイパー化身ゆえ、心配無用というやつだ。

 チクタクマンは胸を張って──胸を張ったように聞こえる声色で──力強く宣言した。

 

『任しとき!ワイの魔術は安心安全がモットーやからな!』

「探偵坊主が調子こきやがって」

 

 毛利探偵が送られてきたプログラムをグループチャットに投稿した。

 そして「開いてくれ」と手短に投稿。

 

 蘭ちゃんがややほっとしたような笑顔で言葉を落とした。

 

「服部君、ネットにも強いのね!」

『まあワイにかかればちょろいもんよ』

 

 チクタクマンが軽快に返事をするので、「おい服部」とコナン君が渋い声を出す。

 後日、本物の服部君がエグい無茶振りされないようにフォローしておかなければ。

 

『お、来たで来たで!須単町のここ、廃ビルや!悪さするにはうってつけやで』

 

 チクタクマンが俺たちのスマホにも位置情報を送ってきてくれた。

 

 俺も軽くハスターの瞳でアクセスすれば、二つの端末がどちらもこの須単町の廃ビルにいることがわかった。

 あとはもう流れ作業だ。

 

「すぐ向かうぞ!俺が車を出すからすぐに…」

「ねぇ、さっきのプログラム、犯人が開いた時罠だってバレた可能性はないよね?その場合、急がないと取り逃すかもしれないし」

『心配ないやで!』

 

 コナン君の問いかけにチクタクマンは得意げに答えた。

 

『ワイのプログラムは本物の妃弁護士の方は「位置情報を送信しました」と出るだけや。犯人達のスマホからは偽のメッセージアプリと繋がっとるように見える。ワイと楽しくお話しできるっちゅーわけやな』

「はん、よくそんな短時間でンな便利なもん作れたな。いいからさっさと助けに行くぞ!」

 

 俺はやや迷ってから、大人しく頷くことにした。

 魔術で妃弁護士をこちらへ転送した方が早いが、やはり現場は警察の人に押さえてもらう方がいいだろう。

 

 どうやら妃さんにはそれを見越してチクタクマンが防護魔術を仕掛けているようだし。

 

 これは極めてスマートな、魔術の使用を最低限にした方法だった。

 GPSへのハッキングは一部魔術を使用しているが、そのほかはほぼプログラムによる仕事だ。

 

 犯人逮捕にかかる手間は非常に少ないと言っていい。

 うーむ、見事。

 

「よし。じゃあ、みんなで近場まで行って警察を呼んで、並行して妃さんを助けるとするか」

 

 そのように、俺は大きく頷いたのだった。

 なんとなくデウス・エクス・マキナという十八番を奪われてジェラシーを感じつつ、これがZ世代…!と歯軋りしつつ。

 

 

 

 

 

 そうして。

 無事駆けつけた捜査一課の面々によって、犯人グループはお縄についたのである。

 

 妃弁護士は念のため病院で検査を受けている。

 

「ごめんなさい、そちらまで巻き込んでしまって」

「構いませんよ。あなたが助けられて何よりです」

 

 コナン君も横で頷いているが、若干行儀がいいというか大人しい。

 どうも妃さんに苦手意識があるようだ。

 

 既にチクタクマンが怪異であることは説明済みだが、チクタクマンは発言をする様子はない。

 彼はあくまで「使われたツールの一つ」として振る舞うつもりなのだろう。

 つくづく律儀な化身だ。

 

 妃弁護士は緩く息を吐いて、体から緊張を抜いたようだった。

 

「今まで怪異については人伝にしてから聞いてこなかったけれど。つくづくとんでもない力なのね」

「……まあ、彼はその中でも上澄み中の上澄みですよ」

 

 俺の返答に、妃弁護士がぼんやりと天井を見やる。

 

 今回はほとんどが機械技術であったが、それを瞬時に作成してのけた理論は魔術であり、怪異である。

 かなり変則的と言えるだろう。

 

 魔術は万能の力である。時間と空間を飛び越え、無から有を生み出し、神の如き力を振るう。

 代償はMPとSAN値の減少に止まらない。

 時には精神力自体の消耗。時に魂の破損さえ招く、コストの重い技術である。

 

「今回のように科学技術に偽装されたら、サイバー犯罪対策課もいよいよ大混乱でしょうね」

「ええ。司法も、社会制度自体も変革の時が迫っているのかも知れないわね」

 

 怪異対策関連法案もそうだが。

 現代社会は魔術と怪異にあまりに無力だ。

 

 なお、すでに怪異を使った事件は多発している。

 退職した警察官が怪異の生息地に復讐対象を誘導して見事仕留めた事件とか。

 心を病んで辞めた元怪異対策課の人だ。

 

 世間に公安の管轄する怪異の情報が知られていれば防げた事件だとバッシングされたのはいつだったか。

 

 それを踏まえて現在はある程度ぼかして危険地指定という形で公開している。

 

 危険度の高低が分かりづらいため、あまり危険では無い怪異であっても近隣にあると不動産価格の低下などが起きているそうで。

 今でも業界団体と揉めているらしい。

 

 あっちを立てればこっちが立たず、というわけだ。

 

 そろそろ妃弁護士の診察の順番がやってきたようだ。

 妃弁護士が熟睡中の毛利探偵を揺り起こして、診察室へと入っていく。

 

 俺達もそろそろ帰るべきだろう。

 

 長椅子を立って、コナン君を伴って外へ出る。

 

 

 

 

 すると、入り口付近で降谷さんと銀髪マフィアと鉢合わせした。

 

 異色の取り合わせだ。

 険しい顔をして、降谷さんは俺を見るなり特大のため息をついた。

 

「今回はよくやった。そう思ったら同胞の服部君が主導して解決していた。そのがっかりが君にわかるか?」

「すまん!けどそれは俺のせいではないのでは!?」

「君のやらかし率が高すぎるのが悪い」

 

 俺は降谷さんのジト目に、頭を下げるよりほかなかった。

 

 銀髪マフィアは「その辺にしとけ。俺たちはプログラムの入ったスマホを取りに来ただけだろう」と冷静な声をかける。

 まさに熟練の探索者と言った風体だ。

 

 コナン君のバッグからは星の精の触手がたらんと垂れている。

 あと「ゴゴゴ…グゴ」という寝息。

 バックの中に詰めてあったおやつ血液を飲んだのか、赤黒く色付いた触手がユラユラ揺れている。

 

 次の瞬間。

 銀髪マフィアは素早く距離をとった。

 拳銃を取り出そうと構えたが、しかしここが病院であることを思い出し、舌打ちして降谷さんを盾に半身になる。

 

 降谷さんは迷惑そうに眉を顰めた。

 

「おい、なんなんだ一体」

「ガキの持ってるバッグの中に何かいる」

「ああ。あれは黄衣探偵事務所で飼ってるペットだ」

 

 コナン君は大層困った顔をした。

 そしておずおずと、銀髪マフィアにだけ見えるように僅かに鞄を傾けて開けた。

 

【グゴ……クス?クスクス?】

 

 星の精はたいへん賢く、人の動きを学んでいるようだ。

 むにゃむにゃと起きてから、片側の触手を揺らして手を振るような仕草をした。

 

 銀髪マフィアは背後に見事な宇宙を背負った。

 

「???????」

「こいつらの無茶苦茶は今に始まったことじゃ無いだろう」

「いやだがアレは狂信者どものねぐらに居たクソ危険なバケモン……」

 

 理解が追いついていないらしい。

 「あの生き物、人に懐くモンだったんだな…」と銀髪マフィアは呆然としている。

 

 いや、一般的には懐かないんだけど、この星の精は子供で、境遇が境遇だったから特殊な方だ。

 

 星の精は銀髪マフィアと遊びたいらしい。

 もぞもぞと外に出ようとしてコナン君に「めっ!」と叱られて凹んでいる。

 

 実に平和だ。

 

 俺はまだ険しい顔をしている降谷さんに、力こぶを作ってアピールしたのだった。

 

「いやでも今回はチクタクマンに譲ったけど、次こそは俺はやるぞ、とてもやる」

「やらなくていい!大人しくしてろ!」

『なぁくどー、ワイもゲームとか作って一山当てたろかな』

「いいんじゃね?競合他社としてニャルさんに目をつけられねぇようにな」

『やっぱやめとくわ』

 

 なんともしまらない会話をしながら、俺たちは病院を後にした。

 





・ジンニキ
ハスターがやらかしたと聞いて招集されたが、意外とやらかしてなかったのでスマホだけ回収しにきた人。
エラいもんがバッグに入ってて驚愕してた。
アレの群れに襲われて仕留めるのにどれだけ苦労したことか。

・妃弁護士
一応怪異関連事件が増えてきたので勉強中だが、どうしても不明点が多く試行錯誤が続いている。
そもそも「証拠」という概念自体が怪異が絡むとあやふやになるので、司法も立法も大変困っている。
そこで現在は魔術的知見に注目が集まっているらしい。
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