ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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黄昏の館〈怪盗キッドどいっしょ!〉

 

『いやぁ、昨日はびっくりしたなあ、突然コナン君の体が戻るんだから』

 

 車の助手席で、俺は諸伏さんの言葉に腕を組んで頷いた。

 コナン君は博士の新作ゲームをピコピコとプレイしながら眠そうにあくびをしたようだった。

 昨日の風邪でまだ体力が戻りきっていないらしい。

 

 現在、俺たちは車で次の依頼地へと向かっている最中である。

 運転手はいつもの諸伏さん。

 俺もそろそろ教習所へ行って運転を学び直さねば…と思う今日この頃だ。

 

 コナン君はゲームを中断すると、はあ、と大きなため息をついて項垂れた。

 

「あれからどんなに飲んでも身体は元に戻らなかったし。なぁ黄衣さん、魔術でパパーっと戻せたりしねーの?」

「戻せるけど」

「戻せるの!?!?なら今度学校に顔出しときたいからさぁ!ちょっと…」

 

 諸伏さんがバックミラー越しにニコッと圧の強い笑みでコナン君を睨みつけた。

 うっ、とコナン君が言葉を飲み込む。

 

『スコッチお兄さん激怒な件。君、組織に殺されかけた自覚あるのか?』

「で、でも…出席日数…」

『俺と一緒に半透明になってみるか?あ?』

「ごめんなさぁい…」

 

 諸伏さんのいうことももっともだと思ったのか、コナン君はすっかりしょげかえってしまった。

 まあそりゃ俺がやられたみたいに命を狙われたら、普通の人間はあっという間に死んでしまうのは間違いない。

 

 もっとも、コナン君には俺が渡したブレスレットがあるから意外と問題はないのだが…まあそれはいいか。

 あのブレスレットさえあれば、今すぐ世界で核戦争が始まったとしても特に問題ないレベルで護られるからな。

 

 ただ脅威から身を守るだけじゃない。

 どれほどの状況に置かれても健やかに過ごせるように。

 人らしさと幸福を守れるように。

 

 俺の知るあらゆる魔術を組み合わせて、丹精をこめて作り上げた逸品だ。

 

 振り向けば、コナン君の腕で深い空のような青いブレスレットが輝いている。

 きっちり俺の助言の通り常に身につけてくれているようだ。

 

 まぁそれはともあれ、出席日数が足りなくなるのは普通に可哀想なのでなんとかしてやりたいところ。

 

 

 そんな会話をしつつ、向かっているのは本日の目的地。

 「黄昏の館」と呼ばれる古い金持ちの別荘である。

 

 少し調べたところ、そこは半世紀前に惨劇があった場所らしい。

 なんでも、烏丸蓮耶の別荘であったそこでオークションが開かれた際、客同士のいざこざが殺し合いに発展したらしく。

 館は今も当時のまま、事件は闇に葬られ今に至るとか。

 

 今回はそんな館での晩餐にご招待されたわけだが、とても晩餐を開くような場所には思えない。

 そして200万円という超高額の小切手。

 差出人は神に見捨てられし仔の幻影。

 怪しいことばかりである。

 

 諸伏さんが高速を走らせながら、うーんと首を捻った。

 

『しかしこれ、本当に怪盗キッドからの手紙だと思うか、少年?』

「……怪盗キッド?そんな要素どこかにあったか?」

 

 俺が聞くと、コナン君がピンと人差し指を立てて説明してくれた。

 暗号、というか軽い言葉遊びであり、「神に見捨てられし仔の幻影」というのはすなわち怪盗キッドを意味するらしい。

 

 はえー、と俺は分かったようなわからなかったような感じで頷く。

 そんな洒落たことしなくても普通に怪盗キッドって書けば良いのに。

 それじゃダメなのだろうか。

 

「報道を確認しても、その屋敷にビッグジュエルが関わってる様子はなかったよ。正直、怪盗キッドを騙る何者かからの依頼…と考えた方が正しいんじゃないかと思ってる」

『だよなぁ。それに、屋敷が烏丸の持ち物ってのがな…』

 

 何かいいたげに諸伏さんが言葉を切った。

 コナン君もその様子に気付いて「どうしたの、諸伏さん?」と聞いている。

 

『……いや。今の段階で考えてもしかたないさ。少年も、目的地までまだだいぶかかるから寝とけ』

「あ、俺音楽かけて良いか?」

「黄衣さん意外に音楽好きだよね。事務所でもよく聞いてるし」

「まあ、俺は結構音楽得意だしな。トルネンブラさんほどではないけど作曲もするぞ?」

『トルネンブラ?聞いたことないな、知り合いか?』

「そんな感じ」

 

 外なる神にして生きた音楽、トルネンブラ。

 俺も創造主アザトースの宮殿に参拝に行った時に彼の音楽を聴いたが、不気味さの中にえも言われぬ深みを感じたものだ。

 いやまぁ、聞けば聞くだけSAN値は減ったが。

 

 

 それから、車で行くこと2時間。

 すっかりコナン君も寝こけ、山並みに夕日も沈み込んでしまった頃。

 

 ふいにバチっという特徴的な音がして、車のハンドルが強く取られた。

 諸伏さんが路肩に車を停めて外へと出る。

 

『………あー、パンクか。参ったな、ここからJAFを呼んでたら晩餐会に間に合わないぞ?』

「あれ、あそこにガソリンスタンドがあるし、そこで見て貰えば良いんじゃない?」

『!』

 

 諸伏さんがコナン君の言葉を聞いて、何かに気づいたように視線を鋭くした。

 

「……どうしたの?」

『加工した釘が落ちてる。人為的にパンクさせられたんだ。おまけにこの位置』

「!!…僕らをガソリンスタンドに誘導してるってわけか」

 

 また二人で分かり合ってる…。

 俺は若干ふくれながら助手席から顔を出した。

 

「じゃあ俺がガソリンスタンド行ってくるよ。俺なら何されても問題ないし」

『いや。念のため俺が行く。黄衣は実体化をかけながらコナン君を護っててくれ』

「なるほど、了解。気をつけてな」

『そっちもな。何者かが俺たちを分断した隙に襲ってくる可能性も考えられる。気をつけろよ』

 

 

 

 

 

 15分後。

 何故かガソリンスタンドの店員さんをチョークスリーパーで締め上げながら、諸伏さんが帰ってきた。

 

「えっ何何何何!?」

『俺を眠らせて入れ替わろうとしたんだ。たぶん怪盗キッドだと思う』

「ギブギブギブギブ締まってる締まってるから!!」

「怪盗キッド悲鳴をあげてるけど」

 

 怪盗キッドらしき男はジタバタと痛みに呻いている。

 

 しかも諸伏さんたら、周りからは死角になっている位置で怪盗キッドに銃を突きつけているようだ。

 

 多分死の瞬間に持っていたから、「自分は銃を持っている」という思いが強かったのだろう。

 亡霊と化した今でも服と一緒に所持品として具現化されていたのだ。

 とはいえ、実際に発砲できるかどうかは不明だが。

 

 怪盗キッドがなんとか諸伏さんから抜け出す隙を探しているが、うまくいっていないようだ。

 というより、抜け出そうとするたびに凄い殺気を飛ばされて牽制されている。

 

 たぶんガソリンスタンドで諸伏さんに睡眠ガスを吹き付け、入れ替わろうとしたのだろう。

 しかし、実体化してるだけの幽霊にそんなものは効かないからな。

 

 ぜーはーと苦しそうに息を乱した怪盗キッドに、俺が代表で話しかける。

 

「で、何の用なんだ?俺たちこれから黄昏の館で晩餐会に出席する予定だけど、あんたは晩餐会の主催者だろ、怪盗キッド」

「………その晩餐会ですよ。何故か私の名前が勝手に使われていたようなので、確認のためにここまで来たんです」

「ああ、なるほど。晩餐会に潜り込むために俺たちを狙ったのか」

 

 怪盗キッドは諦めて抵抗をやめたようだ。

 銃も突きつけられているし、それ以上の抵抗は危険だと判断したのか。

 

 諸伏さんがやけに冷徹な瞳で怪盗キッドを見下ろしている。

 

『信じるのか?』

「この人、嘘をついてないからな。これは間違いないことだ。俺が保証する」

 

 念のため軽く嘘発見魔術を起動したからな。

 俺の魔術発動に気がついたらしいコナン君が、ジト目で「ふーーん」とこちらを睨め付けてくる。

 コナン君、この手の魔術使うと瞬時に見抜いて不機嫌になるんだよな。

 推理の現場では使わないからこれくらいは許してくれ。

 

「そういうわけだから。せっかくだし一緒に来るか、怪盗キッド?」

「……流石に、拳銃を持っているような相手に付いていくつもりはありませんよ」

「でも、どうせ別ルートで侵入するなら話は早い方がいいだろ」

「……」

 

 諸伏さんが怪盗キッドを放した。

 怪盗キッドが素早く身を翻した次の瞬間、その姿は白いシルクハットにマントを翻す、月夜の怪盗の姿に様変わりしていた。

 

 おお、これが噂の怪盗キッドの変身か。

 ニャルラトホテプさながらの変わりようだ。

 

 コナン君が窓枠で頬杖をついてむっつりと俺に話しかけてくる。

 

「晩餐会の用意のためにあらかじめ人数は向こうに伝えてあるんだよね?それはどうするの?」

「怪盗キッドには諸伏さんに成り代わってもらうんだ。今回怪しげな依頼だったから、念のため頭数揃えるために諸伏さんは実体化してもらう予定だったし」

「……まだ私は了承したつもりはありませんが」

 

 怪盗キッドが硬い声を出す。

 とはいえ、どうも彼の方も動揺しているらしい。

 拳銃を持ち、冷徹な空気を纏う諸伏さんという人物の連れにしては俺たちは不自然に過ぎたのだろう。

 

 諸伏さんがわざとらしくカラカラと笑って拳銃を手のひらで回してみせた。

 

『ああ、これのことを気にしてるのか?嫌だなあ、ただのオモチャだよ、オモチャ』

「へぇ。随分と精巧な玩具ですね」

 

 怪盗キッドが目を細める。

 対する諸伏さんも笑顔なのに目が笑ってない。軽薄かつ冷酷な視線だ。

 

 俺はなんとなく、仲裁する気持ちで二人に声をかけた。

 

「とりあえず晩餐会に遅れるからそろそろ行きたいんだけど。で、どうするんだ、怪盗キッド」

「……時間もない。今回はあなたの提案に乗らせていただきますよ」

 

 そう言って、再びマントを翻した後には、すっかり諸伏さんそっくりになった怪盗キッドが立っていた。

 諸伏さん本人と違って人懐こいというよりどこか危険な色香の漂う雰囲気だが…諸伏さんが今こんな感じだから誤解しても仕方ないか。

 

 つまらなさそうに息をついた諸伏さんが、ふいに「……ん?俺に変装?」と何故か今更なことを言い始める。

 

「そうだけど」

『え、なら俺の晩餐会飯は?』

「代わりのコンビニ飯で我慢してもらおう。毒とか入ってるかもしれないし、その方が安心だろ」

『そんな、嘘だろ!?えっえっえっ!?』

「あー、うん。そこになければないですねぇ」

『100均店員で誤魔化すな!!!俺の!豪華な!!!晩餐会料理!!!』

 

 ついに諸伏さんは泣き出してしまった。

 いや最近では外食で良いところも行ってるじゃないか。

 

 諸伏さんのあまりの変わりように、文字通り目が点になっている怪盗キッドが「え…えぇ…?」と声を漏らした。

 いや、さっきが可笑しかっただけでいつもはこんな人だからな。

 

 涙を呑んだ諸伏さんが怪盗キッドの肩をポンと叩く。

 

『俺の代わりの晩餐会、味わって食えよ、残しでもしたら祟るからな』

「た、祟るって…」

 

 そのあたりで話が長くなるので、するりと実体化を解除。

 諸伏さんは半透明の状態でメソメソと車の後部座席に乗った。

 もちろん、ドアを開ける必要はないのでするりと扉を通り抜けて座席へと座る。

 

 隣のコナン君に「慰めて少年!」と泣きついたが、返ってきたのは「料理の感想ぐらいは伝えるけど」という残酷な返事のみだった。

 

「というかアンタどこに拳銃なんて隠し持ってたんだよ」

『服。実はいつも持ってる俺の一部です。こっちもほら』

「銃弾の貫通した跡のあるスマホ…!あんた、まさか…!」

『実は傷跡もそのままなんだ。見る?見る?』

「見ねーよ!!どうして嬉々として俺に見せようとしてくるんだよ!!」

 

 なんだか後ろでキャッキャウフフしているが、ここにまだ怪盗キッドいるんだけどな。

 

 俺がチラリと当の怪盗キッドを見ると、その幽霊と少年が仲睦まじく話す光景を二度見三度見していた。

 そしてようやく、状況を正しく認識したらしい。

 

 怪盗キッドは、思わずと言った様子で叫び声を上げたのだった。

 

「え、えええええ!?!?!?!?」

 

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