ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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一件落着

 

 転移した会場は、ドリームランドの地下深くに設置されているようだ。

 

 俺とニャルの他に一緒に転移してきたのは、探偵事務所の面々だ。

 コナン君と諸伏さん、そしてマモーさんもことの次第を見守りたいらしく、付いてきたのだ。

 マモーさんは仕事は無事なのだろうか。

 

 コナン君が周囲を見渡して感心したように声を漏らした。

 

「地底空間?すごく広いね……それに石造りの大きな建造物…文明があったの?」

「ガクという生き物が作ったものだ。人の繁栄に邪魔だったから、昔ここに移住させたんだが。ほら、そこに死骸があるだろう?」

 

 俺が指差せば、コナン君は遠くにまとめて積んである死骸に気付いたようだ。

 

 ニャルの化身達は原住民のガクを適当に殺して場所を確保したらしい。

 黒い毛に覆われた4本の手を持つ巨人が、折り重なるように柱の影に積み上げられている。

 

 MPを抜き出してから殺したらしく、死体は干からびていた。

 死体を見て驚いたのか、コナン君が息を呑んだので頭を撫ぜておく。

 このような無駄な生物についてコナン君が気にする必要はないのだから。

 

 巨大地下空間をざっと見上げれば、壁面には

びっしりと術式解析結果が書き込まれていた。

 凄まじい量の解析結果だ。

 人ならば解析に何億年かかっただろう、という分量が全て多層に書き連ねてある。

 

 そして柱の角を曲がると、化身の死屍累々が見えてきた。

 

 術式解析の中央には、なんか枯れかけの苗木みたいなのがポツンと置かれている。

 どうやら無限増殖する化身、蠢く密林たるアトゥのようだ。

 その増殖の性質を利用してMP供給源として活用していたらしい。

 

 残念ながらMPを吸われ過ぎて、現在は枯れかけの卓上観葉植物みたいなのに成り果ててしまっている。

 風もないのにカサカサと葉を揺らし、哀愁を誘わせている。

 

 そして周囲も同様に酷い有様だった。

 

 触手が全部萎れてしなしなになった月に吠えるもの。

 仮設トイレにこもって出てこない赤の女王。

 

 黒い雄牛の両目は落ち窪んで、今にも餓死しそうにガリガリになっている。

 這い寄る霧なんて弱り過ぎて存在維持が難しくなってしまったらしい。

 瓶に籠って、這い寄る僅かな結露と化して無言を貫いている。

 

 端っこには降谷さんの姿も見えた。

 MPを吸われすぎて人間体に戻ることもできないまま、ヨロヨロの扇風機(弱)姿で地面に正座している。

 どうやら膨れ女に説教を受けているようだ。

 

【──!!!!───ッ!!!】

【はい、おっしゃる通りです。申し訳ございませんでした…】

【ッッ!!!!!─ッッッ!!!】

【その通りです。僕の不徳のなす所で、はい……】

 

 なるほど。

 俺とニャルの世話役ということでMP絞り出しを免除してたのに仕事をサボった、ということで厳しいお叱りを受けているらしい。

 それがバレて今朝、MP絞り出し隊員として連行されたと。

 

 干上がった降谷さんはしょげかえってしおしおになって怒られている。

 

 ニャルが「え……思ったより死屍累々だった…」と若干焦っている。

 化身がどうなろうとどうでもいいだろうに、ニャルにしては気配りが細やかだ。

 

 ふむ、と思いながら周囲を確認すれば、ゼエゼエと肩で息をするナイ神父が前に進み出てきた。

 

「魔術式は全て展開済みです。……こちらの正面に刻まれた内容のみ、検分して対象を入れ替えて発動していただければ、御身は元に戻ると思われます」

「ありがとうナイ神父。予定より早い仕事だ。賞賛に値するだろう」

「もったいないお言葉です」

 

 壁面に刻まれた魔術式をさらりと読み解いていく。

 やる気はガリガリと削れるが、このぐらいの分量なら読み終えるのに支障はない。

 

 どうやらこの部分以外はすでに儀式場に彫り込まれているらしい。

 これなら変更箇所だけ俺が構築すれば、すぐに魔術を練り上げ直して発動できそうだ。

 

 ふと、なにかゼリー状のものがコナン君の背後から忍び寄っているのが見えた。

 

 消滅寸前らしく、お腹がぺこぺこのようだ。

 黒ずんだ触手の生えたゼリー状の化身、「浮き上がる恐怖」が、ダラダラと唾液を垂れ流しながら大きな乱杭歯の生えた口をガバリと開いた。

 そして猫のようなしなやかさでコナン君に飛び掛かる。

 

 ふむ。

 素早く触手を全て切り落としてから、粘液を垂れ流して地面に転がったそれに声をかける。

 

「おい、どんな権限があって俺の所有物に手を出している?いくらニャルの化身とはいえ、度が過ぎるぞ」

【───、──!!】

 

 「浮き上がる恐怖」はビクビクと震えて怯えながら縮こまったようだ。

 思わずとはいえ、勝手にニャルの化身を傷つけてしまった。

 俺はニャルに頭を下げた。

 

「すまないな、ニャル。お前のものなのに勝手に処分して」

「いいんですよ我が夫。飢えてて可哀想でしたが、それでコナン君を襲っていい理由にはなりませんし」

 

 優しいニャルの頭をまた撫でくり回す。

 どこかしっくりきて、いつまでも撫でていたくなる。

 ニャルはホワホワした表情で俺に擦り寄った。

 

 コナン君は「うーん、黄衣さんやっぱもう重症だよ」と眉間に皺を寄せている。

 

『それはそう。俺なんかうっかり消し飛ばされそうだからここ数日なるべく気配消してたもん』

「諸伏さん時々卑怯なんだよね……というか降谷さんここにいたんだ。全然姿見ないと思ってたけど」

『いや、昨日と一昨日は風見さんの家に逃げ込んでずっとブルってたはず。一人で寝るのが怖かったとかで』

「降谷さん……」

 

 コナン君がたいそう情けない顔をした。

 マモーさんが眉間に皺を寄せて「たしかに、愛なき神ほど恐ろしいものはありませんからね」としみじみ言った。

 

 そして、みんなしてすごい丁寧にナイ神父に頭を下げる。

 

 ナイ神父はヨロヨロと「気にしないでくれたまえ」と微笑んだ。

 救世主扱いということらしい。

 魔王は俺か。

 いや、特に人類に牙を剥くつもりはないのだが。

 

 

 改めて。

 魔術式を丁寧になぞり、入れ替わりの術式を構築していく。

 そばにいたニャルをそっと抱きしめれば、冷えた心が温まるような気がした。

 

 ニャルが俺の首に手を回して、そのまま目を伏せる。

 

「ごめんなさい、今回は我が夫に酷いことをしてしまいました。こんなつもりじゃなかったけれど、貴方を傷付けてしまった」

「傷付ける?俺は特に……」

「時折人の心がわからなくて、モヤモヤしたでしょう?」

 

 ニャルが目を開けて、俺の瞳を覗き込む。

 

「忘れてしまったでしょうが、それは悲しみです。孤独です。昔僕がずっとずっとわからなくて、モヤモヤしていたもの」

「そう、なのか?」

「昔の僕と同じ反応でしたから。……貴方にそんな思いさせるつもりはなかったのに、ごめんなさい」

 

 ニャルラトホテプは俺を強く抱きしめて、そこから温かい何かが流れ込む感覚がある。

 なんだかとても安らいで、ずっとそうしていたいと強く願う。

 

 きっと。

 ニャルは俺の「光」が気になって、身体を入れ替えることを決めたんだろう。

 

 なら、僅かにニャルの方に残すように入れ替え直すこととしよう。

 分かち合うことが夫婦であるのなら、それだって確かな愛のはずだ。

 

 俺はやや迷ってから。

 ニャルに、静かに口付けを落とした。

 

 それは人において最大の愛と信頼を示す行為だ。

 舌を絡めるように濃厚にお互いを感じ合って、その満足感に恍惚とする。

 

 愛しい、と素直に思った。

 

 顔を真っ赤にしたニャルに、俺は正面から向き合った。

 術式が完成する。

 光が満ちて、膨大な魔力が渦巻いていく。

 

 永劫とも一瞬とも思える時の中、誓いの言葉を口にする。

 

「愛している、ニャルラトホテプ」

「───僕も、愛しています。ハスター」

 

 

 永劫を共に生きよう。

 そのように、俺たちは愛を交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 などとめっちゃんこ恥ずかしいことをした俺である。

 穴があったら入りたい。

 

 

 事務所に帰れたのは元に戻ってから一時間後であった。

 

 まず死屍累々のニャル化身を慌てて治療。

 俺がMPを注入すれば、皆ヨロ…と立ち上がってギリギリ生き返ったようだ。

 仮設ベッドを作ったからそこでしばらく身体を休めたあと、みな各々帰っていった。

 

 巨大空洞に刻まれたままの魔術式も拙いので、俺が全て念入りに消しておいた。

 これは世に出していい魔術ではない。

 

 ニャルも元の形を取り戻して、瞬時にいつもの女性形に戻ったようだ。

 俺の光を少しだけ分けられ、それを大切に大切に胸の中に感じてずっと恍惚と幸せに浸っていた。

 つまり後片付けの戦力には全然ならなかったということだが。

 

 まあ、ニャルが幸せそうだからよしとするか。

 

 その後はダウンした降谷さんを引きずって事務所に帰宅。

 まだ脹れ女は怒っていたが、俺からも指導すると仲裁してなんとか解放してもらった。

 

 干からびた降谷さんは「でも君と本体のおもりは罰ゲームの類だろ…MPタンク係の方がずっと楽だろ…オエップ」などとブツブツ文句を言っていた。

 反省はしていないようだ。

 

 一息ついたところでマモーさんの電話がまた鬼のように鳴りだした。

 どうやらまたトラブルらしい。

 嫌そうな顔で電話に出たマモーさんは聞いていくうちに顔を般若のように怒らせていった。

 

 「はあ!?!?資金繰り!?……馬鹿者!なぜそれを買う!!今行く!!もう何も決済するな!!!」などなど。

 

 俺にめちゃくちゃペコペコしながら自前の魔術で転移していった。

 可哀想に…後任者の育成に苦慮しているようだ。

 

 そんなわけで。

 帰ってからもニャルはしばらく俺の事務所に入り浸ることにしたようだ。

 元気に俺に抱きついたり星の精の触手を引き抜こうとしたり。

 

 挙句仁王立ちして宣言。

 「羽虫の心を知った今の僕は無敵です!今後は我が夫のサポートとして事務所に常駐しますから!」などと宣いだした。

 

 ニャル続投宣言に、ついに星の精は点滴になった。

 

 カラカラになってうんともクスとも言わなくなってしまった星の精は、今別室で魔術点滴を受けながらコナン君に触手を握ってもらうなどしている。

 

 ニャルは俺が引き留めておくから、ゆっくりコナン君と寝るといい。

 人の心を失ってた間はニャルを止めてあげなくて悪かったな……。

 

 

 そして、夜。

 皆が寝静まった頃に、俺とニャルはマンションのリビングで二人でそっとソファで寄り添って座っていた。

 

「ニャル、お前少し人の心がわかるようになったか?」

「ええ。でも、うーん、実際は言うほどかどうかは微妙なライン?」

 

 ニャルは難しい顔をして腕を組んだ。

 

「でも我が夫の心はわかるようになりました。僕のこと、沢山愛してくれてたんですね」

「ニャルこそ。俺のこと想ってくれてたんだな」

 

 くすくすと笑い合って、俺たちは手を絡めた。

 雨降って地固まる。

 これはこれで、大事件ではあったが必要なことではあったのだろう。

 

 俺はあの時学習した外神の味覚を口に再現して、取っておいたクッキーを冷蔵庫から取り出した。

 

 相変わらず喚いてうるさいから、防音をかけて口に放り込む。

 甘くもないしクッキーの味もしないが、トロリとした肉と意思の風味がとっても美味しくて、自然と顔が綻ぶのだ。

 

「おいしいよ、ニャル。ありがとう」

「ふふ。喜んでもらえてよかったです」

 

 

 これぞまさに、愛の味、と言うやつだろう。

 





・ニャル(光)
光を分けてもらって、魂の中に大事に大事に抱えている。
ほんの少し前より人の心が分かるようなわからないような。
そんなことより、きちんと夢を越えられるようになったのが嬉しくてたまらない。
別に自分に未練なんてないつもりだったけど。
この温かな愛を次の夢でも抱いてゆけると思ったら、もう堪らなくて!

・チクタクマン
実は事務所にずっといたがヤバすぎたため気配を消していた。
バレずに仕事をバックれた期待の大型新人。
後にナイ神父にクソほど説教される。

・コナン君
バカップルの波動を浴びて蘭ちゃんが恋しくてたまらない。
絶対修学旅行行く(断固とした決意)
星の精の看病の日々に入る。
死にそうなカラカラの星の精に声かけて血を上げて濡れタオルで身体を拭いてやる。
星の精は友達ビッグラブになる。
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