「なあ、悪かったって!許してくれよ…」
【グス!!!】
現在、工藤君はご機嫌斜めの星の精に巻きつかれて大層お困りの様子である。
今日は修学旅行当日だ。
うきうきで京都の旅行雑誌を買い漁り、ネットで情報を集めて。
工藤君はそれはもう上機嫌で着替えを本宅から持ってきたりと準備を進めてきていた。
そして本日。
ついに旅行当日ということで、彼は俺の魔術によって工藤新一の姿に戻ったというわけだ。
バッチリ制服に着替えて準備万端。
荷物もまとめていざ行かんという時のことである。
それを許さなかったのはショックを受けた星の精だった。
小さい友達が星の精を裏切って一人で大きくなった!と激しく憤慨。
しかも友達は前より2倍以上大きくなっていると来た。
星の精は全身に力を入れて身体を大きくしたようだが、それでも1.1倍にもならず。
大層機嫌を損ね、朝早くからずっとぶつぶつ文句を言っていた。
しかもカバンを持って、小さかったはずの友達は星の精を置いていこうとしているではないか。
星の精はかしこいので、それが長期旅行の気配だと感じ取っていたらしい。
もはや何一つ許せるものではない。
こうして、工藤君の腕に全身で巻き付く星の精が出来上がったわけである。
【グス!!!グスグス!!ゲダ!!!】
「おう、お前は連れていけない。わかってくれ!」
【グスッッッ!!!】
星の精を引き剥がそうとした工藤君の手にメチャクチャに絡まって、星の精は断固たる意志を見せた。
しかも吸盤を使ってガッチリとひっついている。
工藤君は困り果てて「と、取れねぇ!?」と絡まったまま俺たちにヘルプを求めた。
諸伏さんがフリフリのエプロンをつけたままひょいと奥のキッチンから顔を出す。
「おーい、そろそろ行かないと遅れるぞー」とのこと。
確かに、見ればもう出発の時間だ。
早く登校しなければ遅れてしまうだろう。
仕方ない。
俺の方から星の精に念話をつなぎ、事情を説明して納得してもらうとしよう。
俺が繋ぐと、不機嫌な星の精がむくれたままぐるんとこちらを向いた。
『あのな、君の友達は番と遊びに行くから、君は一緒に行けないんだ。わかるな?』
【………?……ッ!?!?!?】
なにやら衝撃を受けたらしい。
星の精はポロッと工藤君の腕から墜落した。
おっと、と工藤君がキャッチしてあやすように抱き抱える。
星の精はブルブルと震えて、はわわわわと、信じられないと言った様子で工藤君に縋りついた。
思考をチラリと覗くと、星の精はショックを受けていることがわかった。
友達は星の精を裏切って大きくなった挙句、つがいを見つけて大人の階段を上がろうとしている。
なのに星の精は小さいまま。友達は大きい。
きっと小さい星の精なんてもうどうでも良くなったんだ!!!
【グ ズ グ ズ グ ズ ! ! !】
今日イチでかい声で星の精は叫んだ。
工藤君の腕の中でひっくり返って触手を全部ベチベチして爆音で鳴いている。
俺の説得は失敗したらしい。
諸伏さんに「いや何伝えたんだよ。逆効果じゃないか」と半目で怒られる。
可笑しいな…こんなはずじゃなかったのに。
あとは若い二人で、みたいな展開を想像していたのだが。
まだ子供の星の精には早かったらしい。
実際この星の精はまだまだ子供。
人間で言うなら未就学児程度でしかない。
そりゃ青少年の機微なんて理解し得るはずもなかったか。
たまりかねた工藤君が「ああもう!わかった!わかった!」と言って星の精を抱きしめた。
「連れてくから落ち着け!ほら!お前用のいつものバッグ!入れ入れ!」
【グス……?】
「2泊3日ぐらいだし問題ないだろ。大人しくするって約束できるな?」
工藤君が星の精用に改造したバッグを手に取り、パカリと蓋を開ける。
星の精は大きな口を開けて人間みたいに笑顔を作った。
連れてってもらえることを理解したらしい。
「ほら、約束」と工藤君が小指を向ける。
よく学んだ星の精は、それが人の作法で約束を示すことを知っていた。
触手を絡ませて「クスクスクス!!!」と喜び勇んでバッグの中に飛び込んだようだ。
俺もついでに2泊分の血液パックを生成して、バッグの中のスロットに注入しておく。
これは腐ることも溢れることもなく、簡単に星の精が美味しい血液を飲めるようにデザインされている。
俺の特製品だ。
俺の魔術に気づいた工藤君が「サンキュー!」と言ってくれる。
いいってことよ。
しかしもう遅刻気味だ。
いくら学校まで近いとはいえ、走らねば間に合うまい。
工藤君は星の精バッグを肩にかけて、旅行カバンを持ち上げて足早に玄関に向かった。
「悪い黄衣さん!俺もう行かねえと!」
「いってらっしゃい。楽しんで来なよ」
「おう!」
そのように軽く返事をして、工藤君は走り出したのであった。
ぼんやり二人の後ろ姿を目で追いながら、諸伏さんが公安の顔をした。
『とりあえず今すぐゼロに連絡して、京都府警と連携をとって。俺らも一時間おきにネットで京都で何か起きてないか調べる。これでいいな?』
「うす………」
『星の精の食事は深夜で限定。カバンは絶対手放さないことを厳守。近場に公安の人員を配置。そのぐらいか』
そんな約束されし火薬庫みたいな扱いにしなくても。
諸伏さんに目で責められたので、渋々降谷さんに電話する。
降谷さんは庁舎にいるようだ。
ざわめく声をBGMに、1コール超えないレベルの素早さで降谷さんは電話に出た。
『どうした、工藤君の乗ったバスがジャックでもされたか?それとも高速道路に爆弾があったか?』
「降谷さんの中の工藤君ってどうなってるの?」
『これまで実際にあったことだろう。いいから何か爆発したか白状しろ』
そう言われると俺も反論の芽が無い。
別に何も爆発してないので、その旨を正直に伝えておく。
「単に熱意に負けて工藤君が星の精を連れてったってだけだから。何も心配することないさ」
『なんだそんなこと………でもないな。うん?かなりの厄ネタの気がするのに全然問題ない気もする…黄衣君、僕に何か魔術でも仕掛けたのか?』
「単に降谷さんがバグってるだけだよ」
可哀想に、最悪を想像しすぎて脳が混乱しているようだ。
ともかく、降谷さんは公安の方で注意する
話はまとまったらしい。
電話を切ると、諸伏さんが不安そうな顔でううむ、と唸った。
『ゼロ大丈夫か?今、京都では「源氏蛍」って名前の古美術品窃盗団が騒がれてるみたいだからなぁ。少年もきちんと我慢できるかな』
「あー、大阪と東都でも死体が上がってるんだっけ。でも所詮窃盗団だろ?捜査二課は工藤君あんまし興味ないし」
『……盗まれた古美術品の中に怪異指定物が入ってるかも、って話だとしたら?』
俺はパチクリ、と瞬いて頷いた。
うーむ。
「つまり京都は爆発する?」
『いやそこまでは言ってないけど。少年が大立ち回りして明日の一面は堅いかなって』
「一番軽症で新聞一面だろうなぁ。降谷さん大丈夫か?どうしてさっきあんなぼんやりしてたんだ?」
『たぶんニャルの人に連日絡まれすぎて疲れてたんだろ。もうすぐ気付いて鬼電してくると思う』
「おお…鎮まりたまえ社畜化身……」
俺がそう言い終わったあたりで、降谷さんから電話が来た。
降谷さんの方も頭が回り出したらしい。
そして俺たちも早く準備して事務所に出社しないと、俺がいないことに不満を抱いたニャルによって事務所が荒らされてしまう。
そうして、開幕雲行きが怪しすぎる修学旅行は幕を開けたのであった。
・星の精
小さい友達が大きくなった!
つまり星の精が大きくなるのももうすぐだな!(確信)
ひとまずマンションぐらい大きくなる予定。
実はハスターが魔術生成した特製血液が栄養満点なので、将来は意外と大きくなるかも。
・源氏蛍
迷宮の十字路参照の窃盗団。
古美術は危険がいっぱい。
青仏を盗んでたりもする。
・紅の修学旅行
こちらも予定通り。
きちんと怪異案件の事件もあり。