ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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迷宮の修学旅行ロード〈事後処理〉

 

 京都は割と甚大な被害であった。

 

 あんだけ「人間に被害は及ぼすな」っつったのに。

 雑にイタクァが踏んだ家屋が燃え上がり、隣家に延焼。

 木造建物が密集したそこは容易く大火事へと成り果てた。

 

 そのほかイタクァの権能たる冷気が吹き荒れて家々は凍りつき、道理を無視して水道管や電線を脆く変化させた。

 そのためあちこちで停電、水道管の破裂が相次いで。

 おまけにSAN値が削れた人々が暴れて傷害事件も発生。

 

 そのほか避難中の交通事故や小競り合いと多々起きている。

 頭上の神話大戦をものともしない屈強な火事場泥棒も跋扈し、京都はほぼ世紀末救世主伝説の世界観へと成り果てた。

 

 工藤君の学校もこれを受けて予定を繰り上げて帰宅することになったようだが。

 いかんせん電車も道路もストップ、公共交通機関が全滅で、先生がたも対応に苦慮しているようだ。

 

 件のノーデンスの信奉者は既に死亡。

 古美術品窃盗団の方も神話大戦に巻き込まれて死亡ということで、公安は両者をテロ容疑で被疑者死亡のまま書類送検することに決定したようだ。

 

 表向きには「そう言うこと」で処理するらしい。

 

 

 

 俺はやってきた公安に案内され、工藤君とともに京都府警に引っ立てられた。

 

 そして現在、取り調べ室へと放り込まれている。

 薄暗く狭い室内に据えられた傷んだパイプ椅子に所在なく座り、卓上ライトだけが小さく部屋の中央を照らした。

 

 遅れて駆けつけた降谷さんが、表情の抜け落ちた顔で俺を見る。

 

「何か言い訳はあるか?」

「うす。全面的に部下への教育が悪かった俺のせいっす」

「そうだ。部下の失敗は上の責任だ。それは旧支配者の世界でも一緒だと思ったが?」

 

 とんでもなく威圧的なニャル化身は、怒ってるヨグ=ソトースさながらの恐ろしさで俺に凄んできた。

 

 俺は怯えてとなりのニャルに引っ付いた。

 何一つ言い返せることがないし今にも降谷さんに縊り殺されそうで、俺は震えた。

 

 ニャルは目を吊り上げて降谷さんに食いつく。

 俺を抱きしめてギイと降谷さんに突っかかった。

 

「ちょっと!化身のくせに我が夫を虐めないでください!抜け毛がどう動くかなんて人間だって管理しないでしょう!抜け毛の重量で潰れる微生物の弱さが悪いんです!」

「本体、無限に黄衣君を甘やかすのはやめてくれ!」

「大丈夫ですよ我が夫!僕が味方ですからね!」

「ニャル…!」

 

 俺はヒシとニャルにしがみついて隠れるなどした。

 俺が十割悪いどころか俺が100割悪いのは間違いないが、背は腹に代えられないのだ。

 降谷さんは背後に般若のスタンドを出して俺を威圧してきたが、ニャルの後ろにいれば怖くない。

 

 いや怖いけど。

 スーパーマン並みの恵体の般若が重心を下げて引き絞った拳をこちらに向かって構えるのだ。

 もしかしてオラオラですか…?

 

 媚びた笑顔の工藤君が、荒ぶるニャル化身に対して揉み手で弁明を図った。

 

「俺は無罪ですよね?京都の人を守ったんですし!」

「ああ。見事な機転で星の精を使い京都の街を守り切った手腕は称賛に値する」

「へへっ」

「まあ、超巨大星の精を見て精神に異常をきたした人々が多数病院に運び込まれているが」

 

 工藤君はしゅんと萎れてしまった。

 

 とはいえ、こればっかりは仕方ない。

 工藤君の限られた手の中で最善を尽くし、人々の命と財産とを守ってみせた。

 民間人として褒められはしても、責められる謂れはないだろう。

 

 それは降谷さんも分かっているのか、クソデカため息をつくのみだった。

 疲労感が凄そうだ。

 労わって栄養ドリンクでも渡した方がいい気がするが、今渡すと藪蛇にしかならないし。

 ううむ。

 

 降谷さんが重々しく、本当に重々しく口を開く。

 

「………上から、君の方でできるだけこの被害の巻き戻しができないかと打診が来ている」

「ふむ?」

 

 政府の方から正式に俺を頼るとは、珍しいこともあったものだ。

 基本俺は何をしでかすかわからないと思われているようで、そーっと祀られるばかりで頼み事なんて殆どされなかった。

 

 一部重い病気関連でこっそり個人的に祈願してきた偉い人がポツポツ居るくらいだ。

 「全財産寄付するから死にたくない、苦しいのはもう嫌だ」あるいは「家族の危篤だから何を捧げてもいいから助けてくれ」。

 その手の願いはやはり古今東西万国共通なのだろう。

 

 俺も同情してこっそり治していたのだが、途中で偉い人の原理不明の生還がバレて降谷さんにこってり絞られた。

 俺は悪くないのに。

 

 ともかく、基本的に俺はそのぐらい切羽詰まった内容でしか祈られることはない。

 それをおしてでも対処すべき事態、ということなのだろう。

 

 降谷さんが深刻そうに頷いた。

 

「上は『被害を哀れに思った神からの慈悲』ということで事態を収めたいようだ。この件によって怪異被害への高まり切った不安を払拭したい目的もある」

「なるほど」

 

 繰り返す怪異事件に、社会不安は増大の一途を辿っている。

 怪異に見せかけた殺人も横行しているし。強盗の類は相変わらず非常に多い。

 ここらで希望を示さないと人心の方が先に制御不能になる、ということらしい。

 

「そういうことなら俺も存分に力を振るおうか」

「頼んだ。つまり君のやらかしは国家ぐるみで隠蔽されるということだ。頼んだぞ黄衣君」

「う、うす!」

 

 もう逃げられねーぞテメー、という圧の籠った笑顔が降谷さんから放たれた。

 俺はいつの間にか汚職に手を染めて日本と一蓮托生の関係になってしまったらしい。

 おお、人間汚い……いや俺が全面的に悪いんだけど!

 

 頷く俺に降谷さんはようやく満足そうにして、ニコニコと口を開いた。

 

「この手のことは速度が最重要視される。既に京都怪異災害非常対策本部が設置されている。そこで君には会議に出てもらう。文句はないな?」

「う゛、了解っす!」

「下手なことを言うなよ。ひとまず尊大にそれっぽく振舞っておけば良い」

「地味に難しいこと言うな!?」

 

 俺は急に心細くなって、ニャルの手をぎゅっと握った。

 ニャルは手を握り返して、俺に優しく微笑んでくれた。

 

「大丈夫。僕がずっと一緒にいますからね。羽虫が怖いこと言ってきたら僕が守ってあげますから」

「ニャルぅ…!」

「本体は留守番に決まっているだろうが!!!」

 

 降谷さんの怒号が響いたが、ニャルは鼻で笑っただけだった。

 

「夫婦神が常に一緒にいて何が悪いんですか?羽虫だって僕らを夫婦として祀っているでしょうに」

「本体が喚いて祀らせたんだろ」

 

 降谷さんはやさぐれているようだ。

 

 俺の神社ができてしばらく、ニャルは「ハスターの御神体の隣に自分のがない」と突然めちゃくちゃ喚き出したのだ。

 二十四時間喚くので、降谷さんは夜も眠れない有様になった。

 

 そこで仕方なく御神体を一つ増やして、夫婦神として祀る対処をしたのがつい先日。

 まあ、形式上俺とニャルが二人で現れてもそこまで変ではない。

 

 降谷さんは再び馬鹿でかいため息をついて項垂れた。

 

 ことの次第を見守っていた工藤君が、やや困った様子でこっそり俺を見ている。

 

 手元のバッグからは星の精がモゾモゾと顔を出して、興奮冷めやらぬ様子で触手を前に繰り出している。

 無敵のおっきい星の精が忘れられないらしい。

 全身が自信と満足感に満ち溢れ、近くにいるニャルとニャル化身も恐るるに足らずと息巻いている。

 

 でもニャルを触手でペチペチするのだけはやめような。

 その時はお前、間違いなく触手全部毟られるからな。

 

 軽く机の下で星の精の触手を握ってやると、星の精は勢い付いて俺の手をペチペチした。

 星の精は無敵らしい。

 うーん、落ち着くまでニャルには近寄らせないようにしないと真面目に星の精の命が危ない。

 

 工藤君が片手で星の精をバッグの中に詰め込み直してから、俺に眉を下げた。

 「ムギュ!?」と星の精は悲鳴をあげた。

 

「なぁ黄衣さん。あのイタクァとかいう化け物はどうなったんだ?」

「アイツは今みっちり教育中だよ。ひとまず泣いたり笑ったりできなくしてやるところからスタートだな」

「おお……」

 

 俺は眉間に深い谷間を刻んで苦々しく宣言した。

 工藤君が若干引いているが、これはもはや看過できないやらかしだ。

 

 今まで、俺は奴の自主性にある程度任せてきた。

 「頑張る」「次こそやる」ってあいつは昔から口だけは威勢がいいのだ。

 

 が、最早そうも言っていられなくなった。

 

 自分がいかに使えない蛆虫かをよくよく理解させて。

 命令に従うということがどう言うことが、脳髄に直接叩き込む必要がある。

 グラーキも意外と頑張って隠れてるのか見つからないし、手っ取り早くイタクァをボール代わりにした方がお手軽かもしれないと思うなど。

 

 俺は折檻メニューを考えながら頷いた。

 

「ともかく、俺は被害復興のために指示に従うことにするよ。本部に顔を出せば良いのか?」

「いや。神社から呼び出すと言う体裁を取るから、合図に合わせて転移してきてくれ」

「了解。うおお、行儀良くせねば…!」

 

 俺は気合いを入れ直して拳を握りしめた。

 

 今回はニャルも一緒だから事故率は2倍、いや100倍にまで高まっている。

 一挙一動に気を配らねばなるまい。

 

 ………ニャルはやっぱり置いていくべきか?

 今更心臓バクバク言い出して、俺は生唾を飲み込んだ。

 

 いや俺の体に心臓なんて無いけど。循環器なんて本体にすら内蔵されてないけど。

 

 ニャルの優しげな視線と目が合う。

 慈愛に満ち溢れていて美しく清らかな女神のようだ。

 ただし残念ながらこの慈愛は俺のみに向けられ、羽虫はおおよそ死ぬしかないのである。

 

 俺はニャルを抱きしめ、「一緒に頑張ろう、ニャル!」と叫んだ。

 きっと大丈夫!なんとかなる!

 ちょっと人の心を知ったニャルなら無事に会議も完了するに違いない!

 

 抱きしめられたニャルは「はわわわ…!」と顔を真っ赤に染めて俺を抱きしめ返した。

 可愛い。

 視界の端で降谷さんが自分の心臓のあたりを抑えて「ラブコメは!!外でやってくれ!!」と顔を赤くして怒っている。

 流れ弾すまんな。

 

 相変わらず星の精はバッグから抜け出して俺の背中を触手でペチペチしている。

 大きな口を人間みたいに笑顔にしているあたり、余程嬉しかったのだろう。

 

 ニャルに触手を引っこ抜かれたらすぐに回復させられるように今のうちに準備しておこう。

 

 そのように算段を立てて、俺は迫り来るお仕事の時に震えていたのだった。

 





・星の精
調子に乗っている。
近々オラついて恐怖の大魔王に挑んで、触手を引っこ抜かれてべそかいてコナン君の後ろに隠れるなどする。

・イタクァ
サッカーボールに就職する予定。
やってみたら形状的に転がりづらかったので、急遽グラーキをボールにボウリング大会に変更した。
ピンイタクァ。

・日本政府
基本は「災害が起きたら神を鎮めるために神事をしましょうねぇ」の概念。
降谷さんの方から「ついでに奴に被害を補填させろ」という提案があってせっかくならと頷いた。
大丈夫やろか、神荒ぶってへんか?
お供えものして祈ってもう暴れへんようにしてもらう方がええんとちゃうか?
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