簡易儀式の場が設営されている。
そこで俺はカメラが回る中大げさに腕を広げて見せた。
さて。
政府との災害復興会議は比較的スムーズに進んだ。
官僚さんたちが高速で取りまとめた内容に従って、質疑応答がつつがなく進んだからだ。
俺にやってもらいたい復興内容についての質問一覧が読み上げられ、俺が答える。
その繰り返しだ。
加えて、俺の回答を受けて素案が箇条書きされていく。
質問に関しては多岐に渡ったが、主に俺がどこまでできるかの確認が多かった。
死者蘇生は流石に限定的にしかできないと答えたが、あとは全て俺が簡単にこなせる範囲内なので安心できた。
傷病治癒、原型を留めないほど燃えた家々の中身ごとの復旧。
土の中で壊れた上下水道の復元はもちろん、混乱の中に落とした失せ物や窃盗物も、善意の第三者に売買、譲渡されていない場合に限りきちんと取り戻せる。
混乱の最中起こった犯罪に関しても、俺の方で証拠のある場所の情報も含めて全て特定できる。
死者蘇生に関しては、過去からサルベージした情報に肉付けすることで擬似的に可能だと説明させてもらった。
つまり過去から抜き出した別人ということだが。
人間には、たとえそれが自身のことだとしてそれを本人が別人か区別することはできないだろう。
流石に蘇生は倫理にもとるということで見送られたが、政治家さんたちの困惑はひとしおであった。
あとは満額回答。
一時間後には実行してもらう内容を送付するから三時間後の儀式に向けて準備してくれ、という話になったのである。
なお、ニャルは終始暇そうに足をぶらぶらさせていた。
口を挟むつもりはないらしい。
気まぐれに政治家さんを摘んでプチプチし出さないだけ非常にありがたい限りだ。
俺の光を受け取ってから、ちょっとだけプチプチ遊びを自粛するようになったんだよな。
というわけで、俺は儀式会場に呼び出されたのである。
いい感じのエフェクトと共に俺とニャルは転移魔術で会場の中央祭壇へと出現した。
ニャルは単についてきただけだ。
何をするわけでも無いが、俺に合わせた荘厳な衣装を身に纏って満足げな表情をしている。
ペアルックにご満悦のようだ。
これは国民にも広く知らしめるべきイベントとして、TVメディアのカメラも多数入っている。
国民の不安払拭のためだ。
絶対にとちるわけにはいかない。
災害時ということで、設えられた儀式会場は非常に簡素だ。
ただ広いだけの駐車場に、最低限の榊などを運び込んだだけの場所。
しかし俺達が魔術のエフェクト付きで現れたことで、メディアと観衆はざわめいたようだ。
どうやら近場の避難所からたくさんの人が見に来ているらしく、規制線の向こう側から覗いている。
実際に加護を受ける人から見られていると、俺もやる気が出るというものだ。
俺はよく見えるように魔術式を可視化した。
丁寧に、かつ見栄えがするようにドーム状に魔術式で京都全域を多層に覆っていく。
空に刻まれていく光の文字に、カメラは一斉に空を映した。
政府から出された全ての条件を満たし、人々を日常に帰すのは俺にとって容易いことだ。
高まった光が弾けて、一瞬。
たっぷりと沈んだはずの空が、昼間のように明るく染め上げられる。
群衆が遠くで歓声を上げた。
光の波動が京都を覆い尽くす。
そして。
光が収まった頃に。
俺はあらかじめ決められたセリフのみ厳かに残した。
【人よ。これは慈悲である】
各所と相談して決めたもので、次は無ぇからな!の意味らしい。
そりゃ毎度これに頼り出したら大変だし、仕方ないことではあるが。
緊急の時ぐらい俺に頼ってもいいんじゃがなぁ。
それが終われば、明らかに暇そうなニャルを連れて素早く退散。
俺は京都府警の控室ににゅるりとワープしたのであった。
控室に到着したら、服をいつものに戻し「終わった!任務完了!!」とデカい声で宣言した。
諸伏さんが部屋の端から手を振って俺を労ってくれる
『お疲れ様。こっちは何事もなかったぞ』
「星の精はあいかわらずだけどね……」
コナン君は小学生姿でひんひん泣く星の精を撫でてやっているようだ。
出てくる前、ついにニャルに軽率に喧嘩を仕掛け、星の精は触手全部引っこ抜かれて転がされたからな。
あまりに酷いため俺がすぐに回復したが、星の精は心に深い傷を負ったらしい。
未だコナン君に張り付いたままブルブル震える。
諸伏さんとコナン君の二人に囲まれて撫でくりまわされているが、そのぐらいでは癒えない傷になったようだ。
降谷さんは険しい顔で部下からの情報を取りまとめている。
俺の方をチラリと見て、「よくやってくれた。本当に助かる!」と言ってからすぐに仕事に戻った。
相変わらずとてつもなく忙しい人だ。
経済がストップした被害は計り知れないし、怪異対策課として再発防止のための計画を練らねばならない。
でも俺の魔術によって復興のための費用が可能な限り削減されたから、多少は降谷さんの方も楽になったはずだ。
むすっとしたニャルが頬を膨らませてむくれた。
この間ようやく膨れるという正しい動作を教えたから、人間らしく頬をぷくりと膨らませている。
「やっぱ搾取されすぎですよ我が夫は。別に羽虫のことなんてどうでもいいじゃないですか」
「いや、今回は俺の部下の仕業だしなぁ」
「眷属なんてもっとどうでもいいゴミです。そんなののために我が夫がぺこぺこする必要ありませんよ」
唇を尖らせてから、ニャルは唐突に何かを思いついたようだ。
不意に降谷さんを猫を摘むようにガシッと引っ掴んだ。
「!?!?」と降谷さんが体を硬直させる。
瞬間、止める間もなくニャルは転移してどこぞへと消えてしまった。
!?!?!?!?!?
おお、対策本部の主要メンバーが消えてしまわれた!!!
『ぜ、ゼロッッッ!?!?』
「安室さんが連れてかれた!?は、早く取り返さないと命が危ない!!!」
【クスクス?】
ニャルは一体何を考えているんだ!?!?
慌てて念話を連打するが、その返事を待つ前にすぐにニャルは戻って来た。
へにゃへにゃの空気が抜けた風船人形みたいになった降谷さんを掴んで引きずっている。
どうやらかなり長時間、時間を折りたたんで何やら活動していたらしい、
ほつれたヨグ=ソトースの残り香が感じられた。
ニャルは非常に満足げ頷いて、ヘニャヘニャの降谷さんを突き出した。
「我が夫!我が夫のために眷属の教育プログラムを作りました!」
「お、おう、その降谷さんのしかばねは……?」
「教育成果です!!!これでイタクァももう今回みたいに我が夫に恥をかかすことは無いでしょう!」
「見てください!」と胸を張って降谷さん人形を床に放る。
「『立ちなさい』!」
「………はい」
虚ろな顔の降谷さんが立ちあがった。
微動だにせず無表情で直立不動となっていて、怖い以外の感想が出てこない。
ニャルはひたすら得意そうに笑っている。
「これのいいところは高度な命令もきちんとこなすことです。意思はありませんが思考は働きます!化身、『この続きの仕事を再開しなさい』!」
「はい。ご命令の通りに」
降谷さんは機械のような動きで席について、仕事を始めた。
澱みなく手を動かし、画面を覗き込んでも特におかしな動きはしていないようだ。
書きかけだった書類の続きをきちんと出力している。
諸伏さんとコナン君が手を取り合って部屋の隅で震えている。
星の精も細かく振動しているようだ。
俺もそこに加わって震えたかったが、止めるものが居なくなったらニャルの独壇場になってしまう。
ニャルは俺に抱きついて、猫のようにぐりぐり頭を擦り付けた。
「どうです?どうです!?急ぎ入り用だと思ったので!」
「ありがとう、流石ニャルだ。後で教育プログラムを教えてくれ。イタクァに使うよ。それでなんだが」
「はい!」
「降谷さんをすぐに戻そうな……」
虚ろに仕事を続ける哀れなマシーンになってしまった降谷さんに、俺は声を絞り出した。
ニャルはぱちくりと瞬いた。
うーんと首を捻ってから、訝しげな顔をして。
それからしばらく沈黙して深く頷いた。
「………10億年ぐらいしたら自然と元に戻ると思います!ちょっと持続力に難ありですね!」
「降谷さんッッッ!!!」
とんでもねぇニャルラトホテプだ!!!
俺は慌てて降谷さんを揺さぶった。
降谷さんはゆさゆさ揺れるばかりで、俺を見ようともせず虚ろな目はPCに向けられている。
ヒイィ!と部屋の隅のコナン君達から恐怖の悲鳴が上がった。
どうすんだよこれ!!!
・世間
これが報道されて以降、空前の神社仏閣参拝ブームが起きた。
神も仏もあるんか!
疫病が流行ったら大仏建てたらええねん!
この動きを受け、各地の弱り果てていた旧神がすこし息を吹き返したようだ。
・日本政府
上限確認のために「流石にこれは神でも叶えられへんやろ!」みたいな内容を半分ほど織り込んだつもりだった。
なのに全部「ええやで!」って実行されてしまって怯えている。
こんなん荒ぶったらおしまいや……。
・降谷さん(お人形モード)
ニャルラトホテプの創意工夫が詰まっている。
いかに思考力を落とさずに心を殺せるかの教育実験の成果。
教育途中「…シテ…コロ…シテ……」になったが、今はもう覚えていない。
・大満足ニャル
褒められ待ち。
ハスターの反応が思ったんと違くて訝しげな顔をしている。