ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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世間の賑わい

 

 一週間して。

 既に世間は平常時の落ち着き、あるいは喧騒を取り戻している。

 

 京都の一件以来、巷では変な新興宗教団体が跋扈しているようだ。

 

 神を信じますか?京都の神の奇跡についてどう思いますかエトセトラ。

 憤慨した黄色の印の兄弟団日本支部とトラブルになって、各地で騒ぎが起こっているらしい。

 警察も大変らしく、ふたたび怪異窓口はパンク状態なのだとか。

 

 

 俺の事務所の方にもひっきりなしにメールや電話の相談が舞い込んでくる。

 

 今日も山ほど来た依頼のダブルチェックのため、印刷した書類を降谷さんへと手渡しする。

 「これ頼む」と声をかけるのを忘れずに、

 

 降谷さんは虚ろな顔で「わかった。すぐ取り掛かる」と平坦な声で返事をした。

 だが自分の判断で茶も飲むし休憩も挟む。自分の意見も表明する。

 自我が少し戻ってきている証拠だ。

 

 「これまで通りの口調を維持せよ」「軽口を言え」の命令が効いているが、だいぶ自然な応答になってきた。

 さめざめと諸伏さんが泣いて涙を拭った。

 

『ゼロ…酷い目にあって…!』

「酷い?わからないな。すまないがヒロ、この後『元のように振る舞え』と命令してほしい。午後の公安の後の仕事に支障が出る」

 

 「ゼロ!!!」とまた諸伏さんは泣いて、降谷さんに縋りついた。

 「俺様モラハラ男にだって良いところはあるんだぞ!俺だけに優しい殺人鬼と同じ味わいだ!」と叫んでいる。

 

 諸伏さんも大概酷い事を言っているが、まあ、それが降谷さんの味でもあるのでわからんでもない。

 

 まだ自我が薄ぼんやりはしているが、だいぶ改善した方だ。

 

 最初はニャル相手に怯えるという機構自体すら削除されてしまって、全てに無反応状態だったからな。

 今では見たら顔面蒼白で諸伏さんにしがみつく程度には自我が戻って来ている。

 

 最初、魔術を使って俺が無理やり記憶と正気を戻したのだが。

 降谷さんは土気色の顔でガタガタ震えた挙句バグり散らかしてしまわれた。

 きっとたくさん怖い目にあったのだろう。

 

 今はゆっくり自我を戻す形に落ち着いている。

 

 あと一週間もすれば元気な降谷さんに戻ることだろう。

 いや、教育の日々を思い出した時に元気かは微妙なラインだが。

 ともかく正気には戻るはずだ。

 

 

 なお、そうこうしている間に一旦絞られていたチクタクマンがネット回線経由で帰宅もしている。

 

 しかし教育済みの降谷さんを瞬時に解析。

 「行くも地獄、帰るも地獄って文字通りのことがあるんかいな!?」と叫んで帰宅直後に事務所を飛び出していった。

 そりゃ「こんなところにいられるか!俺は帰る!」案件なのはよくわかる。

 

 そしてチクタクマンにより、この本当にあった怖い話は素早く全ニャル化身の知るところとなった。

 

 今、ニャル化身界隈は恐怖のドン底にあるらしい。

 皆目立たないように必死で気配を消しているようで、しばらくナイ神父も身を隠すとのこと。

 TV局から帰宅途中に会った青ざめた顔のナイ神父からそのように聞いている。

 

 今後事務所にやってくることはなさそうだ。

 

 

 

 

 コナン君はぼんやりとTVチャンネルを回して、「どこも京都の話でもちきりだね」と呟いた。

 

 もう五日も経っているが、ニュースは京都の件一色だ。

 

 最初はセンセーショナルな見出しと共に現場ルポが始まり。

 俺の魔術発動のシーンが繰り返し報道された。

 

 その前後の京都の様変わりした景色を映するようになり、ネットもその話ですぐに持ちきりになった。

 

 「避難の時全壊してた俺の家も完璧に元通りになってた!犬も無事!」とか。

 「一階が漏水で水浸しになってたけど全部綺麗になってて凄い!でも昔から傾いてた家はそのままだった(笑)」とか。

 

 そのビフォーアフターがネットに写真付きで投稿されている。

 

 TVメディアも現在は「その驚くべき力の検証!」みたいな話を連日放送している。

 街頭インタビューや討論番組による「これからの神との付き合い方は?」みたいな側面が強くなってきて、ことの焦点は京都の災害より俺の方に移ってきているようだ。

 

 俺自身、黄衣ハスタとして討論に呼ばれそうになっている。

 流石にどの面すぎるため断らざるを得なかったが。

 ダブルフェイスはこういう時面倒なものよ。

 

 海外メディアのいくつかはいつも通り「集団幻覚だろう」みたいな冷笑からはじまっていたが。

 こうも連日怪奇現象が激写されると、だんだんと国際的な見方も変わってきているらしい。

 

 基督教の強い社会では俺の力が「神なのか、悪魔なのか」という観点で議論が湧き上がって、今物議を醸しているようだ。

 

 黄色の印の兄弟団は基督教系とはいえ既に袂を分かっている。

 聖書における「楽園」やら「ノアの方舟」やらに少しハイパーボリアの名残が残る程度だし、兄弟団と基督教はかなり教えも違うしな。

 歓喜かつ全面受け入れの兄弟団と違って、基督教はやはり難しい立場に立たざるを得ないだろう。

 

 ちなみに、古代ハイパーボリアの遺跡は、そうした聖書の楽園から追放された人類の遺したもの、あるいは神話の元になった歴史的事件として世間的には扱われている。

 

 俺のハイパーボリアが実際楽園であったかどうかはともかく。

 ハイパーボリアの存在は世界中の神話に影響を与えているのは間違いない。

 

 なお、中国などでも最初は集団ヒステリーと扱われていたが。

 情報を得るのも早いし、物質的、実利的な感情の早い国民性もあり、俺の話はすんなりと受け入れられた。

 

 今では科学で解明されていない新たな力の発見として興味津々のようだ。

 まあ日本がその力を独占しているとして非難もしていたが。

 俺が日本贔屓ゆえ、そこはまぁ我慢してもらうしかあるまい。

 

 英国では意図的に報道を抑制して、「見るな、聞くな、触れるな、知るな」を徹底しているらしい。

 非常に賢明で、統制の取れている対応だ。

 

 逆に米国は黄色の印の兄弟団本部が歓喜に沸いて手がつけられなくなっているとのこと。

 今こそ米国も神の国に立ち返ろう!みたいな話がぶち上げられ、世はまさに大楽園時代。

 落ち着いて欲しい限りである。

 

 

 

 俺は頬杖をついて、TVを見るコナン君へと声をかけた。

 

「悪いな、修学旅行を中断させちゃって」

「僕の立ち回りの結果なんだから仕方ないよ」

 

 ちょっと残念そうなコナン君は、頬を染めてスマホを握りしめた。

 

 少しの間だけでも蘭ちゃんと楽しめたようだ。

 彼のスマホには同級生に撮ってもらった蘭ちゃんとのツーショットで一杯になっているに違いない。

 

 現在はTVは討論番組を映している。

 神が実在したとして、人はその力を借りるべきか?みたいな哲学的な話をしている。

 面白いのかこれ?

 

 突如。

 おもむろに転移したニャルが、そのままの勢いでソファでコロコロと転がった。

 

 手には少女漫画を持ったままだ。

 最近は飽きて事務所の仕事もあまり手伝わなくなってきた。

 時折こうしてやってきてゴロゴロする程度。

 

 第二の自宅を得たぐらいの感覚なのだろう。

 

 降谷さんが激烈に震えて、諸伏さんに縋り付いた。

 「ひ、ヒロ…!ヒロ…!」「ああ、俺はここにいるぞ!」と美しい友情を見せている。

 

 本当にうちのニャルがすまんかったな…。

 

 ニャルは特に気にした様子もなく、持ってきたポテチの袋を開けて、バリバリと貪り始めた。

 TVを見て、つまらなそうに眉間に皺を寄せる。

 

「羽虫は馬鹿ですねぇ。力を振るったら偶然そこに羽虫がいる場合があるだけで、借りるとか借りないとかの話じゃないのに」

「ニャルさんは生き物に加護を与えたりしないの?」

「基本はしませんね。おもちゃを多少頑丈にする目的で使うぐらいでしょうか?」

 

 半分ほど食べたあたりで、ニャルは話しかけてきたコナン君にポテチを袋ごと分け与えた。

 どうやらジャンクな味に飽きたらしい。

 

 俺の体を通して人間の味覚を学習しており、今では人間のそれを獲得してはいるものの。

 「感じ方が単調」とあまり好きでは無い様子だ。

 こうして俺好みの料理を作るべく味のレパートリーを仕入れるぐらいにしか使っていないらしい。

 

 たしかに、人間の味覚は外神のそれに比べて感じられる項目も少なく粗雑だけどさ。

 

 食べかけのポテチを渡されたコナン君が対応に苦慮している。

 やや警戒しつつ、勿体無いのでもそもそと食べ始めることにしたようだ。

 

 ニャルは腕を組んでため息をついた。

 

「だいたい、コナン君なら晴れた日に干からびた水たまりで死にかけのボウフラを助けようと思います?」

「ははは。確かにね」

「それを我が夫は助けるんですよ。しかも全部殺さないように丁寧に掬って餌まであげて。挙句大きくなった蚊に刺されるんです」

 

 プンスカとニャルは腹を立てているようだ。

 不甲斐ない夫ですまねぇ。

 

 ちなみに、ここまで気配のない星の精はコナン君の懐の中でずっと震えている。

 

 服の中に手縫いでポケットのような場所が作ってあって、そこに収まっているのだ。

 もはやショックのあまり24時間友達を感じていないとダメな体になってしまったらしく。

 現在は学校も一緒に行っている。

 

 星の精の勉強にもなっていいけれど、みんなして傷が深すぎるというかなんというか。

 

 ニャルはふわりと立ち上がって、俺の元までやってきた。

 そして頬にキスを落とす。

 

「あなたは僕が守りますから。我が夫。永遠の愛」

「……ありがとうニャル。俺も同じ、いや、それ以上の愛を返そう」

「えへ!だから僕が羽虫遊びをしても許してくれるんですよ!」

 

 それは許してないんじゃよ。

 俺の笑顔に瞬時にむしゃくしゃしたニャルが降谷さんで遊ぼうとしたため、慌ててニャルを抱き止める。

 

 ニャルが暴れ出す前に熱い口付けを落とす。

 俺がこうすることで喜ばぬニャルはいなかった……。

 めっちゃ恥ずかしいなこれ。

 

 ニャルはぷしゅんと赤くなり、ふにゃふにゃになった。

 降谷さんが激しく振動して諸伏さんに縋り付いて嗚咽を漏らしている。

 諸伏さんは慈母の顔で降谷さんをヨシヨシしているようだ。

 

 

 うーむ。

 降谷さんの療養場所を考えねば永久に一進一退だなこれ。

 

 そのように思いながら、俺はひとまずニャルを抱きしめたまま仕事を再開したのであった。

 





・ニャル化身界隈
恐怖のドン底にある。
皆息を潜めて目立たないように隠れ、哀れな黒い風に黙祷を捧げている。
よく本体の視界に入る場所で生活できるものだ。
何を思い付かれるのか分かったものではないのに。
黒い風は何故逃げ出さないんだ。
まさか本体に側仕えを命じられているのか?
恐ろしい…悍ましい……(黙祷)

・世論
かなり好意的。やっぱ神しか勝たん。
全国各地の神社に寄付が殺到しているようだ。
よわよわ旧神もほくほくしてる。
参拝の作法などがTVでも連日取り上げられる程度にはブーム。
しかし怪異詐欺が急増しており、警察は対応に苦慮しているようだ。
この壺は厄除けの効果があるぞ(500万)

・星の精
学校に通い出した。
学習意欲も満々。ひらがな習得を頑張っている。
コナン君は虚無しかない小学校の宿題を星の精にやらせることを画策しているようだ。
ひらがなプリントとかちょうどいいだろ!
家に帰ったら学校のおさらいをしつつ、学校ではできなかった粘土遊びとかを星の精に体験させている。
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