ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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迷宮カクテル〈石器魔術〉

 

 現在、俺たちはバニーガールのクラブにいる。

 黒ウサギ亭という名のクラブだ。

 

 俺が一生近づかなさそうな店だが、仕事の関係なので仕方ない。

 そのようにニャルによく言い訳してから来たが、ニャルは「羽虫が微生物のコスプレしてるんですか…なぜ……?」と宇宙を背負っていた。

 

 そして「我が夫と話が合いそうな羽虫ですね」と感想を漏らした。

 ニャルきみってば俺のことそんなふうに思ってたの???

 

 

 ともかく。

 今回の仕事は「命が惜しくば黒ウサギ亭に近づくな」と脅迫があった資産家だ。

 

 毛利探偵に回しても良かったが、事件性がありそうだったから念のため俺の方で受けたのだ。

 コナン君と降谷さんも一緒なので、頭脳役もバッチリ。

 

 依頼人である資産家の諸岡さんは、この店の常連らしくお気に入りのバニーガールもいるようだ。

 命を狙われているというのにホクホク顔で大量の注文をバニーさんにしていた。

 

 これには執事さんも眉間に皺を寄せている。

 バニー遊びに主人が興じてたらそりゃいい顔はしないだろう。

 俺も不意にニャルが気分を害した時のために抱きしめる準備をよく整えておかねばなるまい。

 

 そのように覚悟しつつ。

 大まかに話を聞いて、その上でボディーガードをしていたわけであるが。

 

 平和な時も短かった。

 突然、酒にヒ素を盛られたバニーガールさんが苦しんで倒れてしまったのだ。

 

 

 

 

 

「しまったな。防毒魔術は依頼人さんたちだけでなくて周囲の人にもかけておくべきだった」

 

 俺がそのように後悔を含んでしゅんとすると、コナン君は「仕方ないよ」と俺を宥めてくれた。

 

 カンガルーのように服の大きな腹ポケットから、星の精が触手をチラリと出している。

 そして心配そうに「クス…」と触手をくねらせた。

 みんなの不安を感じとっているようだ。

 

 コナン君が触手を握ってやれば、やや嬉しそうにモゴモゴと服の中で動いた。

 

 降谷さんが真面目な顔で現場を確認している。

 

 今日の降谷さんが着ているのは、ちょっと変なところにチャックがある服だ。

 出かける間際に諸伏さんに「なにそれ?エッチなやつ?」との指摘を受けていた。

 

 「風見の趣味だ!俺は悪くない!」とのことで、諸伏さんに開けられそうになったチャックを死守していた。

 どうも、潜入時代に仕事着をまとめて適当に買ってもらったものを使い回しているらしい。

 買ってもらったもののため大事に文句無く着ているということのようだ。

 

 やっぱり風見さんのことは結構大事にしてるんだよなぁ。

 扱い雑だけど。

 

 降谷さんがこちらに戻ってきて、俺に声をかけてきた。

 

「怪異の気配はなさそうか、黄衣君?」

「おうよ。怪異の気配はゼロ。魔術もなし。100%人間の事件」

「そうか。なら捜査一課に任せてもいいが……」

 

 視線の先では、コナン君も真面目に捜査を開始したようだ。

 

 どうせ事情聴取があるし、俺たちの番を待っている間にコナン君が事件を解決してしまいそうだな。

 

 ふと見ると。

 コナン君は俺があらかじめプリセットに入れていない謎の魔術をさらりと使用していた。

 溢れたワイングラスの中身を魔術で検分して「やっぱりこのお酒に毒が…」と漏らしている。

 

 流石におや?と俺は首を傾げた。

 

 見ると、ブレスレットのシステムに妙な魔術が新たに登録されているではないか。

 毒解析の魔術、血縁関係判定魔術、暗視と煙幕の無視を付与する魔術など。

 

 術式に無駄がなく非常に実用的な古エイボン魔術だが、一体誰がこんなものを。

 

 俺の疑問の表情に対し、コナン君はニカッと得意げな笑顔を向けてきた。

 

「家にあったエイボンの書とかいうのを参考に登録してみた!どう、中々の出来でしょ!ほら」

「天才かよ」

 

 コナン君が肩掛けバッグから取り出したのは、文庫本版「エイボンの書(2)」だ。

 6巻セットで、俺が読みやすいように分割で文庫本化したものを持ってきたらしい。

 

 最近なんか読んでるなと思っていたが、まさかエイボンの書を読んでいるとは。

 エイボンの書はあの大天才が書いただけあり、正直難解というか、凄まじく読みづらい魔術書なのだが。

 

 あまりに天才すぎるだろう。

 INTお化けか?

 

 降谷さんが「!?!?!?」と驚愕の表情で目を見張った。

 コナン君から文庫本を受け取って、血走った目でその文面を追っていく。

 

「これを読み解いて使ってるのか君は!?まともに学んでもいないだろうに!」

「えへへ。ブレスレットで使ってたら大体パターンは分かってきたし。文法というか、動きがすっごく綺麗だよね、魔術式って」

「嫉妬でどうにかなりそうなんだが。妖怪になって襲いかかってもいいか」

 

 まだ降谷さんはまだまだ竪穴式住居の時代だもんな。

 この間作ってた縄文土器は綺麗に作れていたと思う。

 

 降谷さんのギョロ…という嫉妬に満ちた視線を受けて、コナン君は素早く俺の後ろに隠れた。

 俺に意見することはできなかったのか、降谷さんはぺしょぺしょにしょげてトボトボとどこかへ行ってしまった。

 

 最近ようやく正気を取り戻した降谷さんだが。

 あまりにトラウマで、今でも俺に対してもおっかなびっくりだ。

 

 可哀想に、時折匿名でニャル化身から冥福を祈る念話や手紙が届くらしい。

 意外と仲間には親切なニャル化身達である。

 

 俺はしょげかえって降谷さんの後ろ姿を見ながら、咳払いしてコナン君に問いかけた。

 

「それで、コナン君は推理はまとまったかな」

「おおよそね。僕の想像通りだとしたら誤解の末の悲劇という感じだけど」

 

 コナン君は随分と暗い顔をした。

 

 ぽすぽすと頭を撫でれば、「子供扱いしないでよ」と苦言を呈されたらしい。

 俺にこうされて喜ばぬニャルはいなかったのに……。

 

 仕方なく代わりに星の精を撫でておく。

 

 ポケットの星の精はゲタゲタ上機嫌に笑おうとして、外だと思い出して慌てて触手で口を押さえた。

 偉い。大変偉い星の精だ。

 

 二人で星の精をもみくちゃにする。

 星の精は人間のように大きな口を吊り上げて笑顔満面になった。

 

 その間に捜査一課が到着したようだ。

 入り口付近で黄昏ていた降谷さんと鉢合わせ、

一課の面々に緊張が走った。

 

 高木刑事は思わず敬礼しようとして、すんでで踏みとどまり、「お、お久しぶりです安室さん!」と挨拶したようだ。

 

 降谷さんは実に自然な笑顔で「お久しぶりです。お仕事お疲れ様です高木刑事」と返事をした。

 

 これは降谷さんなりの労りと「よく設定を思い出せました」というお褒めの言葉だと思われる。

 高木刑事はたらりと汗を垂らして緊張をあらわにした。

 

 そういえば松田さんは最近どうなってるのだろうか。

 ニャルに雑に「キモい」って言われて形を人間型に直された松田さんだが、その後も元気だといいのだが。

 

 松田さんについて聞こうと、てくてく降谷さんに近寄っていく。

 

 降谷さんは手の中で素人めいたカタコトの魔術式を踊らせながら、「こうか?……いや、こうか?」と頑張っていた。

 コナン君にセンスがありすぎるのか降谷さんのセンスが死んでいるのかは定かではない。

 ともかく、それは雑な打製石器みたいな出来栄えであった。

 

 俺は愛想笑いをして降谷さんに話しかけた。

 

「なんだそれ。野草を刈り取る魔術か?」

「………さっきの毒物判定魔術を再現したんだ」

 

 俺は下手な口を利いたことを後悔した。

 

 もっと無難に「魔術の練習か」ぐらいに留めておけば降谷さんの心をこれ以上傷つけなかったはずだ。

 何事も人並み以上にこなすプライド妖怪は己の無力に絶望したようだ。

 

 降谷さんは傷付ききって、ぶつぶつ何事か悪態をつきながらまたどこかへフラフラと去っていった。

 

 

 うーむ、帰ったらまた諸伏さんにヘルプコールをして慰めてもらわなければ。

 そのように算段を立てて、たそがれる背を俺は声もかけられず見るだけなのであった。

 





・ニャル
羽虫個人に嫉妬はあんまりしないタイプ。
見分けがついて無いともいう。
もしハスターがバニーさんに鼻の下を伸ばしてたら「いや真面目に理解不能なレベルです我が夫……!」となっていたと思われる。
ミドリムシのコスプレをした羽虫の口吻に鼻の下を伸ばすのは流石に大宇宙すぎる。

・コナン君
必要な才能の全てを備え持つ男。
システムを使いながらその裏で動く仕組みをちまちま覗き見てたら覚えた。
自分で使えるほどの理解度はないが、ブレスレットに術式登録する程度なら軽い。
スマホ世代みたいなやつ。

・エイボンの書(文庫本版)
全編日本語で書かれた魔術の名著。
内容が全て揃った完全版は世界にはすでに現存しないので、実質この文庫本版が完全版。
魔術の秘奥がぎっしり詰まっているが、作者の偏屈もあってとてつもなく読みづらい。

・松田さん
人間型になった今も風見さんのバディとして働いている。
6本腕もあれはあれで実に便利だったな、風見に任せて自分は歩かなくて良かったし、と懐かしんでいる。
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