今日は子供達と長野にスキーである。
降谷さんと諸伏さんも一緒の予定だ。
傷ついた心を癒す降谷さんは慰安旅行のため、諸伏さんは兄に会いにいくための同伴になる。
志保ちゃんは留守番のようだ。
姉妹水入らずということで、赤井さんを蹴り出して阿笠邸で博士も入れて三人で過ごすらしい。
みんなでゴソゴソ準備する今。
蠢くみんなにあと30分で出発だからなーと声をかける。
諸伏さんが「おう!」と返事してくれた。
星の精も準備万端らしい。
コナン君とお揃いのあったかいボンボン付き帽子をかぶって、満足げにクスクス声を漏らしている。
よほど嬉しいらしい。
別に星の精はあらゆる星に出現する関係上、地球の雪山程度で寒いも何もないのだが。
でも友達とお揃いなのは嬉しいもんな。
触手を詰め込んだボンボン帽子を上機嫌そうにペシペシと動かしている。
降谷さんとコナン君は取り込み中のようだ。
降谷さんはブレスレットをした手を掲げて、たいへん難しい顔をしている。
「それで、術式の選択画面を開くのはどうするんだ?」
「意識して軸を左から右に捻る感じ。選択は握って引き抜くイメージで行けるはずだよ」
「?????」
「ほら、やってみて」
降谷さんは宇宙を背後に背負ったあと、迫真の表情で力んだ。
残念ながらうんともすんとも言わないようだ。
ぺしょ……と凹んだ様子を見せる。
これにはコナン君の方が困惑して、「着けて最初にガイディングがあったよね?」と聞き返している。
降谷さんは全部の苦難が一度に襲いかかってきた顔をした。
降谷さんがあまりに懇願したから、最近になって降谷さん用のブレスレットを作ったのだ。
とはいえ、流石に戦艦の二機目を作るのは時間がかかりすぎる。
魔術発動システムだけを抜き出してコピペ、独立して新たなブレスレットとして作成したものになる。
だから魔術の発動に関してはコナン君のはめているそれとほぼ一緒だ。
MPと演算領域だけは自分のものを使ってもらう形だが、積んでるシステムは同じとなる。
操作のガイディングも最初にあるし、直感的に動かせるものになっている。
魔術の練習にもちょうどいいだろうと思ったのに。
視線の先では、ペショペショの降谷さんが孫にスマホを教わる老人みたいな様子でしょぼくれている。
もはや何も理解できないらしい。
押して引いて唸って頑張って、突然画面が切り替わったようだ。
目を白黒させて、助けを求めるようにコナン君を凝視した。
「それで、この魔術式の一覧からどうやって目的のものを選び出すんだ?」
「想像すれば一番近い魔術が自動で並ぶよ」
「………なんか変な画面になったが。魔術式が一面に並んでる」
「なんで!?!?」
触ってないのに壊れた現象だ。
こうも降谷さんが困っているということは、俺のUI設計がまずかったということなのだろう。
でもハイパーボリア時代のオーソドックスなシステムの流用だし、コナン君はすぐ使えてるし。
一体何が悪かったのか。
そして苦戦の末、ついに魔術が発動したようだ。
手の中に動作確認用の小さな立方体の結界を出現させて、降谷さんがパアァッと顔を明るくさせた。
次の瞬間、「ぐへぁ」という気の抜けた声と共に降谷さんはダウンした。
「安室さん!?!?」
「なんか尋常じゃない量のMPが吸われ…というか脳疲労…おおお……」
まあ、中に登録してある魔術もコナンくんのそれと同一だからな。
俺の潤沢なMPと演算領域を前提にした魔術だから、降谷さんがそのまま使うには重かろうよ。
そこは適宜頑張って自分用にカスタマイズしてもらえれば幸いである。
ちなみに。
このシステムは魔術の発動を補助するために作った、俺の渾身の一作である。
俺が登録した汎用性の高い魔術が揃っていて、使用者は無数のモジュールを自由に付け替えることで、直感的に魔術を調整・発動することができる。
また、魔術式自体の編集と登録も可能だ。
イメージ的には、見本曲の沢山入ったDTMのソフトみたいなものだろうか。
加えて古代ハイパーボリア時代の大手魔術式編集ソフトウェアが組み込まれている。
起動すればより細かな調整、新規魔術の作成などが行えるはずだ。
コナン君もこれを使って魔術式をちまちま入力したのだろう。
使い方の解説も沢山付属してるし、独学でできなくもない。
「大丈夫安室さん!?無事?」
「ああ……だが僕も理解した。千里の道も一歩から。学問に王道なしということを、魂で理解したんだ」
「もしかして悟りを開いてる?」
遠くを見ながら立ち上がり、降谷さんはいそいそと旅行バッグを車へ詰め込む作業に戻った。
諸伏さんに肩をポン、と叩かれたが、降谷さんは「泣いてない」とだけ返事をした。
可哀想に、己の魔術的才能の無さに打ちのめされているようだ。
このように多少のトラブルはあったが、無事出立時間には間に合った。
子供達を預かって親御さんとペコペコし合いながら少々の世間話。
無事に長野に向かって出発したのである。
星の精は星のチワワへと変化している。
少年探偵団のみんなにチヤホヤされて大満足状態となり、千切れんばかりに尻尾を振っている。
子供達はスキーを心待ちにしていたようで、ハイエースに乗り込んでみんなで大合唱。
新曲「キャンプもいいけどスキーも素敵」を披露してくれた。
毎回その妙に耳に残る即興曲どっから調達しているのだろうかと疑問でならない。
現地では諸伏兄と合流予定だ。
スキー場を案内してくれるとのことで、俺も少しだけワクワクしている。
道中は車で三時間。
暇つぶしに俺の曲をかけつつ、スタッドレスタイヤに替えた車でずんずんと進んでいく。
一応チェーンも積んであるが、規制区間があった時用のものだ。
俺が魔術であらかじめ滑らないようにしてあるからな。
たとえブラックアイスバーンに高速で突入しても、雪深い坂道でも滑ることはない。
うーん、これ地味に商売の香りか?
子供達は車内でお菓子を分け合いっこしたり、寝たりトランプしたり騒いだりと気ままに過ごしてある。
いいことだ。
星のチワワもコナン君を通じてルールを理解して、ババ抜きに興じているらしい。
そうして長野での合流ポイントである駐車場に到着すると、時刻は午後2時ごろになっていた。
駐車場には諸伏兄、大和警部、由衣さんの三人が大きな雪だるまを作って待っている。
車を降りた諸伏さんが顔を明るくして三人へと駆け寄った。
『兄さん!』
「景光、よく来た。疲れただろう」
「けどよ高明、今日はやっぱまずかったんじゃねぇか?こりゃ大吹雪になりそうだぜ」
大和警部が空を見上げて眉を顰めている。
どんよりと厚い雲が空を覆い、あまり天気は良くなさそうだ。
子供達は雪が降っているという事実自体にテンションが爆上がりしているらしい。
車を降りてすぐに全力疾走。
星のチワワを連れて雪に突入していった。
コナン君が「おい待てよお前ら!森には入んなよ!」と慌てて後ろを追いかけていく。
志保ちゃんがいなくて彼らの制御に苦労しているようだ。
みんな可愛いことだ、飴ちゃんをあげようねぇ。
由衣さんも苦笑して、俺らを見て口を開くのだった。
「ひとまずスキー場に向かいましょうか。宿も近くにあるし」
・コナン君
マジックネイティブ。
適応の速さは若者の特権である。
探偵業に必要そうな魔術をちまちま入れている。
最近は「事件が怪異案件かどうか」を判別する魔術を組もうと頑張っている。
・ブレスレット
おおよそ魔術界のAdobeCreativeCloud。
大抵の人は持て余す。
とはいえ見本も多数収録されていてチュートリアルも手厚い。
業界標準に近い。
・星のチワワ
友達とお揃いのあったかい帽子をかぶって大はしゃぎしている。
ひらがなは難しいけど、お絵描きは楽しい。
クレヨンで白いもしゃもしゃの星の精と、頭が白いもしゃもしゃになってる「ともだち!」の絵を描いた。
コナン君の頭は星の精とはちがうけど、そうだったらいいなって。