ゲレンデに到着した。
最盛期ほどとは言わずとも、そこは人で賑わっていた。
このメンツは全員、俺以外スキー・スノボ経験者の集まりだ。
長野県警も皆土地柄かスキーは堪能のようだし、子供達もスキーはできる。
完全初心者は俺だけのアウェー空間だ。
諸伏さんが生ぬるい顔で俺の完全装備を見ている。
『なのになんでマイスキー板とか全部揃ってるんだ?』
「だってスキー楽しみじゃん……」
スキーショップでコソコソ購入したおニューのウェアに手袋、スキー板に靴。
ネットに暖かいって書いてあったからスキー靴の中にホッカイロまで仕込んである。
スキー靴はきちんと履き方も予習済み。
白銀世界で風を切る、いいよね!心踊る!
降谷さんが胡乱な顔で「いや君寒さとか別に関係ないだろ…生身で宇宙遊泳する生物がなにを言ってるんだ」とコメントを残した。
降谷さんだって帽子もゴーグルもいらない黒い風のくせに!
ちなみに降谷さんはスノボ派らしく、熟練のボーダー仕草でゴーグルをつけている。
ああいうかっこいい男に、俺はなりたい…。
俺は内股でスキー板を装備して、ひとまずゲレンデのリフト近くの平らなところで止まる練習をすることにした。
皆が見守る中、ゲレンデのライトの支柱から手を離す。
俺は頑張った。
頑張ったが、ツルーー、とあえなく滑って、赤いネットに体ごと突っ込んだ。ゴフゥ…。
子供達がわっと寄って来て俺を慰めてくれた。
「ハの字にすんだぞ!」「ぐってやるの!」「頑張ってください!!」などなど。
可愛い子たちには後で美味しいご飯をあげようねぇ!!
俺が練習している横で、あったかい帽子をかぶった星のチワワは長野組に可愛がられている。
このゲレンデは犬も入場可能と聞いている。
特定のコースだけだが、ゴンドラも利用可能でいっしょに滑ることができるそうだ。
長野組には一応事前に星のチワワの正体を教えてあるため、皆少しばかりおっかなびっくりだ。
そーっと食いつかれる心配をしているような仕草で撫でている。
星のチワワの真っ白な体は雪と同化して、どうにも目立たない小さなものに見える。
大和警部がおそるおそる星のチワワの頭を触って言った。
「おいおい、ヤベェ生き物なんだろ?本当に大丈夫かよこんな人混みに連れてきて」
「彼がそれを許しているということは問題ないのでしょう」
「でも見た目は普通のチワワで人懐っこいし、可愛いわね」
【アンッ!】
新しいメンツが星の精をチヤホヤしてくれている!
星の精はいつだってみんなに人気!
そのように星の精は自己肯定感爆上がりで非常に誇らしげだ。
そろそろ尻尾が千切れ飛びそうなレベルで振られている。
降谷さんと諸伏さんは上に一滑りしてくるらしい。
「すぐ帰ってくる!」と言ってゴンドラに乗り込んでいった。
俺は少年探偵団の声援を受けつつ、今まっすぐになだらかな斜面を滑っている。
光彦君が手を振る場所までずーるずーると滑って、無事にブレーキをかけることができた。
わっと少年探偵団の歓声が上がる。
ここには大量の学習元があるからな。
俺の魔術で動きを収集しているし、もう間も無く上に行けるようになるだろう。
由衣さんがニコニコで俺の上達を褒めてくれた。
「本当に初心者?大人になってから滑り始めると苦労する人多いのに」
「すんません怪異の力で裏技してます!!!AIサポート付き!」
「それも実力のうちでしょう」
「高明、前から思ってたけどお前黄衣探偵にメチャクチャ甘くねぇか?」
はて、と諸伏兄はすまし顔をした。
弟の恩人ということで下駄を履かせてくれているらしい。
へへっ、すまねぇな。
長野組の彼らは上に行く気はあんまりないらしく、また地道にでかい雪だるまを作ってまったりと遊んでいる。
子供達がでかい雪だるまに目を輝かせて、雪遊びモードに突入したようだ。
「歩美おっきな猫さん作る!」「俺もうな重!」「うな重をどうやって作るんですか!?」と騒ぎ出した。
俺のことは忘れ去って、長野県警作雪だるま(大)の隣に小さな雪だるまを濫造している。
薄情な子たちに美味いもんはねぇんだぞワレ…。
そうこうしているうち、俺も術式学習が終わって滑れるようになった。
降谷さんたちも軽く一周するだけにとどめたのか、すぐに帰ってきたようだ。
そろそろみんなで上に行くこととする。
俺を慮ってくれたらしく、まずは近場のなだらかで短いコースに案内された。
俺はリフトに足を小突かれて「ぎゃあ!?」となりながら上に向かう。
隣のコナン君が「タイミングを合わせて座るんだよ。別に膝裏に当たっても気にする必要もないし」と教えてくれる。
触手の爪先をそんな精密操作できないんじゃよ…。
俺の本来のサイズ思い出してよね…。
雪がちらつくどんよりとした空は薄暗い。
あんまり天気がいいとは言えないが、それでも滑るのには支障はなさそうだ。
星のチワワはコナン君の背負うリュックの中に入り込み、顔だけ出して大はしゃぎだ。
昂り切っているらしく、中で激しく足踏みしてドコドコドコドコとリュックが振動している。
コースの上に到着すれば、ついにスキー・スノーボードの時間だ。
子供達がわあ!と一斉に滑り出す。
コナン君も前からのスケボーの腕で察しはついていたが、素晴らしい腕前だ。
大和警部と諸伏兄はまったりゆっくり降りている。
ダンジョンアタックを経て足が治ったのが爽快なのか、大和警部は少しなだからな斜面で休憩して「杖は窮屈でいけねぇな」と漏らしていた。
諸伏兄が同意しかねる顔をした。
「敢助君は杖がある方が落ち着いていいかと」
「いやお前に言われたかねぇよ!?」
「二人とも私が見張ってないとすぐどっか行っちゃうんだから」
「上原、お前突っ込み待ちか?」
降谷さんが遠くから「あの三人は全員暴走特急なんだよな…」と遠い目をしている。
諸伏さんも深く頷いて「そこに権力を付属させた完全上位互換がゼロってわけだ」と話をまとめたようだ。
F-1のレース会場か何かか?
そんな感じでワーキャーいいながら三周ほど楽しんだ。
そのあたりのことである。
不意に、リフトの途中で急に吹雪が激しくなった。
まるで視界が切り替わるような、暴風の壁に突っ込んだかのような不自然な吹雪だった。
視界はホワイトアウトし、斜面に立っていてもどちらが下かわからないような凄まじい暴風が吹きつけている。
それでも戻るわけにもいかず、そのままリフトを降りる。
すると先にリフトに乗っていた歩美ちゃんが、下り口すぐの場所で震えていた。
子供達はより固まって相談しているようだ。
暴風雪に怯えたのだろうかと、後続の俺と諸伏兄が急いで駆け寄る。
「どうしましたか、君たち」
「あのね!おじさんがナイフで人を殺してたの!」
「歩美が見たってよ!雪が強くなる直前だって!間違いねぇよ!」
殺人事件とはまた、穏やかでない。
遅れて到着する降谷さん達や大和警部達も、俺たちの様子を見てこちらにやって来たようだ。
「おいこりゃまずくねぇか!吹雪が和らぐまで暫く待つのもありかもしれねぇな」
『山の天候は変わりやすいとは言うけど…あんなふうに変わるもんなのか?』
かじかむのか、由衣さんが寒そうに手をもしょもしょ動かしている。
俺は全員に軽く防寒魔術、吹雪の中での視界確保の魔術を付与した。
皆が半透明に変わった雪に驚きの声をあげる。
降谷さんの権能で風を止ませるのもいいが……権能の綱引きになるのも面倒だろうし、これでよかろう。
皆が俺を注視しタイミングで、俺は咳払いと共に話し出した。
「この近くで風の落とし子の子孫が殺されたみたいだ。暫くは止まないぞ、これ」
・風の落とし子
別名イタクァの子ら。
この個体はその子孫で、すでに殺害されている。
普通に人間として生きてきて、己の血を自覚したこともなかった。
殺害される直前、危機的状況下においてわずかばかりの天候変更の権能となって発露されたようだ。
・ニャルラトホテプ
四作目のゲームの構想を練りつつ、マンネリ感が出て来て新たな刺激を欲している。
夫はミ=ゴ別にいらないって前言ってたし、冥王星丸ごとデスゲームとか開催してもいいかもしれない。
それじゃありきたりか?
うーむ。黒い風を投入して無双ゲーさせながら、殺害数に応じて黒い風にランダムな新たな権能を付与していく参加型のゲームにするか…。
それなら我が夫も参加できるし!
よし!!!
・黒い風上
なんだか悍ましい気配がしたが、ただの吹雪のせいだろうと思い直した。