ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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黒の組織から来た女〈未だ再会ならず〉

 

 それからの展開は非常に早かった。

 

 ひとまず、全員で一芝居打って、隠れている犯人を炙り出そうということになったわけだが。

 具体的には犯人の思惑に乗ったふりをして、互いに殺し合う演技をすることになったのだ。

 

 俺はキャラ的に銃を撃っているイメージが湧かないと全会一致で決められ。

 「殺し合いをしているところを目撃してしまって動揺しているところを自身も殺される被害者役」ということになった。

 どういうこっちゃ。

 

 「貴方に人が殺せるようには見えませんし、人を嵌められる知恵者というわけでもなさそうだ」と笑う白馬探偵には一言物申したい気持ちである。

 俺はおぞましき旧支配者の一柱、星間宇宙の帝王ハスターだぞ。恐ろしいんだぞう。

 そのように若干歯軋りするなど。

 

 ともかく、車で橋を見に行ったメンバーが帰ってきたのを見計らって計画はスタートした。

 

 橋確認メンバーは俺たちの話し合いは聞いていなかったはずだが、俺たち居残りメンツとチラリと視線を交わすだけで大体の事情を察してくれたらしい。

 最低限の合図で完全に計画に合わせてくれた。

 流石、被害者も加害者も探偵だらけの現場は話がスムーズだ。

 

 さて、血糊として使うのは厨房から失敬したトマトをすり潰したものだ。

 

 監視カメラさえ誤魔化せればそれでいいということで、そこは精度を求めないらしい。

 みんな酸っぱいフレッシュな香りに包まれながら死んだふりをするということで、微妙に笑ってはいけない現場案件である。

 

 …とはいえ。

 正直、俺にはそう上手くタイミングを合わせてトマト汁の入った小袋を破けるとは思えない。

 服の中に仕込んだそれを仕込んだ小さなカミソリで破くのだが。

 そんなの、普通に撃ってもらった方がずっと楽に死んだふりができるに違いない。

 

 などと考えていたら、ジト目のコナン君に袖を引っ張られ、「実際に撃たれた方が死んだふりしやすいとか思ってるでしょ」と囁かれるなどした。

 完全にエスパー少年コナン君である。

 旧支配者の思考を完璧に言い当てるなんて、世が世なら神の名代として国の頂点に君臨していたに違いあるまい。

 

 

 そんなくだらないことはともかく。

 完全に正体を暴かれたと悟った犯人、安楽椅子探偵千間降代は、自らの罪を認めて抵抗しなかった。

 

 動機は、彼女の父親が40年前、学者として烏丸蓮耶の宝探しに召集されたこと。

 

 烏丸蓮耶はどうやら父母の代から大富豪だったようで、母親から受け継いだ館に財宝が隠されていると聞いていたらしい。

 その発見のため、たくさんの学者達が招聘されていた。

 

 しかし捜索は進まず、業を煮やした烏丸は学者達を殺すという凶行に出たという。

 そうして千間探偵の父親は亡くなり。

 千間探偵は、その謎を長年追い続けることとなった。

 

 彼女の供述は、その凶行に見合わないほど静かなものだった。

 

 しかし父親の死と関わっているからと言って、何故そこまでして知りたかったのか。

 俺には理解できない。

 

 特に千間さんは茂木探偵とかなり親しかったようで、軽口を叩き合っているのを見ている。

 その彼が死んでしまう可能性が高かったというのに、そこまでして。

 そこまでして知りたかったということ自体が、俺には理解できなかった。

 

 俺とて、長い生を振り返ってみれば、殺意を持って人を殺そうとしたことぐらいある。

 

 俺を利用しようとした人間は数多くいたし、そのせいで起きた惨劇もあった。

 殺してやろうと、本気で激怒したこともある。

 

 まあもっとも、ただの人間が旧支配者の殺意なんてものを受けて無事でいられるはずがなく。

 俺が手を下す前に、そいつは魂ごとぐずぐずに崩れ落ちてしまったが。

 

 

 しかし、そんな俺とて人を殺してでも知りたいと思ったことは一度もない。

 それは俺が知ろうと思えばあらゆる情報に手が届く位置にいるからか。

 あるいは、世界が知らなくてもいい事で溢れていることをよく理解しているからか。

 

 なんにせよ、探偵とは因果な商売なものであることよ。

 

 

 

 なお、怪盗キッドは警視庁のヘリで帰ってくる途中できちんと逃げおおせたことを追記しておく。

 

 俺にメッセージカードを託し、そのまま帰りのヘリからハンググライダーを使っての逃走劇だ。

 彼を追う手段がない以上、彼の逃走は確実だろう。

 

 いつのまにか俺の手元にあったメッセージカードには「二度と出会わないことを祈ります」の一筆のみが添えられていた。

 切実な感じに文字が震えていたが、それは考えないこととする。

 今回、彼踏んだり蹴ったりだったからな。

 彼に幸あれ、怪盗キッド。

 

 そのあとは地元県警で事情聴取ののち解散である。

 

 公共交通機関がある場所まで来れば、あとは

今回はレンタカーを借りて帰宅するのみ。

 燃えてしまったプリウスが未だ心に尾を引くが、涙を飲んで見ないふりをする。

 

 来た時と同じようにレンタカーを運転する諸伏さんの隣で、俺は強張った体を伸ばすように両手を広げた。

 

「あーあ、結局、黄昏の館に隠された財宝の在り方は分からなかったな」

『……そうだな。少し惜しい気がするが…烏丸蓮耶の探し求めていた宝というなら、組織を追う手掛かりになったかもしれないし』

「へ?なんでそこで組織?」

 

 眠さに後部座席でうつらうつらしていたコナン君が「組織」のワードに跳ね起きた。

 シートに齧り付いて諸伏さんの耳元で眉間の皺を深くする。

 

「どういうことだよ。烏丸蓮耶と組織には何か関係があるのか?」

『そもそもの話。何故組織のメンバーが黒を纏うか、知ってるか?』

「………」

『単純至極。それはもちろん、黒はカラスの色だからさ。意味、分かるか?』

「ッそれって…!」

 

 コナン君が驚愕に目を見開いて絶句した。

 つまり、あれは黒の組織の親玉の別荘だったということらしい。

 しばらく目まぐるしく目の色を変えていたコナン君が、絞り出すように声を漏らした。

 

「……黄衣さん、あの屋敷を一括購入する資金って、今すぐ用意できる?」

「え、それ俺にあの屋敷を買えって言ってる?当たり前に破産するけど?」

「今の屋敷の所有者は殺された大上探偵。とするなら、相続で親族の元へ行くか、売却されると思う。あの立地だし、思ったよりは高くないんじゃないかな」

 

 滔々と思考を垂れ流し今後のことに思いを巡らしているらしい。

 コナン君はすでに俺の返事を聞いていないようだ。

 

 残念ながら、どう高くなかろうと俺の支払い能力を超えていることは明らかなのだが。

 借金しろってことかな?そのレベルの資金は普通に銀行で借りられるレベルを超えていると思う。

 消費者金融は嫌だぞ流石に。

 そして魔術はもっと嫌だ。

 

 コナン君はとんとん、と指でシートを叩きながら独り言のように呟く。

 

「それに、暗号も解けた。烏丸蓮耶の母親が残したっていう財宝のありかも見当が付いている。なら…」

『っ本当か少年!なら、それを組織より先に掴めば!』

「うん。重要な情報になる可能性がある!」

「え、コレ本当に俺が屋敷を買う流れなの?破産したらコナン君が責任持って面倒見てくれるんだよね?」

「大丈夫大丈夫!宝が見つかったら資金なんてすぐ回収できるって!たぶん!」

「多分って言った!!!多分って言ったぞこの子!!!」

『建てた時は3桁億円はしただろうなぁ。任せた黄衣!組織の手がかりはお前の双肩にかかっている!』

 

 どうしてみんなして俺を破産させようとするの!!!

 

 そんなぐだぐだな話し合いをして、レンタカーで4時間。

 俺達は無事我が家に帰って来た。

 

 帰宅した俺たちを、一人家で留守番していた宮野明美さんが迎えてくれた。

 俺たちが出かけている間の妹さんの調査の進捗を聞いたが、やはり成果はなかったとのこと。

 彼女の暗い顔に、馬鹿話に盛り上がっていた俺たちは言葉を無くすのだった。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、普段通りの生活に戻ってしばらく。

 

 ホームズフリークばかりが集うペンションでコナン君のテンションがテン上げになるなど事件は色々あったが。

 その日は格別、事件が詰まった日になった。

 

 

『おーい、朝飯できたぞ』

 

 料理担当の諸伏さんが呼ぶ声に、俺たちはのそのそと朝の気だるい体でダイニングへと集まった。

 彼は意外と料理上手で、和食を中心になんでも作る実力派だ。

 

 皆揃って机を囲み、「いただきます」と手を合わせて朝食開始。

 コナン君は半分寝ぼけているのか歯ブラシを持って来ている。

 そして何故か俺が席においていたコンビニ袋に歯ブラシをしまった。

 寝ぼけすぎだろう。

 

 ちなみに、俺は朝ふらりと近場のコンビニに行くことが多い。

 

 お菓子を買うためによく早朝に出掛けていて、この間バーボンに爆殺されたのもこのタイミングである。

 

 最近では食べ過ぎは良くないと明美さんに注意もされ始めている。

 旧支配者に太るなんてデバフは存在しないから気にすることはないのに。

 どんなにドカ食いしようと触手はいつもツヤツヤぷるぷる。スタイルだって抜群(のSAN値減少を誇る)。

 それが旧支配者特権というものだ。

 

 さて、そこで財布の残金を確認していて、俺はある一つのことに気がついた。

 

 まじまじと千円札をライトにかざして眉間に皺を寄せる。

 コナン君が俺の様子を見て声をかけて来た。

 

「どうしたの、黄衣さん」

「いや…なんかこの千円札、透かしが無いっぽいんだけど」

「ッ!見せて!」

 

 コナン君が勢いよく俺の手から千円札を取り上げて、それを確認する。

 数秒それを睨め付けたあと、鋭い瞳のまま叫んだ。

 

「他の紙幣はどう!?」

「全部確認したけど、今変なのはこれだけだよ。まさか…」

「……これ、偽札だよ。黄衣さんは後で警察に連絡して!」

「やっぱり!俺の千円札!」

 

 まさか一万円札を崩して偽札を掴まされるとは。

 俺がしくしくと涙を飲んで財布から偽札を抜く。

 さらば俺の夏目漱石…というか夏目漱石はちょっと古くないか?時空異常の影響だとは思うけど。

 

 横ではコナン君が深刻な顔をして幽霊二人に確認をとっている。

 

「これ、組織の仕業って可能性はないかな?」

『うーん、私は聞いた事ないわね』

『俺も正直あんまりその辺に手をつけてるイメージは無いな。奴ら、金だけは持ってたし』

「そっか…」

 

 ふむ、と考え込むコナン君に、俺はぐずぐずと若干悲しみを残しながら声をかけた。

 

「というか、そろそろ学校の時間だろ。また少年探偵団の諸君にどやされるぞ」

「いっけね!行ってくる!」

『いってらっしゃい、コナン君』

 

 駆けていく小さな姿を皆で見送りするのも毎朝の恒例行事だ。

 明美さんが微笑ましそうに手を振った。

 

 

 と、ここまではトラブルがありつつもいつも通り。

 朝のうちに偽札の件で警視庁に顔を出したが、対応した目暮警部ともすっかり顔馴染みだったためスムーズに話がついた。

 顔見て早々「また君かね!」と言われたが、それは八割コナン君のせいなので俺は無罪なのである。

 

 

 

 そうして、その日の夜。

 

 

「えー、ただいま夜の8時半。コナン君、帰ってくる気配を見せません」

 

 俺は時計を確認し、そわそわと部屋の中を歩き回った。

 小学校帰りに少年探偵団と遊んでいる事を加味しても遅すぎる。

 

 というか、先ほど目暮警部から電話があったのだが。

 

 朝の偽札事件の犯人が捕まったそうで。

 警察が踏み込んだ時には犯人達は既に縛り上げられていたとのこと。

 その犯人たちは口々に「子供にやられた」と供述しており…まぁつまりだ。

 

 コナン君は学校帰りに偽札事件に首を突っ込んだ挙句大立ち回りして解決。

 その上で行方不明になっているということになる。

 

『阿笠博士の家を確認して来たぞ!』

「っどうだった、諸伏さん!」

 

 帰ってきた諸伏さんがドアをすり抜けて居間に入ってくる。

 全力疾走したのか、肩で息をしながら顔を上げる。

 

『阿笠博士の家は留守で、車がなかった!たぶん少年は阿笠博士と出かけてるんだ』

「夕方あの辺りを通った時は車があったぞ?夜になって出掛けたってことか…」

 

 夜、急に阿笠博士と出かけなければならない必要性に駆られたということで。

 つまり事件ということだ。

 

 うーん、そんなことは最初からわかってるんだよなぁ。

 

『これは俺の勘なんだが、たぶん少年は事件に巻き込まれていると思う』

「それは勘なんかじゃなくてただの純然たる事実だと思う」

『そうとも言う』

 

 諸伏さんが重々しく頷いた。

 学校帰りだけでどんだけ事件に巻き込まれているんだ彼は。

 ニャルラトホテプだってもうちょっとインターバルを設けるぞ?

 

 仕方なく、念のため彼の現在の様子を「見」てみることにする。

 

 あまり人の様子を覗くのは好ましくないが。

 流石に彼一人ではどうしようもない状況に陥っていないかぐらいは確認しないといけないからな。

 

 映った視界には、散らばった調度品と大きな本棚。そしてあちこちを行き来する鑑識さんやら警察官が見える。

 どうやら、誰かのご自宅で、飛び散った血痕からそこで事件が起こったことが察せられた。

 いや死体あるし普通に殺人事件だわ。

 

 その部屋の中を練り歩いて思考に耽る小さな姿が一つ。

 コナン君だ。

 

 俺は思わず上擦った声を上げた。

 

「あっ、いた、静岡だ!ここから車で三時間!」

『いやどこまで行ってんだよ少年は!もう今晩のご飯用意し終わってるのに!』

「まぁ、一緒に阿笠博士もいるみたいだからひとまずは安心かな。夜ご飯には間に合いそうにないし、俺らだけで先に食べるとするか」

『ったく…少年てばそういうとこあるよな』

 

 諸伏さんがぶつぶつと言いながら皿を電子レンジにかけ始めた。

 明美さんが「私も手伝うわ」と言いながら台所に向かう。

 俺は食後の皿洗い係なので、まだ今はのんびりしていて問題ない。

 

 ……俺としては。

 コナン君と一緒にいた、小さな女の子のことが気がかりだ。

 肉体は小学生の女の子のように見えたが、その魂も経過した年月も、彼女が女子高生相当の年齢であることを示していた。

 その上、魂の形質は明美さんそっくりと来た。

 

 まだ口に出すことはできない。

 確定事項ではないことを、軽々に発言することは憚られたからだ。

 

 諸伏さん特製のハンバーグをダイニングテーブルへと運んでくる明美さんの様子をじっと確認しながら。

 

 俺はじっと彼が帰ってくるのを待ったのだった。

 

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