マモーさんが我が事務所に帰還した!!
めちゃくちゃニコニコ、有頂天といった感じでスキップしかねんばかりのテンションだ。
「我が神よ!長く御身の側を離れていたことを謝罪いたします!」と直角にお辞儀。
黒スーツの部下に持って来させたお土産を渡してくれる。
お土産は美味しい銘柄牛のシャトーブリアン詰め合わせだった。
3kgはある。A5等級松坂牛だ。
俺は喜び勇んでそれを受け取り、冷凍庫に詰め込んだ。
入れる場所が足りなかったので、魔術で空間拡張と温度操作を併用して丁寧に入れていく。
へへへ。これならしゃぶしゃぶかな。嬉しい!
ふと見るも顔の横に星の精がやって来ていた。
俺を凝視して「グスッ…グスッ…」とブツブツ文句を言っている。
星の精は食べれないのに…お前達だけ美味いもん食う……。
非常に恨めしげだ。
「す、すまん。星の精にも美味しい血液を用意するから」
【グスッ】
ぶつぶつ言いながら星の精は去っていった。
あいつ抜け目ねぇな。
コナン君がマモーさんに声をかける。
「久しぶりマモーさん。仕事の方は落ち着いたの?」と優しくその仕事を労っているようだ。
マモーさんも肩の力を抜いて微笑んだようだ。
「短期的には、と言ったところだよ。やはりフリンチには胆力が足りない。平時の運用はうまくやるのだが」
「部下さん?」
「ああ。元は用心棒だったのだが、意外と良くできた男でね。奴にもう少し局面決断力があれば言うことはないのだが」
悩まし気に眉間に皺を寄せているが、おそらくその求めるレベルは極めて高い。
マモーさんは本物の財界の帝王だ。
その決定一つで世界が動く、と言って過言ではない富の結節点。
後継者の決定にはそれはもう苦労が尽きないことだろう。
ギリ…と歯軋りしたマモーさんが「米国のテック新興企業どもがデカい顔をするものだ…!敵対的買収などと、片腹痛い!」と憎々しげにしている。
どうやらいくつもの戦いがあったようだ。
バベッジ・インコーポレイテッドが迷惑をかけたのだろう。
俺もぺこりと頭を下げておく。
マモーさんがビョンッ!と跳ね上がって「神が頭を下げるなど!私めの言葉などで神の心を苛んだ罪をお許しください!!」とコメツキバッタと化す。
星の精が俺たちの謎の挙動に「クスクス…?」と遠巻きに心配そうに眺めている。
マモーさんがおや、とコナン君の影に隠れる星の精を見た。
星の精はマモーさんの視線に気付いたらようだ。
そーっと近寄って、触手を一本差し出す。
そして困惑するマモーさんの手にぴたりと当てて。
そのままシュッと撤退。
触手を使って器用に空中を二足歩行でダッシュして、コナン君の後ろに隠れる。
「クスクス!」と触手をちょろっと出してマモーさんを観察し出した。
随分と恥ずかしがり屋になったものだ。
久しぶりに会って挨拶したかったのかもしれない。
マモーさんはパチクリと瞬いた。
「あの星の精は随分と人慣れしましたね…。動きがかなり人臭い。触手で二足歩行しようとしてる星の精は初めて見ました」
「最近は僕と学校にも一緒に行ってるんだ。その影響もあるんじゃないかな」
「なるほど。神の寵愛を得るためには人を真似るのが一番だからね。賢い個体のようだ」
マモーさんはうんうん頷いた
「神に最も愛されているのは我ら人類である」という自負と自信に満ちているようだ。
間違いでないので俺も同意してうんうん頷く。
やっぱ最強の生物は人だよ人。人しか勝たん。
だってもう存在してるだけで「守護らなきゃ!」の精神に湧き上がってくるもん。
人よ永遠に栄えあれ。
コナン君がジト目でこっちを見ているが、見ないふりをしておいた。
と、そのあたりで今日の勤務を終えた諸伏さんが帰宅してきた。
「ただいまー、まだ事務所開いてたんだな」と行ってトコトコ事務所内に入ってくる。
帰り際に事務所にある資料を取りに来たのだろう。
『あ、マモーさんだ。お久しぶりです』
「君も相変わらず強靭なようで何よりだよ。ああ、ついでだからお土産を渡そう」
そう言って諸伏さんに宝石の付いた古いネックレスを渡した。
「なんだこれ?」と言って諸伏さんがなんとなく首にかける。
「不老不死を授けるネックレスだ。もっとも、肉体的不老不死なだけだから、現代の猿が我々ハイパーボリア人程度の寿命を得るだけに過ぎないが」
『さらっと凄いものお出しされた件。急に一体なんで?』
「私のかつて廃棄した拠点に猿顔の盗人が入ってね」
その言葉で俺もピンと来た。
ルパン三世がマモーさんの旧拠点に侵入して盗みを働いたのだ。
ルパンは怪異の品も意外と果敢に盗むからな。
盗むこと自体が目的のようで、手に入れたものはどんなに貴重で強力でも死蔵したり世に流したりするだけ。
彼自身神話的事象にも非常に詳しい。
俺が前に依頼したヴェスパニア鉱石失効に伴う怪再封印業務も無事完遂してくれたし。
世界の頂点に位置する探索者であると言って過言ではない。
今回もそうした挑戦の一つだろう。
迷惑そうな顔をしたマモーさんがため息をついた。
そしてブレスレットの演算と「ハスターの瞳」への接続を通して、小さな画面を目の前に表示させる。
そこに見知らぬ絶海の孤島を映し出した。
どうやらここがマモーさんのかつての拠点のようだ。
ギリシャ神殿のような柱の朽ちた跡、いくつもの建物の痕跡が見える。
「私が昔仕掛けた侵入者対策をうまく掻い潜って私のへそくりを盗んで、モーターで踊り狂う自身の風船人形を30体ほど設置して逃走したようだ」
「ルパンおじさん…いつも通りじゃん……」
『なぜ人形を踊らせるのか、それがわからない』
真顔で諸伏さんが疑問を口にする。
混乱に乗じて逃げる意味もあるだろうが。
単に面白いからという理由が8割ぐらいあるような気もする挙動だ。
相変わらず楽しい人である。
「そんな調子なのでな。もうあの場所を残しておく意味もないし、研究も畳んで後片付けをしたんだ。その時出てきたのがそのネックレスというわけだ」
『なるほど。うーん、兄さんにでも渡しておこうかな』
コナン君が首を傾げて口を開いた。
「マモーさん何か研究してたの?」
「取るに足らない研究だよ。神ならぬ身で自身を神と思い上がった、愚かな足跡だ。恥ずかしいのでどうか触れないでほしい」
「……そっか」
マモーさんは少しだけ名残惜しそうな、しかし後悔を伴った表情で俯いた。
もしかしたら、ハイパーボリアを復興させるための研究をしていたのかもしれない。
この絶海の孤島をハイパーボリアの大陸に準えて、かつての栄光を再現しようとしだろう。
見れば見るほど納得がいく。
あちらの大きな岩はヴーアミタドレス山だ。
都市結界の外ではあったが、その美しい景色から観光名所の一つになっていた。
ヴーアミ族のガイドもたくさんいて、一時期結界が拡張されていた時期もある。
あの出っ張りはムー・トゥーランだろう。
ハイパーボリアの半島で、美味しい海産物を食べる旅館があって、漁業も盛んだった。
美しい瀝青の湖もあって、南方の密林には変な生き物が出るから長らく侵入禁止になってて。
俺は思わず。
そのハイパーボリアの似姿に手を伸ばしていた。
「………へぇ。よくできてるじゃないか。頑張ったんだな、マモーさん」
「自然の地形を利用したに過ぎませんよ。私では神になどなれはしなかったのに」
「ははは。神は大変だからな。仕方ないさ」
俺は苦笑した。
本当にたくさん仕事があったから、マモーさんが音を上げても仕方ない。
演算領域を国民向けに開放していたから夜も寝れないし。
式典やイベントでご飯の時間も年に一回程度しか取れないぐらい多忙だった。
魔術インフラを支えるための莫大なMPを常に供給しているから、体の疲労は取れない。
俺のMPは無限とはいえ、やはりちょっとは疲れるし。
合間に「ハスターの瞳」を更新して外敵に備えて万全に整えておく必要があった。
時折飛来する旧支配者は威嚇して追い払って、定期的な巡回も忘れずに。
ニャルラトホテプに心配されるほど、俺は大変忙しかったのだ。
マモーさんがその身一つで行うのは、ちょっと大変すぎるだろう。
「神よ。貴方の偉大さを感じる日々です」
「嬉しいことを言ってくれるなぁ。長生きしてくれよ、俺のハイパーボリアの、最後の民よ」
「………はい」
マモーさんは静かに跪いて。
神命を受け取るようにこうべを垂れたのだった。
・フリンチ
用心棒をしていたが、才覚を見出され経営の方に引き抜かれた。
命令に従順、基本に忠実だが現場をよく回る性質で配下からの信頼も厚い。
・不老不死を授けるネックレス
マモーさんコレクションの一つ。
これ一つで大国がしのぎを削る、本物のアーティファクト。
この後ニコニコ顔で諸伏さんが兄に渡す。兄流石に困惑。長野組審議中となる。
降谷さんは根本的に諸伏さんに甘いので「そうだな。ヒロのお兄さんに渡すのは間違いじゃない」と後方納得顔する。
・ルパンおじさん
今ちょうどカリオストロに入国したとこ。
次回!カリオストロ編!!!
・ハイパーボリア
明らかにハスターの資源を食い潰している。
とはいえ無限回復する性質上、無限湧きする資源として消費してもハスターはなにも損なわれない。
ただ疲れていつも元気がない高齢男性みたいになるだけである。
ニャルラトホテプは羽虫の世話で露骨に元気がないハスターに暴発寸前であった。