夜半。
カリオストロ公国特殊部隊の手より逃げ延びたルパン達だったが。
突如、変なデカい触手のバケモノに乗って夜空から現れた江戸川コナンに、ルパン達は肝を潰した。
「ルパンおじさん!助っ人にきたよ!」
【クスクス!】
「何から突っ込んだらいいか分かんねぇんだけども!?!?」
それは大型のクマほどの大きさのある星の精だ。
うねうねと臓物にも似た触手をゆらめかせ、獰猛に鉤爪をざわめかせている。
その上のコナンは腰のあたりをシートベルトのように触手でしっかりと固定され、落ちないようになっているようだ。
星の精を汚い靴で踏まないよう気遣ってか、ビニール袋で靴を覆っている。
「化け物!!!!」
「わわわちょっと待って次元、上、上にガキンチョ乗ってる」
「いやむしろなんで坊主が乗ってんだよ騎馬キモすぎだろ!?!?」
ともかく拳銃を向ける次元を落ち着かせて、
コナン達を逃走先で仮に取った部屋の中にこっそり案内する。
コナンが降りるとみるみる化け物は萎んで、コナンの頭に乗るぐらいのサイズになった。
クスクスと笑って、コナンの服の大きなポケットに入り込む。
次元が心底疑問に満ちた声を出した。
「坊主お前、乗れりゃなんでもいいのか?オッサンでも化け物でも肩車できりゃえり好みしないとかか?」
「パパってばひどい!コイツは賢いし平気だよ」
「平気な見た目じゃねぇんだよなぁ」
悪口を感じ取ったのか、ポケットの中の星の精が「ゲタゲタ!」と声を上げた。
人間が胸を張るようなポーズをする。
どうやら恥じらう部分など何一つないと主張しているようだ。
ルパンは遠巻きにそれを見て眉間に皺を寄せた。
コイツ甘やかされて育てられてんな、と思うなど。
星の精は置いておいて、改めてルパンはコナンへと向き直った。
「で、何」
「ニャルさんがまたおじさんを使ってゲームを企画してるからさ。連絡にきたの」
「なるほど。また神々のゲームの駒ね。やんなっちまうぜまったく」
ルパンの大きなため息に、コナンは苦笑してベッドの端に座ったようだった。
ぎし、と安宿のベッドが軋んでいる。
「結論だけ言うと、おじさんがゲームの目標を達成しないと人類は滅ぶ気がする」
「あのー。俺今忙しいんだけど」
一瞬痛みを堪えるような顔をして、コナンは俯いた。
そして迷いを含んだまま、口を開く。
「ニャルさんは『お姫様の救出』をゲームの達成条件にしてる」
「───…」
一瞬出してしまった殺気混じりの怒気に、コナンは怯んだようだ。
怒ったバケモノがニュルっとポケットから出て来て、ルパンを注意するように鳴き出す。
【クスクス!クスクスクス!!】
「お、おう…悪かったな変な空気にして」
【クス!!!】
「いいよ。僕も少しデリカシーに欠けた言い方だったし。同じ立場だったら怒ってたよ」
そう言ってコナンはバケモノを宥めた。
化け物は「今日はこの辺にしといてやるけど、気をつけろよおまえ!」とでもいいたげな様子でポケットの奥へ引っ込んでいった。
なんというか、あまりに人間臭いバケモノである。
次元も柄にもなく熱くなったルパンに、タバコをふかしたまま椅子に気だるげに腰掛けて声をかけてくる。
「落ち着けよ」と。
一言だけだ。
ルパンは頭をかいて再び重く息をついた。
怪異相手に焦っていいことは何もない。
コナンに菓子をいくつか放って、「夜食だ。受け取っとけ」と言い放つ。
コナンは不服そうな顔をしてバケモノがいるのとは別の、ズボンのポケットに菓子をしまった。
「で、詳しく聞きてーんだけど?」
「うん。ゲームの話を聞いたのは僕もいまさっきなんだけどね」
ゆっくりと話を聞いていく。
ルパンに課されたクリア条件は意外とシンプルだった。
条件は一つ。クラリス姫が解放されること。
この解釈は多数あるが、邪神は「今生の生からの解放でも構わない」とそのクリア条件の幅を認めている。
少なくとも強くクラリス姫自身が解放されたと思うことが必要なようだ。
「最初は『カリオストロ公国の消滅』って内容だったんだけど、黄衣さんにポカンってやられて改めたんだ」
「もうちっと奥さんの制御をなんとかしてくれよぉ!俺の都合もあるし!」
「うん。黄衣さんああ見えてニャルさんにめちゃくちゃ甘いから…」
全く迷惑な夫婦神であることよ。
結婚の際は、ルパンも結婚祝いを贈っている。
知らぬ仲ではないし、あの神らしいちょっとばかりズレた性格も嫌いではない。
ただ、神であるが故の桁外れの迷惑具合は何とかして欲しい限りである。
ルパンは侵入用の道具の点検をしながら言葉を重ねる。
「クリア条件はわかった。あとのルールは?」
「おじさんが死んだらゲームオーバー。時間制限は『クラリス姫が結婚するまで』。細かいポイント加算はあるけど、おじさんに影響はないから気にしなくていい」
「オーケー。で、ガキンチョが助っ人になる意味は?」
「城内には怪異が山ほどいるから、僕が魔術係として参加できるよう交渉したんだ」
ルパンは口をへの字に曲げた。
「やなんだけど。俺様またガキンチョ装備して掲げながら城の中歩くの?」
「その使い方以外もできるでしょ!!変な生き物退散させるとか!」
「うーん。まあいっか。落っことして来ても死にはしないし」
「扱い雑!!!」
ルパンは仕方ないことだと自身を納得させた。
取れる手数が増えるのは良いことだ。
今回はクラリスの身が危険だし。時間もない。
プライドやスリルを持ち出す場面ではない。
「次元、明日の深夜だ。いけるか?」
「おうよ。坊主は気にかけない、で良いんだな」
「ガキンチョが死ぬ頃には俺らも死んでるから問題ねぇよ」
「ガキに何持たせてんだよ」
「まったくだ」
「聞こえてるよそこ!」
そのように、ルパン達は粛々と準備を整えていったのである。
その頃。
俺たちは未曾有の危機にあった。
「にゃ、ニャルーーーッ!?!?」
突如激怒と共にヨグ=ソトースが顕現。
事務所内でワクワクとゲームを見守るニャルを爆散させたのだ。
もちろん現場は大混乱。
ニャルは派手に虹色に光って消し飛び、事務所中に飛び散る虹色のシミとなった。
無論俺が皆の目に入るより早くSAN値防護壁を作成したから魂は無事だが。
何が来たのかを悟ったマモーさんは腰を抜かしてしまった。
驚愕と恐怖に降谷さんも凍りついている。
次いで、ヨグ=ソトースはハッと気づいたように動揺に蠢いた。
なにやら俺を見て焦っている…ように見える。
そしていそいそとニャルの肉片を集めて、こねこねと固め出した。
出来上がったのはニャルっぽいナマモノだ。
見た目はほぼニャルラトホテプのいつもの姿だが。
何故か狐耳で巫女服を着ている。
そしてにこー!と微笑んで俺に擦り寄った。
「ニャル!お前無事か!?」
「にゃるー!にゃるー!」
「??????」
ニャルは謎の鳴き声をあげて顔をくしくしした。
助けを求めるようにヨグ=ソトースを見上げたが、父なる神は誤魔化すように俺をコロコロと手の中で転がして、すぐに去っていった。
残されたのは「にゃるー」と鳴く巫女服狐耳のナマモノと、虹色のシミだらけになった事務所のみ。
青白い顔の諸伏さんが「アレ、何だったんだ?凄まじくやばい気がしたんだが」と震えて机の陰から顔を出す。
驚愕に荒い息のマモーさんがヨロヨロと立ち上がった。
「アレは神の父君たる時間の大神。この世に横たわる時間そのもの、ヨグ=ソトース…ですよね」
「ああ。ニャルがまた相当やらかしたんだと思う。まさかこんなところに極小顕現してまで処しに来るなんて」
また混沌の宮殿で柱を一個ずつ爆破する遊びとかしたんかな、と俺は疑うなどした。
ニャルの悪行は数限りないからな。
心当たりとか数えてたら日が暮れるどころか人類が滅亡する。
変なナマモノと化したニャルに「そこんとこ実際どうなの?」と聞いてみる。
ニャルは「にゃるー!!」と元気よく答えて手を上げた。
可哀想なことになってしまったようだ。
こんなことされる罪ではないとは口が裂けても言えない悪神だったけど。
でも可哀想なのには変わりはないのだ。
俺が涙と共にわしゃわしゃ撫でてやれば、「にゃるにゃる!」と嬉しそうに尻尾を揺らした。
尻尾あったんかお前。
今までずっと黙ったままだった降谷さんが、絶望の表情で俺のそばまでやってくる。
そしてぼそっと、消え入るような声で囁いた。
「にゃるー……」
───降谷さんッッッ!
声優並みの良い声で降谷さんが悲憤に満ち満ちた鳴き声をあげている。
これは間違いない
ニャルにかけられた改造が伝播して、降谷さんも「にゃる」としか喋れなくなっているのだ。
降谷さんは青ざめたまま、もう二度と口を開くつもりはないようだ。
黙り込んで諸伏さんに抱きついて嗚咽を漏らし始めた。
ニャルがカリオストロに仕掛けたゲーム用の仕込みもまだ残ってるのに!!!
諸伏さんの「ゼローーーッ!?!?」という悲鳴を背景に、俺は天を見上げたのだった。
・ヨグ=ソトース
爆散させた後「息子の嫁がなくなってしまった」と思ってコネコネしてニャルっぽいものを作った。
息子の思考を探ったら、実は巫女服狐っ子が好きらしいのでその辺りを実装した。
ヨシ!現場=ソトース。
・ニャルラトホテプ
にゃるー。
やや意思もある、狐っ子の見た目の猫のようなもの。
飽きっぽくて構われたがりなので撫でないとすぐ大量の触手を出して暴れる。
・降谷さん
にゃるー(絶望)
・星の精
お菓子なら行けるかもしれへんと思って盗み食いする。
そのばん 星の精は おなかがいたくて なきました。