持っていたカップ麺を渡せば、「子供からなど受け取れん!」と銭形警部は慌てたようだ。
しかし盛大に鳴るお腹に言葉が遮られ、銭形警部は非常に恥ずかしそうにした。
依然として拒否を貫いたが、コナンが無言で湯を沸かせば観念したようだ。
魔術で起こした暖かな火を囲んで、情報交換する。
彼は落とされた時に水でぐっしょり濡れていて、服を乾かさねばこの気温だと低体温症になりかねなかったからだ。
まず「何でこんなところに居るのかね」と銭形警部に聞かれたが。
それに関しては笑って誤魔化すことにした。
そこを深掘りされるとコナンまで逮捕されかねない。
銭形警部は困ったように眉をハの字にした。
「ならワシは強くは言わんが。どんな事情があろうと、こんなところ子供がいるべき場所ではない。ワシから離れるなよ」
「ありがとうおじさん」
前も思ったが、この人も正義感のある優しい人のようだ。
目暮警部達と接している時も感じる、人々を守ろうとする意志を強く感じる。
しかしあまり時間はかけていられない。
銭形警部がずるっとカップ麺を10秒チャージして、冷えた体と水だらけの服を乾かす。
コナンが乾燥魔術で乾かせば、「おお、便利だな!ありがとう!」と頭をもみくちゃにされた。
「ともかく、ここは危険だから早く脱出しないと」
「ふむ。なら君はここで待っていなさい。ワシが出口を見つけてこよう」
「……一通り探したけど、普通には出られないよ。多分水の中に出口があるんだと思う」
メモしたマップを手渡せば、パチクリと銭形警部は目をまん丸にした。
「君は本当に賢いな。メシを奢ってもらった礼もあるし、ワシが泳いで見つけよう。恐ろしいバケモノがいるかもしれんしな」
「え、おじさん何か知ってるの?」
コナンが聞けば、銭形警部は難しい顔をして頷いた。
「知っとるわけではないが、こういうところの相場は決まっとるもんだ」とのこと。
巨大なものが石壁を擦ったような跡に視線を向けている。
彼もまた、ここに何かが潜んでいることを理解しているのだろう。
「君もさっき火をつけたところを見る限り、何がしかの技術の使い手のようだしな。その君が危険というのだから、本当に危険なんだろう」
「……うん。まだ平気だけど、長居は良くないかな。探してくれるなら、おおまかな探索は僕がするよ。怪しい箇所があったら防水の魔術をかけるから、おじさんにお願いしてもいい?」
「もちろんだとも」
と、そのように約束したあたりのことである。
上から水と共に流されて来たのは、ルパン三世であった。
ちょうど頭上から水を浴びて再びびしょびしょになった銭形警部は瞬時にいきりたった。
「ルパンっっっ逮捕だ!!!」と怒鳴りつけるが、ルパンはひっかけ鉤でするすると上に逃げた。
「お、とっつぁんとガキンチョじゃん?なんで仲良さそうなのよ」と奇妙なものでも見るようにニヤニヤしている。
銭形警部がさらにヒートアップした。
「何だルパン!?まさか貴様がこの子を連れてきたのか!?」
「成り行きってやつだってば。自由行動、自由行動」
「ルパンおじさんの方は収穫あった?」
「んー、クラリスには会えた。やっぱあの伯爵はクラリスの指輪を狙ってたみてぇだな、ぐらい?」
ふむ、とコナンの方も頷いた。
クラリス姫がルパンに託したのは、カリオストロ家に伝わる指輪らしく。
それがどういう意図で狙われているかは定かではないが、覚えておいても損はないだろう。
まだ銭形警部は納得していないらしく、ルパン!!!と声を上げている。
それをコナンがなだめようとした。
その時である。
地下空間全体が激しく揺れて、上からパラパラと土と埃とが降って来た。
瞬時に銭形警部が火を消して、姿勢を低くとる。
ルパンもロープを回収して物陰に隠れたようだ。
コナンも慌てて、魔術を装填。
基礎的な防護の魔術と暗視の魔術を、自身と星の精、銭形警部、ルパンにかけ直した。
銭形警部が明瞭になった視界に、少し驚いたように目を見開く。
揺れは足音のようだった。
二足歩行の巨大で重量のあるものが、ドシドシと足音を立てているように感じる。
だんだんと揺れの元はこちらに近づいて来ているようだ。
コナンは切迫した声を出した。
「逃げよう!このままじゃ見つかる!」
「いや、どうやら奴はワシらを既に見つけとるようだ。真っ直ぐにこちらに向かってきとるな……!」
「な……!」
「そうだな。オレらめがけて一直線。人気者はヤんなっちゃう!」
行動を選択する暇などなかった。
瞬間、あまりにも巨大な手が壁の角を掴んで、ぬうっとこちらを覗き込んでいた。
それはおおむね緑色の、粗くくり抜いた石像であった。
人間の体に似た二足歩行に象の頭。
鼻の先端からは乱杭歯が生え、獰猛に蠢いている。
四本の牙は透き通った水晶のようだ。
黄金で装飾された腕輪を何重にも嵌めて、それは鼻を不気味にこちらへと向けた。
インド神話の神ガネーシャに似ているが、その邪悪な圧迫感は善神とは程遠かった。
腕輪から通知が脳内に届く。
『敵性旧支配者を確認しました。識別名:チャウグナー・フォーン』
『現在の防壁は最低要求防護基準に達していません。防壁を更新します』
『敵性旧支配者の状態を確認:限定的仮顕現。退散可能。退散儀式装填。発動まで180秒』
コナンの腕輪が編む術式を、象の化け物も見えているようだ。
ニタリ、とそれは実に人間的な嘲笑を浮かべた。
まずい。
直感だけに従い、コナンは手動で退散儀式を停止させる。
コナンは手動で魔術の解析を起動する。
顕現に使っている魔術の詳細情報を取得させていく。
それが旧支配者チャウグナー・フォーンは気に食わなかったらしい。
その巨大な鉤爪の生えた手を雑に振り下ろして、コナンを引き裂こうとした。
咄嗟に庇ってくれたのは銭形警部だった。
「とっつぁん!!」とルパンが叫ぶ。
銭形警部にかけたはずの障壁を軽々と削り取って、コナンを庇って飛んだその背中には血が滲んでいた。
どうやら自動更新されたのは自分の障壁だけだったようだ。
コナンは歯噛みした。
もし銭形警部が庇ってくれなかったら、腹ポケットに隠れていた星の精が死んでいた。
同じものを銭形警部達にかけ直そうにも、こんな高度な障壁を自分ではかけられそうにない。
銭形警部がスッパリと切られた背中を押さえつつ、コナンに声をかける。
「いちち。大丈夫か君!」
「お、おじさんは無事なの!?」
「かすり傷だ。それより、あの怪物は真っ先に君を狙った、何かわかったのか?」
コナンのかけた魔術の解析結果は既に出ている。
再びのっそりとチャウグナー・フォーンはコナンに狙いを定めているようだ。
石像の視線がコナンを捉えている。
あの怪物は現在、限定的仮顕現状態にある。
つまり石像に姿を宿しているだけで、ほんの僅かしか力を振るえてない。
だからコナン達はまだ生きていられる。
解析でわかったのは、本当の退散条件は「ゴートの秘宝が顕になること」らしいということ。
それが何を意味するのかまでは、コナンには分からなかった。
コナンは星の精を大きくして、その上に飛び乗った。
意図を理解してルパンも続けて後ろに乗る。
「話は後!おじさんも乗って!!」
「ぬわぁぁあその化け物なんだァ!?」
「早く!!」
銭形警部を引き上げて、急いで上へと緊急避難する。
水の中の正式な脱出路を探る暇なんてない。
乱暴だし見つかる危険があるが、入ってきた落とし穴の床を魔術でぶち破るしかない。
チャウグナー・フォーンは深追いするつもりはないらしい。
上へ上へと上昇するコナン達から視線を逸らし、そのままのっしのっしと巡回ルートに戻って行った。
哀れなほど怯えた星の精は触手を全部しおしおにして、まるでイカの干物のようになってしまっている。
全身ブルブルしてスマホのバイブのようだし、クスとも言わない。
それでも懸命に上に向かって飛んでくれている。
後でいっぱい撫でてお礼を言わなければならないだろう。
素早く透明化したまま、床をぶち破って地上階に出る。
上にいた衛兵が、突然吹き飛んだ床にびっくりして右往左往している。
音を聞いて外からも衛兵が駆け込んできたのはこちらとしても好都合だ。
浮遊して扉をぬけて外に出れば、あとは夜の空が広がっているのみだ。
タイミングが悪くて穴に逆に落ちてしまう人はいなかったようで、それもコナンを安心させた。
とりあえず屋根の上に降りて、コナンは星の精を縮めた。
一息つくことができそうだ。
星の精は心に深い傷を負ったようで「クス…クス…!」とピィピィ泣いてコナンに縋り付いて来た。
よしよしとたくさん撫でてやる。
ルパンが「なんっだあのバケモン。絶対やばい奴だろ」と大袈裟に震えている。
いや、大袈裟でも何でもないことはコナンにもよくわかった。
あれは本来なら地表の文明を軽々と吹っ飛ばせるものだ。
今自分たちが生きているのは、あれにやる気がなかったからでしかない。
「まだ不完全だったよ。あれ。そしてきっと、ルパンおじさんにむけた魔王というギミックの一つだ」
「………へぇ。具体的には?」
コナンの言葉に、ルパンが挑戦的に微笑んだ。
一つ目は、あの姿のまま退散されること。
二つ目は、クラリス姫が「解放された」と確信をせずにこの城を出ること。
三つ目は、あの怪物に規定人数が捧げられること。
「この条件のどれかを満たせば、あのバケモノは完全体になる。つまり」
「……世界の終わり、ね」
ルパンは肩をすくめて戯けていった。
外の世界で自由を体感して、その上でゆっくり解放されたと思ってもらうことはできない。
今この場で一切合切跡形もなく吹き飛ばしてようやく、お姫様は城を出ることを許される。
それを違えれば、お姫様とともに世界は滅びるのだと。
コナンは残酷に事実を告げることしかできなかった。
・裏ボス、チャグナーフォーン
生物に試練を課すのが好きな魔王系旧支配者。
ニャルの無茶振りに仕方なく付き合ってる被害者でもある。
これはお前の指示なんだからハスターにぶっ殺されたりしないな?いいんだよな?と千回ぐらい確認した。
・故にゃるー
本人に聞いてないけど多分大丈夫やろ!(適当)
・降谷さん
今はにゃるーに頭から食いつかれて白目剥いてる。
どうやらにゃるー的には親指しゃぶるぐらいの気持ちのようだ。ガジガジされている。
降谷さんは人間体が半分解け、黒い風状態で諸伏さんに泣きついた。
「にゃる…にゃるー…(泣)」
『おおゼロ、大変だったな。よしよし』
・ハスター
不機嫌だと触手を出して派手に暴れるにゃるーを頑張って宥めている。
事務所内はもうめちゃくちゃ。
現地の状況をハスターの瞳で確認しては、ハラハラして青ざめる今日この頃。
絶対あの象野郎ぶっ殺してやる。ぶっ殺してやるからな。