今日は長野県へと出張である。
しかし降谷さんも諸伏さんも仕事で都合がつかないらしい。
警察組織を上げて今後の怪異対策の計画を提出するのに大忙しだとかで。
一週間は事務所に帰ってこれないとのこと。
マモーさんもEUの非公式緊急理事会に呼ばれて、怪異についての意見交換をするようだ。
非常にブツブツ言っていかにも渋々と言った様子で出国していった。
つまり事務所には俺とコナン君しか居ないというわけだが。
だというのに、黄衣探偵事務所の今日の依頼は「4人で来てくれ」とのオーダーである。
そんなわけで、現在のパーティメンバー。
すなわち銀髪マフィア、その子分の黒服、俺、コナン君の四人が集まったのであった。
現在は電車に揺られて、みんなで平和にトランプでババ抜きしている最中だ。
マフィア二人は偶然この近くで仕事があった帰りで、俺のSOSを受けた降谷さんが代わりに送り込んできた人員である。
「彼らのあるところに事件あり。有事の際は頼んだ」とのこと。
銀髪マフィアは真剣な顔で気合いを入れ直したようだった。
あんまり交流のないメンツでの仕事になる。
なので、ちょっとした息抜きになるかなと俺はトランプを提案したのだ。
残念ながらコナン君は全力で訝しげな顔をした。
いいだろ、一般人二人、元マフィア二人の組み合わせならいつも通りなんだし。
もちろん俺はどこに出しても恥ずかしく無い一般人である。えへん。
コナン君の腹ポケットに入ってる星の精はちろっと触手だけ出している。
どうやら自分の分のトランプが配られるのを待っているようだ。
よしよし、五人でトランプをしようね。
俺はみんなに切った順にトランプを配り、よし、と頷く。
銀髪マフィア───そろそろ名前を覚えろ、と言われたのでジンと呼ぶことにする───が眉間に皺を寄せて口を開いた。
「いや、テメェは全員のトランプの中身を見るぐらい容易いだろうが」
「失敬な。俺はズルなんてしないぞ。ピンチの時はその限りでは無いけど」
「お話にならないにも程があんだろ」
ジンはムスッとして、そのまま疲れ切ったため息をついた。
子分が星の精の触手を見て怯えて「兄貴…なんかガキのポケットから変なのが…」とか細い声を出している。
「無視しろ。そういうポケットと思え」
「なるほど、うっす兄貴!」
「逆にその説明でいいことあるんだ…」
「兄貴の言うことはいつも正しい。アンタもすぐにわかるだろうさ」
子分はうんうんと頷いてジンの言葉を噛み締めている。
どうやら並々ならぬ深い信頼がそこにはあるようだ。
プロ探索者といくつもの鉄火場を潜ったなら、そりゃその判断の正しさは骨身に染みてはいるだろうが。
でも説明雑だろ。
最小限大事な部分、すなわち無害であることと深入りしてはならぬことは伝わっているけど。
コナン君はひたすら審議中の顔を繰り出している。
喜んだ星の精がクスクス忍び声を出して自分の手札をコナン君に見せた。
見て見て!星の精の手札!と嬉しそうにしている。
コナン君は穏やかに笑って「他の人には見せちゃダメだよ。自分だけで頑張って考えられるかな?」と星の精を撫でた。
星の精はハッとして「クス!」と自分の手札をポッケの中に引き込んだ。
準備し終えたらみんなでじゃんけんだ。
星の精はじゃんけんも覚えたらしい。
触手でいい具合にチョキを作って、ジャンケンが始まる前に意気揚々と先出しする。
可哀想なので俺はパーを出した。
コナン君もパーだ。
その結果、ジン、子分、星の精、コナン君、俺の順番となった。
なんとも重い空気の中、沈黙のババ抜きが淡々と進んでいく。
ゲーム選択ミスったかな、と一瞬思ったものの、じきに意外と面白い組み合わせだと判明した。
まず、子分がババを配られたらしい。
いかにも引いてほしくなさそうに一枚をカードの後ろに隠すなどして、ジンに手札を引かせている。
ジンはそのあまりにわかりやすい仕草に逆に動揺して、引くカードに悩んでいるようだ。
星の精はコナン君から目的じゃ無いカードを引くたびに「どうして星の精にこんなに酷いことするの…」みたいに悲しげにクス…と鳴くのだ。
コナン君は一枚引くたびに星の精をたくさんヨシヨシした。
そして数周した後、ついにババがジンに移る。
子分が「すまねぇ兄貴ッッッ」と迫真の悲壮な顔になった。
ジンは軽く笑って「おい、見るなよ。見たら脳天吹っ飛ばすからな」と俺に軽口を叩いた。
俺もニヤリとして軽口を返す。
「場合による。俺の瞳は全世界を観測してるし、うっかり目に入ってしまうのはセーフとする」
「セーフの要素が一ミリもねぇ」
「兄貴がこんだけクリーンなゲームをしてるってのに!とんでもねぇ野郎だ!」
「黄衣さん流石にそれはずるいよ」
【ゲタ!】
みんなの総攻撃を喰らい、俺はしょぼしょぼと退散した。
クリーンなゲームを意識して、俺もいそいそとハンカチで目隠しなどしてみる。
ジンとコナン君が白けた顔をしてフーンと声を揃えた。
星の精は納得してくれたらしく、「クス!」と触手を振ってくれた。
コナン君がすかさず「黄衣さんは目を隠しても見えるからズルなんだよ。星の精は騙されちゃダメ」と声をかける。
星の精は騙されたことにショックを受けたらしい。
「ゲタゲタゲタ!!!」と俺をペシペシ触手で叩いて叱った。
すまんて。冗談だってば。
一応だんだん空気はほぐれて来たようだ。
子分が少し迷って、チラチラとコナン君を見ながら慎重に言葉を落とす。
「ガキ、お前生きてたんだな」
「………なんのこと?」
「どういう理屈かしらねーが。お前工藤新一だろ」
子分はおっかなびっくりで星の精のカードを一枚取って、そのまま手札を二枚捨てる。
ショックを受けた星の精が「ゲタ!?」と声を上げた。
ジンは困惑に眉を顰めて聞き返す。
「どういうことだ」
「兄貴が関わるって決めた時点で、俺も念の為ちょいと調べたんだ。で、アイリッシュが根城にしてた場所の片付け中にちょいとな」
子分の言葉に、コナン君はトランプを構えたまま静かに目を細めた。
つまりアイリッシュが集めた工藤新一=江戸川コナンの証拠を、そっくりそのまま子分は掴んでいるということだ。
彼は工藤新一として、油断なく子分を見上げる。
「それで、俺の正体を知ってどうする気だ?」
「別に恨むんなら俺を恨めってだけの話だ。兄貴は俺の尻拭いをしたに過ぎねぇんだからな」
俺の順番が回ってくる。
ジンからカードを引けば、それは見事なまでにババであった。
俺はガックリと崩れ落ちた。
このマフィア、ポーカーフェイスが上手すぎるだろ。
ジンが俺を鼻で笑っている。
てめー俺が魔術を使わなかったのをいいことに!
コナン君は子分の言葉に困惑したようだ。
眉間に皺を寄せて、少しだけ迷ってから口をへの字に曲げる。
「都合が良過ぎない?いやまぁ、僕も犯罪者相手にバレバレな尾行してたけど」
「おい、その言い方だと尾行に気付かなかった俺がバカみたいに聞こえるじゃねぇか」
「あー、あれか。実際あの失態がお前以外だったなら処分してたとは思う」
ジンも話を聞いていてようやくどの件か思い出したのか、しみじみと頷いた。
子分はいろいろ複雑な「兄貴!!!」という声を上げた。
コナン君は色々な思いを飲み込んでから、深くため息をついたようだった。
「僕は勉強代ってことで飲み込んでるけど、他は責任持てない。それだけは覚えておいて」
「おいおい、お礼参りは適切にしねぇと身を滅ぼすぞ?」
「裏社会理論はわかるけど、僕の肌には合わないってだけ」
割と本心で心配した様子の子分に、コナン君は憂鬱な色を濃くした。
人に歴史あり、なんてコナン君は嫌というほど理解しているだろうが。
自身の仇にそれを感じてしまうのは、どうしても納得しきれないものがあるのだろう。
次はコナン君の番だ。
俺は正々堂々六枚のカードを突き出した。
コナン君はまじまじとカードを見て、ジロリと俺を睨んだ。
「カードに魔術が付いてるんだけど。引いた瞬間ババと入れ替わるとか無いよね?」
「何故わかったし」
「反則負けにするよ。早く解除して」
「はーい」
俺は渋々カードの魔術を取り除いた。
コナン君が引いたカードは普通の数字カードであった。
揃ったカードをコナン君がパタリと脇によけた。
なんたること。
友達の手札が順調になくなっていくことが嬉しいのだろう。
星の精が「クスクスクス!」と上機嫌に小さな声で鳴いたのであった。
・その頃のニャル
何しても怒らないハスターが今回ばかりはちょっぴり怒ってるのをだんだん察知して、壺の中でめそめそ泣いてる。
お通夜状態。
しょげかえってしなしなになっている。
何がダメだったんだろ…この間の渋谷爆破ゲーム?それとも100層ダンジョン?
チャウグナー・フォーンは軽い遊びだし…うーん。
わかんない…もう我が夫は僕のこと嫌いになったんだ…(号泣)
・ハスター
ニャルが壺の中でしおっしおになって震えてるのを次の巡回で発見したら、仰天して抱きしめてたくさんヨシヨシする。
人間をダメにする神としてわかる通り、基本的に好きなものを無限に甘やかす駄目神である。
・ウォッカさん
兄貴が化け物の一派に恨まれることだけはあっちゃならねぇ!の精神。
そして意外と兄貴と友好関係なことを理解して、「でもコケにされたらメンツのための殺しを躊躇うのは自分の為にならねぇぞ?」と素で心配してる。
親切なマフィア概念。