ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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36マスの完全犯罪〈神の価値観〉

 

 立て続けに二件の連続殺人未遂があったなり。

 

 現在は二人とも治療を受けて、礼拝堂のベンチで安静にしている。

 コナン君がその片方、毒殺されかけた男性に声をかけた。

 

「おじさん、平気?」

「ありがとうボウヤ。本当に死ぬかと思ったよ…」

 

 毒を胃液と共にあらかた吐き出した男性は「もう水もおちおち飲めそうにない」と項垂れている。

 もう一人は後頭部を押さえて「うう、たんこぶができた」と呻いている。

 

 一人目はこの廃教会を探索中、ボウガンで頭を貫かれかけた。

 

 しかし俺が「被害を逸らす」魔術をあらかじめかけてあったので、矢は逸れて男性の耳を掠めるようにトイレの壁へと突き刺さった。

 

 しかし、その拍子に驚いて転けてしまったらしい。

 男性はトイレの壁に頭を打ちつけ、こうして萎れているというわけだ。

 

 二人目は飲み水に毒を盛られたようだ。

 発見が早かったのもあり、俺が慌てて毒を吐き出させて、薬と言い張って魔術による浄化を仕込んで無理やり持ち直させた。

 青酸系毒物のようだが、死んでないならいくらでもやりようがある。

 

 一命を取り留めた男性は、喉は乾いているもののもう何も飲む気になれないらしくげっそりとしている。

 

 証拠はジンの方で保管してもらった。

 コナン君は既に犯人の目星がついているようで、怜悧な瞳で犯人を見つめている。

 暗号も読み解けたらしいし、ますますコナン君の頭脳が冴え渡っている。

 まあ、今回の場合は犯人は分かったも同然だしな。

 

 俺が「天候を変える」魔術で外を晴らしたから、あと30分もすれば警察も到着することだろう。

 

 立て続けの犯行阻止に、犯人であろう男も露骨に動揺している。

 その様子はあまりにも露骨で、皆が男を見つめて心配そうにしている。

 

 そして同時に、犯人はわかっているのに誰もそれを指摘しないことに苛立っているようだった。

 

 「何か言いたいことがあるなら言えよ!」と逆上して立ち上がる。

 皆が「やっぱりミッチーのことで」「でもいったいなんで…」と動揺した。

 歯軋りする犯人に、ジンがばっさりと宣言した。

 

「テメェしか飲み水には近付いてねぇ。被害者の証言もある。獲物が生き残ったのが想定外なのは分かるが、もう少し賢しく立ち回れねぇのか」

「俺は殺してない!誰かがこの廃教会に潜んでて、そいつがやったに違いないって言ってるだろ!」

 

 どうやらこうして逆上して見せることすら作戦のうちのようだ。

 まだ何かを狙っているようで、意外とクレバーなやり方に俺は感心した。

 

 と、そのとき。

 扉が控えめにノックされた。

 

 ありえざる第三者の証明に、皆が凍りついたようだ。

 

【ご めン くださ い】

 

 不自然にざらついた声色が、扉越しに廃教会の礼拝堂に響く。

 飾られたままの十字架がピシリとひび割れた。

 どうやらうっすら簡易結界の機能があったようだ。

 それで怪異がわざわざノックなんてしたのか。

 

 想定外の事態に青ざめた犯人は、しかしすぐさまそれを利用しようと思考を巡らせたようだ。

 「ほらみろ!言ったじゃねぇか!」といきりたって喚き出す。

 

 だがこいつは流石に招かれざる客過ぎる。

 

 ここで死の気配がしたから、獲物にありつけるかもしれないと引き寄せられて来たのだろう。

 誤報なんだよなぁ。お前そんなんだからずっとボウズなんだぞ。

 

 ジンが素早く奥の部屋に繋がる扉で子分とコナン君を隠した。

 

 凄い危機回避能力だ。

 この怪異は見られなければ発動しないし、とにかく姿だけでも隠すという方法は実にスマートな身の守り方だ。

 

 犯人がバットを持って扉を開けようとしたので、慌てて制して前に出る。

 

 俺は穏やかに、かつ静かに無機質に声を出した。

 

「ここは俺の生簀です。お帰りください」

【一匹 だケで も】

「お帰りください。熊や鹿でもいいでしょう」

【うまいサカナ あぶ ら がのった とろり】

 

 …………。

 

 俺は冷ややかに、この塵芥を肉眼で一瞥した。

 

「くどい。身の程を弁えろ」

 

 怪異は扉の向こうでびくりと跳ね上がったようだ。

 そのまま慌てふためいて逃げ去っていった。

 

 まったく、とんでもねぇクレクレちゃんだ。

 この星に住まう遍く人間は俺の庇護下にあるというのに。

 勝手に釣っといて盗人猛々しいにも程がある。

 

 いや、まあ、普通に魚釣り下手すぎて腹減ってたのはあるっぽかったけど。

 選り好みせずに普通に熊や鹿を食ってればいいのだ。

 好き嫌いなど俺は知らぬ。

 

 一応、これまでの俺の方針としては弱い怪異はなるべく残すようにしてきた。

 

 細かくて弱いのはたくさんいるし、羽虫にあまり目くじら立ててもどうかと思ったからだ。

 俺が以前ハイパーボリア初期に実施した掃除も、あまりにも被害が出るやつ以外は残す方向で行った。

 

 しかし。

 やはり基準を変更して、人間を殺せるものは一掃するべきだろうかと最近悩む次第である。

 ハイパーボリア時代より人間の守りが弱すぎて、思った以上に被害が出ていたというかなんというか。

 この魚釣り怪異も、あの頃の人間なら絶対釣れない程度の弱小怪異だし。

 

 俺はため息をついて頭をかいた。

 

 異様な空気に皆無言になっている。

 犯人が「お、おい、逃げちまったぞ!いいのかよ!!」と俺を怒鳴りつけた。

 

「あれは犯人じゃないからいいんだ。というか、今入ってこられたらこの場にいる人間全滅だぞ?」

「な……それはどういう……」

 

 詳しく説明すると今度は「今回の犯行は怪異の仕業だったんだ!」と言いそうで少しばかり憂鬱だ。

 しかし話をしないわけにもいかず。

 

 口を開こうとした辺りで、バタン、と。

 

 長野県警の面々が踏み込んできた。

 どうやらようやく到着したようだ。

 

 「おい、無事か!?」と長野県警の大和警部が部下を伴って厳しい声を出す。

 すでに被害が出かけたのは連絡済みだからな。

 予定より早いのは、それだけ急いで来てくれたということだろう。

 

 明らかに犯人の顔に絶望が宿った。

 何一つ達成できなかったと、復讐が果たせなかったと唇を戦慄かせている。

 

 そして、凶悪に開かれた目がギラリと輝く。

 

 子分が「おい、下手な動きはするんじゃねぇぜ」とさりげなく動きを妨害する位置に陣取って犯人を牽制した。

 銃こそ持っていないが、その動きはガタイの良さと人相の悪さも相まって非常に威圧的だ。

 犯人は怯んで、「ちくしょう!」と叫んだようだった。

 

 しかし根性のない犯人だ。

 警察が到着してからも平然と連続殺人を続行する屈強な犯人たちを見ているからそう思ってしまうだけか。

 いやどう考えてもそれは犯人がヤバいだけだな。うむ。

 

 一緒に来たらしい諸伏兄が、興味深そうに教会内を見ている。

 俺は念のため諸伏兄に声をかけた。

 

「どうも、諸伏警部。確認なんだけど、ここに来るまでに変な人影とか見てないよな?」

「ああ、こちらもそれについてお話ししようと思っていたところです。遠目から、屋敷を出たところで、ポツンと釣具を持った男性が見えていましたので」

「ああやっぱり。危険な怪異だから退治しておくよ」

 

 まだ諦めていなかったらしい。

 俺は諸伏兄にひっかかっていた釣り針を掴んで、くいっと逆に引っ張った。

 

 どぼんとこちら側に引き摺り込まれた怪異がもがいて手の中に現れる。

 サイズ感は大体90分の1か。

 手の中でそれを弄んで、細い触手でぐにぐにと縛り上げる。

 

 遠目からマフィア二人がそれを注視しているようだ。

 

 面白いものでもなんでもないが。

 そのまま触手でぐるりと囲んで、プチュリと握りつぶしておしまいである。

 怪異は血のような滴る痕跡だけを残して、小さな悲鳴と共に消え去った。

 

 旧支配者釣りをするほどの腕はなかったようだ。

 釣り人が海中に引き込まれて行方不明。

 よくある怖い話だろうよ。

 

 その間にも、ひとまず皆を保護して警察車両に乗せて署に向かっているようだ。

 大和警部が「テメェも来てたのかよ、陣。なんだ、黄衣と一緒とは珍しいな。そっちは舎弟か?」と声をかけた。

 

 ジンは薄く笑って「ああ。似たようなものだ」と返事をする。

 

 その親しげな様子に子分は衝撃を受けたらしい。

 その男は兄貴のなんなのよ!みたいな謎の嫉妬をたぎらせて端っこからハンカチを噛んでいる。

 面白マフィアかな?

 

 諸伏兄がひとつ咳払いをして、大和警部に話しかけた。

 

「敢助君。どうやら今しがた、報告すべきことが増えたようだ。怪異対策課に連絡を入れる必要がありそうなので急ぎましょう」

「あん?なんだ、黄衣がやらかしたか?」

「単に怪異を退治してくれただけのようなので、彼の行動に問題はないかと」

 

 俺への信頼のなさが広まっているようだ。

 大和警部が「本当か?お前あの探偵に甘いしな…」とぼやいている。

 大和警部、諸伏兄の言い争いを迷惑顔で仲裁しながら、ジンはため息をついて子分を呼んだようだ。

 悲しみに暮れていた子分は、飼い主が帰って来た犬みたいなテンションで走り出した。

 

 俺たちもそろそろ教会の外に出なければ。

 

 いつのまにか隣に来ていたコナン君が、静かに俺を見上げる。

 その瞳は静謐で、凪いでいる。

 

「ねぇ黄衣さん。前から思ってたけど、怪異を生かしておいてる理由って何なの?」

「ん?あー、細かい奴を俺が退治しないでいる話か?」

「うん。黄衣さんならどんなに量が多くても地球上のやつなんて一括でプチッとできるだろうに、どうしてかなって」

 

 意外と難しい質問が来た。

 一言で言えば「なんとなく、で、かわいそうだから」に尽きるのだが。

 

 それっぽい理由は無くはない。

 人を守りすぎるのはためにならない、だとか。

 有益な奴もいるから、とか。

 ハイパーボリアの時代は態々退治せずとも被害が出なかった、というのは意外と大きい理由ではあるだろう。

 

 だが一番は………そうだな。

 

「かつてその気もなく人を殺してしまった俺自身への無様な慰め、かな」

「でもその怪異を駆除することもあるんでしょ?」

「そうとも。あまりに見苦しいものは掃除しなければならない」

 

 かつての俺のように、そのつもりもないのに死体の山を作る目障りなゴミは反射的に潰したくなる。

 もしかしたら屈折した自己嫌悪かもしれない。

 長生きすると性格が曲がって良くない。

 

 コナン君は「なら怪異を駆除する条件は何?」と問いを重ねた。

 俺は瞬いて首を傾げる。

 

「どういう意味?」

「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。怪異はどう裁いてるの?」

 

 コナン君にとって、それは当然の問いだったのかもしれない。

 これまでの俺の判決を総合して疑問に思ったからだ。

 「法則がわからない」と。

 

 それは当然でもある。

 

 俺は頷いて、しっかりと答えた。

 

「なんとなくかな。別に決まっていない、が正しいよ」

「……決まってないのに殺すの?」

「???いや、コナン君だって、部屋に出た虫を潰すか潰さないかなんて適当だろ?」

 

 目に止まれば殺す、そうでないなら逃す。

 シンプルな話だ。

 近くにいる羽虫を叩き潰す時、半径何メートルに入ったらどの程度の威力で叩くか決めないのと一緒だ。

 手に止まっても振り払うだけの時もある。

 遠くに見かけた留まってる虫をふらっと寄って潰す時もある。

 

 すなわち、そこまで詳しく考える必要のない事柄ということだ。

 人は大切なものなので裁くなら慎重にせねばなるまい。

 法を敷いて、真実を明らかにして、適切な刑と再犯防止と社会復帰への取り組みが必要だ。

 

 だが怪異はそうではない。

 それだけのことである。

 

 俺は首を傾げてコナン君を覗き込んだ。

 

「どうしたんだコナン君、そんなこと突然。何か変なやつに怖いことでもされたか?」

「───ううん、なんでもない」

 

 迷いと畏れをわずかに含んだ視線が俺に向けられて。

 

 コナン君はただ、言葉を飲み込んだようだった。

 





・人間に危害を加えた時の処罰基準
完全に気分で決まります。
ただ、傾向は下記の通り(イ=ス人調べ)
①見た目が地球の生物と大きく異なると族滅されやすい
②同族の数が多いと族滅されやすい
③(ハスター自身を含む)旧支配者を信仰していると族滅されやすい

総じて「キモくてうじゃうじゃいると族滅されやすい」になる。


・ジンニキ
ハスターのそういうアバウトな殺しを分かっている。
その上で「下っぱを処分する時の基準なんてそんなもんだしな」とたいして気にしてない。
ハスターの族滅=ジンニキの部下処分概念
コナン君がそれで曇ってるのを見て「今時のガキは一番弱ぇゴミを殴る時にいちいち理由考えるのか?」と疑問に思ってる。
普通人を殴ったりしないんじゃよと誰も突っ込んではくれない。
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