ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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政界進出とオトウサン

 

 会談の日がやってきた!

 

 ドキドキで呼び出しの時を待っている今現在。

 今日は降谷さんと共に政界のお偉いさんと仲良くお話をする予定である。

 

 俺はガタガタと身を震わせて降谷さんにしがみついた。

 

「胸が張り裂けそう、やっぱ降谷さん一人で行くのはダメ?」

「ダメに決まってるだろう。それより、僕は本当にこんなコスプレしなきゃいけないのか。スーツじゃダメなのか」

 

 ハイパーボリアの服に身を包み、降谷さんは納得いっていないような微妙な表情をしている。

 これはガチガチの正装ではなく、少しだけ崩したタイプの服になる。

 正礼装と準礼装の違いというべきか。

 

 降谷さんは落ち着かなさげにアトラック=ナチャの糸で作られた純白のローブを観察しているようだ。

 

 マモーさんがキッと目を吊り上げて「いかに神の化身となったといえど、お言葉には慎重になっていただかねば困ります!」と叱りつけた。

 コスプレ扱いは流石に承服しかねたらしい。

 

 神官長の厳しいお言葉に、降谷さんがしゅんとして「す、すまなかった」と謝罪した。

 

 今回の会議は自由精髄党の本部の会議室で行われる予定だ。

 料亭は遠慮させてもらったが、これは「個人でのお付き合いをするつもりはない」という意味になる。

 あくまで人類の政治家という肩書きに話をするのであって、一個人に肩入れするつもりはないと立場を明確にしたのだ。

 

 これらはマモーさんの発案になる。

 流石、長年にわたって神秘をもってヒトの上に立ってきた財界の帝王のバランス感覚だ。

 

 俺たちの移動手段も向こうの招来の儀に応える、という形になる。

 もちろん召喚コストはこっち負担だが、「呼び出されてやった」という体面が重要とのこと。

 

 降谷さんが視線を逸らして心細げに息をついた。

 

「僕、招来呪文に応えるのは初めてなんだが。本当になんとかなるのか?」

「別にそれは大丈夫だよ。呼ばれる側に複雑な手順がないから神格が来るんだし」

「なるほど……」

 

 もし手順が面倒なら、神格だってわざわざ招来に応えたりしないのだ。

 しかしまだ不安そうな様子で、肩をほぐしながら降谷さんが口を開く。

 

「そういえば、この間ニャルラトホテプの化身に会ったんだ」

「お。降谷さんに何か用でもあったのか?」

「おそらく赤の女王だろうな。知らない女性に『この裏切り者!』って街中で叫ばれて、危うくホストの修羅場になるところだった」

「面白いの塊かよ」

 

 降谷さんがニャル化身じゃなくなったということは、新たなオモチャをニャルが探し出すということでもある。

 そりゃ化身界隈も騒然とするだろう。

 

 降谷さんはぽこぽこ怒って「今まで新入りだからって僕に全部押し付けすぎだったんだ!」と憤りをあらわにした。

 それは仕方ない。ニャル化身はみんな姑息だからな。

 

 コナン君が頭に星の精を乗っけて、ひょいと給湯室から顔を出した。

 自分の分のアイスコーヒーを作っていたらしい。

 

「黄衣さん達、出発前に水飲む?」

「あ、欲しい!ありがとうコナン君」

「僕も頼む」

「りょーかい。待ってて」

 

 氷水を入れてとことこと運んできてくれる。

 コナン君の手は小さいのでコップを二つは大変だろうと思ったが、もう片方は星の精が運ぶようだ。

 星の精がコップを触手で巻いて、得意げにクスクス言っている。

 

 俺は星の精からコップを受け取って、代わりに頭をヨシヨシしてやった。

 爽やかな冷たさが喉を潤す。

 

 そろそろ時間だ。跳躍の準備に入らねばならない。

 

 丁寧にコストの代理支払いのための術式を展開し、他の着信を排除する。

 服装オーケー。

 再確認が終わる頃には、招来の術式が成立したようだ。

 入り口が開いたのが降谷さんも分かったのか、ハッと虚空を見上げて眉間に皺を寄せた。

 

 呼び声に応えて、一歩踏み出すイメージだ。

 そうすれば、あっという間に目的地に到着する。

 

 

 

 移動した先には、歓迎のムードと緊張感、そして老獪な思惑が交差する戦場があった。

 

 場所は自精党本部の会議室。

 TVや写真で見たことのある、柔らかな椅子と大理石の机が並んでいる。

 両側にはシックな生花が飾られ、格式の高さを思わせる。

 

 出迎えてくれたのは党首と数名の幹部だ。

 そして招来魔術担当の、神職の人が一人。

 

 立ち上がって出迎えるスーツ姿のおじさん達の姿に、俺は反射で触手の先をしおしおにした。

 なんとか思考をハイパーボリアの神モードに切り替えて、頭の良さそうなポーズを保つ。

 

【お前達の呼びかけに応えよう。俺は旧支配者ハスター。古の楽園にて人を統べたもの】

 

 おお、と若干のどよめきが走る。

 俺の人外バリバリの仕草にも怯むことなく、党首さんが進み出て挨拶した。

 

 握手したそうだったので、降谷さんに視線を送って前に出てもらった。

 党首さんが困惑して俺と降谷さんを交互に見たようだ。

 

「そちらの方は一体……」

【人の世に俺の意思を示す化身を置く。化身は俺であり、俺の意思だと考えろ】

 

 それだけ言って口をつぐむ。

 俺は基本口を開けば開くだけボロが出ると思わねばならない。

 あとは降谷さんにバトンタッチが吉だろう。

 

 降谷さんがやや笑って握手のために手を差し出した。

 

「初めまして。僕は旧支配者ハスターの化身、黒い風と言います。そうですね、僕のことは対人用インターフェースと考えていただければ」

 

 困惑にざわめく幹部達を、党首さんは手で制してにこやかに降谷さんと握手を交わす。

 そして「ともかく、おかけになってください。本日はよりよい時間としましょう」と笑顔を作ったようだ。

 

 

 

 

 それからは幾つかの政策的な話題と、今後の日本について、そして海外への対応など。

 本題とも軽い雑談ともつかない話題が流れていく。

 

 向こうとしても俺たちの思想や価値観を探るのがメインなのだろう。

 今後人と神が良くやっていけるのか。

 それを探っているのだ。

 

 俺は基本ただ重厚に頷くだけで、会話はほとんど降谷さんに任せた。

 圧倒的安心感だ。サンキュー降谷さん。フォーエバー降谷さん。

 まだ触手はしおしおだが、彼がいてくれて俺はだいぶ寿命が伸びた心地だ。

 

 俺たちが危険思想の持ち主でないと知って肩の力がやや抜けた党首さんが、軽い雑談がてら質問を振ってくる。

 

「ところで、化身とはどのようなものなのですかな。私はまだイマイチ理解が及んでおらず」

 

 これは俺から回答したほうがよさそうだ。

 降谷さんは化身を作ったことがないし、感覚的にイマイチ理解していないだろうし。

 

【我が身の一部であり、俺自身でもあるものだ。西遊記だったか。自分の毛を引き抜き、己の分身を作り出したのは】

「なるほど。孫悟空のようなものですか!」

 

 得心がいったようで、目を丸くしてほほう、と息を漏らした。

 ついでに降谷さんは表の立場を明かすことにしたようだ。

 バーボンめいて怜悧に細められた瞳で言葉を紡ぐ。

 

「特に、僕は以前より神のユニットとして活動しており、表では警視庁公安部公安総務課の課長、降谷零と名乗っております」

「……日本国民に、成り代わったということかな?」

「いえ。僕は幼少より僕です。神の化身と自覚したのは最近になります」

 

 建前的にはそうなっている、というだけの話だ。

 

 実際降谷さんの成り立ちはもっと複雑だが、そこまで考慮する必要はない。

 降谷さんには俺の分身として全権限を振るってもらえればいい。

 

 党首さんはやや険しい顔つきで「なぜヒトの職業として警察官を選んだのですかな」と問いかけた。

 

「日本を見定める目的で、神の命のままになったに過ぎません。……もっとも、いつのまにか人を守ることに入れ込んで、このような立場にまでなってしまいましたが」

 

 降谷さんは意識してお茶目に微笑んで見せた。

 俺に比べて降谷さんは比較的人間味のある存在、という設定だ。

 

 だからなるべく降谷さんに話しかけてネ!!!

 

 党首さんが「それはそれは。日本国民を気に入っていただけたようで嬉しい限りです。この国の国民は親切で礼儀正しいですから」と探るような視線を隠して微笑んだ。

 

「では、黄衣探偵事務所の探偵という黄衣ハスタという方も、神の化身なのですかな」

「ええ。それは人間文化の観察などのために旧支配者ハスターが作った『黄衣の王』という化身です」

 

 「僕が人類の機構と体制についての検分役としたら、彼は娯楽の観察役になります」と降谷さんが言い切る。

 

 間違いではない説明だ。

 俺はこの顕現において黄衣の王たる身を休暇100%な気持ちで作成したし。

 降谷さんに割り振った権能は人類の機構と体制に関わる全てだし。

 

 党首さんは鷹揚に頷いたその裏で、緊張に身を固くしたようだ。

 人類の機構と体制についての検分役ということは、すなわち神の審判を司る化身が目の前にいるということだ。

 

 

 そんな感じでしばらく話して。

 今後は定期的な会合を開くこと、その時には降谷さんのみが同席することを決めて、解散となったのであった。

 

 

 

 

 事務所に帰ってすぐ。

 俺はソファに崩れ落ちて、触手を投げ出して全部しおしおにして泣き言を言った。

 

「せ、政治に足を踏み入れてしまった…もうだめだ…おしまいだ……」

【クス?クスクス?】

 

 星の精がなんだなんだと俺の頭をヨシヨシしてくれる。

 倒れた俺を放っておいて、さっさと降谷さんが着替えに入った。

 

 マモーさんが「神よ!おお、猿のためにこのようなお姿に…!」と涙を流して俺のテロテロの触手に縋りついた。

 

 ともかく俺も着替えよう。

 魔術でパチンと早着替えをすれば、降谷さんが目を見張って覗き込んできた。

 

 「それ便利だな。僕もやりたいんだが」と言ったので、術式を流し込んでやる。

 降谷さんは瞬時に黙り込んだ。

 

「………ものになるのは半世紀後か?」

「大丈夫、降谷さんは結構上達してるよ。基礎的な遠見の魔術使えるようになったんだろ?」

 

 降谷さんは憮然として「でも今やってる教本に初等課程って書いてあった」と眉間に皺を刻んだ。

 いやまあ、ハイパーボリアは知識を魂に直で刻むからな……。

 マモーさんがうんうん頷いて優しげに目を細める。

 

「懐かしいですね。幼少のみぎりに練習しましたよ。どこまで遠くを見られるかなどの競争もしました」

「着替えの魔術いつごろ習ったんだ?」

「そうですね…私は物心つく頃には家庭で使っていましたので、なんとも」

 

 降谷さんはやさぐれて、人差し指で星の精をつつくなどした。

 ふにふにされた星の精は「クス?」と体を傾けた。

 

 降谷さんは星の精をプニプニし続けながら、クソデカため息をつく。

 

「しかし僕が君の化身か。改めて考えると訳がわからないな。親子関係、みたいになるのか?」

「んー……抜け毛って意味では一緒だが。子供は勝手に抜けた毛。化身はプチって抜いた毛」

「抜け毛だけで地球を軽く更地にする。困ったものだ」

 

 降谷さんが己の髪をかき上げてしげしげと見つめている。

 降谷さんの規模なら、髪の毛でも怖いクリーチャーぐらいは作れそうだ。

 

 と思っていたら突然。

 星の精がガバッと降谷さんの胸元に密着した。

 

 そして怒涛のように「クスクス、クスクスクスクス!」と話し出したではないか。

 コナン君が困惑して俺を見上げてくる。

 

「星の精はなんて言ってるの?」

「な、なんか『お前の「オトウサン」はこいつなのか!?星の精の「オトウサン」はどいつだ?』って言い出してる…!」

「え、ええ!?」

 

 星の精がなぜそんなことを言い出したのかは定かではない。

 が、星の精にお父さんという概念は存在しないので、正直困った状態だ。

 

 星の精は強靭な種族だ。

 単身で星々を渡り、どのような環境下でも活動する。

 宇宙を見渡してもかなり長命な方で、知能も高い。

 そして大人になれば「種子」を適当な餌場に放置して増える単性生殖だ。

 

 この小さな星の精に人間の感覚で言うところの家族はいない。

 親はいるが、そんなものに会ったところで「知らない星の精が来た」と思われるだけだ。

 

 それに文明も文化も無い。

 強靭で、しかも真面目であるが故に彼らはコツコツ獲物を狩り、魔術師の召喚に応えて傭兵もする。

 人と同程度の知能を持ちながら、ただ単体で、文化も文字も持たず気長に生きるのだ。

 

 俺は星の精を撫でてやった。

 星の精は「ゲタ?」と言ってこちらを振り向く。

 

「星の精にはお父さんもお母さんもいないんだ」

【……ゲタゲタ!?!?】

 

 降谷さんが少し考えてから、星の精を抱っこしてもみくしゃにする。

 

「父も母もいない子なんてよくいるものだ。僕もそうだし。気にすることはないさ」

【……ゲタ】

 

 星の精はしおっとしてから、降谷さんの手を触手で包み込んだ。

 友達の証らしい。

 

 降谷さんは添えられた星の精の触手を手に取って、柔らかく笑ったのだった。

 





・与党党首
実はこれまでに降谷零という神の査察があったと知ってちょっと冷や汗かいた。
でも降りてきてくれたということは、お眼鏡には適ったようだと一安心。
神はイマイチ読み切れないが、降谷さんの方は話し合いに足る若者っぽくて安心している。
若造故に丸め込むこともできそうだが、背後の神がどう動くか定かではないので自重するつもり。

・星の精
学校で最近授業参観日があった。
コナン君はプリントをきちんと処分しているため、黄衣さんは知らない。
「オトウサン」「オカアサン」なる謎の大きいやつが出現して星の精は困惑した。
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