服部君の見事なインターセプトによって、キッドの盗みは妨害されたようだ。
二本あった脇差のうち一つは盗まれてしまったとのこと。
片方はキッドの手に渡って、もう片方は服部君が死守したらしい。
服部君は「アイツ猿かいな。ちょこまか避けおって」と刀を肩に置いて息を吐いた。
俺たちが到着した頃には、キッドは空へと逃げたあとだった。
中森警部の怒号をBGMに、俺たちは服部君に駆け寄る。
「服部、お前も来てたのか!」
「よ、工藤。そっちは呑気に茶しばいとったみたいやからな。真の予告時間を見抜いた俺が助太刀に来たっちゅー訳や」
函館剣道大会のついでやけどな、と服部君はニコニコしている。
コナン君が苦虫を噛み潰したような顔をして歯軋りした。
服部君に一歩先をいかれたことが結構ダメージのようだ。
服部君が尻ポケットに入れていたスマホが光を灯し、音を発する。
『ワイもいるやで工藤!久しぶりやな!』
「服部!」
「いやどっちも服部呼びすなや。ここは親友の俺を服部、コイツをなんか別な呼び方するのが筋っちゅーもんやろ」
『ワイは服部マンでええで!』
「ドアホ俺が良ォないわ」
二人はドッと笑った。
服部君が二体フィールドに並び、盤面はエクシーズ召喚の条件が整ったということなのだろう。
コナン君が生ぬるい表情で「ああそう……」とぼやいた。
とりあえず今後は服部マンでいいか。
星の精がポケットの中で「クスクス!」と笑い出す。
みんなと一緒に笑いたかったらしい。
服越しにコナン君が星の精を撫で撫でした。
「ところで、キッドのやつなんやえらい工藤に似とったんやけど。親戚か何かか?」
「バーローんな訳ねぇだろ。そんな強烈な親戚がいたら分かるっつーの」
「そりゃそうやな」
俺はチラッとハスターの瞳で見て、そのまま解析結果を心の中にしまい込んだ。
従兄弟かぁ。世間は狭いなぁ。
俺たちが屋根から降りると、降谷さん達は一ヶ所に固まって、中森警部に指示されて頬をつねられていた。
逃げたふりをして怪盗キッドが化けていないか調べられているらしい。
思いっきりつねられて、マモーさんの頬が腫れている。
マモーさんは不機嫌そうに「猿が私にこのような……」とブツブツ文句を言っている。
降谷さんと諸伏さんは物理無効だが、あまりに腫れてないと不審なので降谷さんはうまく腫れたように化けているようだ。
流石元ニャル化身。小技が光る。
諸伏さんの方は手で痛そうに押さえることで誤魔化している。
やってきた中森警部が俺たちを見てニタリと悪そうに微笑んだ。
「じゃあお前たちも念のため調べさせてもらうぞ」
「や……優しくしてや……」
「僕小学生だしキッドは化けられないよ!!!」
「そうだな。子供は除外だ」
「俺氏、思いっきりつねられることが確定…?」
中森警部は情け容赦もかけらもなかった。
無事、俺と服部君はつねりあげられて頬を腫らすことになった。
服部マンは画面にダブルピースを表示して勝ち誇っている。
お前、海底のパシフィック・ブイを俺が本体でつねり回してやろうか。
一人逃走したコナン君がキュルンとした顔をしながら笑顔を作る。
「けど、結局キッドの目的ってなんだったんだろうね。東窪榮龍の打った刀って言ってたけど、無名の刀鍛冶の作品を奪う理由がわからないし」
「そうだね……明日にでも聞いてみるか」
俺はコナン君に同意して頷いた。
まだ謎は多いようだ。
翌朝。
俺たちは服部君の剣道大会に顔を出していた。
メンバーは俺とコナン君、マモーさんの三人だ。
諸伏さんたちは公安の方と合流して調査を継続するようで、今日も元気にお仕事である。
服部君は何故か剣道大会に顔を出していないらしい。
朝からずっと行方をくらましているとのこと。
俺たちは先に来ていた和葉ちゃんに頼まれて会場内を探すことになった。
和葉ちゃんは「応援に来い言うてたくせに!アタシはほったらかしってどういう了見や!」とポコポコ怒っていた。
そりゃ服部君が悪い。後で平謝りするのが吉やで。
途中、真剣を使った演舞も行われるようで、ついコナン君と立ち止まって観覧することになった。
マイクのハウリングが響いて、司会者が説明してくれる。
福城聖さんの特別演舞、らしい。
そうして出てきた一人の男の姿に、俺とマモーさんは同時に息を呑んだ。
福城聖とやらはえらくイケメンで、ファンも多いようだった。
見事な腕前で三本の巻藁を切り落とし、歓声と共に礼をする。
その姿は人間にしか見えない。
───始末は後でいいか。
俺は表情無く目を細めて思案した。
福城聖はディープワン、すなわち深きものどもだ。
どうやら人間との混血で自覚はないようだが、まだ変貌していないだけだ。
蛆虫であることに違いはない。
だが今はせっかくの函館旅行の最中だし、蛆虫の始末は後でも構わないだろう。
マモーさんが険しい顔で「神よ……」と俺に話しかけてきた。
「大丈夫。後で駆除するよ」
「ですが、人の社会に少なくない数の深きものどもが紛れ込んだということで……」
「精神が深きものどもに変じた段階で、俺の『彼方より来たりて饗宴に列するもの』の裁きを受ける。どちらにしろ時間の問題だよ」
不安そうなマモーさんに、俺は微笑みかけた。
深きものどもは人との間に混血を作る。
それは加齢と共に深きものどもへと変貌。
ルルイエより思念波を受診して、精神まで異形と化すのだ。
始末されることに変わりはないが、このままでは子がバケモノになってしまう人間側が可哀想だ。
まだ人型のうちに蛆虫共はすべて一掃して、次の悲劇を潰すべきだろう。
俺は頷いて、今後の算段を立て始めた。
人間社会に寄生する蛆虫どもにはほとほと困ったものだ。
コナン君がチラリと俺を確認し、突然俺の足の甲を思いっきり踏み潰した。
「ふぎゅ!?!?」
「虐殺禁止」
「いや今のはマジで仕方のない場面だったろ!!!蛆虫は族滅!確定事項!」
【クスクス!!】
星の精まで怒り出したようで、俺は星の精の長々とした説教を受けた。
お前あまりに悪い奴すぎる。友達も星の精も怒ってる。許されない。
どうしたらいいんや………。
俺がしょげかえって肩を落としたあたりで演舞が終わる。
なんと、その蛆虫は演舞後まっすぐに和葉ちゃんの元に来たではないか!
和葉ちゃんに名乗って握手を求めて微笑んでいる。
キーーー!!!俺の人類種に粉かけてるんじゃないわよ蛆虫のくせに!!!
和葉ちゃんの握手は沖田君が妨害してくれたようだが、俺は横でそっと地団駄を踏んだ。
えへへ。族滅しちゃうぞ♡
キレすぎて情緒がおかしくなりながら、俺は屈伸運動をし始めたのだった。
・深きものどもの扱い
自認が人間であっても、ハスターの中では蛆虫扱いになる。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。
人に寄生した蛆虫が人語を喋ってる。悍ましい。
・服部マン
化身達の教育的指導を受けた後に服部君のところに転がり込んだ。
服部君と漫才しつつ、事件の怪異判定を行なって服部君の推理の補佐をしている。
和葉ちゃんに片想いしてるが、服部君が本体だと理解してるので二人の恋を応援してる。
それはそれとして嫉妬に燃えて「ワイが取ってまうで〜〜」と涙に枕を濡らす日々。
・降谷さん
ハス化身になって理由もなくむしゃくしゃを受信することが増えたので、空気を入れる携帯用サンドバッグを持ち歩いている。
これを赤井に見立てて殴ることで憂さを晴らす。
つもりが余計ヒートアップする。悪循環である。
ハスターには本当に落ち着いてほしいと思っている。