俺たちは函館中央警察署まで来ていた。
コナン君の運命力により、函館市内で殺人事件が発生。
それがキッドの事件と関係があるかも、ということで捜査に協力することになったわけだ。
案内された会議室のホワイトボードには地図と、それと見知らぬ外国人男性が写っている。
ガタイのいい男性で、どこか老獪な目をしている。
マモーさんがふむ、と少し考えてから答えた。
「確かに私も聞いたことがあります。ブライアン・D・カドクラ。紛争地で小金を稼ぐ武器密輸業者ですね。現地の治安を悪化させて、迷惑な小物です」
「おや、ご存知なのですか?」
「仕事柄多少ですがね」
マモーさんが大したことでもなさそうな様子で頷いている。
彼からすればこんな小物、吹けば飛ぶようなチンケな悪党に過ぎないだろう。
それでも全て頭に入れているあたり、財界の帝王として情報収集は欠かさないと言うことか。
会議室には俺達の他に二人の刑事さんがいる。
いろいろこれまで説明してもらったわけだが、俺も質問してみることにした。
「そのカドクラが今回の件に関わっている、ということですか?」
「はい。カドクラの来日の目的は、斧江圭三郎の残したお宝を狙っているようなのです」
眼鏡の刑事さんがニマッとわらって答えてくれる。
なんかAPPと実際の顔立ちの乖離が激しい人だ。
キッドではないようだし…なんなんだ一体。
ともかく、話はこうだ。
斧江圭三郎は、かつて北海道で金鉱脈を発見して莫大な富を築いた。
斧江は戦中軍需産業にも関わり、その富を用いてなにか強力な兵器を隠したと言われている。
それはまさに「戦況を一変させるような」ものだったとか。
今朝殺された被害者は、斧江財閥の弁護士をやっていた人らしい。
この頃カドクラと秘密裏にあっていたことが確認されている。
つまり兵器狙いのカドクラが弁護士さんを殺した疑いあり、ということになる。
あと、この兵器って絶対父なるダゴンのことだわ。
間違いない。
俺はつい頭痛を堪えるように俯いてしまった。
ダゴンの兵器転用はまぁ、できなくもない。
魔術攻撃のエネルギー源としてセットするとか、そう言う類の使い道だ。
この出力なら、単純に魔力砲として使っても十分に兵器としての役割を果たすだろう。
でも俺は人間同士が争うためには使ってほしくはないし。
プレゼントを渡した後、使い道すらいちゃもんをつける神のなんと浅ましいことよ。
みんな昔から俺のプレゼント悪用しすぎなんじゃんね。
一応、その辺りで一旦休憩を取ることになった。
皆で連れ立って自販機でコーヒーを買いに行くと、服部君がやや唸って俺を見た。
ダゴンの扱いに悩んでもにょもにょする俺に話があるようだ。
温かいコーヒー缶を開け、服部君が口に含む。

「被害者がゴルフバッグに入れて持ってたんは刀やな。で、キッドが盗んだのも刀。きな臭くなってきおったな」
『せやなぁ。キッドも宝狙いっちゅーには、うーん。まるきりダゴンやし』
チクタクマンは「まぁええんとちゃう?ド阿呆が自分から墓穴掘りに行くんみたいやし。ワイらの面倒見ることやあらへんで」とそっけなく突き放した。
光のニャル化身にしては冷たいように見える。
いや、人間的感性だからこそ「愚か者の自業自得には取り合わない」ということか。
服部君が眉間に皺を寄せて何かを言いかけて、口を閉じる。
「せやかて………ん?ダゴン?」
「斧江圭三郎の残した『戦況を一変させる兵器』だよ。小山ほどもある魚巨人の怪異」
そういえば服部君には説明していなかったな。
俺が軽く説明していくと、どんどん彼の顔色が悪くなった。
ダゴンの封印を解くと言う運用でも、一応戦況は一変はさせられる。
敵味方構わず食い散らかされる地獄絵図に一変、という意味だが。
服部君は聞き終えところには「なるほど。今すぐ函館を出るべきっちゅー話やな?」と真理に気付いてしまった顔をした。
コナン君が半笑いで突っ込む。
「でもお前、昨夜から夜通し函館の絶景スポット探し回ってたじゃねーか。いいのか、和葉ちゃんに告白しなくても」
「バッッッッ………ゴホン。ともあれ命あっての物種や。あと見とれよお前。有る事無い事毛利の姉ちゃんに吹き込んだるわ」
「止めろお前!!」
コナン君に睨みつけられて、服部君はニマニマと揶揄う姿勢に入った。
何故か星の精の怒りセンサーは働かず、静かにポケットの中で丸くなっている。
あれは友達の友達、ということらしい。
俺、信頼されてなさすぎ───?
「それより工藤。お前なんでそんな凹んでんのや。露骨に覇気無かったやろ」
「………別に、どうでもいいこと考えてただけだよ」
「なんや。俺に大人しゅう言うてみ」
揶揄うようでいて、その実確かな友情の垣間見える真摯な瞳にコナン君は瞳を伏せたようだ。
しばしの沈黙ののち、ゆっくりと口を開く。
「なぁ服部。もし和葉ちゃんが怪異だったらどうする?」
「………」
「これまでずっと共に人間として過ごしてきた人が、ある日突然、人を害する化け物に変貌する。それが確定しているから、先に殺さねばならない。それは受け入れられることなのか?」
「………せやな。俺なら絶対諦められへんな」
困ったように頭をかいて、服部君は視線を逸らした。
「だけどそのままにしておけば、必ず悲劇は再生産される」
「……黄衣サンはなんとかできへんのか?」
「流石に俺でも無理だね。魂の問題だし」
魂の意識を司る部分がそうデザインされている以上、俺にできることは何もない。
意識の部分にごそっと手を入れれば可能だが、それは本人と言い張るのは苦しいだろう。
テセウスの船問題は本当に何をするにもついてくる問題なんだよな。
コナン君が緩く頭を振って「悪いな服部。変なことを聞いた」と話を終わらせた。
服部君はしばし目を細めて、嘆息する。
「これ終わったら大阪にお好み焼き食いに行くで。俺のおすすめや」
「……そうだな。楽しみにしてるぜ」
「任せとき」
二人はやや微笑んで、拳を合わせた。
マモーさんが俺を見て声をかける。
「神よ、ひとまず公安と情報共有すべきかと」
「そうだな。念のため今回のことを伝えておくとするか」
スマホを取り出して、降谷さんに電話を繋げる。
向こうは仕事中のようだったが、すぐに出てくれたようだ。
降谷さんが呆れたような様子で話しかけてきた。
『また殺人事件かな。コナン君が一山当てたのかい?』
「よく分かったな。ダゴンを狙う国外武器商人をめぐる殺人事件があったから情報を渡しておこうかと思って」
『最悪のフルコースか???コナン君は少し自重してほしいんだが!今すぐそちらに向かう!!』
降谷さんは仰天して「ヒロ!緊急事態だ!」と叫んで走り出したらしい。
側で聞いていたコナン君が「僕は無実なんだけど」と憮然としている。
いや無実なのは重々承知なのだが、どうしても紐づけて考えてしまうと言うか。
陰謀論とはこうして生まれるのかもしれない。
諸伏さんと降谷さんが駆け付けたのはそれから30分ほど後のことだ。
降谷さん達は函館山の例の入り口付近の封鎖と再調査をしていたようで、今後の警備計画のために状況を確認していたとのこと。
事情を聞いて、降谷さんは額に手を当てて大きなため息をついた。
「流石に銃を持った暴漢に押し入られる想定はしていないんだが。面倒なものを狙ってくれる……」
まあ、押し入ったところで死ぬだけだが、それで殺される警官の方が可哀想だしな。
降谷さんが続けてひとりごちる。
「しかし、道警がそこまでの情報を手に入れているとはな。僕たちでもそこまでカドクラの動きは掴みきれていなかったのに」
『公安で巻き取るか、この事件?』
「それも視野に入れるべきだろう。下手に道警が先に『宝』のありかに気付いた場合、確認に来てしまう恐れがある」
刀がどのように宝に繋がるのかは定かではないが、危険の芽を潰すのは悪いことではない。
降谷さんは俺たちに向き直り、厳しい顔つきで言葉を紡ぐ。
「それと、近年になってあの隠し広間に侵入した人間がいることが明らかになった」
「!」
その人間はあの広間に足を踏み入れ、何も知らずダゴンに食われてしまったのか。
降谷さんは首を振って俺の懸念を否定した。
「入り口に向かう足跡もあった。おそらく中を確認して、その上で見なかったことにして帰ったんだろう。こんなメッセージカードをわざわざ残してな」
ビニール袋に入れたそれを降谷さんが掲げて見せる。
WAKE NOT A Sleeping Lion
(寝た子を起こすな)
怪盗キッドのそれとよく似たマークが添えられたそれは、小さくとも確かな存在感に満ちていた。
寝た子を起こすな、か。
言い得て妙だ。
目覚めさせるべきではないものも、この世には存在する。
あの深き深き海の底に眠るもののように、人の手出しできない淵は確かにあるのだ。
「へぇ。誰か知らないが、随分な賢者だな」
俺はそのようにコメントするにとどめたのだった。
・ブライアンDカドクラ
斧江圭三郎の残した兵器とやらを手に入れて地位を盤石にしてやるぜ!というタイプの悪役。
怪異とは理解してない。
「バケモンには銃弾をお見舞いしておけば黙らせられる」が信条。
・初代怪盗キッド
息子がダゴン案件に突っ込んで行こうとしてオォット!!とフォローアップ体制に入った。
斧江財閥のお宝を盗むのやめたなんて情報残すべきじゃなかった…!
・星の精
星の精は強くなったし、大きくもなった!
そろそろ友達と一緒の食べ物も食べれるはず!
お好み焼き楽しみ!わくわく!!!
・コナン君
星の精から慌ててお好み焼きを取り上げて、爆音で泣かれる定めにある。
星の精はまだ食べれないんだよ、ね、お腹痛くなるからね、ね、食べれないの。ね、ほんと。ほんとだから。ね、ね???