一応、その後も刀の由来について調べるために奔走した。
ダゴンに通じるらしき脇差は全部で六本あるようだ。
二本がドバイの好事家に所有され、殺された弁護士さんが購入。
二本が斧江財閥所有。
最後の二本については、どうやら剣道大会の会場にいた未覚醒の深きものどもの家で保管されていたとのことで。
俺たちは深きものどもが住む家にも訪れることになった。
もちろん、備えは万全にしてある。
隠れていた深きものどもが飛び出して来てもいいように、魔術的なバフは欠かさず振りまいた。
なお、そこで出てきた例の魚が再び和葉ちゃんに粉をかけるという事案もあった。
ガルルルル、と服部君がいきり立ち、そのまま決闘にもつれ込むことにもなった。
和葉ちゃん大人気やな。
でも迷惑だったので、降谷さんの方から仲裁してもらい場を収めるなど。
魚如きに服部君が怪我をさせられたら、流石の俺もその場で処分せざるを得ないしな。
コナン君の見ている前で殺人に見える行為はしたくない。
魚は現在一人暮らしのようだ。
高校の頃、十分な遺産を残して理由もわからず自死した両親のことをずっと引きずっているとのことで。
写真立てには幸せそうな男女と小学生の魚が写っているのが見えた。
可哀想だが、魚は魚だ。
人類に這う蛆虫であるからして、処分するより他ないのである。
彼から刀と謎の暗号を受け取り、その後はホテルで一泊して翌日函館中央警察署に戻った。
あとはみんなで推理タイムだ。
みんな寄り固まってああでもないこうでもないと意見を擦り合わせていく。
俺は残念ながら戦力外なので、もさーっと窓際で街を眺めるぐらいしかやることはない。
スマホゲームを起動し、DLしてあったニャルゲームをぴこぴこと操作する。
意外と継続無料UPDATEで更なる要素が追加されるんだよな、ニャルゲーム。
最近のUPDATEで大規模な自動化が実装されて、また一段ものすごいボリュームのゲームになった。
そうして暇つぶししているところに、降谷さんがそーっとやってきたようだ。
俺の様子を恐る恐る確認にして口を開く。
「不機嫌だな君。なにやら良からぬ遊びをしないよな?」
はて。俺は不機嫌なのだろうか。
少し首を傾げて、俺はようやく己の不機嫌さを自覚した。
俺イラついてるな。よりにもよって、あの害悪魚が人間のふりして人間みたいに生きてることに。
それがもしかしたら、俺よりずっと人間らしいかもしれないことに。
俺は唇を尖らせて降谷さんの言葉を否定した。
「ニャルじゃないんだから、俺は迷惑な遊びなんてしないよ」
「それは良かった。ニャルラトホテプが同じだけ不機嫌だったなら、僕はとっくの昔に悪夢の中でミンチと蘇生を繰り返していたからな」
とんでもねぇニャル遊びが暴露され、静かに俺は戦慄した。
降谷さんがげっそりとミイラみたいな顔でため息をつく。
可哀想なことをされていたようなので、「お疲れ様…!俺は降谷さんにそんなことしないぞ!」と慰めておいた。
降谷さんは涙が滲んだようだった。
降谷さんが涙を拭って咳払いする。
「ともかく、君に相談したいんだが。今後の深きものどもへの対策についてだ」
「政府の方に話を通したんだよな?」
「ああ。昨日のうちにな。あまりに深刻でまだ結論は出ないようだったが、『対策が決まるまで絶対に国民に情報が漏れないようにしたい』とのことだったよ」
分身を東都にも残しているから、それを使って国会の主要メンバーに秘密裏に話をしたのだろう。
深きものどもは覚醒まで一般人が見分ける術がない。
ある日突然変貌し、人喰いの化け物へと覚醒して海へと還る。
もしこの情報が明るみに出れば、あらゆる疑心暗鬼が吹き荒れることは間違いない。
行方不明者に対してとんでもない偏見と風評被害が向けられるだろうし。
その家族が村八分飛び越えて集団リンチに遭う可能性だってある。
一般的な障害者が「魚の怪物が化けてるから人と違うのかもしれない」なんて事実無根の決めつけに晒される恐れもある。
漁師さんが「魚の血を引いてる」という謂れのない悪口を言われることもあるだろう。
とにかく人の不安を煽ることに特化した生態を持つのが深きものどもの嫌らしいところなのだ。
降谷さんが眉間に皺を寄せて口を開く。
「君の方で深きものどもを見分ける術はあるか?」
「俺から見れば違いは明らかだよ。とりあえず深きものどもは激しく爆音を出して光るようにしようか」
「どうして君はとりあえず偽物を光らせようとするのか」
心底疑問みたいな顔をした降谷さんに、俺は憤慨した。
わかりやすくていいだろ!
ゲーミング深きものどもにすればとりあえず間違えることは無くなるわけだし!
いやまあ、大半の深きものどものはクトゥルフの加護のある村にいて俺の魔術が届かないから意味ないんだけどな。
今回みたいな野良深きものどものが増殖することは防げるだけの措置になりそうだ。
クトゥルフの「阻害」の権能は強いからな。もっと言うなら「滞留」。
この星で信じられるところでは「水」だが。
俺はチラリと降谷さんに視線を向けて、言葉を落とした。
「───それとも、俺の方で継続的に処分するか?」
「それも選択肢の一つかな」
降谷さんは瞳を伏せて、どこか陰湿なせせら笑いを浮かべた。
俺が地球に来てから、ハスターの瞳には広域呪詛の機能が追加されている。
それは「クトゥルフを信仰する者」に対して作動し、地上から150m以内に近づいた場合気の狂うような痛みを与える。
最終的に魂が溶解して死に至る、非常に強力な呪詛だ。
クトゥルフの加護がある場所であればその限りではないが。
逆に言えば、だからこそ奴らも早々加護の外には出てこられない。
加えて。
「クトゥルフを信仰していない」……すなわち精神が変容しきっていない場合は、裁きの対象外となる。
だからこれを機に、変異前の深き者どもや精神を人間に保っている奴らへと呪詛範囲を拡大。
全てを一括して処分すべきかもしれない。
生まれたばかりの赤子を含めて、必ず狩り尽くす。
そうしなければ悲劇が再生産されるだけだ。
降谷さんがくすくすと笑い声をこぼし、陰鬱に口端を吊り上げた
「君が、神がそれを行うなら、それは神の判断であり人の関与できる場所にはない。そのように日本国は責任を免れる。嬉しい限りだが。いいのか?」
「もちろん構わないぞ。神はそう言う時のためにいるんだからな。人には荷が重い判断を下すのも、神の仕事の内だ」
降谷さんは苦笑して、憂鬱そうに目を細めて窓の外を眺めたようだった。
「……ままならないものだな。人の自立はまだまだ遠い。弱い生き物でしかないのだと突きつけられる心地だ」
「いやいや、人は力強く生きてるぞ?ハイパーボリアが滅びた時、もう人は滅びるしかないと俺は思ってたし。でも頑張ってここまで再興したじゃないか」
「視座が大雑把すぎるんだが」
ぶすっと睨まれてしまい、俺は触手をしなしなさせた。
解せぬ。かなり本気かつ本心の評価なのに。
俺の方で権限を解放し、降谷さんに渡しておく。
「今回の件、俺は全面的に協力するから会談の時は俺の権能群に接続していいぞ。そうすれば、向こう側の要望があったらすぐにそれが可能か不可能かわかるだろ」
「……はあ。君の権能に接続するのは気が乗らないんだがな。初見の戦闘機を触れて動かすみたいなものだ。複雑すぎる」
「ニャルラトホテプのそれは願えば直感的に動かせた」とブツブツ呟いている。
文句言うなし。
俺の権能は俺しか使用者がいなかったし、マニュアル操作で統一してあるんだよ。
そうしているうちにも、視線の先では探偵達によりどんどん暗号が読み解かれている。
咳払いするふりをした星の精が、滔々と大きな声で一句読んだ。
【くすくすく くすくすくすく くすくすく】
「俳句だね。星の精はうまく読めて偉いね!」
【クスクスッ!】
俳句を使った暗号を聞いて、一句読んでみたくなったのだろう。
五七五の法則性を読み取り、星の精は意外と流暢に謎俳句を読んだようだ。
コナン君に褒められ、星の精は鼻高々になって二足歩行モードで胸を張った。
キッドが気持ち悪そうに肩を寄せる。
「この臓物、結構愉快な臓物だな…」
「工藤の年の離れた弟って感じやな」
『ワイも弟分やで!つまり弟仲間っちゅーこっちゃ!』
「いやなんで皆怪異の相棒がいるの?魔法少女の相棒のマスコットキャラ的なやつ?」
キッドの素朴な疑問は「でもお前魔女さんの相棒いるじゃん」というコナン君の言葉で撃沈した。
同じ穴の狢だったらしい。
なお、結局暗号は北海道東照宮を指しているとのことだった。
ワイワイガヤガヤする皆を置いて、マモーさんが「タクシーを準備しました。向かいましょう」とさらりと準備してくれた。
できる男の違いを見せつけられ、俺たちはいそいそと出立準備のターンに入った。
・クスクス俳句
学校には友達が沢山いるよ、お話はまだしたことない、ぐらいの意味合いの俳句。
正しくは川柳だが、星の精に季語は難しかった。
語感が楽しくて気に入ったらしい。しばらくずっとクスクス言ってる。