ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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探偵事務所増員!

 

 ひたひたと、洞窟内を歩き歩いて。

 

 もう出口はすぐそこと言うところで、ようやくコナン君達に追いついた。

 なるべく怖がらせないように、声を柔らかく調整する。

 きちんと元の姿に戻れているか少し不安だ。

 

 服のあちこちを確認して、異常がないことが確信できてから慎重に声をかけた。

 

「少年探偵団諸君、大丈夫かい?」

「ッ!!黄衣さんっ!?きてたんですか!?大変なんです、コナン君が!!」

「歩美、怖くて!怖いおじさん達が追っかけてきて!」

 

 子供達は一拍置いてから、わっと耐えきれないと言ったように泣き出した。

 どうやら今まで必死に涙を我慢していたらしい。

 

 それをよしよし、と抱きしめて撫でてやる。

 今の俺の皮膚は柔らかい人間のものだから、彼らを傷つけてしまう心配もない。

 

 涙目の子供達を宥めて、元太君が背負っていたコナン君を代わりに背負う。

 彼は酷く出血していて、じわりと背中に生暖かい感触が伝った。

 

 少し歩けば光が見えて、出口が近いことがわかった。

 子供達が我先にと走り出す。

 洞窟内に足音が響く。

 

 コナン君はまだ意識はあるようで、弱々しく俺の方を確認して細い息を吐いた。

 

「……っ、洞窟内にいた、犯人達はどうしたの?…僕たちを追いかけ、てた、はずだけど」

「ああ。それなら全員気絶させて銃を取り上げたよ。ほら、中は暗かったし、不意を打てば俺でもこれくらいはね」

 

 そう言って拳銃を3丁、ぴらぴらと掲げて見せてやる。

 コナン君はやや沈黙してから、重ねて俺に問いかける。

 

「殺して、無いよね。犯人」

「……もちろん。気絶してるだけさ」

「よかっ、た」

「あんな奴らのことも心配するなんて、流石に優しすぎないか、コナン君てば」

 

 俺が苦笑したのが分かったのか、コナン君が苦しそうにうめきながら口の端を釣り上げた。

 

「バーロー、っ。心配してんのあんたの、ことだよ。黄衣さん。あんたを、人殺しにするわけには…いかないだろ?」

 

 ……彼は。まったく。

 本当に。

 

 体力の消耗が激しいのか、そこまで言ってぐったりと全身が脱力する。

 俺は慌ててコナン君を抱え直して歩調を早めた。

 

「っ、あまり無理して喋らないほうがいい!」

「あんただろ、俺の傷口に魔術をかけてくれたの。助、かったよ」

「……」

「ファンタジーでもなきゃ、こんなに出血してるのに、まだ、意識があるのは説明がつかねーし。痛みも、あまり無い。体力までは…補填されてねー、みてー、だけど」

 

 俺は彼の様子に歯噛みした。やっぱり、傷を全部治すべきだったか。

 

 出口では、捜査一課と思しき警察官たちがぐるりと取り囲んできた。

 ライトが焚かれ、眩しいほどの灯りが出口を照らしている。

 

 「子供達が見えたぞ!」「保護するんだ!」と警官たちが口々に叫んでこっちへ駆け寄ってきた。

 子供達が毛布を渡され、泣いて必死に中であったことを説明し出す。

 

 駆け寄ってきた目暮警部が、血相を変えて俺たちに声をかけてきた。

 

「無事かね君たち!?犯人はどうなった!」

「犯人は俺が不意をついて気絶させ、拳銃を奪いました。これです。それより、コナン君を病院へ!」

「……酷い出血じゃないか!大変だ!早く救急車を!」

 

 

 幸い、諸伏さん達が救急車も呼んでたようで。

 コナン君は迅速に米花中央病院に搬送されることになった。

 

 その後すぐに犯人三人も気を失っていたところを警官たちに確保された。

 犯人達は一部俺と遭遇した記憶を書き換えて、かつ減ったSAN値も最低限補填する処置を施してある。

 心神喪失ということで無罪にされても癪だからな。

 

 こうして、少年探偵団の皆が危機一髪を体験した、散々なキャンプは幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、コナン君は二週間の緊急入院となったのだが。

 

 そうすると問題になってくるのは仕事の方だ。

 

 情けないことに、弊探偵事務所の主戦力はコナン君である。

 

 基本的には俺が客との打ち合わせやスケジュール調整。

 そして実際の現場にはコナン君と諸伏さんが。

 推理を完成させた後は諸伏さんとコナン君が二人で推理を突き合わせて書類を完成させて。

 残りのその他事務処理などは明美さんが手伝ってくれている、と言う体制となっている。

 

 ここでコナン君が抜けてしまうと、正直ちょっとどころでなく厳しかったりする。

 

『どうする?俺だけで仕事もできなくは無いだろうけど…少年がいないのはやっぱり精度に問題が出てくると思う』

「だよなぁ」

 

 PC前に集まって、俺と諸伏さんが二人して唸っている今現在。

 まだコナン君が退院するのは先のことだ。

 

 なお、明美さんは今日は外出している。

 外出頻度がやけに高いが、優しい顔をしているので知り合いの観察にでも行っているのかもしれない。

 

 一応、現在の予定ではこの二週間で動かなければならない案件が4件ある。

 

 信者さんからの紹介であるため、彼女の顔を潰さないためにもなるべく依頼は完遂しておきたいところ。

 

 とすると、やっぱり人員の臨時増員しかないわけで。

 諸伏さんがぴっと人差し指を立てた。

 

『なあ、少年の彼女んところの親父さん、毛利探偵だっけ。あの人はどうだ?』

「いや…あの人はちょっと……」

 

 毛利探偵は一度蘭ちゃんと一緒にいる時に目にしたことがあるのだが、INT(知性)が俺とどっこいだったからな…。

 なら俺がINT上げた方が建設的なぐらいだ。

 

『あの黄昏の館で会った探偵に声をかけるのは?』

「正直、彼らは全員押しも押されぬ名探偵だからなぁ。普通に依頼でいっぱいな気がする」

『そう、だな。でも、どうしようもなくなったら連絡して泣きつく最終手段ぐらいにはなるか』

 

 二人してはぁ、とため息をつく。

 

「ともあれ、臨時作業員の募集をかけるか。公式HPにちょっと募集を載っけてみるよ」

『二週間だろ?そんな早く少年並みにいい人材が来たりするか?』

「んー、俺がある程度魔術で良し悪しは選定するから。ある程度優秀程度でも居ないよりいいかなって」

『うーん……』

 

 俺の案に懐疑的な諸伏さんが口をへの字に曲げている。

 俺なら人間のINT(知性)とEDU(教養)を数値として一瞬で認識できるから、採用面接の手間は格段に少ない…はずだが。

 人格的なところは数値化できないため、不安が残るのは仕方がない。

 

 俺がちょこちょこ運営している黄衣探偵事務所公式HPを開くと、興味深そうに諸伏さんが後ろから覗き込んだ。

 

『というか、へー。この事務所、公式HPとかあったんだな。業者に頼んだのか?』

「俺のお手製でーす。この手の作業、俺得意なんだ」

『!凄いな、結構手が込んでるように見えるのに!』

「はっはっは」

 

 俺の信仰の方向性として、風の神格以外に情報の神格としての側面があったりする。

 

 その際たるものがアメリカの超巨大企業「バベッジ・インコーポレイテッド」。

 俺と人類を同一化するために、コンピューターネットワークを用いて暗躍する悪の一大組織である。

 

 まぁ有体に言えば、ネットとプログラムは俺にとって結構親しい、権能の範囲内だということだ。

 

 それはともかく、求人募集の件だ。

 

 下書きを諸伏さんに軽くダブルチェックしてもらった後、手早くHPを更新してアップロードした。

 普段もそれなりに閲覧数があるし、このHPから仕事を依頼してくれる人もちょくちょくいる。

 だからある程度は人も来てくれるはず……という希望的観測など。

 

 諸伏さんが「俺もHP見てもいいか?」と言うので、PCを貸して俺は立ち上がった。

 

 ふう。良い人が来るといい────

 

「お邪魔します!求人募集見て来ました!!」

 

 瞬間。

 黒いベストを着た見覚えのある金髪イケメンが、ノックもなしに乗り込んできた。

 笑顔満面、しかしどこか圧の強い整った顔はアイドルか俳優のよう。

 少しだけフォーマル寄りなおしゃれな服装は、俺を爆殺した時と同じものだろう。

 

 諸伏さんが口から飲んでいた麦茶を盛大に吹き出している。

 俺はたまらず叫んだ。

 

「早い早い早い早いHP更新して1分も経ってない!!」

「僕、探偵としての実績もありますし、現場調査も慣れてますよ!中々良い物件だと思いますが!」

 

 降谷さんはニッコニコかつテンション高いのが隠し切れない雰囲気で俺ににじり寄ってきた。

 顔が近い顔が近い!

 というか普通にこれは降谷さんではない!

 

「この僕が!力を貸すと言っているんですよ?嬉しいですよね?嬉しいですよね?っっギャー!!」

「何しに来やがったニャル野郎!!!」

 

 反射で顔面に「ニャルラトホテプの退散」をぶっ放せば、奴はわざとらしい悲鳴を上げて顔を押さえた。

 諸伏さんがギョッとした顔でこちらを見ている。

 

 そして次の瞬間、肉体の主導権を降谷さんが取り戻したのか、スンッとした顔で無言で立ち尽くすなど。

 

 『ぜ、ゼロ…?お、おーい!』と諸伏さんが立ち尽くす降谷さんの前で手を振った。

 

 降谷さんは沈鬱に俯いたまま、小刻みに震え始めた。

 SAN値が減ったのか?と覗いてみるが数値に異常はない。

 覗き込んでみると、耳が赤いことに気づいた。

 羞恥か……まあそうだよね…哀れな……。

 

「あ、あの、ニャルの奴が悪かったよ。帰って良いから、俺たちも見なかったことにするし」

「お気遣い感謝します……」

 

 「ですが」と降谷さんが顔を上げた。

 その瞳は強く、一瞬気圧されるような人の意思に満ちている。

 

「この事務所に雇って欲しいと言う旨に関しては本当のことです」

「!」

 

 その言葉に、諸伏さんがやや視線を鋭くして口を開いた。

 

『どう言うことだ、ゼロ』

「組織が黄衣ハスタの暗殺が成功しないことを訝しがってるということだ。幹部が直々に動いたのに、相変わらず黄衣ハスタは生きている」

『組織は黄衣ハスタへの警戒度を上げた?』

「ああ。RUMがこの件に関して注目している。僕はRUMからの命令で黄衣ハスタの調査を任せられた」

 

 RUMというのが誰かはよくわからないが、どうも組織の重要人物のようだ。

 諸伏さんが僅かに目を見開いて、やけに険しい顔をしている。

 

 降谷さんはやや自嘲気味に口角を吊り上げて、視線を横へと逸らした。

 

「だから、僕『達』は合意したんだ。黄衣ハスタの事務所に潜り込む、と」

 

 つまり、ニャルラトホテプと利害が一致したから、双方合意の上で俺の事務所に来たと言うことか。

 降谷さんは組織の任務のため。

 奴は俺の事務所で遊ぶため。

 

 そのことに思い至って、俺は思わず言葉を漏らしていた。

 

「……驚いたな、奴が人間と取引するなんて。奴は人間なんて夏場に湧く細かい羽虫と同程度にしか思ってないのに」

 

 言ってから、それがあまりにデリカシーのない発言だと気づいて口を噤む。

 

 降谷さんは実に上機嫌そうに、三日月のような笑みを浮かべた。

 彼のことを知っている人なら皆違和感を持つだろう、悪意に満ちたニタニタとした笑みだ。

 

 そのあまりの違いように、諸伏さんが息を呑む。

 

「嫌だなぁ、僕だって玩具を大切にしたい気分の時ぐらいありますよ」

「ちょっと大事にすれば長く遊べそうな雰囲気があった?」

「そう。昨今人間の間ではSDGsが流行りって聞きました。僕偉くないです?」

「ニャル野郎ェ……」

 

 割とお気に入りのおもちゃ、ということらしい。

 

 こうなると俺が多少努力しても、ちょっとやそっとでは取り返せないだろう。

 できるのはなるべくニャルラトホテプの遊びに協力して、降谷零を少しでも長く生き延びさせることぐらいだ。

 こういうことは過去に幾度もあったから、俺の方も慣れている。

 

 こう言う場合でもきちんと対応すれば、波瀾万丈ながら老後までキチンと生涯を過ごさせることもできるだろう。

 

 

 ………本当のところ。

 

 ニャルラトホテプに魅入られていると分かった段階で、俺はこの降谷零という人物を正気のまま取り返すのは不可能だと思っていた。

 遠からずニャルラトホテプに弄ばれて、魂が崩れ落ちるのだろうと。

 

 だから、そうして奴が飽きて捨てたぐずぐずの魂をサルベージして、過去の情報を元に復元。

 友人のことを心配している諸伏さんに渡しておけばいいかと思っていたのだ。

 

 だから、ニャルラトホテプが玩具を大事にする方針を打ち出して、俺の方もほっと一安心していた。

 

『なあ、こいつは一体なんなんだ?ゼロの身体を乗っ取っている、こいつは一体』

 

 恐れを多分に含んだ声で、諸伏さんが奴を睨みつけている。

 あまり説明するとSAN値が減るから、与える情報は最低限にすべきだろう。

 嘆息して重い口を開く。

 

「こいつは俺の古くからの知り合いだよ。人間を弄ぶ怪物の類だ」

『かい、ぶつ…?』

「そんな品のない言葉で説明しないでくれません?」

 

 降谷零は俺の言葉にむすっとしたようだった。

 そして謳うように胸に手を当てて瞼を閉じる。

 

「僕はニャルラトホテプ。ナイアーラトテップでも構いません。喜んでください。こんなふうに僕が自ら人間に名乗るなんて滅多にない機会なんですよ?」

『ッ、人間、なのか?』

「……やれやれ。羽虫と神の見分けもつかないなんて、哀れなほど矮小ですねぇ。ふむ、貴方にも少しだけ分かりやすい姿になって差し上げましょう」

 

 そう言って奴が立ちあがろうとしたので、俺も意図的に声を低くして手で制する。

 

「ニャルラトホテプ。こんなところで正体を現す気か」

「……ふふ。止められちゃいました。残念」

 

 この矮小な羽虫が無様に発狂する様を見られなくて残念、と目が語っていた。

 

 この場でニャルラトホテプが正体を現わせば、間違いなく諸伏さんはそのまま魂ごと崩れ落ちることだろう。

 それを目の前で見ていた降谷さんが正気に戻った時、一体どれほど絶望するのか。

 嘆き悲しみ、後悔するのか。

 

 それをニャルラトホテプは見たかったのだ。

 

 その上で、俺が少しでも慌てふためけばもっと楽しい、ぐらいは思っていたはずだ。

 

 降谷零はウキウキと言葉の端を上げながら体を揺らしている。

 もう諸伏景光という羽虫のことは忘れたらしい。

 

「いやぁ、僕たちの共同作業とかいつ以来でしょうか…ふふふ、俄然やる気が出てきました!」

「うん、そろそろ可哀想だから降谷さんを自由にしてやろうね……」

「仕方ないですねぇ。あ、先日の洞窟で人間を少しばかり追い立てる催し、アレ古典的ではありましたが結構楽しめましたよ!やっぱ王道って感じで!僕も最近マンネリ気味で、」

「帰ろうね!!!」

「はーい」

 

 「ではまた!」と言い置いて。

 ストンと表情を落とした降谷さんは、ただ静かに遠くを見ていた。

 そしてしばらくのち。

 

「しごと…します……。資料、みせてください……」

 

 そのように、虚な声を絞り出した。

 

 俺は「うん、しばらくソファでゆっくりして、紅茶出すから、それ飲んで、落ち着いてからでいいよ…」と優しく声をかけたのだった。

 

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