降谷さんに2度目のあの世案を提出したなり。
そして「お話にならない。と言うか前より悪くなってる」と突き返された現在である。
提出したのは、前にフルボッコにされた反省を生かした書類である。
これは言い訳ではなくね、俺の努力を認めてもらいたいと言う真摯な気持ちでね、うむ。
今、現代社会は死後に対しての夢で満ち溢れている。
多くの宗教では現実の不合理を解消する場所として、死後の世界を定義している。
正しく生きた人はきっと報われるし、愛しい人と再会するし、なんかいい感じになる。
そのように人の心を慰めているわけだ。
だが実際はそうではない。
あの世なんてないし、不条理を解消する場所などこの世のどこにも無いのだ。
だからこその悲劇は間違いなく堆積している、と俺は推測した。
だったら今こそ作りましょう、あの世!
具体的には「正しく生きた人は報われる」にフォーカスした形を目指すのだ。
現世で生きた足跡の全てを俺の「ハスターの瞳」で分析。
その功罪をポイントとして抽出し、その功徳点の許す限り俺が死後において夢を叶えるのだ。
死者は死後、魂が霧散する前に俺の製作したあの世へと招かれるようにする。
そこで功徳点をもとに自動で欲望を叶え続けて、百年の安寧を約束するというわけだ。
人によっては愛する人と再会もできるだろう。
だが人間関係は複雑怪奇。
人と人との交流は百年後までをエミュレートして、不幸がより少ない形で再会を叶えていくつもりだ。
そこに重責はなく、ただ優しく気ままで不幸のない生活を送るのだ。
なお極端な悪人だとマジでふわふわしてるだけの虚無空間になる恐れはある。
そこは罰されないだけありがたいと思ってもらえれば幸いである。
概ね工期は一週間。
リソースは俺が全て出すから、これから人口が一万倍に増えて地球外進出しても永続可能だ。
あの世の維持費で俺が顕現しては動けなくなるが、これまでの対旧支配者防衛機構は維持できる。
かなりいい感じではなかろうか、と思ったわけだ。
なお降谷さんのコメントは冷たかった。
「却下。まず生者の社会にリソースを注いでくれ。あと将来的にとんでもないことになるぞこれ」とのことだった。
とんでもないってなんだ一体。
そしてちょうど事務所に遊びにきたニャルがこの資料を閲覧。
「なるほど…やはり羽虫を滅ぼさねばならない時が来たようですね……」とマジギレ燃え上がる三眼モードに入ってしまった。
ゴンさんみたいに髪を立ち上らせて覇気を出すから、星の精は怯えてコナン君のポッケの中でヴヴヴヴと細かく振動していたぐらいだ。
可哀想に。
というかなんでや。
俺の渾身の力作になんでキレるんや。
宥めるのに苦労したが、俺は不機嫌極まりないニャルを抱きしめたりわしゃわしゃしたりと試行錯誤を繰り返し。
なんとか機嫌を直してもらうことに成功した。
そうして、ニャルと降谷さん二人の反対にあって俺の計画は頓挫したのである。
ニャルは降谷さんに対して「グッジョブです元化身。よく我が夫を止められましたね」と愛おしそうに撫でくりまわしてから去っていった。
降谷さんは呆然と後ろ姿を見守り、パチクリと瞬いた。
「なんだあれ。僕に対する態度が前と180度違わないか?」
「まあ化身イコール本体だからな。降谷さんも俺って考えれば、ニャルが甘くなるのも割と当然なんだよな」
「まず僕と黄衣君が等号で結ばれていると言う事実が謎に近い。いや分かるが。黒い風としての感性では分かるんだが、人間的感性が意味不明と言っている」
「それはそう」
俺は頷いた。
だから俺は意思のある化身は作らないようにしてるし。
いや意思あったら他人だろみたいな感覚は拭いきれない。
ともかくあの世の野望が壊れたが故に、俺は普段通りに業務に勤しむしかない。
事務仕事をコツコツこなす今日この頃。
全国からドシドシ押し寄せる事件を仕分けして仕分けして仕分けして毛利探偵に流して小さい怪異は公安に流して、仕分けして仕分けしてモンスタークライアントに対応して。
仕事は限りない。
そして俺が仕事に打ち込む間にも日常は進んでいく。
そう。例えば今。
事務所には魔術光が乱舞しているように。
『なあ黄衣、あれ取り上げなくていいのか?』
「いや星の精も気に入ってるみたいだし取り上げたら可哀想だろ」
諸伏さんの視線の先には、めちゃくちゃ上機嫌で浮かれ上がっている星の精がいる。
星の精はファンシーなステッキを振り回して、先端から光の帯を乱舞させた。
あれは最近TVでやってる女児向け魔法少女アニメの「かわいく変身♪ジュエルステッキ」である。
番組間のCMで映っていたのを星の精が「欲しい!!」と凄く欲しがったので俺が買ってあげたのだ。
しかし最初に星の精が振った時、当然だがおもちゃのそれからはアニメ通りに光が出なかった。
星の精は「星の精は友達と違うから…変身できない……?」とショックを受けて塞ぎ込んだ。
そのため仕方なく、俺が光が出るように魔術的改造を施したわけである。
作中で悪をやっつけるのと同じ光が乱舞し、星の精は大満足で空中を二足歩行でスキップしている。
実は変身もできるのだが、まだその機能には気づいていないようだ。
星の精がふよふよと浮いたままひたすら「マジカル⭐︎パワー!」を炸裂させている。
もはや星の精は無敵!友達は星の精が守る!とのこと。
「あわわわわ降りてきて星の精!振り回しちゃダメだってば!!」とコナン君が止めようと奮闘している。
その時。
「大丈夫かなぁ」と漏らしつつ書類を取りに立ち上がった諸伏さんが、次の瞬間光に当たり撃沈。
「ゴヘァッ!?」という声を上げて倒れ伏した。
コナン君が「諸伏さん大丈夫!?」と慌てて駆け寄った。
作中と同じ光やからね、悪を浄化するんよ。
怨霊とかも綺麗になる。
よろよろと顔を上げた諸伏さんが大袈裟にゼエゼエと息を切らし、遺言を残す。
『今日の夕飯、星の精はなし………』
「諸伏さんッッッ!!!!」
【ゲダゲダゲダァ!?!?】
悪は滅びたようだ。
降谷さんがやってきて、そっと倒れ伏す諸伏さんの頭の上に書類を置いた。
「これ、追加の捜査頼む」と言って去っていく。
諸伏さんは静かにしくしく泣いた。
情け容赦もないじゃんけ。
星の精は己の罪を自覚したらしい。
静かにステッキを置いて、コナン君のポケットの中に入り込む。
そのまま、中でうんともクスとも言わなくなってしまった。
力あるものはその力に責任を負わねばならぬ。
学びになったな。
俺がうむうむと頷くと、ステッキを持ったコナン君がゴスっと俺の頭をぶった。
「痛っ!?」
「星の精がトラウマになっちゃってるじゃん!!」
「いやでも、遊びのつもりで致命傷を負わせるのは神話生物が人間と関わるときのあるあるだからさぁ」
「否定しづらいこと言う……」
「星の精にはこれにめげずに強く生きてもらいたいですね」
「TVコメントみたいなのやめて。もう、わかったよ!僕がフォローしとく!」
コナン君のポケットが小刻みに震えている。
星の精が…ヒゲを動かなくした…酷いことした…。
星の精は白黒の車に乗せられて、檻に入れられてもうみんなとは会えないんだ……。
蚊の鳴くような「クス……」という悲しみに暮れた声が聞こえてくる。
ちょっとやりすぎたかもしれん。
後でグミを追加であげよう、と俺は思案したのであった。
・ハスターの作る新装あの世
苦を排除した完璧な楽園。
悪人には退屈な、善人には素晴らしき地。
に、見せかけて実は実装された場合、際限なき欲望によって善人を堕落させる退廃の園になる模様。
叶えられる欲望の上限が設けられていないので、どのような悪徳も許されてしまう致命的なエラーである。
人との交流を望む者には人型の式神が対応する都合上、人型の式神を殺し合わせて賭けに興じることもできるわけだ。
黒い風「分かっててやってるのがニャルラトホテプ、完全な善意でやってるのが黄衣君、というわけか…」
コストは考慮していないので、無限に願いを叶えるためハスターは神体を願望器に変えようとしていたようだ。
お猫様が望むならソファにもなる猫奴隷の鏡。
ニャルラトホテプは燃える三眼を見開いて激昂した。
・変身ステッキ
ボタンを押すと光って、魔法少女の声も出る。
振ることで悪と判定される生物に対して、精神ダメージの入る光が乱舞する。
それは対象に軽い痛みを与えるとともに、悪心を減少させる効果を持つ。
意外と高度な魔術だったりする。
また、振り方を変えることで変身魔術も使用可能。
・星の精
トラウマになっている。
この後コナン君に「テレビでも悪い人と戦う時だけ光を出してたでしょ?怖い光だから、次からは振り回すのはやめようね」と教えられた。
グズッ!!!!(号泣)
諸伏さんには星の精のグミを大切な缶ごと上げたらしい。
星の精の宝物あげる。星の精は酷いことしたから。あげる。ごめんなさいする。
諸伏さんは受け取って、星の精をたくさんよしよししたようだ。