高名な建築家である森谷帝二からパーティの招待状が届いた。
その手紙には、隠しきれぬ魔術の香りが漂っている。
「うーんこれは明らかに旧支配者が呼び出されてますね。どう思われますか降谷さん!」
「いやなんでそんなポコポコ神が呼び出されるんだ。おかしいだろう」
俺が降谷さんにコメントを求めれば、降谷さんは梅干し並みの酸っぱい顔になってしまった。
もっともな意見だ。
俺の「彼方より来たりて饗宴に列するもの」がザルなのが悪いとも言う。
俺がしゅんと肩を落としたが、慰めるものはいなかった。
星の精は先日群馬で車で留守番させた件を根に持っているらしい。
部屋の端っこにあるサイドテーブル上犬ベッドに寝そべり、ぷいと触手を背けてしまった。
かなしい。
ともかく開けて内容を確認すべきだろう。
封を開けると、中から手紙とチケットが出てきた。
おかしなところはないが、チケットには原始魔術が込められているようだ。
どうやら受け取ったものの会話などを送る盗聴器と監視カメラの合わせたような魔術が仕組まれているらしい。
偽の映像が届くように軽く細工してから息を吐く。
マモーさんが「悪質な原始魔術ですね。術式は拙いですが」と眉間に皺を寄せる。
ナラトゥースを呼び出した魔術師は、素人に毛が生えた程度なのだろう。
この魔術も極基礎的なものでしかない。
コナン君が心配そうに俺に視線を向けた。
「今回侵入してきた怪異はどんなやつなの?」
「ナラトゥースって言ってな、へっぽこ旧支配者。間違いなく人間に呼び出されたんだ」
旧支配者ナラトゥースは「万物を生み出す」権能を持った小規模な神格だ。
極めて召喚されやすい体質らしく、よく体毛をブチっと魔術師に毟られて下僕にされている。
今回もそうして体毛を毟られたのだろう。
しかもナラトゥースはへぼくて、呼び出されたら逆らえないのだ。
ネクロノミコンでも「あいつは初心者でも呼び出しやすい便利な悪魔」とかボロクソ書かれている。
そして本人も奉仕体質で、頼まれるとなんだかんだ叶えてしまう便利な性格をしている。
だから大抵呼び出された先でこき使われるのだ。
おまけにどんな羽虫でも女性なら好きという特殊性癖で、おばさんの下着とかを捧げて呼び出せるという謎具合。
謎の不定形イソギンチャクでも女性要素があればホイホイ呼び出される。
そんな可哀想な奴なのだ。
諸伏さんが背後に宇宙を背負って首を傾げた。
『それは神なのか…?話盛ってる?』
「盛ってない。あいつまた人間に毛を毟られて下僕にされてるんだと思う。迷惑なやつめ」
ちっ、と吐き捨てて口を尖らせる。
奴のへっぽこさは嫌いではないが、人間を誑かすのはやめて欲しいものである。
もちろん、人間に召喚されるのもこれが初めてではない。
過去数々の問題を起こし、その度に人間側の熱い要望で召喚経路はそのままにされたと言う経緯がある。
大抵悪いことに使われてるからそろそろ規制したいんだがな。
あと俺が現れると奴はめっちゃ喚く。
勝手に呼び出されただけで無実だ!お助けを!的なことを言い募って逃げようとする。
なんか俺の光を味見したのかと疑うレベルの性格なんだよな。
しかもこれは素でこういうやつなのだという。
ほんとかよ。
光で人間性をなんとか保っている俺に謝れよ。
ひたすら気に食わなくてむしゃくしゃしていると、コナン君が星の精を抱えたまま心配そうな顔をした。
「それで、誘いには乗るの?パーティに呼ばれてるんでしょ」
「行くつもりだよ。ナラトゥースを何に使ってて、なんの目的で俺に魔術を仕掛けてきたか聞いてみたいし」
「なら僕も行こう。魔術師の犯罪は厄介だからな。万が一の時のために状況も確認しておきたい」
「ありがとう降谷さん。そうなんだよなぁ、魔術犯罪はなぁ」
怪異対策法である程度整理されたが、まだまだ不完全極まりない。
司法もパンク状態で、取り締まりは非常に難しいところになる。
マモーさんも「魔術師は内々で処分してもらうのが一番早いですからね」と頷いた。
物騒すぎる財界の掟が見え隠れ。怖や怖や。
そして星の精はまだ許していないようだ。
コナン君に撫でられながら、丸くなって無言を貫いている。
俺が近づいてわしゃわしゃと撫でてやる。
すると素早く触手でペッと払い除けられてしまった。
星の精にさわんな。星の精は怒っている。お前は白黒の車に乗せられる。
仕方ないので、手のひらに血液グミを一個出現させる。
ぴくり、と星の精は動いたがまだ無言。
五個に増やす。無言。
十個に新しいデザインの缶もつける。
星の精は俺の手のひらからさっと缶を奪い取り、握手の態勢に入った。
星の精は仲直りする。星の精はやさしい。お前も感謝するべき。
非常に現金な星の精でちょっと笑ってしまったが、仲直りできるようで安心した。
触手を握って握手をする。
星の精は大事そうに缶を抱えてふよふよと移動。
コナン君のポケットに入り込んだ。
大切にするつもりらしい。
ともかく、ナラトゥースの件はパーティに出席してから考えるとしよう。
というわけで話を巻いてパーティ本番である。
立派な洋館は完璧なシンメトリー。
豪華な庭は美しく、すでに来客達が歓談しているようだ。
可哀想なナラトゥースが奥の館にいるのがここからでも確認できる。
ナラトゥースも俺が近づく気配を感じ取ったのだろう。
震え上がっているようだ。
コナン君に諭されて、新しくなった新装俺は少し優しいからな。
ぶちのめすにしても話ぐらいは聞いてからにしてやろうと思う。
パーティ会場はすでにおしゃれな森谷帝二手作りの洋菓子が並んでいる。
その中を各界の著名人が思い思いに時を過ごしているようだ。
比較的有名アーティストが多いように見える。
政治家はあんまりいない。財界は中堅級かな。
ゆっくり辺りを見渡す俺達の元にやってきたのは森谷本人だ。
ニタリと悪意の滲む笑みを浮かべ、森谷は何かのポストカードのようなものを差し出した。
「高名な名探偵の黄衣ハスタさんにお越しいただけて私も嬉しい限りです。突然不躾なお誘いかとは思いましたが…」
「いえ。お招きいただき俺も光栄です。森谷さん。それで、こちらは?」
「ちょっとした謎解きの催しですよ。もっとも、名探偵たる黄衣さんにかかればこの程度すぐ解いてしまわれるかもしれませんね」
にこやかな笑みに紛れて俺に強烈な挑戦状が叩きつけられる。
すなわち、「解けるものなら解いてみろ。私のように秘された神秘の技術を知らぬ愚物が」ぐらいか。
この男マジに性格悪いかよ。
コナン君が瞬時に反応して、「見せて見せて!黄衣さん!」と俺の服の裾を引っ張った。
謎と言われれば解かねばならぬのが探偵の定めか。
俺は謎解きは子供に任せる体でコナン君に渡して「そうだね、ほらどうぞ」と穏やかにカードごと渡す。
メッセージ性としては「お前の謎など子供相手が相応しい」と言った形だ。
最近マモーさんに叩き込まれた、角の立たない煽り合い講座初級編の成果だ。
揚げ足とられず、法に触れずに相手を不快にさせる技術が詰まった人間の暗黒面の煮凝りのような講座であった。
俺は舐められやすいから、スマートにやり返す方法ぐらいは覚えておいた方がいいという判断らしい。
人間怖い……何も信じられない……。
俺の煽りを受けた森谷は、目を剥いて歯軋りを堪えたようだった。
降谷さんは一瞬で俺の講師を見抜いたらしい。
感心したように頷いている。
「呑気とマイペースが服着て歩いてるみたいな君にここまで教え込むとは、マモーさんもなかなかやるな」
「犬が芸したみたいな口調でマモーさん褒めるのやめて」
「で、謎はわかったのか?」
「全然………」
『ダメじゃん』
そもそも俺は謎を明らかにすることが好きでないんだよな。
ちょいと意識すれば全知なんてすぐなのに、解き明かすことに喜びが見出せない。
せっかく分からないふりをしてるのに、自ら解いたら意味ないではないか。
のようにブツブツ文句を言っていると、諸伏さんが頷いたようだ。
「ゲームのハードモード縛りプレイ苦手勢か」と雑な理解を披露してくれた。
せやろか……?
大体合ってる?
そしてコナン君に「ちょっと僕考えてるんだけど!静かに!」と怒られてしゅんとする俺たちなのであった。
・ナラトゥース
ほぼ原作小説ままの萌え旧支配者。
おばさんの下着で呼び出せるのはほんと。
呼び出し先でこき使われてる不満を言って、でもなんだかんだ言うこと聞くタイプのツンデレ(原作)
森谷帝二とは気が合わなくて不貞腐れてる。
・森谷帝二
あーくまのちからー身につけたー!
齧った魔術でナラトゥースを呼び出して無敵モード。
私は愚物などとは違う、真の強者なのだ!!
ナラトゥースにぐちぐち文句言われて不快になってる。
・マモーさんの立ち振る舞い講座
受講者は主に降谷さん。時々ハスター。
猿に舐められないための技術が詰まっている。
見栄と打算と自己顕示欲に塗れた話し合いでいかに自己を守り利益を出すか。
底知れぬ馬鹿の上手い制御方法。失敗しない既得権益の作り方。
財界人なら超高額受講料を払ってでも来るだろう手取り足取りの授業です。