結局、来客の中で最速で謎を解いたのはコナン君であった。
流石俺らのコナン君だぜ!
二重に屈辱な森谷が屈辱に歪む顔を隠しながら進み出てくる。
勝者に己のギャラリーを招待してくれるらしい。
コナン君が案内されるようなので、せっかくだし俺たちもついていくこととする。
道中、目を細めて森谷が俺に問いかけてきた。
「しかし驚きました。本当にお子さんが解いたのですか?」
「ええ。俺は一切関わっていませんよ。あるいは、子供の柔らかい脳だからこその早さかも知れませんね」
あまりヘイトを稼ぎすぎてもなんだし、ほんのりとフォローしておくこととする。
俺としても予想外だったと言う立場を取れば、不愉快そうだが「これはマグレだったのだ」と納得はしたらしい。
ここで送られてきた監視魔術について切り込むかとも迷ったが。
降谷さんが流石に首を振ったのでやめておくことにする。
まだ俺たちのことは伏せておくべきだと判断したようだ。
案内しながらも、森谷はごく簡単な念話でナラトゥースに指示を送っては拒否られている。
「こいつらに呪いをかけろ」「断る」「良いからやれ」「絶対断る」などなど。
どうも森谷は俺が魔術師であることを理解していないようだ。
俺が盗み聞きしていることをナラトゥースは理解して、焦って俺に個別通話してきた。
必死で無実だと言い募っている。
俺はうーんと悩んだ。
無実なのはそうだが、かなりむしゃくしゃしたしな。
俺はとても優しいので、地球外に蹴り出すぐらいで許してやるか。
そして森谷の方も間抜けなことだ。
俺が施した監視魔術への偽装工作にも気付いていないようだし、やはり奴はど素人であることは疑い用もない。
そのように軽くやり取りをして、その日はお暇することにした。
動きはその一週間後にあった。
世間では連続放火事件が連日ニュースになっている。
もうすでに複数人死者が出ていて、全焼したのがどこも豪邸であることから昼のニュースでかなり取り沙汰されているようだ。
おまけに東洋火薬から大量のオクトーゲンが盗まれる事件もあった。
オクトーゲンはプラスチック爆弾の原材料だ。
盗まれた量なら巨大ビル一つ木っ端微塵にできるほどで、危険性はかなり高い。
まあでも爆弾なんて畑でいくらでも取れるし、そこはあまり重要ではないのだが。
ともかく。
一連の事件は関連性あり。
広範囲テロの気配として現在公安の方で捜査中だ。
一連の事件と断定されたのは、この事件で同一の犯人が防犯カメラに映っていたから。
今、俺たちの目の前でも押収した監視カメラ映像が再生されている。
「これが旧支配者ナラトゥースか」
降谷さんが不機嫌そうに呟いた。
暗く不鮮明なカメラに、白い鱗に覆われた、一つ目のでっぷりしたトカゲのようなものが映っている。
もちろん旧支配者につき、SAN値チェック回避用防護魔術は起動済み。
映像の中で、トカゲはキョロキョロと周囲に人がいないか確認したようだ。
そしてそっと手に持ち、細い薪にチャッカマンで火をつけた。
着火剤が塗布してあるようで、薪はすぐに燃え上がった。
その枝を家に燃え移るように密着して置いて、太い薪を足してから座り込む。
しばらくしてから火吹き棒を使って火を育てる作業へと移ったようだ。
十分に火がついたのを見計らって、トカゲはそそくさと退散していった。
もちろん人がいないことは十分に確認して、こそこそと柵を乗り越えていく。
諸伏さんが審議中の顔をした。
『いや……魔術じゃダメなのか?怪物なんだし、火ぐらい付けられるだろ』
「僕でも流石に火は付けられる。魔術が苦手な神格なのか?」
疑問符しかないようなので、俺も軽くフォローを入れておく。
「単に魔力不足だな。消費が少ない万物創造の権能で、なるべくエコに火付を実行しただけだと思う」
『貧乏ってことか。あの森谷って男、命令なんだし火付分の魔力ぐらいあげればいいのに』
「ふむ。よほど腕のない魔術師なのか、そもそも召喚したナラトゥースに魔力を配分することを怠っているだけなのか。分かりかねますが…」
マモーさんも困った様子でコメントする。
どうやらロイヤルミルクティーを持ってきてくれたようだ。
一口飲めば、気品のある香り高い味わいが広がる。
流石マモーさんだ。
魔術師に毟られたナラトゥースの毛は、完全に魔術師の支配下に置かれて本体とは分離している。
そして毟られた毛を本体も無視している。
だから、召喚した毛が使う分の魔力リソースも、魔術師が出さねばならないのだ。
ようは中身の入っていない願望器みたいなものだな。
それでもナラトゥースは律儀なので、無茶振りされてもぐちぐち言いながらできる限り叶えようとするが。
今回のように、頑張って現場までスニーキングミッションして焚き木して帰るとか。
黒川邸以外にも三件被害に遭っているが、どこも頑張りトカゲが火付に来ている。
東洋火薬も、入り口に合う鍵を創造して侵入。
火薬貯蔵庫を丸ごと盗んでえっちらおっちら逃走したようだ。
足はつかないようにと命令されているらしく、トカゲ姿は映っても森谷との繋がりは特定されないように頑張っている。
途中監視カメラのない場所で二足歩行の人間のふりをして服を着込むとか。
裏口からそっと入るとか。
涙ぐましいと言わざるを得ない。
降谷さんがため息をついて肩を落とした。
「どうする?引っ張るか?」
『そうだな。森谷邸に入っていくのはすでにカメラが捉えてるし。証拠は十分だろう』
「抵抗されたら厄介だが。念のため協力してくれるか、黄衣君」
「勿論だとも」
そのように話していたところに。
事務所の電話が着信を示すベルを鳴らしたてた。
ひっきりなしとは言わずとも、代表電話なのでそこそこ対応することになる電話だ。
俺が出ると、粗雑なボイスチェンジャーで変えた不気味な声が俺を迎えた。
『米花緑地公園に来い』
「……事件調査のご依頼でしょうか。もしご依頼でしたら文書もしくは弊探偵事務所公式HPからお送りいただければ…」
『早く来ないとガキどもが死ぬぞ』
ぶつり、とそれだけ言って電話は切れた。
音楽神たる俺にはわかるが、ボイスチェンジャーで声は変えているものの元の声は間違いなく森谷である。
俺が目頭を揉んで難しい顔をしていると、諸伏さんが「迷惑電話?」と聞いてきた。
この代表電話によく来る類の迷惑電話と言ったら、確かにそうかもしれない。
「迷惑と言えば迷惑。ボイスチェンジャー使った森谷さんからの挑戦状だよ。急がないと子供が死ぬぞ、米花緑地公園に来いって」
「な……!」
意味わからん。
お前あの程度の煽りで根に持ちすぎだろ。
SNSでは生きていけないタイプの人種だとはわかっていたが、こんな音速で喧嘩を売られるとは。
いや、パーティに呼ばれた段階で結構な悪意だったし、その前に不興を買ったと見るべきか。
ともかく急ぎ米花緑地公園に向かおう。
注意深く探知阻害をしてから「門の創造」を行い、俺たちは公園に近い目立たない場所へと転移した。
転移は一瞬だ。
公園周りは人が多かったので少し離れた場所への転移になってしまったが、走れば一分とかからず着く。
到着した米花緑地公園は、休日の親子連れで溢れていた。
ちまい子供達が沢山いるので、こんな場所でテロを起こそうとしている森谷への怒りが湧く。
降谷さんが「早く森谷を縛り上げないと被害が致命的になりかねない」と吐き捨てた。
マモーさんが厳しい表情で俺を見る。
「神よ。森谷帝二の方は捕捉されておられますか?」
「別窓で開いて常に監視中。今はここから離れた場所から双眼鏡で公園の様子を監視してるっぽい」
『この場にいないのか?魔術で子供達を呪うとかか?』
いや。おそらくは爆弾を使うつもりだろう。
人をバレずに殺傷する魔術は意外とコストがかかる。
どうやら少年探偵団も遊びに来ていたようで、元気にラジコン飛行機を飛ばして大はしゃぎしているのが見えた。
コナン君の表情に焦りが浮かんだ。
素早く俺たちの姿を見つけた志保ちゃんが、こちらに走って近寄ってくる。
「ねぇ、ちょっといいかしら」
「おうよ。ちょっと今忙しいけど…どうかした?」
「あの子達、私が目を離した隙に知らない人からラジコンをもらったって言って遊んでるのよ。貴方が直後にここにきた。何か関係あったりする?」
「ビンゴすぎるんだわ」
俺は渋い顔でブンブンと空を舞うラジコン飛行機を見つめる。
「ハスターの瞳」が解析した結果によると、そこに搭載されているのは間違いなくプラスチック爆弾であった。
電池残量は極小。
衝撃と無線両方で爆発する仕組みを搭載しているらしい。
電池切れで落ちたらアウト。
子供が持って帰るなり大人が取り上げるなりしても遠隔爆破でアウト、ということのようだ。
畜生がよぉ〜〜〜。はー許さん。
ナラトゥースともども地球から蹴り出してやろうか。
そのようにむしゃくしゃを掻き立てたのであった。
・星の精
昼寝中。コナン君の服のポッケですやすや。
・灰原さん
気づいたら子供達が不審者からもらった不審なラジコンでブーーーーンってしてたので頭を抱えた。
そして探偵事務所揃い踏みで現れたのを見て絶望。
最善でトリックの駒、最悪で爆発を予想していた。
・森谷
ナラトゥースと言い争いして、もういい私がやる!ってなって自分で爆弾運用しだした。
魔力ぐらい回してくれないと姿を隠せないって言われてキレてる。
悪魔がその程度なぜ自分でできない!?私のことを軟弱だと言っているのか!!
第一魔術についてもいちいち指摘が鼻につく!(激昂)
・ハスター
キレ気味。
俺の面倒見てる子どもを狙う奴は無限プチプチしちゃおうねぇ。
ナラトゥースはまだ判決待ち。
検察は死刑を求刑しているが、弁護側が「逆らえる状況ではなかった」と情状酌量を求めている。