最初に動き出したのはコナン君であった。
空を舞うラジコン飛行機を魔術的に捕捉。
ブレスレットの力を展開した。
内部構造を解析しながら、動き続けるラジコン飛行機の爆弾の配線を切断の魔術で解体。
思考加速も併用して、その技わずか二秒。
あっという間の早技で、ラジコンに搭載された爆弾は置物になった。
爆弾が完全に沈黙したのを確認してから、コナン君は慎重に少年探偵団に声をかける。
「おい元太!」
「お!俺たちすげーの貰ったんだぜ!コナンもやるか?」
「あっ次僕ですよ!僕がやるんです!」
「悪いんだけど、そのラジコン飛行機が事件に関係してるみてーなんだ。壊さないようにそっと下ろして、黄衣さんに渡してくれねぇか?」
子供達は一斉に「えーー!」と文句を言った。
だが根は優しくて良い子達だ。
「事件なら仕方ないね」と言った様子でいそいそと飛行機を下ろす準備を始めた。
コナン君の教育が行き届いているようで、その手際もかなり良い。
元太君が上着を脱いで「触らねーほうがいいよな。これで包んでキャッチするぞ!」「なら僕が受け止めますね」「歩美も!」と協力してことを進めている。
実に英才教育と言った感じだ。
小学校一年生の知能とは思えない。
それにしてもコナン君はすごい離れ業をしてのけたものだ。
使っている魔術はごく初歩的なものだった。
内部をマッピングするのも、物質切断も、思考加速も、そのほか細々とした術式も。
魔術の仕組みとしてとてもシンプルだ。
だがそれを高速で空を舞う物体を対象に、わずか2秒で成し遂げたのは凄まじい。
しかもただ発動するだけではない。
科学知識をもとに、爆弾解体の道具として使用する形で全工程を完了させたのだ。
マモーさんもこれには目をまるくしていた。
ハイパーボリアの魔術スポーツ大会に出れるハイレベルさだろう。
降谷さんが無意味に不機嫌になっているので肩を叩いておいた。
安心してくれ。
センスは無いようだが時間はあるから、百年後とかにはまともに使えるようになっているさ。
俺の哀れみの視線を受けた降谷さんはいよいよむしゃくしゃしたらしい。
俺の脇腹をゴスゴスしてきた。
痛い痛い。俺に当たっても魔術は使えへんで。
森谷の方もその動きを確認したようだ。
子供達がラジコン飛行機をキャッチしたあたりで起爆装置を作動させる。
そしてうまく作動しないことに気づき、激昂した。
ボタンをめちゃくちゃに押してから、地面に叩きつけて踏みつける。
キレすぎわろた。落ち着いてくれ。
そしてスマホを取り出し、あらかじめ手に入れていたらしい俺の電話番号にかけてくる。
俺も平然と電話をとった。
イラつきを我慢しているのか、険しい声が通話越しに聞こえてくる。
『計画変更だ。運が良かったな』
「なにかお前の計画に不備があったのか?」
『……次の爆弾の在処を教える。米花駅の西口駅前広場だ』
俺の質問に答えず、ぶちっと通話を切る。
冷静さは失っているようだが、まだ取り繕う余力はあるらしい。
軽く煽ればボロを出すと思ったが、残念。
まあ俺の煽りは単純で、「お前の設計不備で爆弾が爆発しなかったんだろ?」ぐらいの意味を含めて声をかけただけだ。
コナン君の魔術には気付いてないようだし、森谷は降谷さん以上のプライド妖怪。
俺の言葉は奴の中で増幅され、「ダッサww失敗乙www」ぐらいの言葉に変換されたことだろう。
見るとやはり、通話を切った後も俺の煽りに怒りを爆発しているらしい。
鉄柵を殴って激怒に震えている。
この調子で俺を爆破対象にしてくれれば、被害も防げて嬉しい限りだ。
しかし、間違いなくSNSでおもちゃにされるタイプの人だな。
森谷帝二公式アカウントとかあったら有名人だったかもしれない。
炎上芸人的な。暴れ回ってコミュニティノートとかつきそう。
ともかく次だ。
米花駅はこの近くだから、急げばすぐになる。
諸伏さんが「このラジコン飛行機は警察に届ける。君たちにも話を聞きたいから集まってくれるか?」と少年探偵団を手招きしているのが見えた。
この場は諸伏さんに任せれば良いだろう。
ほっとしたような志保ちゃんが「ありがと。ところであのラジコン飛行機なんだったのよ?」と聞いてきた。
俺は「子供の命を狙った爆弾」とだけ回答しておいた。
志保ちゃんは卒倒しそうな顔をした。
本当に間に合ってよかったよ。
コナン君が早く!と呼んでいるので、森谷から見えない位置まで来て「門の創造」を発動する。
空間を渡るのは一瞬だ。
米花駅前広場は人でごった返していた。
休日を思い思いに過ごす人波は騒がしく活気がある。
カフェチェーン店では談笑する人たちの姿もあった。
森谷のいた位置からなら、ここも死角は多いがギリギリ双眼鏡で視認できるだろう。
降谷さんが目を細めて視線を這わせた。
「黄衣君、どこに爆弾があるかわかるか?」
「おうよ。この場はスキャン済み。あのベンチの下だ」
「……人が座ってる。今話しかけると危険かもしれないね」
コナン君が苦々しげに歯噛みした。
俺たちが近寄ったのを見計らって目の前で爆破、とか十分に考えられるからな。
ベンチに座っているのは品のいいおばあさんだ。
タクシーを待っているようだが、足元から聞こえるニャーニャーという声に気づいて下を確認する。
そこにあったのは猫用キャリーバッグだ。
ピンクのそれを開けると、中には可愛らしい子猫がいたようだ。
メモで「どなたか貰ってください」と添えてある。
おばあさんは顔を綻ばせて引き取ることを決めたらしい。
優しいおばあさんに会えて子猫も嬉しそうだ。
もちろん、その中には爆弾が仕込まれている。
ラジコン爆弾子供狙いといい、マジで外道すぎるな森谷帝二。
そこで時を一時停止。
パチン、と指を鳴らして時を固定する。
父なる神ヨグ=ソトースを呼び止める感じの魔術だ。
ヨグ=ソトースは一瞬およ、という反応をしたようだ。
俺をやや転がしてから、律儀にぴたりと止まってくれた。
その間におばあさんから猫バッグを拝借。
子猫をそっと横に置いて、バッグの中から爆弾を取り出す。
そのまま亜空間内に固定保管。
猫を優しくバッグに戻して、おばあさんに返しておく。
コナン君が「これ、時間を止めてるの?」と困惑して辺りを見回している。
コナン君はブレスレットの機能で時間停止にも耐性があるからな。
やや動きづらそうなのは、単純に処理が重たすぎるからだ。
ヨグ=ソトースが動かない分、自分のリソースを使って自分の分の時を仮想構築しないといけないからな。
俺は頷いてコナン君の質問に肯定した。
「おうよ。俺の父上は時間の神だからな。コナン君は見たことなかったな。この場に満ちているものこそ、時間そのものたる大神ヨグ=ソトースだ」
「黄衣さん父親とかいたんだ…」
「完全な無から発生するのは、混沌の神殿に座すこの世の創造神だけさ。科学的にいうとビックバンの化身的なやつ」
「インフレしてるなぁ」
コナンくんが理解を放棄した顔をした。
ともかくもう安全は確認された。
時の流れを元に戻すべく、魔術を解除する。
ヨグ=ソトースが「もういいのかい?」ぐらいの反応で遠慮がちに動き出した。
あとは仕上げだ。
俺はゆっくりとおばあさんに近づいていく。
それを待っていた森谷が、俺が十分に近づいたタイミングを狙って爆弾のスイッチを入れた。
凶悪な笑みは愉悦に濡れている。
だが残念ながら、すでに爆弾は除去済み。
反応のない爆弾に、怒りが頂点を超えた森谷が顔を真っ赤にして辺りかまわず当たり散らし始めた。
そして石の外壁を蹴っ飛ばして向こう脛にダメージを負ってしゃがみ込んでうめいている。
こいつキレ芸の才能あるな。
俺はそれを確認してから途中で止まって、コナン君達のところへと戻った。
降谷さんが俺の謎行動に疑問符を浮かべたようだ。
「どうした?爆弾を回収したのか?」
「ああ。回収済み。もうこの場に用は無いな。公安に爆弾を渡して帰ろうか」
「……拍子抜けだな。あと君とコナン君が一瞬コマの飛んだような動きをしたんだが、もしかして時間を止めたのか?」
「正解。降谷さんも万が一のため自分の時間は持っておくといいよ」
ヨグ=ソトースの端っこをバレないように千切ってこっそり隠し持つ感じだ。
バレると荒ぶる時間の大神が降臨するから、抜け毛をすかさず拾うとかでもいい。
コナン君のブレスレットにも、時間を構築する触媒としてほんの小さな欠片が組み込んである。
降谷さんはにがり切った顔でため息をついた。
「簡単に言ってくれるな。時間停止するような輩はそうそう居ないだろ」
「ニャルは時間停止できるから割と必須魔術ではある」
「絶望か?」
降谷さんは陰鬱な気配を纏って再び馬鹿でかいため息をついた。
そんなふうに俺たちは公安に凍結済み爆弾を渡して帰宅することにした。
諸伏さんと合流して事務所に戻り。
事務所入り口には、ご丁寧に人の服を着込んで変装したトカゲが待っていたのであった。
・森谷帝二
マジギレ大暴れ逆恨みモード。
どいつもこいつも私をコケにしおって!!
あの悪魔が使えなかったせいだ!
奴が魔力が魔力がなどとくだらないことを喚かなければ…そうだ、アイツがミスをしたのだ!
私の計画は完璧だった!!
それを探偵風情が…ふざけるなよ…。
・変装待ちトカゲ
騒ぎにならないように変装して帽子を目深に被って探偵事務所のあるビルに入ってきた。
パワハラ召喚主に文句しかない。
ナラトゥースも爆薬補佐作業を命じられていたので、探偵事務所にこっそり命乞いに来た。
・ヨグ=ソトース
息子が定期的に頼ってきてくれて嬉しがっているように見える。
ニャルも時間停止は使うが、声をかけてもニャルが相手だと無視する。
なのでヨグ=ソトースの一部を縄で縛って停止を成している。
やりすぎると不愉快ヨグ=ソトースが殴りに来て、ニャルは爆散する。