ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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時計仕掛けの摩天楼〈有名対決〉

 

 念のため東都環状線の全域を「ハスターの瞳」で確認する。

 

 爆弾は確かにナラトゥースの情報通りの場所にのみ存在していて、トラップなどは無さそうだ。

 ここからは二手に分かれての作業になる。

 

 まず、東都環状線の方は降谷さん達に任せることにした。

 鉄道会社と協力して乗客の迅速な避難を行わねばならないから、警察組織との広範な連携は必須。

 そのあたりの指揮は降谷さんに任せた方がいいだろう。

 

 また、ナラトゥースも警察組に同伴させた。

 

 作業中のリアルタイム魔術的探査はナラトゥースにしてもらうことにしたのだ。

 奴も嗜みとして魔術は使えるし、現在の契約者は降谷さん。

 ちょうどいいだろう。

 

 なお、この魔術はナラトゥース曰く「ナガアエの前足がキュートな美人さんに教えてもらった」とのことだ。

 

 ナガアエは旧支配者シアエガの奉仕種族で、ヌメヌメした臭いイボだらけの毛ありヒキガエルである。

 キュートさの欠片も見当たらない。

 俺の反応に、ナラトゥースは「あの子は滑らかで、毛も誰よりも長かった!」と憤っていた。

 長いからなんだって言うんだ。

 

 ともかく。

 別動隊である俺とコナン君、そしてマモーさんは森谷を押さえに行くことにした。

 

 道中風見さんと合流して、軽く情報共有する。

 一応公権力がいないと逮捕権がないからな。

 既に引っ張る準備は整ったようだが、逮捕状はないため任意同行の形になる。

 

 合流した風見さんは、不安そうに身を縮こめてペコペコしている。

 ガチの魔術案件だし、そりゃ怖くて然るべきだろうよ。

 松田さんの姿はないが、おそらく別件で不在なのだと思われる。

 

 風見さんはしおしおの状態で眉を下げた。

 

「私で本当に大丈夫でしょうか…相手は本物の魔術師ですよね。私ではその、知識も不足していますし……」

「そう気を張らなくていいさ。いつも通りいつも通り。魔術で抵抗されたら俺が抑えるよ」

 

 安心させるように微笑みかければ、青ざめていた顔に血の気も戻って来たようだ。

 風見さんが少し微笑んで緩く息を吐く。

 

「ありがとうございます。ハワード・ロックウッドさんも、このような場にわざわざお越しいただき感謝の念に堪えません」

「気にしなくて結構です。それと、私のことはマモーとお呼びいただければ。神に仕える私はその名前で通しております」

 

 お固い会話だ。

 コナン君がポッケの中の星の精と手を繋いでやっている。

 星の精は上機嫌でクスクスと笑った。

 

 そんなふうにして絵面はまったりと森谷邸に到着。

 

 入り口のチャイムを鳴らす。

 すると、ちょうど庭園に水をやっていた森谷帝二がひょっこり顔を出した。

 予想外そうに瞬いているのを見るに、普通に庭で己の建築を眺めて悦に浸っていたらしい。

 

 疑問の浮かぶ森谷に対して、「こういうものです」と端的に風見さんが警察手帳を掲げた。

 実に威圧的で硬質、公安然とした立ち振る舞いだ。

 さっきまでオドオドしていたのが信じられない。

 

 森谷はにこやかに笑って門扉を開けたようだ。

 

「おやおや、刑事さんが私の家に何の用でしょうか。もしやこの辺で事件でも?」

「あなたに、放火、窃盗、爆発物製造の疑いがかかっています。ご同行願えますでしょうか」

「………なんと、寝耳に水とはこのことだ。覚えもありませんので、詳しく話を伺ってもよろしいでしょうか」

 

 そう言いながら、森谷は狡猾そうに目を細めた。

 魔術が発動する。

 ごく初歩的な精神干渉で、自分の言葉を信じさせる効果がありそうに見える。

 対象は風見さんだ。

 

 しかしお粗末で、一般人である風見さんの抵抗すら抜けないだろう。

 というか、森谷はそもそものPOW(精神力)が極めて低いように見える。

 だから魔力も全然ないし、相手の精神に干渉する力もとても弱い。

 

 防壁を作ろうかも思ったが、放っておいても失敗する程度の弱さなので放置。

 転び公妨をしなくても自然に公務執行妨害に持ち込めるし、ちょうどよかろうよ。

 

 風見さんが魔術を受け、ふらりと眩暈に襲われてよろめいた。

 抵抗が成功して、弱々しい魔術が当然のように霧散する。

 

 魔術が効かないと見るや、森谷は狼狽えて「バカな!?」と驚愕に目を見開いた。

 いや普通お粗末な魔術は抵抗されるだろうに。

 対人経験が少な過ぎて抵抗を経験したことがなかったのだろうか。

 可哀想に。

 

 風見さんが少し呻いて体勢を立て直し、ギロリと森谷を睨みつけた。

 

「……私に何をした!公務執行妨害で、逮捕する…!」

「わ、私は何もしていない!刑事さんの体調不良を私のせいにするなど、とんでもない横暴があったものだ!」

 

 声高にこちらを非難するが、さっき森谷は「バカな!?」とか大声で叫んでるんだよな。

 ガバガバ感とライブ感が合体して派手な炎上ショーになる予感がする。

 

 それを見ていたマモーさんがするりと前へ出て、森谷と相対する位置に立つ。

 マモーさんは静かに、しかし明確に断言した。

 

「今、あなたは魔術を使いましたね」

「なにを…魔術?なにかの物語の話ですかな」

 

 ひたり、と視線を合わせる。

 しばらくの沈黙。そしてわずかに眉を上げる。

 空気を支配するように無言で目を細めてから。

 

 焦れた森谷の出鼻を挫く、完璧なタイミングで口を開いた。

 

「貴方の犯罪はすでバレていますよ」

「だから何の…」

「もしや貴方は、警察にも魔術師ぐらいいるということをご存知ないのですか」

 

 森谷は冷や汗を垂らして唇を震わせた。

 怪異対策法案なんて国が作ってるのに、魔術だけ例外なわけないやろがい。

 怪異というセンセーショナルさに隠されて、魔術の存在は認知度が極めて低いが。

 

 それでも、怪異と戦うには魔術は必要不可欠な技術だ。

 

 そしてどうやらマモーさんは警察組織に協力している魔術師のふりをするつもりらしい。

 いや実際魔術師ではあるし協力もしているのだが。

 俺にふわっと依頼されたものをマモーさんがふわっと請け負うことがある、みたいなもので。

 なんというか二次受けを社員扱いするのは問題があるような無いような。

 

 森谷はハンカチで汗を拭って早口で捲し立てる。

 

「な……こ、れは参ったな。おかしな狂言に付き合う気はないのですが。私は忙しい身ですので。それでは」

 

 そのまま扉を閉めようとしたので、風見さんが冷酷に言葉を続ける。

 

「公務執行妨害で逮捕すると言ったはずです。逃亡すれば罪が重くなりますが」

「ッだから私は何もしていないと言っているだろう!証拠でもあるのかね!?」

 

 いよいよキレ始める森谷を前に、マモーさんが魔術を編み始める。

 

 早く美しい、教本のような魔術構築だ。

 繊細に魔術式を編んで、最小限の魔力で組み上げられていくそれは本物の神代の御技。

 

 空間に画面が浮かびあがり、そこに記号と図形の数々が激しく流れていく。

 森谷は少しだけ狼狽えて後ずさった。

 

 森谷には分からなかったようだが。

 これは魔術がここで発動されたことを示す歴とした証拠である。

 ハイパーボリアの簡易試験や約束事にも用いられる正式な情報構造体だ。

 

 そしてもっとも重要なのは、これは怪異対策法に則って作られてもいるということだ。

 

 物言わぬシステムたる「ハスターの瞳」にアクセスして得た情報は、怪異案件に限り正確なもの、客観的なものとして使われる。

 つまり法廷で有効な物的証拠となるのだ。

 

 マモーさんは画面を浮かべたまま平坦な声で言った。

 

「この今表示しているものは、法廷にも提出されます。コピーは差し上げますので、留置場で解読するのがよろしいでしょう」

「っ……こんなものどこが証拠だ!?」

「貴方の不勉強を一から十まで説明する義理はありませんので。貴方の逮捕が逃れようの無いことであるとだけ、考えていただければ」

 

 森谷は血走った目で俺を見て、それから全てを察したらしい。

 俺が招待状に仕込まれた魔術に気付いていたこと。

 その上で泳がされていたことを。

 

 屈辱に煮えたぎり、これまでの憤怒が蘇り、森谷は我慢の限界を迎えたようだ。

 唾を飛ばしながら喚き散らした。

 

「っ、ふざけるなぁ!!!悪魔!何をやっている悪魔!こいつらを殺せ!!」

 

 使い魔の本名ぐらい覚えてやれよ。

 そう思いながらも、もう契約は切断してあるし今更の話か。

 森谷は契約の切断に気付いていないようだし、もうめちゃくちゃである。

 

 マモーさんはこの手の相手に慣れているようで、表情は普通かつちょっと退屈そうであった。

 この手の怖い人って、もしかして人間社会にはいっぱいいる…?

 

 やや神話的恐怖に気付いて勝手にSAN値チェックを受ける俺をよそに、森谷は派手に暴れ続けている。

 

 いつまで経っても出てこないナラトゥースに痺れを切らしたらしく、めちゃくちゃに魔術を乱射し始めたのだ。

 

 お、「深淵の息」だ。

 これは対象の肺に海水を入れて溺死させる魔術である。

 もしかして森谷に魔術を教えたのは深きものどもなのだろうか。

 

 魔術が俺にぶち当たる。

 当然俺には効かない。つか肺がない。

 コナン君はブレスレットの力で無効化。

 もし抵抗を突破されたらまずいので、念のため風見さんも保護しておく。

 

 マモーさんも当然のようにノーガードで自力で抵抗。

 憐れみの目で森谷を見た。

 

「初心者があまり魔術を乱発しない方がいいでしょう。死にますよ」

「……あ、う、……来るな……!私が初心者だと!?私が、私ほど万物に才能を持つものを、」

「人へ向けて攻性魔術を当てるなど、かつてならそのまま神罰もあり得たでしょう。貴方は稚拙な魔術で驕っているだけの愚か者。抵抗はやめてください」

 

 森谷は「稚拙な愚か者」のワードに、激昂して無様に絶叫した。

 

「私を誰だと思っている!!森谷帝二!世界に冠たる建築家だ!お前達などの無名な有象無象と私なら、世間は私を信じるだろう!!!」

 

 マモーさんは大層困った顔をした。

 目の前にいるのは世界の富の三分の一を支配する財界の帝王、ハワード・ロックウッド。

 どう贔屓目に見ても一建築家の森谷よりは有名だろう。

 

 ちょっとこのレベルの自爆は珍しいようで、マモーさんは生ぬるい顔をして嘆息した。

 

「貴方の思想に口出しはしません。では、いきましょうか」

「それでは、公務執行妨害で逮捕する。手を出せ」

「ふざけるな、ふざけるな!!私は、私は!」

 

 

 そうして、手錠をかけられた森谷は、風見さんに引っ立てられた。

 念のために俺も同行したが、俺を見る森谷の憎しみの表情は凄まじい。

 まあ俺へ復讐を狙う分には平和だし問題無かろうよ。

 見応えのある発狂具合で俺もつい見入ってしまった。

 

 警察車両を回している間、ずっと星の精は心配そうに触手を伸ばしてコナン君を撫でていた。

 あの大きいのに怒られたの?悲しいね。友達は悪くないのに。酷いやつ。あの大きいのは白黒の車に乗せられる。

 と、そのようにコナン君を慰めていた。

 

 風見さんの車は白黒の車では無いが、似たようなものなので大正解だろう。

 俺も星の精を撫でれば、星の精は大きな口でにっこりと笑顔を作ったようだった。

 





・森谷帝二
原始魔術の影響で原作よりSAN値が低い。
正気ではある。
ただあくまのちからを手に入れたことで、元々巨大だった自己愛が旧支配者並みの巨体を手に入れてしまったようだ。
自認旧支配者。

・ナラトゥース
公安でこき使われている。
が、今度黒ウサギ亭っていう別嬪バニーガールのクラブに連れてってやるって降谷さんに言われてやる気100%になった。
なんでも言ってくださいよ旦那!俺やります!

・星の精
あの白いやつちょっと怖いけど、星の精とおんなじ言葉喋ってた。
昔住んでた家のことも知ってた。
もしかしたら星の精のお母さんで、迎えに来てくれたのかもしれない。
ちょっとだけおしゃべりしてみたい。

・ナラトゥースの驚愕
俺が、子持ちの別嬪さん────?
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