ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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大岡紅葉の甘い罠〈人気商売〉

 

 俺と服部君をモデルにした映画を作るようで、その脚本について探偵の立場でチェックする会議があるのだ。

 映画は探偵ものであり、演者も豪華な実力派揃い。

 

 脚本家さんも何本もヒット作を出している人で、気合が入っているのがわかる。

 

 今回会議の場として指定されたのは演出家さんたちが住む家だ。

 打ち合わせ用の事務所としても使用しているようで、広く大きい邸宅になっている。

 

 俺たちが到着するとすぐに応接間に通され、俺たちは机を挟んで話を聞くことになった。

 出迎えてくれたのは先に来ていた脚本家さんとプロデューサーさんだ。

 服部君も到着していたらしく「よ!」と片手を上げて挨拶してくれた。

 服部君のスマホも控えめにチカチカ光って、チクタクマンが挨拶しているのがわかった。

 

「いやぁ、本日はお越しいただきありがとうございます!」

「ははは。探偵の立場から微力を尽くさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

 

 ぺこりとプロデューサーさんに挨拶して、席に着く。

 俺をモデルにしたキャラ、そして服部君をモデルにしたキャラのダブル主演だと聞いているし。

 俳優兼偽探偵としてアドバイスできることもあるかもしれない。

 

 脚本家さんが俺に資料を渡して来て、それから困ったように眉を下げた。

 

「本当は黄衣さんに本人役をやっていただきたかったんですが…」

「そうなんですよねぇ。かの名探偵黄衣ハスタが本人役として主演を務める!売り文句としては最高だったのですが、探偵業がお忙しいとあらば仕方のないことですしね」

 

 うむうむとプロデューサーが激しく頷いて残念そうにした。

 俺は軽く笑ってぺこりと頭を下げた。

 

「すみません。現在探偵業が忙しく、俺もまとまった撮影の時間が取れそうになく」

「いえいえ。打ち合わせに来ていただけただけで嬉しい限りです!」

 

 本当は、この映画は俺を起用するつもりだったらしいのだが。

 

 今は怪異関連業務を行うために仕事を絞っていて、あまり過密スケジュールになりすぎても嫌だったので断らせてもらったのだ。

 本当に残念そうだが、こればっかりは俺のパフォーマンスが人命に直接的に関わってくるため仕方ない。

 

 知り合いのプロデューサーさんたちには口々に「貴方ほどのキャラ性を確立した鬼才はいない!」と芸能界に来るよう力説された。

 

 でもなぁ。所詮魔術だし。

 望まれるキャラ性の演技ならナラトゥースの方がずっと上手い。

 あのトカゲ本当にもうな。ブツブツ。

 

 俺が静かに不貞腐れていると、服部君が首を傾げて訝しげな顔をした。

 

「けど良かったんか?俺は流石に黄衣サンほど知名度はあらへんで」

 

 たしかに、俺は探偵&俳優で知名度全部取り超有名人だから、服部君がいかに関西で有名な探偵でも知名度は大きく劣る。

 というか同業の探偵にも、俺はあまり良い顔はされていない。

 知名度にあぐらをかいた実力不足のタレント探偵、とかで蔑まれることも多いのだ。

 

 いやもう全くもっておっしゃる通りです…。

 この事実を直視すると俺は息絶える。コナン君あとは任せた…。

 

 と、俺の自虐は置いておいて、服部君の質問に脚本家が答えてくれた。

 

「服部君を元にしたキャラクターは物語の真の主人公です。なにぶん、黄衣探偵はその、探偵としてのキャラが優秀すぎまして」

「あー、なるほど。世間の抱くイメージは厄介ですからね」

 

 俺は少しばかり納得して深く頷いた。

 服部君はいまいちピンと来てないのか、ふむ?と首を傾げている。

 

 シャーロック・ホームズと同じだ。

 あまりにも知名度が高い故に、皆が「黄衣探偵に任せれば大丈夫だ」と安心してしまう現象というべきか。

 世間の認知が作者のコントロールを超えて根付いてしまい、扱いづらくなっているのだ。

 

 俺は世間では無敵の名探偵。

 あらゆる謎を解き明かす真実の権化のイメージが定着している。

 その俺が探偵を演じるということは、自動的にキャラもそのイメージに囚われてしまわざるを得ない。

 

 俺には熱心なファンがかなりいて、本当に実在する名探偵として信奉しているようだし。

 俺が三枚目の愉快なキャラを演じた時もかなり燃えた。

 黄衣様はそんな間抜けじゃない!脚本家も監督も頭がおかしい!侮辱している!とかなんとか。

 いや黄色の印の兄弟団じゃなくて。

 新手のファンの人なだけだ。たぶんSAN値もある人だと思う。

 

 ともかく、俺を起用するならキャライメージには注意しなくてはならない。

 「探偵は窓より見下ろす」のように完璧超人の活躍を描くならそれで十分だが。

 人間味のあるドラマチックな描き方をしようとすると、キャラの印象が強すぎて使いづらいというわけだ。

 

 とすると、俺はどちらかといえばサブになるだろう。

 服部君の活躍と成長こそが主題と捉えるべきか。

 

 服部君が「実際黄衣サンは探偵は向かんやろ」と半笑いで囁く。

 

 それはそうなのだが、改めて考えると俺に向いてる職業ってなんだろうか。

 事務仕事は魔術を駆使して人の十倍のスペックを誇るが、普通に魔術が上手いだけだし。

 魔術研究については第一人者のつもりだから、それでいいか。

 でも現代で一般的な職業じゃないから金にはならないし。

 

 ううむ、と悩んでいると、ふと手に何かが当たる感触がした。

 

 机の下からこっそり星の精が血液グミを分け与えてくれたようだ。

 ひょろりと長く伸ばした触手で、血液グミを俺の手に押し付けている。

 お前困ってる。星の精の美味いもん食え。嬉しくなる。

 

 非常に優しいが、人目があるので食べることもヨシヨシもできない。

 念話で「ありがと」と伝えてグミをポッケにしまう。

 

 星の精は思わずゲタゲタ声をあげそうになって、慌てて口を押さえてしーっ!のポーズをとった。

 人前で静かにできて大変えらい。

 

 コナン君がチラリと俺を見て、念話で「少なくとも神様が向いてないのは明らかだと思うよ」と飛ばして来た。

 

 どうしてそんな酷いこと言うの。

 ならなんの分野でならナラトゥースに勝てるの。

 

 触手を全部しおしおにする俺である。

 俺なんて…俺なんて……どうせあのトカゲより使えないダメなイカなんだ……。

 というか文化勉強ってそんな簡単にできるものではないのよ。

 

 まず知性体に紛れ込んで暮らさないと学べないし、僅かな違いが大きな意味になるため紛れ込むこと自体がとても難しい。

 そして解析に入れたとして、把握する頃には文化は大きく変化してしまっている。

 ハスターの瞳を使っても難解なのに、彼奴はどんな匠の技で短期間習得を果たしているのか。

 

 前に俺も頑張ったのだが、そのあまりの細やかさに理解と体系化はできても実践は不可能だった。

 学問的にまとめるぐらいはできるが実践まで追いつかないというべきか。

 俺の前世の常識と認識が邪魔をしてな…。

 

 つまりトカゲより下だって?そうだよ。

 卑屈モード俺。

 

 落ち込む俺に二粒目の血液グミが来たので、たくさん念話で誉めておく。

 優しい星の精は後で新しい血液おやつをあげようねぇ。

 

 ともかくそんなふうに話を進めていると、部屋に新たに入って来た人間が三人。

 黒田兵衛理事官と大岡紅葉、そして今回の映画の演出家さんだ。

 

 黒田管理官とは小翠リャマの件で出会って以来、定期的に情報交換をしている。

 公安全体の統括をしているから、やはり俺の存在は彼としても無視できないということのようだ。

 

 お堅い人で、いつも仏頂面をしている。

 あと意外とソロキャンが好きらしくて、一人で凝った料理を作って静かにまったりしているのが目撃されている。

 

 大岡さんの方は、最近会ったのは服部君を取り合って和葉ちゃんとバチバチ言わせていた時だったか。

 もちろん仲裁に入ろうとしたが、……俺は実際に仲裁に入ることは出来なかった。

 ゴジラVSキングギドラみたいな気迫に足がすくんでしまったのだ。

 

 弱き俺を許してくれ…。

 馬に蹴られた程度で旧支配者は死なないが、精神的に立ち上がることはできなくなる。

 自認人間なので。

 

 黒田理事官にはペコリと頭を下げて挨拶しておく。

 向こうも「どうも」とだけ言って、公安との繋がりについて言及するつもりはないようだ。

 

 大岡さんも一礼して令嬢らしい品のいい仕草で自己紹介。

 すすすと服部君の隣の席をキープした。

 

 そして「ウチは服部君の許嫁役。慣れないことも多いけど、色々教えてくれますか…?」と頬を染めて寄り添う。

 

 まだ仁義なき戦いは続いているようだ。

 俺は気持ち服部君と距離を取った。

 愛が肉食獣の形をしているんよ。

 

 服部君は大岡さんが出す甘くも雄々しい猛禽類のような愛にまるで気付いていないらしい。

 「おう、俺が教えられることがあったらな」と普通に照れくさそうに答えるなどした。

 鈍感系主人公ってやつか。

 

 一昨日のアニメを見てのナラトゥースいわく、「鈍感はほんの少しの恋のアクセントになら良いが、難聴系までいくと憎しみを生む。慎重に、ニトログリセリンのように丁寧に扱え」とのこと。

 お前なんの有識者だよ。

 少なくとも文化理解の修羅からの評価だから、確かなことではあるのだろう。

 

 服部君が爆発しないよう、無事を祈るばかりである

 

 恋のバトルを全然気にした様子もなく、黒田管理官は椅子に座って本題に入った。

 「それで、脚本について教えていただけますか」と渋い声で話し出した。

 恋愛模様に気付いていないわけでなく、純粋に気にしていないマイペースさだろう。

 

 意外と愉快な人の鱗片が見えて来て、俺はちょっとワクワクした。

 

 

 

 しかし事件はその打ち合わせの後に起こった。

 毒を飲んで息絶えた死体が、屋敷内から発見されたのだ。

 





・黒田管理官
神がいるなら神は神の領分で、人は人の領分でこれまで通り仕事をするのみだ、という淡白な考えの人。
神がその境目を教えてくれたのなら、それはとても幸運なことだ。
頼り過ぎれば双方に不幸となる。神を当てにするのはやめておけ。

・拗ねるハスター
どうせ人間はみんなあの単眼白トカゲが好きなんでしょ…。
ナラトゥースを見習って毛を抜いたが、それはデカタコになってうねうねするばかり。
俺は…無力だ……(絶望)

実際、ハスターは大金持ち限界猫奴隷、ナラトゥースはイケメン猫ぐらいの違いがある。
リソースの関係上、餌用意したりいい感じの爪とぎを用意できる奴隷の方が猫を幸せにはできるかもしれない。
特に偏執的に整えられた旧支配者機構「彼方より来たりて饗宴に列するもの」は魔術の神で最上位の格を持つハスターならでは。
やっぱり金持ちって素敵。
そういう現金な話である。

・デカタコハスターの落とし子
ハスターが細かく回収するのであんまりいない。
時々人間と仲良くなって番犬として飼われていたりする。
デカタコは用意された犬餌を同居の犬に取られながら仲良く過ごす。
飼い主が死ぬとボロボロ泣いてキュウキュウ言う。
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