ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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露天商

 

 改めまして、俺である。

 

 旧支配者ハスターたる俺は今現在、地域博物館の片隅で露店を開いていた。

 売るのは俺の手作り雑貨だ。

 ネックレスやピアス、イヤリングエトセトラ。

 ちょっとばかし古さの残るアンティーク調の宝石たちが割安で並べられている。

 具体的には一個500円ぐらい。

 

 全て魔術で無から生み出したものだから元手はゼロ。

 デザインは昔俺がアーティファクト作りに凝っていた頃のものを流用しているから手間要らずだ。

 

 ちなみに自治体にはちゃんと許可はとってある。

 チョチョイと魔術で開業届と申告書を提出しておいたのだ。

 無論だが面倒ごとのないように各種税金等等も納めている。

 ひとまとめにすれば時間軸の操作で「一般的な日本人としての経歴」を作成しただけとも言うか…それは今はいいだろう。

 

 俺はぼんやりと客足の少ない博物館の横でお客さんを待った。

 

 目の前にある商品達が夕方の光を受け、やや不可思議な角度で煌めいている。

 これらは簡単な魔術がかかっていて、乱暴に扱っても壊れることがないし、水や油に強く錆びることもない。

 

 また、ペンダントには特別に一点一点違った特色ある魔術が込められている。

 

 ピンク色の星が散るようなイヤリングだが、これは3ヶ月分の運気上昇の魔術が自動発動する。

 これを所持していれば宝くじに当たりやすくなったり、幸運な出会いが待っていることだろう。

 

 こっちの三日月が重なったようなネックレスは最近作ったもので、この魔術的な形状から常に「被害を逸らす」魔術がスタンバイ状態になっている。

 これさえ身につけていれば拳銃に撃たれても痛い思いをしないはずだ。

 石自体がMPの塊にもなっていて、発動に必要なMPはここから賄われることになる。

 SAN値減少も必要ない、まさにクリーンなアーティファクトだ。

 

 時刻は夕方。

 暇になってきたので新しい商品用のアクセサリーをチマチマと作りながら、俺は薄手のコートの上に毛布を被った。

 

 やはり地球の冬は寒い。

 年中生暖かい黒きハリ湖と違って、冬は厳しいし夏は暑い。

 温度変化対策に作ったコートは魔術により中が快適になる仕様だが、こうして暖かそうな格好をするのも良いものだろう。

 

 商品だってちっとも売れないが、これはこれで乙である。

 こうして遠く道を歩く雑踏を見ているだけで癒されるのだし、やっぱり地球に来てよかった!

 

 などと日常のありがたさを噛み締めていたとき。

 

 ふと気付けば、3人の高校生トリオが騒ぎながらこちらに近寄ってきた

 

「ねえねえ新一、これ見て!可愛い!」

「っと、待てよ蘭!」

「へぇ、いいデザインじゃない。これとか蘭に似合いそう」

 

 高校生ぐらいの女子二人に男子一人。

 男子の方はやや困った様子で、どうやら付き添いであることが伺えた。

 女子の方は上に学校指定のジャンパーを羽織って寒そうにマフラーを首元に寄せている。

 

 行き交う人並みは遠く、博物館でイベント開催中とはいえこの露店はやや中心から逸れたところにある。

 客も入っていないところにようやくきてくれたお客さんに、俺は満面の笑みで歓迎した。

 

「よお、今日初のお客さんだ。買ってくれるならまけとくよ」

「え、いいんですか!?こんなに可愛いのにちょっと申し訳ない気が…」

「いいっていいって。例えばその辺にある『被害を逸らすペンダント』なら300円でいいぞ?身を守るのにはうってつけだ」

「へー、厄除けのお守りなんですね。あっ、見て見て新一、これ可愛いでしょ!」

 

 「シンイチ」と言うらしい男子高校生が胡乱な顔をしてしげしげとペンダントを見た。

 

「厄除けってお前なぁ。……でも結構凝った造りだな、これ。手作りなんですか?」

「そうだぞー。全部俺の手作りの品だ。君もついでに見てってくれよな」

「へぇ…」

 

 男子高校生は少々感心したように女子達の身につけたペンダントを見て感嘆の声を漏らした。

 被害を逸らす効果は信じてないようだが、俺が一つ一つ丁寧に仕上げた作りの細かさには感心を示したようだ。

 

 まぁ、魔術発動なんて機会ないほうがいいに決まってるからな。

 特に「被害を逸らす」なんて、日常生活で一番あるとしたら交通事故だ。

 俺の込めた魔術ならぶつかってきた車を強制的に逸らすことができるから便利と言えば便利だが、交通事故なんて無いに限る。

 

 結局、女子高生二人がそれぞれ「被害を逸らすネックレス」と「エイボンの霧の車輪のイヤリング」を購入していった。

 

 「エイボンの霧の車輪」は「被害を逸らす」ほど汎用的な魔術ではない。

 

 それでも、邪神であるニャルラトホテプのアンチクショウの眷属から身を隠すという強力な効果がある。

 俺も時々、アンチクショウから身を隠すために改良版を使っているし、腐ることはないだろう。

 

 大事にしてくれると嬉しいな、などと思いながら俺は去っていく高校生3人組の後ろ姿を見送った。

 

 結局、その日の売り上げは彼女らの購入分のみ、合計600であった。

 まぁそういう日もあるだろう。

 我慢すれば食費もかからないし、出費はほぼゼロなのだが……。

 いや、最低限運営費として必要な経費もあるから、この程度の収入でもギリギリ赤字にならないぐらいだ。

 俺が三食美食を貪れるようになるのは果たしていつのことか。

 

 うーんと伸びをして、俺は本日の営業を終了すべく立ち上がった。

 

 人目を避けるための魔術を展開。

 空間を折りたたむ形で露店を収納すればあら不思議、一瞬で撤収作業は完了した。

 現在は節約のために同じく歪曲させて作った空間で寝泊まりしているが、いずれ金が安定的に稼げるようになったら賃貸やホテル暮らしをしたいところ。

 

 いや、実際のところ金なんて無からいくらでも生み出せるけれど。

 そんな風情のないことは間違ってもできないからな。

 

 せっかく地球に来たんだからできる限り楽しんでいきたい、そんな旧支配者ハスターなのである。

 




・被害を逸らすネックレス
アーティファクト。
およそ即死ダメージ7回分の攻撃をするりと脇へと逸らす、自動発動型のお守り。
逸らす機構には流れ弾防止機構が組み込まれており、2cm以上の生物が居ない場所を選んで逸らされるようになっている。
「事故で隣人に当たったら悲しいしな」
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