ニャルと一緒にファミレスに来ているなり。
最近はちょくちょくニャルとお出かけしていて、ニャルも人間都市の観光に慣れてきた様子だ。
そんな流れで今日も科学館に行ってきた──羽虫ってこんな手間をかけないと世の理を紐解けないんですね、という憐れみの感想付き───のだが。
帰り際にニャルが「あの店に入りたいです!」と言い出したのが始まりだ。
どうやら、今日の朝に人間向けの味覚のエミュレートが完了したとのことで。
「我が夫と同じ感覚で食事を楽しめるので!」と意気込んでいるようだ。
ならファミレスでなくてもっと奮発したレストランにした方がいいと思ってそう提案したのだが。
ニャルは疑問符を浮かべて「より多くの羽虫の舌に合うよう最適化した店なのでしょう?ならちょうど良いのでは?」と答えた。
まあ、間違ってはいない意見だ。
コストを抑えたまま、より広い層の多くの人に好かれる味であるわけだし。
メニューも豊富だし、そういう意味でニャルの最初の一歩にはピッタリかもしれない。
というわけで、「ダニーズ」という名前の有名チェーンファミレス来たわけである。
ニャルはメニューをパラパラめくって、一番大きく宣伝のある季節限定のいちごパフェに目をつけたようだ。
穏やかに笑って指差した。
「僕これにします。果実の色がいいですね。パンチが利いています」
「なら俺はエビとカニのペペロンチーノかな。ニャルは他に食べるか?」
「ふむ…じゃあこの野菜と肉が盛ってあるやつ。いろいろ試せそうですし」
注文を伝えてから、ゆったりと料理が来るのを待っていると。
会計に向かってトトト、と走る光彦君の姿が目に入った。
光彦君は俺を見つけてパッと笑顔になって立ち止まった。
「あ、黄衣さん!ニャルさんとデートですか?」
「おうともよ。ラブラブデート。少年探偵団の今日の映画、米花映画館だったんだな。映画は楽しかったか?」
「はい!女ヤイバー風子ちゃんがかっこよくて!」
「よかったなぁ!」
夢中で語る光彦君の言葉にうんうんと頷けば、光彦君はひどく嬉しそうにした。
いつも年齢以上に賢い子だが、こういう子どもらしいところも可愛いものだ。
ニャルの方もラブラブデートという単語を受けて幸せに浸りきっている。
八方良しということか。
光彦君が「ところでなんですけど」と首を傾げてうーんと唸った。
「ニャルさんは長野に住んでて、黄衣さんはコナン君と諸伏さんとマンションに住んでるんですよね?」
「……そうだね」
不穏な流れに俺は背筋に一筋の汗が流れた。
慎重に視線で続きを促す。
光彦君は俺の緊張に気付いた様子もなく、困った顔で疑問を口にした。
「新婚さんですけど、それってもしかして別居ってやつですか?蘭お姉さんのとこみたいに」
ピシャーン!!!と雷が落ちた顔でニャルが固まった。
まずいまずいまずいまずい。
「いや違くて、その、誤解でね。単身赴任の方だと思ってもらえれば正しくて」
「なるほど!黄衣さんは俳優で探偵ですから、人の多い東京の方が働きやすいですもんね!」
「そう!長野にも定期的に帰ってるから。こんなにラブラブ。ね?」
光彦君の方はすぐに納得してくれたようだ。
「杞憂でよかったです!あ、僕用事があるのでこれで!」と言ってトコトコと去っていった。
杞憂って難しい言葉知ってるな、光彦君。
恐る恐る、俺はニャルの様子を確認した。
ニャルはダバダバと血涙を流して、拳を握りしめて震えている。
別居は履修済みの概念だったらしい。
今すぐ爆発することも視野に入れ、俺は内側で全ての魔術を装填した。
「な、何もわかってない小さい子のいうことだから、その、大目に見…」
「僕決めました」
「待って何を待って」
「今日から我が夫のマンションで暮らします」
「待って!!!」
勿論だが俺は分身して、黄昏の館でもマンションでも同時に寝起きしている。
だがそれでは到底納得できなくなってしまったらしい。
ニャルはメラメラと物理的に燃える瞳で牙を剥き、憤りを露わにしている。
燃えてる燃えてる、燃える二眼になってるから隠して。
もうこうなってしまえば説得は不可能だ。
せっかく黄昏の館に封印したニャルだが、ここのところ外出も多くなってきたし。
あの家の中では満足できなくなっていた様子は見受けられた。
そろそろ黄昏の館での封印も限界ということかもしれない。
でも、ニャルも最近良いニャルになってきた。
出歩いても街を異界化してデスゲームを開催しなくなったし。
目についたビルを怪獣に組み替えて蹂躙しようとするのを必死で止めることも無くなった。
もしかしたら俺たちのマンションに招いても大丈夫かもしれない。
………だが、念のため諸伏さんにはどこかのホテルに避難してもらった方がいいだろう。
ごくりと息を呑んで、俺は恐竜を宥めるポーズで口を開いた。
「わかった。マンションにニャルの部屋を作ろう。それでいいか?」
「……?夫婦は一緒の部屋で寝るんですよね?」
「寝る時はそれでいいけど、ニャルだって日記書く時とかに覗かれない自室があると嬉しいだろ?」
「おお、なるほど!羽虫は見られたくないことをする時は別室を使うんですね!だから部屋が複数あると。目から鱗でした」
つまり、ニャルはこれまで魔術で身を隠すか相手を消すかすればいいと思っていたわけだ。
物騒すぎるアハ体験である。
ともかく、今すぐ部屋を整えねばなるまい。
今物置にしている部屋を片付ければ一室空くが、それをしている時間はない。
できる限り頑丈な亜空間を作ってドアだけくっつけて仮部屋とするだけで、ひとまずのところは凌げるだろう。
欲しいものはニャルが勝手に黄昏の館から持ち込むだろうし。
そこにニャル向け情緒育成ペットのナイトゴーントとテュフォン君などを運び込めばひとまずの形にはなるはずだ。
あと、ニャルと暮らすための共同生活のルールを作成する必要があるか。
外なる神と同居なんて一歩間違えば死あるのみだから、本気で取り組まねばなるまい。
朝、寝ぼけた本性丸出しニャルを直視してSAN値直葬とか全然ありうる事故だし。
どうやら同じファミレスにコナン君も来ているようだし、ご飯が来る前に連絡しておこう。
そう決意して、「ニャル、所用で外すがすぐ戻るから待っててくれ」と言ってコナン君達の席へと向かう。
子供達のいる席には、少年探偵団のみんなと志保ちゃんとコナン君、そして阿笠博士がまったりしていた。
こっそりオウム姿の星の精も博士の懐に隠れているようだ。
今日の仮面ヤイバーの映画を一緒に見たいと星の精が喚いたから送り出したが、ご飯も一緒に連れてきてもらえたらしい。
バレると怒られるから声は抑えめにしているようだが、星の精は露骨に盛り上がっていた。
博士のご飯をつまみ食いしてお腹を壊さないようにね。
子供達は俺の姿を見て、口々に「あ!結局黄衣さんだけでした!」「ガッカリだぜ!」「ラブラブだと思ってたのに…」と口々に言った。
なんでも、千葉刑事、太閤名人、白鳥警部がそれぞれ別の人とここで食事していたらしい。
つまり浮気だ、ということで。
志保ちゃんも「浮気研究家として、これは調べるしかないわね」とのコメントした。
「でも貴方は純愛ってことね。見直したわ」
「そりゃニャルさんが浮気されたら相手を殺しかねねーからな…黄衣さんも慎重になるだろ」
「人類滅亡まである。あ、それとなんだが、………今日からニャルが俺たちの家に住むことになった。総員戦闘体制に入れ」
「ブッ!?!?!?!?」
そっと耳打ちすると、コナン君は派手に水を吹き出した
他の子達に「何するんですか!」「汚ねぇぞコナン!」と責められている。
博士の懐から星のオウムが「友達だいじょぶ?だいじょぶ?」と小さな声を出した。
「……いや、いやいやいや。死ぬでしょそれ。僕はまだしも諸伏さんは死ぬでしょ」
「幽霊が死ぬとはこれいかに。でも諸伏さんにはホテルに避難しててもらおうと思ってる」
「じゃあ僕も赤井さんと住む」
「逃さんぞワレ。俺の癒しがなくなって爆散したらどうしてくれる」
「黄衣さん爆散しても平気でしょ」
無情なコナン君を問い詰めようとしたあたりで。
ファミレスに、女性の絶叫がこだましたのであった。
米花町、いつでもどこでも人が死ぬ。
ひとときも油断できぬ街である。
・諸伏さん
今日もバリバリ公安の仕事をしている。
なんだか背筋に寒気が走った。
・少年探偵団
星のオウムと合流している。
すごく仲良くなって、こっそりファミレスでもたくさん会話していた。
オウムさんも仮面ヤイバー好きなんだね!と盛り上がったらしい。
星のオウムは友達がたくさんできて浮かれ上がっている。
・ぶすくれニャルニャル
我が夫が僕を置いてどっか行った。
まだ料理は来ない。
羽虫の絶叫は面白そうだからそっち行こうかな。
でも我が夫に怒られるかな。
ハンドスピナー回そ。
シャーーーーー(公衆の面前で触手付きハンドスピナーが回る音)