本日は月一開催の神事の日である。
神座神社では、毎月一日に月次祭を行なっている。
そこで奉納されている怪異の再封印とともに、怪異回収員の安全を護る加護を付与しているのだ。
毎月、公安部怪異対策課に配属されたメンバーは必ず参加する恒例行事でもある。
そんな頻繁に再付与しても意味はないのだが、己の命がかかるとなれば、心の安心のためやれるものは全てやっておく心意気には間違いないだろう。
他にも新嘗祭や七五三など基本的なものもありつつ、人気なのは俺が姿を現して皆の厄を祓う厄除祭だろう。
議員さんとか財界の著名人なんかがガンガン参加してくれるし。
俺も運気操作でバリバリ半年分のバッドラックを消し飛ばしている。
さて、今月も、月次祭も粛々と行われている。
いつものメンツに今月配属の二人を加えて、縮こまった新人さんが萎縮したまま神社にやってきているのが見える。
怪異対策課は入れ替わりが激しいからな。
ストレスで心を病んだとか、大怪我がトラウマで復職できないとか、結婚したから配偶者のために別部署に行きたいもあったか。
この世の終わりみたいな顔をした新人さんがひたすらナムナムしている。
初めて見る怪異が俺であれば、まあショックは受けないだろう。
今回は降谷さんも参加しているようだ。
スーツ姿で神主さんと何やら打ち合わせをしている。
俺の命が狙われているということで、警備の段取りの最終確認をしているのかもしれない。
外には重装備の警官も配置してあるし、どことなく物々しい気配が漂う。
さて、そろそろ俺の番だ。
式が始まると、厳かな空気の中、略式の服装で姿を現した俺に新人さんが目を見開いた。
巨大な触手を携えた空飛ぶ人形に、やはり驚きは隠せないのだろう。
TVで見るのと実物とは大違いだからな。
いくらSAN値防壁があるとは言え、本来なら黄衣の王顕現で即発狂ものだし。
まあ、神秘的なのも今のうちだけだ。
怪異対策課にもよく顔を出すから、すぐに俺の化けの皮は剥がれる。
ちょっと抜けたところのある愉快な神様として怪異対策課では親しまれているし。
怪対課の課長さんには一周回って信仰されている雰囲気がある。
「ポンと黄衣さんが手を一振りすると、二ヶ月帰れない案件がシュンと片付く」だそうだ。
お疲れ様です…!
あと俺が原因で起きてる問題は見なかったことにしてくれると嬉しい。
さて、俺が地へと降り立った、そのあたりのことである。
突如、空に黒い影が舞った。
戦闘ヘリがバババババ、という喧しいプロペラの回る轟音を立てて襲来したのだ。
あまりに突然のことで、皆一瞬何が起きたのかわからずポカンと空を見上げた。
そんな紛争地帯じゃないんだから、ポンポン戦闘ヘリが現れてたまるかよぉ。
流石に戦闘ヘリが相手では、機動隊の持つ軽量なバリスティック・シールドでは歯が立たない。
戦闘ヘリの照準が俺に合って、激しく火を吹く。
降谷さんが「総員退避ッ!」と叫んで皆に風の結界を張った。
会場が悲鳴と轟音に包まれる。
俺は棒立ちだ。
撃って効かない事実があれば引いてくれそうだし。
とはいえ建物や木々は守っているから、傷つくのは俺だけだ。
勿論一斉掃射を受けて俺の肉体に穴が空いて血が飛び散る。
だが今の俺の体は黄衣の王に寄っているため、そのぐらいで死ぬことはない。
銃弾が通り抜けた頃には再生し切って無傷というやつだ。
太い触手を一本出して、ヘリをぐるりと鷲掴み。
プロペラをミシミシと壊して、そのまま地面へと引き摺り下ろす。
もちろん触手は神々しくマイルドな見た目にしてあるから、見てもSAN値は減らない。
新人二名が悲鳴を上げて触手を凝視している。
それはそうと怖いものは怖いというやつか。
機銃にも干渉して機能停止。
こんな場所で機銃を乱射されたら面倒だからな。
そーっと壊れた戦闘ヘリを下ろそうとすれば、中から飛び出た乗組員が手榴弾を投げてきた。
素晴らしい体幹で俺の触手の上を走り、俺本体にパイナップルの雨をお見舞いする。
すげーな忍者やんけ。
破裂した手榴弾が俺を吹き飛ばすが、俺にとっては擦り傷にもならない。
ムニュッともう一度形を取り戻して、地面に乗組員たちを一列に並べて魔術の縄で縛り上げる。
乗組員たちは暴れたが、すぐに力尽きてへばったようだ。
体力を奪う簡単な呪詛だ。
しばし大人しくしているがいい。
マスクが被せられていて、乗組員たちの素顔は見えない。
盾を構えた警察官たちが、遅れてわっと駆け寄って乗組員から武装を取り上げた。
すまんね、あとは頼んだ。
降谷さんが俺の隣に立って、鋭く目を細める。
「まずは身元の確認だな。このヘリの出所と確認と、こいつらの足取りを追うための監視カメラチェック……全く面倒な!」
「うーむ。お疲れ様です皆様。危険なことに巻き込んでしまいすみません…」
俺がぺこりと頭を下げると、機動隊さんも三倍の怪異対策課も揃ってぶんぶんと首を振った。
流石にちょっと目の前で触手で戦闘ヘリをグシャリはインパクトが強すぎたかもしれん。
それとも無限再生の見た目が酷かったから?
無意味だから食らったけど、見た目も気にして無敵バリアーとか張るべきだったか。
降谷さんが、うち一人の防護マスクに手をかける。
下手人は「やめ、やめてくれ!!外さないでくれ!!」と悲鳴を上げかけた。
それより早く、降谷さんがマスクを外す。
あらわになった男が、瞬時に泡と血を垂れ流して目を上向かせる。
おっとまずい。
俺がパチンと指を鳴らせば、男の身体から毒が抜け落ちる。
同時に壊れた肉体を修復してやれば、男は復調したようだ。
どっと冷や汗を垂れ流して、血混じりの唾液を流して咳き込んでいる。
降谷さんが訝しげに眉間に皺を寄せた。
「タランチュラのメンバーは捕まりそうになると服毒自殺をすると聞いたが、本当だったのか」
「いや、もっと厄介そうだぞ。この防護マスク、解毒薬が内蔵されてる。毒を飲ませた上で、死なないようにずっと解毒薬を与えてたんだ」
俺がマスクをしげしげと眺めながら言えば、降谷さんは苦々しげに息をついた。
「つまり解毒薬を盾に殺しを強要していた疑いがある、と。厄介過ぎる」
「……ゲホッ、待ってくれ!俺は無理やり殺しをさせられてたんだ!俺は悪くねぇんだ!」
おや、英語だ。
しかも日本語がわからないらしい。
ということは、道中案内人が別にいたことになる。
降谷さんが非常に酷薄な顔で男を見下ろした。
無理やりだなんて微塵も信じてない、犯罪者を見る目だ。
まぁ男の見た目は典型的なヒャッハーだが、そんな疑わなくとも。
「まぁいい。このマスクはこちらで回収、調査しておく。黄衣君、マスクを外すから彼らの解毒をしておいてくれ」
「あいよー。ちちんぷいぷい」
「その掛け声必要だったか?」
降谷さんに突っ込まれつつ、全員の身体から毒を取り除く。
中の一人、揺れる足場の中的確なエイムで俺に手榴弾を投げつけてきた、黄色のバンダナをつけた太っちょさんが呆然としている。
「どういうことだべか…マスクを外されて、生きて…」と訛りの強い英語でつぶやいたようだ。
そして手の甲を見て、驚愕に息を呑んだ。
声をかけようか迷ったが、俺はやめておくことにした。
彼は信じられないような、ひどく後悔したような顔をしていたからだ。
あまりに実感が湧かないのかもしれない。
つまり無理やり殺しをさせられてた人で、同じような仲間がいるということだ。
ああ気が重い。
「全員外国人か。日本の要人を狙っての犯行、許す道理はないな。あと君どうして自分の命が狙われて怒ってないんだ。むしろなぜ怖がってるんだ」
「だって怖いじゃん…突然星の精が唸って手を噛んで来たら怖いだろ!ひぇ、俺人間に嫌われるようなことした!?」
「……ああ、だから君は人間に悪意を向けられるとビビるのか」
しょうもな、という顔で降谷さんはため息をついたようだった。
オラァンなんか文句あんのかコラ!!!
と、荒ぶる俺を無視して、降谷さんは部下に指示を出しに行ってしまったので合った。
・ルパン
原作通りタランチュラの拠点に潜入中。
でも内部で「神の命を狙う仕事」とやらが遂行中だと聞いておっと早いとこズラかろ、ってなってる。
早く因縁にケリをつけないと島ごと全部海の藻屑になるかも、とちょっとガックリ。
ワルサーP38RTA。
・タランチュラボス、ゴルドー
溜め込んだ金の価格が下落して組織の資金繰りが悪化している。
どれもこれとナラトゥースとかいう悪魔が枯れた金鉱脈から市場を無視してホイホイ金を出したせい。
人件費は安いが兵器維持、昨今の科学技術急上昇による更新等出費が嵩んできている。
・妙な心境になってる降谷さん
ハスターから「人間に嫌われたどうしよ((((;゚Д゚))))」というビッグ恐怖が流れ込んできてやれやれ顔だった。
そこでアイデアに成功し、「つまりニャルラトホテプにもこの恐怖が伝わってる…?」と気付いて真顔ダッシュ。
メソメソするハスターの尻蹴飛ばして妻のところに向かわせた。
・荒ぶるニャルラトホテプ
おい羽虫表出ろよ。
我が夫に怖い思いさせたろ。