ルパンからは、その後お土産が届いた。
タランチュラ拠点の壊滅土産だ。
日本関連の暗殺実行リストと、ボスが弱みを握るために溜め込んでいたらしい資金提供をしていた各国要人の証拠などが詰まったUSBメモリ。
これは俺への贈り物だろう。
それとともに、飛行船と海を撮った美しい朝焼けのポラロイド写真が一枚、同封されていた。
写真にはルパンの毛むくじゃらのピースサインが写っている。
指には前に俺が魔術を付与したヴェスパニア鉱石の指輪がはまっている。
たしか各地の危険怪異の再封印を頼んだ際に七回使い切りの退魔魔術を封入してあったんだったか。
もうルパンはそれらを全て使い切っていたはずだが、まだもっていたらしい。
その写真をよくよくハスターの瞳で確認して「なるほど、弾除けになったのか」と俺は納得した。
指輪には、魔術を組み込むために物理的・存在的強度を上げる魔術を仕込んである。
あまりにも強大なMPを封入すれば、指輪が耐えきれず崩壊してしまう恐れもあったからな。
だからあの指輪はとても頑丈で、例えば銃弾なんかを弾いたりもするのだ。
それが偶然、人の命を救うこともあったのかもしれない。
ルパン自身か、はたまた守りたい人か。
朝焼けの写真はルパンの最大の感謝の表れでもあったのだろう。
詳細はあえて見たりしない。
ただ、彼の力になれたようなら何よりである。
そうして事務所は通常運転に戻った。
仕事は満載。
怪異関係も民間のそれもバリバリドシドシ送られてくる。
降谷さんは仕事のため分裂、いつも通り事務所に顔を出していた。
コナン君も同様に推理案件をスムーズに進めている様子。
今日は三十年前から迷宮入りの難事件が持ち込まれたようだが、危なげなく推理をまとめているようだ。
数多くの難事件を安楽椅子探偵として処理して来た影響か、コナン君も凄まじい経験値の伸び具合である。
まさに迷宮無しの名探偵。
推理のスピードも降谷さんや諸伏さんと比べても三段階ぐらい早く的確だ。
俺は無言で仕事を進める降谷さんに声をかけた。
「珍しいな。いつも大事件があると降谷さん事務所に来なくなるのに」
「今回は正直僕たちの仕事は通常運転でしかないからな。他国から侵入した暗殺組織の足取りの特定と戦闘ヘリの入手経路特定と関係者洗い出しぐらいだ」
「大事件じゃん」
「それはそうなんだが。本当にそうなんだが」
降谷さんがクソデカため息をついた。
事件規模がインフレしていることは間違いなさそうだ。
他国の犯罪組織が日本で戦闘ヘリ乗り回してるのが通常運転になってしまわれたようだし。
おいたわしや…俺のせいではないぞよ…。
コナン君がうーんと伸びをして頬杖をつく。
「なんか妃弁護士からも聞いたよ。今回の裁判、弁護士仲間から大変だって話があったって。弁護を受けたら殺害予告が送られて来たとか」
「実行役が毒で脅されていたのが明らかになってトーンダウンはしたが。実行者たちはそもそもが重犯罪者だったりするからな。やはり過激派は出てくるだろう」
「黄衣さんはルパンから黒幕についての資料をもらったんだよね。何か動くつもりある?」
「俺はないかな。神罰は成されたしね」
ネットなどでは「神カッケー!これから悪人をどんどん裁いて行こうぜ!」モードに突入しているようだが。
これ以上は人間でやるべき事案で、俺が手を出すべきではない。
降谷さんが疲れた様子でぼやいた。
「その手の統制が一番大変なんだが、それは政界と要相談だな」
「すまん。政界財界対応マジ助かる」
「『司法全てを神が管轄すべき』なんて意見も堂々と立場ある人間から出て来ている。黒幕を的確に解き明かしたように、神には真実を見抜く力があり、それは人間を遥かに超越していると」
「たしかハイパーボリアでは実際黄衣さんが対応してたんだよね、マモーさん?」
問いかけられたマモーさんが、掃除用具を置いて頷いた。
「そのとおりだよ。完全な罪刑法定主義。全ての罪は実行前に警告が下り、実行した場合その場で速やかに刑が下される。神は全てを見ておられたし、その正しさが揺らぐことは一度としてなかった」
「大変だったなぁ、あれ。未来を見て法律を先取り修正したりして、絶対に瑕疵が無いように完璧に整えてたし。国民が礼儀正しかったからあんまり使わなかったけど」
「ハイパーボリアの民は法を犯すような真似をしませんから」
誇らしげなマモーさんに、降谷さんは疑り深く目を細めた。
ふかしているとでも思ったのだろう。
実際降谷さんはハイパーボリアの時代に飛んだ時も浜辺で謎サバイバルをしていたし、国民と接していないからな。
法を犯さない民なんて眉唾物だと思っても仕方ない。
ため息をついて遠くを見たようだった。
「楽園の人類は羨ましいな。現代も人間が皆そうであれば、僕たちのような職業は必要なかったんだが」
「いつもお疲れ降谷さん。今回も迷惑かけたし、降谷さんに労りのエネルギー送る。みよよよよよん」
「!?!?何をッ……………あぁー」
へにゃんと降谷さんが力を失って机に倒れ伏した。
祠の構造を解析して、核になる部分を魔術として再構築。
それをエネルギーとして送り込んでみたのだ。
突然癒された降谷さんは「あーー、いい…」と言うだけのナマモノになってしまった。
ちょっと強すぎたらしい。
まあいいか。しばらくすれば疲れも取れるだろうし。
降谷さんはここ数日お疲れの様子だったからな。
どうやら各界のお偉いさんからここのところ連日お伺いがあったらしいき。
「神、怒ってた?日本のこともう嫌いって言ってた?」と無限回同じことを聞かれていたようだ。
まあ実際、この件は多くの人にとって重要なことのようだ。
場合によっては治安の悪化、渡航自粛、日本株の大幅下落もありうるらしく。
誰も彼もが気にしているとのこと。
その対応で降谷さんは連日いいお店で接待祭り。
高い酒を注ぎ込まれて「僕が人間なら肝臓を壊しているところだぞ…」とぼやいていた。
偉い人と政治の話なんてどんないい料理でも味しないもんな。
逆にあの空気の料亭で舌鼓打てる大人物こそが権力を手にするのだろうが。
コナン君にじとっとみられて、俺はやや体を縮こまらせた。
なに、俺悪いことしてないよ…?
「僕、安室さんにまだ聞きたいことあったんだけど。あんなにしちゃってどうするの」
「いやぁ、30分ぐらいしたら復活するから大丈夫」
「また怒られるよ。やるなら前もって言えって」
「おっしゃるとおりです…」
降谷さんはすっかりヘニャヘニャで虚ろに視線を彷徨わせている。
心配した星の精が大きな人用膝掛けをもって来て、降谷さんにかけてやったようだ。
あったかそうになった降谷さんに満足げな様子でクスクス言った。
優しい星の精だ。
隣ではナイトゴーントがマモーさんに簡単な雑務を教え込まれている。
今は掃除用具の使い方と順番を教えているらしい。
掃除道具を持ったナイトゴーントがキリッとした顔をしている。
ニャルが出る昼は暇だろうと思って、ナイトゴーントを事務所に呼んであったのだ。
悪いことはしないよう教えておいて欲しいとマモーさんに頼んで。
そしたら、なんか思ったよりしっかり教育されている今現在である。
ナイトゴーントは慣れない道具を持ってもたつきながらも、指示通りせっせと働いている。
やはりマモーさんは部下がいるとその有能さが際立つ感じである。
当初、星の精はおっかなびっくりでナイトゴーントに友達の握手をねだっていた。
しかしナイトゴーントの方がもっとびっくりして、喰われると思って泣き喚き。
その反応に星の精がショックを受けて塞ぎ込むという珍事が起きた。
実際、大きい星の精ぐらいになるとナイトゴーント食ったりするからな。
どちらにも非がないだけに、かわいそうな一幕であった。
「そういえば、いくつかの日本企業について、私の方で経営権を取得するつもりでいます。我が神の居られる場所を豊かにするのを第一目標としておりますが……やはり私は国外を拠点としていた事実は変わりません。どこまで手出しをお許しいただけますでしょうか」
「うーむ。外資買収とかその手の話か。俺詳しくないんだよなぁ。多分大丈夫だと思うけど、あとで降谷さんが起きたら相談してみるか」
「はい。金の流れは権力の流れ。できれば300年を目処に、日本を拠点に力の集約を図りたいと思っています」
流石マモーさん、スパン長いなぁ。
きっとその時には今の体も滅びて、次のマモーさんになって。
「私は、いつまでも神にお仕えいたします」
まるで俺の内心を読み取ったかのように、マモーさんは静かに宣言したのだった。
30分後。
俺は降谷さんにクソほど怒られたことを、ここに追記しておく。
・ルパン
ワルサーp38単発ヒロインのエレンを助けられた。
原作と展開はだいぶ違うが、エレンにゲン担ぎで渡した指輪が銃弾を不自然に弾いた模様。
無事に島の外に出て、しばらく行った先の小島で休憩している時に撮った写真がそれ。
本当はお宝の金塊を送ろうかと思う思ったが、「神に金塊だなんてますますナンセンスってもんだ」と止めたようだ。
ハスターは送られて来たデータがお礼だと思っているようだが、実際はこちらは降谷さん用。
「アンタのおかげで俺たちは助かった」という、心の底からの感謝こそが全知全能の神への唯一の返礼である。
・「旧神をいい感じにする魔術」(ハスター命名)
降谷さんか無意味に食らったやつ。
祠の原理を利用して、相手の旧神を強制的にいい感じにしてしまう。
降谷さんは激怒したが、その後すぐに祠が恋しくなって仕事を終わらせてからマイ祠に仮眠をとりに行ったようだ。
「神社の本物は高級旅館で細かいところまで気が利いてる。僕のセーフティハウスのは大きくて豊富な種類のマッサージスパが魅力。ヒロのは食い倒れ街。黄衣君の本殿はほぼ猫カフェ」
・マモーさん
次の私は私でないかもしれないが、その意志は変わらない。
次もその次もそのまた次も、意思を継ぎ、神に仕え、神の御心を護るのだ。
これまでの私がそうであったように、この想いを繋いでゆこう。
この言葉にできないほどの感謝の気持ちを、永遠のものとして。神の無謬を少しでも慰められるように。