ともかく内部の人員救出にはコナン君に行ってもらい、俺はこのヘビ人間に事情聴取することになった。
「殺しちゃダメだよ!族滅も無し!いい黄衣さん!」
「はーい。族滅したくなったらこっそりやるぜ!」
「めっ!星の精の方がもっとずっといい子にしてるよ!」
ちぇっ、星の精と比べなくてもいいじゃんけ。
ニタッと得意げに俺を見て笑う星の精にブスくれながら、俺はコナン君を見送った。
この距離なら星の精に捕まってブーンと飛んでいけるだろう。
ヘビ人間と二人きりになったので、「さて」と言って向かい合う。
ヘビ人間は全身全霊の土下座で命乞いしている。
もうガクガク震えて、尻尾なんて干物みたいに縮こまっているようだ。
ヘビ人間は賢いし、早々嘘なんてつかないだろうけど。
念のためじろりと覗いておく。
余計に震えてヘビ人間は小さくなった。
「どうか命ばかりはお助けを、ワシは人類には何もしておりません!どうか、どうかお助けを…!」
「ふーむ。嘘無し。事情教えてくれる?」
「はいっ!!お望みとあらば!!」
がばっと顔を上げて、ヘビ人間はもう一度平伏した。
なんでも、このヘビ人間は普通にここで事業主をしていたらしい。
人間社会で成功を収め、順風満帆にこのアクアクリスタルを建設。
富裕層向けの貸切娯楽施設として運用を開始しようとしていたとのこと。
が、今日突然ワイナリーを訪れた男に背後から殴られ、水槽に投げ込まれたのだそうだ。
「ワシはそのまま溺死したふりをして男が離れるのを待ち、奴が仕掛けた爆発に乗じてアクアクリスタルから逃げ出したのです。爆発とも殺人とも無関係です!」
「一般被害者ヘビ人間かぁ」
俺はしょぼくれて肩を落とした。
人間は凶暴な生き物だけど、ついに野生のヘビ人間にまで手を出すようになってしまったらしい。
昔は俺を食おうとしたりもしたもんな、人間。
村を養えるデカ獲物だって俺の住む洞窟にたくさん槍投げてきたもん。
旧支配者を餌にしようとするあたり、非常に凶暴で屈強であることは間違いない。
頭にたんこぶの残るヘビ人間を軽く治療してやって、今後の動きに思いを馳せる。
ヘビ人間はとりあえず人間のふりをして一被害者をやっていればいいだろう。
あとは降谷さんに連絡を入れて、コナン君の救出援護に行って。
ヘビ人間は痛みの引いた頭に手をやり、「ありがとうございます人の神よ!」と頭をコンクリートに押し付けた。
凄い、生き残りを賭けてるレベルに一挙一動に気を配っている。
俺はそんなちょっとした事で生き物をぶっ殺したりしないのに。
うーん、殺してるか?
いや気のせいだな。俺は寛大で優しい旧支配者だし。うむ。
そのように考えていたら、俺のスマホが着信音を鳴らしたてた。
降谷さんからだ。
電話に出れば、焦ったような声の降谷さんが早口で捲し立てた。
『現地から派手な爆発があったと連絡があった!何があった!?』
「分からん!俺もついた瞬間爆発で意味不明!一応今コナン君が救助に向かってる。俺は逃げ延びたヘビ人間に事情を聞いたとこ」
『ッ、今すぐに風に乗ってそちらへ向かう。場所を開けてくれ!』
「了解ー」
ヘビ人間と共に、場所を開けるように下がらせてから魔力でわずかな着陸サポートを表示する。
誘因の魔術で、着地の衝撃を和らげると共に人型に戻る補助にもなる。
数秒後、やや黒っぽい風が上空に滞留し、雷の如くに地上へと吹き下ろす。
黒い風に包まれて揉まれているのは諸伏さんだ。
黒い風からぺっ、と吐き出されて、諸伏さんは地面に転がって腰を押さえて呻いている。
『酷い目にあった……コインランドリーに放り込まれた気分だ!』
「けどこれが一番早いだろ。僕が本気を出して移動してもヒロなら問題ないし」
『いやでも風でビロビロになるかと思ったし……』
最後のヘビ人間が「ひっ、邪神の黒い風…!」と余計に震えて尻餅をついたまま距離を取ろうとする。
まあ本来、黒い風なんて見境なく地表に疫病を振り撒いて破壊の限りをなすものだからな。
目の前にあったら死あるのみ。
怯えるのも仕方あるまいよ。
すっかりちいかわみたいになってしまったヘビ人間に、降谷さんが目を細めて冷徹な顔を見せた。
「お前が旭勝義だな。詳しく事情を聞く必要がありそうだ」
「は、ハヒィ…!」
『ゼロ、アクアクリスタルに取り残された人間の救助に向かうのが先だ!』
「いや、そっちはすでにコナン君が犯人を確保、脱出中だそうだ。間も無くこちらに合流する」
どうやらコナン君と念話を繋げていたらしい。
ついにきちんと念話の魔術が使えるようになったとは、降谷さんの上達には嬉しい限りである。
降谷さんは嫌そうな顔をしてため息をついた。
「保留機能もまだだし思考の切り分けも黄衣君の念話ほど綺麗にできないし、何よりグループ通話ができないのが不便だ」
『念話って意外と奥が深い?』
「凄く奥が深い。僕はやっと糸電話を使えるようになった」
『え……かわいそう……』
「頼むから憐れまないでくれ。ジャーマン・スープレックスがまろび出そうになる」
『暴力反対!!!』
諸伏さんが素早くヘビ人間の後ろに隠れた。
ヘビ人間は大怨霊に突如肩を鷲掴みにされ、白目を剥きかけている。
普段人間以外に特に何も思わんのだが、だんだん可哀想に思えてきた。
そろそろヘビ人間には人間に戻ってもらわねばなるまい。
そっと声をかけると「はいっ、ただいま!」とばね仕掛けの人形みたいな動きで人間体に戻った。
すっかり可哀想なヘビ人間になってしまったようだ。
しばらくすると、崩れかけたアクアクリスタルからボートが出てきて、俺たちのいる場所に向かってきた。
ボートの操縦経験がある人がいたのだろう。
コナン君を含めた複数人が乗っているのが見える。
脱出までの間建物を支えていたのはコナン君の魔術だったのか。
ボートの脱出が済むと、力を失ったようにアクアクリスタルは崩壊、水底へと沈んでいく。
ヘビ人間が「ああ、ワシの開園したてのアクアクリスタル…」と悲痛な声を出した。
個人の実業家としては結構奮発した施設だったろうに、大した資金回収もできずに海の藻屑になってしまったわけだ。
うむ。諸行無常か。
犯人に損害賠償を請求してもろくに帰ってこないだろうし、悲しいとしか言いようがない。
やっぱでかい建物は爆破されても泣かない鈴木財閥にしか建てられないってことか。
ボートが近づいてきてよく見えるようになると、俺は思わず「ブッッッ!?!?」と吹き出した。
ボートは船底に付いているプロペラが触手になっていて、ドゥルルルルと頑張って触手が回って走っていた。
全体的な色もピンク。星の精の絵が描いてある。
正面には口もあり、「クスクスクス!」と得意げに笑っているではないか。
これは……星の精を変身させて船にしてますね……。
星の精は速い!みんなを助ける!みんな星の精に感謝する!!
ボートが陸地に着くと、星のボートはポシュンと煙を上げて変身解除。
オウムの姿になった。
毛利探偵がフンと息をついてオウムを撫でる。
「変身するオウムとはまたとんでもねぇ怪異だな。しっかり面倒見て、悪用されねぇよう気をつけろよ」
「毛利さん、この子のおかげで我々が助かったんですからいいじゃありませんか。賢い子達ですよ」
「そうだな!記事にしてぇぐらいだ!犯罪ルポより今売れるのは怪異ルポかね!」
ワイワイガヤガヤ、多くの人に撫でられて星のオウムは有頂天になっている。
「ほしのせーはみんなを助けた!ほしのせーはすごい!」
「おお、凄い凄い。ナッツいるか?そのついでにちょいと写真を一枚」
写真を撮ろうとするルポライターさんのところに割って入り、「すみません、写真はご遠慮いただいているんです」と降谷さんが圧の強い笑みを浮かべた。
白鳥警部が降谷さんの姿を見て一瞬で敬礼の姿勢に入ろうとして、ギリギリで体を止める。
どうやら現場には白鳥警部も行っていたようだ。
逃げ延びていたヘビ人間を見て「旭さん!生きていたんですか!」と驚きの声をあげる。
「げたげたげたっ!」と星の精が得意になってコナン君の頭の上で胸を張ってナッツをくわえようとして、コナン君に取られてしまう。
「これはダメ。お腹痛くなるよ!」
「ほしのせーは大丈夫!大きくなった!ほしのせーは食べる!友達は返すの!」
「なんだ、怪異だから特別なものしか食えねぇのか?」
「うん、ごめんなさいおじさん。せっかくくれたのに。星の精がお腹壊しちゃうから食べさせられないんだ」
「可哀想に、おーよしよし、じゃあこれはおじさんが食べちゃうからなぁ」
「ほ゛し゛の゛せ゛ーの゛!!!」
星の精はコナン君の腕の中でひっくり返って喚いた。
他の警官が到着するのは僅か3分後のことだ。
それまでの短い間。
間違いなくその場の英雄はコナン君と星の精であったし。
星の精はみんなの命の恩人として、皆に受け入れられていたのであった。
・変身星の精
変身するオウムと言い張っている。
ステッキの魔術をコナン君が改造して、好きなものに返信できる機能を付け加えたようだ。
星の精の変身対象に関する知識不足はハスターの瞳に接続することで補っている。
内部では浮き輪になったり酸素ボンベになったりしていた。
星の精…酸素ボンベになるの嫌…星の精の触手をみんなが吸う……(しょぼしょぼ)
でも星の精、仮面ヤイバーになった!みんなのヒーロー!友達と二人なら星の精はとっても強い!
星の精は友達とずっと一緒!!!
・犯人
コナン君を人質に取ろうとして星の精タックルを喰らい気絶。
気絶状態でお持ち帰り、そのまま逮捕となった。
一応バイクで自分を轢いた一番の復讐対象はキルした。
・ヘビ人間
財産ないなった……。
魔術の心得があるので、公安に再雇用されるかも。
起業の腕があるので普通に働き直しても強い。