結局、コナン君達の活躍は伏せられることになった。
宍戸というカメラマンが不服そうにしていたが、困っている星のオウムの姿を見て渋々納得してくれたようだ。
「カメラの前に立つつもりになったら教えてくれよ坊主ども!」と言って爽やかに去っていった。
いかつい顔立ちだが、意外といい人のようだ。
あとナッツを取られた星の精はたいそうむくれていた。
星の精の美味いもん取った……友達も大きいのもみんな酷い……。
懲りない星の精である。
前に80年は血以外のものを食べたらダメだよと教えたら、あまりの長さに想像がつかないらしくてスペース星の精になってしまったし。
「80……?夜が80回で星の精は友達と同じもの食べれる…?」じゃないんよ。
それは80日や。
また、アクアクリスタルの爆破事件について、よくある爆破事件として処理されることになった。
警視庁捜査一課に捜査が任せられるとのこと。
よくある爆破事件ってちょっとよくわからないが、残念ながら本当によくあるんだよな。
類語としてよくある毒殺事件という言い回しもある。
事情聴取も終わって帰宅した頃には、すっかり夜も更けていた。
部屋に入ると、居間ではニャルが寝そべったナイトゴーントをゆっくりぐるぐる回していてた。
ナイトゴーントはシクシク泣いたままただ回されている。
俺は荷物を置いてからニャルの隣に座って、胡乱な顔をした。
「それ楽しい?」
「いえ別に。でも我が夫のハンドスピナーも楽しかったし、楽しいかもしれないと思って」
「なるほど。で、結果はどうだ?」
「イマイチですね。こう、回し心地が良くない」
ニャルは飽きてナイトゴーントを放ってソファに横になったようだ。
昼はどこかの惑星に遊びにいって細かい生き物を潰したり弄んだりしているらしいし。
ナイトゴーント一匹ではそりゃつまらないだろうよ。
ナイトゴーントは目を回しながらヨロヨロと部屋に戻っていく。
まあでも、まだナイトゴーントは生きているし、羽や手足をもがれたりしてないし。
及第点と言ったところだろう。
コナン君と星の精は来る途中で遠隔で沸かしておいた風呂に入るようだ。
海に入ったからシャワーも浴びたが、風呂にもきちんと入っておきたいしな。
コナン君が風呂に入る道すがら、テュフォン君が「フンッ!」と息をついて少し鼻面を突き出す。
おかえりの挨拶だ。
高級な犬ベッドから星の精の匂いを嗅いで、星の精は「ゲタッゲタッ!」と笑ってスキップした。
テュフォン君は犬型だが触られるのが好きではないので、コナン君は手だけ振って「ただいま!」と言った。
テュフォン君は満足して犬ベッドで丸くなったようだ。
なんか動物園状態になってきたなここ。
「黄衣さーん!お風呂貰うね!」
「あいよー。お先にどうぞ」
ふと、ニャルがピンときた顔で「僕たちも一緒にお風呂入ります?」と呟いた。
すごく真面目で真摯な眼差しをしている。
俺は重々しく咳払いをした。
「羽虫はこういうので盛り上がるって聞きました。湯煙で隠すんですよね?僕見ました」
「アニメのお風呂シーン見たんか。教育に悪いぞ。そんな都合よく髪や湯気で大事な部分が隠れたりせえへんわい」
「僕ならうまく動かして隠せますけど」
「メデューサかな?」
俺は梅干しみたいな顔になりつつ、ニャルの言葉に頷いた。
まあ混浴ぐらいならよかろう。俺が無になればいいだけの話だ。
ニャルが俺に張り付いて「へええ。羽虫は浴槽で胸の話するんですよね?僕見たことありますよ!」と笑っている。
それは概ね俺みたいな野郎の妄想だ。忘れてくれ。
俺の中の悪のハスターが「夫婦だぞ?多少はな、ぐへへ」などと触手をうねらせているので頬をバチコーンと強めに叩く。
煩悩よ去れ!!!
うむ。だめだ。かくなる上は……!
というわけで。
場面は変わりまして入浴後の居間です。
「本当に無になることないじゃないですか!!!僕の可愛さにメロメロになるところだったでしょう!」
「いやぁ、不埒な考えに支配されるといけないのでオートモードにしてたわ。すまんねニャル」
意識を鎮め、無のままに動くエメラルド・ラマの悟りの能力だ。
いやこれは俺の権能ではなく、元は開祖たる一人の人間の精神のあり方を、俺が模倣して……。
いや、詳しいことはいいとしよう。
ともかく、俺はニャルに酷いことをせず乗り切った。
ブラボー。素晴らしい。繰り返しますが本作品は全年齢となっております。
「我が夫の!ばか!!!!」
「ごふっ」
ニャルの長い髪が鞭のようにうねり、俺の後頭部をベシッとはたいた。
およそ普通の神話生物が弾け飛ぶレベルのダメージだ。
クラスター爆弾三発分ぐらいの、神話生物界隈では戯れるような威力である。
ニャル優しい……。
あと俺の頭部柘榴みたいに飛んだから掃除手伝って。
ニャルがメソメソしているから、俺は慌てて首なし人間のままニャルを労ってやった。
違うんだ、俺は大切なニャルをそんな汚れた目で見たくなくて!
と言うかこれ口がないから喋れねぇ。
ひとまず抱きしめとけ。ぎゅむり。
風呂上がりの薄い肌着越しに伝わる感触に俺は再び死亡。
無のまま己の肉片を集める作業に従事することにした。
コナン君が星の精の触手をタオルとドライヤーで乾かしながら他人のふりをしている。
星の精の触手が全部ブワブワ舞い上がって、「ゲタゲタッ!」と星の精が喜んだ。
ドライヤー程度の熱で星の精はやけどなんてしないし、ちょうどいいのだろう。
寄り添ったテュフォン君が「我にもやれ」って感じで尻尾でペシっとコナン君に催促する。
コナン君は少し悩んでから、ドライヤー二刀流になった。
さて、俺が掃除をし終わって頭部を再生させた頃に、来訪者は現れた。
俺達の家のチャイムを鳴らしたのはナラトゥースだ。
受付まで迎えにいって、マンション内に招いてやる。
奴は服を着込んだトカゲ姿のまま堂々とベンチに座っていた。
「いやなんでその姿で何とも言われてねぇんだよ。魔術か?」
「ギャウッ。ギャーウ」
「さよけ…」
単純に受付で「仮装パーティするつもりで804の黄衣さんと待ち合わせしているんです。お騒がせして申し訳ありません」と言って静かに俺が来るのを待っていたらしい。
俳優黄衣ハスタの知り合いの撮影用特殊メイク係さんの作品だと言い張ったとのこと。
警備員さんも凄い出来のメイクに感心して、実際に俺が迎えにきたから何も言わず通してくれたようだ。
凄い…力技で来るやん……。
俺たちの部屋に入れば、ニャルが玄関で仁王立ちしていた。
ナラトゥースはくるりとUターン。
喋らないという己の設定を忘れて「お邪魔しましたー」と流暢に別れの挨拶をした。
そしてニャルにガシッと肩を掴まれて硬直する。
ニャルが嫉妬に三眼を燃え上がらせて静かに問いかけた。
「弱小トカゲが僕たちの愛の巣に何の用です?今正直に答えれば八つ裂きで許してあげなくもないですよ」
「ギャ……」
瞬間、ナラトゥースは腹を見せて白旗を立てて尻尾を振って在らん限りの力で降参の様子を見せた。
まあ、ナラトゥースとニャルラトホテプなんて、本体の段階でもトカゲとキングギドラぐらい違うからな。
その上今このナラトゥースは抜け毛でしかない。
関係性で言えば吹けば飛ぶとはこのことだ。
ふと、俺は少しだけ気になってナラトゥースに聞いてみることにした。
「ちなみに、ニャルは絶世の美女の姿なんだけどナラトゥースは粉かけたりしないのか?」
「ギャウッ」
ひっくり返ったままナラトゥースは顔をキリッとさせた。
すでに愛と幸せを得ている女性に水を差すのはいい男とは言えねぇ、とのこと。
お前その高い倫理観どこで拾ってきたの?
あと外なる神はちょっと……と割と本音めなコメントも追加。
ナラトゥースが好きなのは羽虫の女性らしい。
ニャルが大宇宙を背負った顔で硬直している。
お前…特殊性癖だよ……。
と、そんなコントをしつつ本題に入る。
椅子に座らせたナラトゥースは、どうやら降谷さんからの使いだったらしい。
珍しいことだ。こんな時間に来るとは急用……にしては降谷さん本人でもないし。
いまいち事の状態が掴めない。
「ギャウギャーウ。ギャウ」
「なるほど、怪盗キッド対策に俺の力が借りたい、ねぇ」
概ね、神としての俺の力を対怪盗キッド用の防犯に利用したいと言う話だった。
大空を舞い、ワイヤーフックやトランプ銃を利用する怪盗キッドに風は天敵。
だから神風を吹かせてほしい、とまぁ、そのような話だ。
もちろんそんなの参加する義理はない。
が、「今後の国家防衛に使えれば、それに向けての参考にもなる」と言われては、少しばかり厄介なことになる。
非常に難しいネタに、俺は大きくため息をついた。
鈴木次郎吉相談役も、なかなか切り込んでくれたものだ。
これはキッドをダシにした「神は有事の際護国の力になってくれるか?」という質問に近いのだ。
その場で却下せず俺にまで話が来ているのも、この辺が絡んできているに違いない。
本心としては。
軍事力として力を貸すのはアウトにしたいと思っている。
が、たとえば実際に開戦となったとして、俺は間違いなく今いる場所を守るために力を貸すだろう。
だが例えば防衛のみに戦力を貸すとして、高度化する社会でどこまでが防衛かはかなりの議論を要する。
いっそ俺が勝手に守ってるだけ、として全ての協力を断るのもありかもしれない、と思う程度には複雑だ。
しかしきっと、降谷さんはもっと広く確かに日本を守りたいはずだ。
日本を守るため、直接戦力になるのを望むだろう。
その時、俺が「黒い風は俺の力でない」と言い張ることはできない。
彼は俺の化身であり、俺の意思そのものだからだ。
だから降谷さんは、今回ナラトゥースに任せて自分では来なかったのだ。
意見が対立することを承知で、「あなたの意見を第一とする」と、己の意見を述べることを控えた。
人類を愛する俺と、日本を愛する彼の明確な対立を避けて水面下で動くために。
つまり「詳しく言ってなかったから動いていいと思った」で通そうとしているわけだ。
あーーーもう!
わかってやってるのかは知らないが、鈴木次郎吉相談役も面倒なところを切り込んでくれたものだ!
俺は深いため息をついて、パタパタと手を振った。
「その話は却下。対キッドへの権能貸し出しは許可しない。俺は個々の国の軍事に関与しない。俺は俺のやり方でこの場所を守る」
「ギャウギャウ?」
「ああ。一言一句違わずに伝えてくれ」
この国じゃない。この場所だ。
国が遷ろおうとも、変わらず俺は人を守るだろう。
だが、今この場所を守らないと言うわけでもない。
この辺の含意も含めての発言の神経をすり減らすことよ。
高度に政治的なのはこういうとき困る。
コナン君が星の精を頭に乗せてこちらへトコトコとやってくる。
「黄衣さんの譲れないところ?」といっそ優しげに問いかけた。
「そうだよ。日本贔屓なのは否定しないけど。でも、どこかを一番にしてそれを守るって言うのを可にするなら、俺はハイパーボリア再興って話をせざるを得ない」
「そっか。マモーさんが喜ぶね」
「うん。そしてニャルにはたき回される」
「はたき回します。羽虫は全て潰します」
ニュッと突如ニャルが俺のそばに生えてきて、素早く俺をジトっと睨みつけた。
「また執拗に羽虫を管理飼育して疲弊するつもりですか。絶滅させますよ」
「いややらないって話だよ。俺も反省したし」
「ふーーーーん」
何も信じていない顔でニャルが俺をすごい眼力で覗き込んでくる。
ニャルの影から無数の瞳がこっちを睨め付けているようだ。
そんな疑わなくても。
「なんにせよ、降谷さんにはそう伝えてくれ」
「ギャウッ!」
ナラトゥースは星の精にキメ顔で一礼してから、颯爽と去っていった、
なお、星の精はさっとコナン君の後ろに隠れた。
あの白いのなんか怖い……。
通じぬ思いにちょっと吹きながら、俺はゆったりとソファに体重を預けたのだった。
・ハスターの優先順位
基本は「人間を長く見守る」がメイン。
日本贔屓ではあるが、根っこのところでハイパーボリアに義理立てしてる感じ。
昔飼ってたイッヌのボロボロの寝床をまだ大切に持ってるタイプの飼い主。
降谷さんにはこんな喪失感に囚われず幸せに生きてほしいので、勝手に日本を守ってもこっそり許容するつもり。
・次郎吉おじさま
周りがビビって確認できないみたいだから、老齢代表で祟られる覚悟でジャブを打った人。
不敬として死んだらそれまで。
一族郎党呪われたら、ワシが直に他のものの赦しを乞おう。
どうせ誰かが聞かねば始まらんのだしな!
・スペース星の精
きっちり80日後に美味いもん食べるって暴れる。
黄色が言ってたもん!!星の精に嘘ついたのか!酷いやつ!!!もう知らない!!
80年の正しい概念を教えたらまたスペース星の精になる。
・ニャル
ナラトゥース君に対して「キッッッッッッモ」ってなってた。
我が夫なら愛の補正で許容できるけど、野生のおっさんの抜け毛が「メスのボウフラたん♡ちゅき♡」とか言ってて全身鳥肌立った。
まじむり。