ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ハスター主のジョジョ番外編を書くため一日一話投稿になる予定。


悪霊の姿

 

 本日昼、諸伏兄が事務所を訪ねてきた。

 

 事務所には俺とマモーさんだけの時間帯だ。

 長野からはるばるということで、ソファに案内して話を聞く姿勢をとる。

 折目正しく諸伏さんは上着を脱ぎ、腕にかけた。

 マモーさんが「お持ちします」と言って上着を受け取る。

 

 諸伏兄は「ありがとうございます」と言って、マモーさんの用意した紅茶に口をつけた。

 

 凄い、マモーさんがいるだけでリッチなホテル感の出る空間になっている。

 諸伏さんが静かに目線を上げた。

 

「あなたに聞きたいことがありまして。私が個人で追っている事件について、少しばかり目処がついたのでご意見を伺いたく」

「へぇ。俺にというと、怪異絡みか?」

「───佐比売党についてご存知ですか」

 

 俺は頷いて、静かに目を細めた。

 

 佐比売党。

 鉱山の神を原点とする宗教団体で、人の身で旧支配者シュド=メルの降臨とその支配を目論む邪教の一派だ。

 旧支配者を利用して現世利益を得ようとする身の程知らずたち、と言い換えてもいい。

 

 今はほとんど壊滅状態になっているが、その原因までは知らない。

 調べればすぐに掴めるが、そこまで調べる必要性を感じなかった。

 

 俺は首肯して口を開いた。

 

「大体はな。あまりいい組織じゃないのは知ってる」

「そうでしたか。私は、その佐比売党の儀式によって、私達の両親が殺害された可能性が高いと考えています」

「ッ……つまりあなたたち兄弟が、佐比売党の被害者だったと」

「ええ。単なる推測の域を出ませんが」

 

 諸伏兄は俺に写真をいくつか渡してくれた。

 おそらく当時の現場写真だろう。色褪せたそれを確認して、俺は思わず息を呑んだ。

 

 血によって歪になんらか模様が描き加えられ、床も壁も真っ赤に染まっている。

 素人の犯行であることが丸わかりの乱雑な魔術儀式の痕跡だ。

 神への捧げ物と、接続、降臨の儀式だろう。

 

 というかこれ、術式にそもそも根本的な理解の間違いがある。

 この術式が正しく発動したとして、捧げ物にされた人間は肉塊になるだけだ。

 

 どこをとってもロクでもない儀式の痕跡に、俺はため息をついた。

 

「この術式は神に生贄を捧げて依代と成し、神を下ろそうという儀式です。人を神にする術式、の不完全版だな」

「さすがですね。私の知人でこの手のものに詳しいおでん屋がいるのですが、儀式写真を渡してから三日はうんうん唸っていました」

「儀式に詳しいおでん屋とは。まあ、うん。俺にも魔術の第一人者の自負があるからな」

 

 かなり古い形の術だし、その上素人仕事でめちゃくちゃに歪んでいる。

 知り合いに原始魔術のできる年寄り怪異でもいたのだろうが、これではどれほど詳しくとも読解には苦労しただろう。

 

 諸伏さんが返した写真を手の中で少しだけ弄んで、ゆっくりと俯いた。

 

「では、その術式が発動した場合、生贄はどうなりますか?」

「時の運。一番多いのが挽肉になるエンドかな。99%死ぬし、まともな人間として生涯を終えられる可能性は万にひとつもない程度だ」

「………やはりそうですか」

 

 そこまでは情報を得ていたらしい。

 おでん屋とやらも、なかなかやるものだ。

 

 しばし考え込んだ後、諸伏兄は一枚写真を追加した。

 顔を真っ青にして涙を浮かべる、幼い子供の姿が写っている。

 

「これは当時現場に隠れていた弟の顔を写真に撮ったものです。警官が来る前に消えてしまいましたが」

「…なるほど。なるほどなるほど」

 

 渡された写真に写る子供の顔には、くまどりのような複雑な模様が浮かんでいる。

 間違いなく諸伏さんだ。

 幼いながらに顔立ちにその面影が残っている。

 

 俺はヘニャリと眉を下げて、額に手を当てた。

 

「残り1%の、さらにその奥を引いたらしい。あの雑な術式で成功するなんて、よほど幸運だったんだんだな、諸伏さんは」

「幸運と、言えるのでしょうか」

「その場で死んでいた方が幸福だった、という見方もあるにはある。だが、それじゃ今の諸伏さんがうかばれないだろう?」

 

 あんなめちゃ強魂が野生にいるなんて珍しいなとは思っていたが。

 

 まさか人工的なものだったとは。

 

 

 俺は再び大きくため息をついて、目を伏せた。

 手順としては簡単だ。

 

 儀式の目的は神の降臨。

 そのために生贄を捧げて、依代を作り変えて神の器にしようとした。

 殺害された父母は材料となり、諸伏さんの魂を巨大で特殊なものへと仕立て上げた。

 

 幼い諸伏景光は、兄が駆けつけた段階ですでに死んでいたと言っていい。

 それは家族三人が歪に組み上げられたキメラが、弟の形をして兄に震えて縋りついていただけに過ぎないのだから。

 

 本人が核となった諸伏景光だと自身を思い込んでいるのは、その壊れた精神を安定させるためだろう。

 あるいは本当に諸伏景光のそれが残っていたのかは、定かではないが。

 

 まあ、魔術としての仕組みとしては簡単だ。

 殺した人の魂をめちゃめちゃに継ぎ足し、大きな一つの魂にするだけだ。

 もちろん人格も正気も吹っ飛ぶが、神の器にする分には問題ないからよしとしたのだろう。

 

 そうして神の器に成り果てたわけだが、問題点が山積みだ。

 

 まず、三人ぽっちの魂で神の器にしようなど無謀に過ぎる点がある。

 コップ三杯で海の水を飲み干そうとするようなものだ。

 無理無茶無謀の三点セット。旧支配者が鼻で笑う。

 

 また、内側には見えぬほどに小さな小さな神格路が隠されていて、そこから神の権能が流れ込んでくる仕組みにもなっている。

 霊体総量が上るたびに霊格が一回り成長する機能のようだ。

 が、人間が内側にマグマを流し込まれたら死ぬだけだ。

 今はなんとかなっているが、本格的に機能を開始したらあっという間に破裂するだろう。

 

 俺は頭を抱えて低く唸った。

 

「……犯人はどうなったんだ?」

「まだ逃亡を続けています。景光が警察学校時代に爆破テロを起こして表向きは死亡、と報道されているはずです」

「実際には替え玉を立てて逃走したというわけか」

「私はそう見ています」

 

 事務所内に沈黙が滞留する。

 俺は天井を見上げて、無意味にシミの数を数えた。

 そうでもしていないと喚きたくなってしまう。

 

 しばらくしてから、意を決して問いかける。

 

「諸伏警部は俺に何を聞きにきたんだ?」

「………景光を治す方法はあるのか、聞きにきました」

「つまり両親の魂と分離して、供養したい?」

「できれば。無闇に苦しませるのは、本意ではありませんから」

 

 予想通りの回答に、俺は黙りこくった。

 

 そんな可哀想なものを、無理矢理現世に留めておくべきではないことは明白だ。

 だが俺は一個人として諸伏さんを解放したくない。

 愉快な人で、冗談がうまくてノリが良くて、でも情に厚くて影がある。

 優しい人だ。料理もうまくて、よく降谷さんと料理談義をしている。

 

 そしてなんにせよ、死後に幸福なんてない。

 

「無理だ。すでにあれは一つの魂として成り立っている。バラバラにすれば、発狂して魂が霧散するだけだ」

「……そうですか」

「あの世はない。来世もない。本当にそうと呼べる現象を、俺はこの長い生でたった一件しか知らない」

 

 すなわち極大の奇跡「転生」である。

 

 

 いよいよ、俺たちの間に会話は無くなった。

 ただ純粋な無力感のみが空気を沈殿させて、体に重くまとわりついている。

 

 不意に、事務所の扉が開いた。

 

『兄さん!珍しいな、何かあったのか?』

「これは、ヒロのお兄さん。お久しぶりです」

 

 降谷さんと諸伏さんがやってきたようだ。

 早めに上がって残りの仕事を事務所で片付けることにしたようだ。

 

 諸伏兄が柔らかく笑う。

 

「少し怪異について教えを乞うていただけだ。この間のおかしな形のタコが彼の落とし子とやらだと聞いてきたまで」

『ああ、あのチビタコ達。たまに星の精達の遊び相手として出してるもんな』

「あのタコ肩叩きがうまいんだ。仕事しながらしてもらうとかなりいい」

 

 降谷さんがうんうん頷いている。

 若干一名、俺の落とし子をマッサージに使っているやつがいるようだがまあそれはいいとしよう。

 俺もやってもらおうかな。

 少し大きめの落とし子を作って本体の全身ほぐしをしてもらうのだ。

 

 「それでは私はそろそろ失礼します」と諸伏兄が立ち上がる。

 

 改めて諸伏さんを観察する。

 あまりに歪で俺もわかっていなかったが、経緯がわかれば確かになるほどと言った構成をしている。

 

 諸伏さんの神格路は途中で途切れ、虚空へと繋がっている。

 

 それもそのはず。

 その先は眠れる旧支配者クトゥルフに接続するはずなのだから。

 諸伏さんの霊格が成長を続けているのも、クトゥルフの「無限あるいは無尽蔵」の権能と深く関わっているはずだ。

 

 全てが全て。

 アレが眠っているから今まで諸伏さんは無事だっただけで。

 

 もうとっくの昔に、諸伏さんはあれのものだったのだ。

 

 

 諸伏兄の出ていく姿を確認し終えてから、俺はむしゃくしゃして泣き喚いた。

 

「うわぁあああんニャルえもん!!!」

「!?!?!?」

『何何何突然黄衣が壊れた』

 

 ドン引きする諸伏さん達をよそにエグエグしていると、シュンっと素早くやってきたニャルが俺を抱きしめてくれた。

 

「どうしました我が夫、そんなに泣いて」

「クトゥルフのアンチクショウが俺のことをいじめた!」

「なんて酷い!あのタコは目が覚めたら必ず二人で八つ裂きにしましょうね!」

「う゛ん゛……!」

 

 よしよしされながら、俺は復讐に燃えた。

 殺してやる…殺してやるぞクトゥルフ!

 

 いや全然クトゥルフは無実なような気がしないでもないが。

 ともかくあのタコは処刑。うむ。間違いない。

 

 

 そのように決意を新たに、俺は拳に力を込めたのであった。

 





・クトゥルフ
ぐうぐうすやすや。
呼び出しがあったことも全然気づいてないし、意識があったとして興味もない。
時々寝言言ってる。

・諸伏さん
三人分の魂のキメラ。長い年月で癒着して、普通の一個の魂に見える。
呪詛の下地。無意識のトラウマ。
降谷さんが知ってる諸伏さんはほぼこのキメラ君。
山村警部は久しぶりに会ったのでキャラの違いに気づいてない。
高明さんは変だとは思っていたが、記憶の連続性はあるし多少混濁はあるものの事件のショックだと思っていた。

原作と性格が違うのは父の要素。
料理上手なのは母の要素(邪悪な設定)

番外編、ハスターがジョジョ3部世界で旅に加わる話を連載開始しました。
ハスターなオリ主とジョジョ3部
https://syosetu.org/novel/403061/
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