ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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世紀末の魔術師〈教師の顔〉

 

 ロマノフ王朝の遺産・メモリーズエッグ。

 そのような秘宝が、鈴木財閥の蔵から発見されたらしい。

 

 美しい細工のある卵形の細工物で、中身は全て純金でできているとのこと。

 表面には草花が彫り込んであり、そのハッとするような緻密さが際立つ。

 

 場所は鈴木財閥の応接室。

 

 数人の公安部怪異対策課の面々が立ち会う中、俺は次郎吉相談役の目の前で鑑定を済ませた。

 魔術的鑑定のほか、怪異ルールも無いか、その経緯がないかどうかも含めて詳しくチェックしていく。

 

 全ての鑑定を終えて、俺は顔を上げて頷いた。

 

「本品は魔術的アーティファクトになります。効果は他の攻撃的な魔術から身を守る障壁を作成するものになっています」

 

 ざわりと公安の面々が少しだけざわめいた。

 怪異品だ。

 しかも珍しい、防御を旨とする秘宝の類。

 

 もしこれがインペリアルイースターエッグの一つでなければ公安の方で買い取りたい程の逸品に違いない。

 

 これを作ったのは腕利きの魔術師だったのだろう。

 元は「テツチャプトルのチャイム」と呼ばれる原始魔術で、音に魔術的波長を乗せることで、他の音に関わる魔術を無効化するものが使われている。

 それを独自に改造。

 オルゴールに仕込むことで、あらゆる魔術を阻害して身を守ることのできるように作られている。

 

 もちろん阻害効果は弱いが、人間の音楽魔術だと考えれば大したものだ。

 

 次郎吉相談役が「むう」と唸って顎に手を当てた。

 

「して、これはどのように作動させる?」

「これ一つでは効果発揮しません。これは二つで一組のアーティファクトですから。二つ合わせて、正しい場所で作動させて意味を持ちます」

「相方のエッグの場所はどこにあるかわかるか?」

「ええ。後ほど詳細をお送りしましょう」

「もし可能ならば是が非でもそれを集めたいところだ。そして専用の美術館を建設し、ゆくゆくは怪異品の展示会場とする!」

 

 力強く宣言して、次郎吉相談役はかっかっか!と笑った。

 美しい魔術系美術品は数多いし、安全なものなら意外と客もたくさん来そうだ。

 相変わらず豪快な人である。

 

 公安の人員がすすっと書類を差し出し、「こちらの書類をご記入いただいて、後日提出を…」と説明する。

 

 最近施行された怪異対策法の一部で、「魔術的品を持っている場合はその登録をしなければならない」というものだ。

 魔術的アーティファクトの全ては俺が日本国内の全てを判定したため、各ご家庭に書類が届いている形だ。

 

 神の名の下の判定だ。

 異論を許さず、猟銃のように管理し販売を規制し、データベースとして管理する。

 怪異を用いた犯罪を防止するために。

 

 うまくいくかどうかは未知数だが、まずは把握しなければ始まらないからな。

 次郎吉相談役は鷹揚に頷いたようだ。

 

「うむ。後日秘書から届けさせる」

「ご協力感謝します、鈴木次郎吉相談役」

 

 降谷さんが公安総務課の長として丁寧に一礼した。

 チラリとだけ視線を交わしてから、次郎吉さんが口を開く。

 

「それと、国外の人間がいくらか買取を希望しておった。怪異品だった場合取引できんと断ったんじゃがな」

「……その買取希望を持ち出したものについて伺っても?」

「良いぞ。法に触れる取引など、我が鈴木財閥は関わらんしな」

 

 なんでも、ロシア大使館の人間、美術商、ロシア研究家の中国人が来ていたようだ。

 日本人として映像作家も一人、写真を撮りたいと来ていたとか。

 

 怪異品の取引は違法だ。

 もちろん「怪異品だとは知らずに話を振ってしまった」という可能性もあるため、これだけで直ちに違法とはならない。

 だが、昨今の古美術界の事情を知っていて取引を持ちかけるのはやはりきな臭さを拭えないだろう。

 

 降谷さんは「くれぐれも取引には応じませんようにお願いいたします」とお願いした。

 

 怪異対策関連法の成立には意外とたくさんの困難があった。

 

 まず法で規定するからには、「怪異品」の定義を作成しなくてはならない。

 さらにその被害についてデータを揃えて危険性の把握。

 その上で古美術商や好事家などが作る反対活動団体の意見を跳ね除けて。

 パブリックコメントももらって、有識者も呼んで。

 

 それで何とか成立したハイハイしたての赤ちゃんのような法律だ。

 法施行前にと取引する事例が多発したし、

「規制前に霊験あらたかなお札をお売りします!」という怪異詐欺も横行した。

 

 「警察の横暴だ!」と古美術界は声明を出し、もう界隈は闇市の様相になってしまっているようだし。

 

 ともかく、今日はそれで一旦帰宅。

 鈴木邸から撤退することにした。

 

「あとは国外持ち出し、持ち込みだな。君の方での追加のメガネの作成は順調か?」

「おうよ。空港配備分はきちんと作成済み。シリアルナンバーも掘り込んである」

 

 検疫のために空港にも俺作の魔術式を読み取るメガネを導入しようとしているのだ。

 もうすでに幾らか、警察内部でも盗難やこっそり横流しが横行して俺製メガネの数が合わない状況が続いている。

 シリアルナンバーもそれを受けての処置だ。

 

 まあ俺は全ての場所を把握してるしいつでも機能を消去・天罰の執行ができるが。

 今のところそのままにしている。

 

 メガネを増やせば増やすほど、今後その手の盗難は増えるだろう。

 

 いっそ全世界配布するか、と思えど。

 俺の手作りだからそれをすると禿げそうなほど大変だし。

 やはり魔術品を工場生産できるようにした方がいいのだが。

 

 はあ、と無意識にため息が漏れる。

 降谷さんも俺の悩みに思い至ったのか、同じように俯いた。

 

「やはり法と体制の不足は痛感するものだ。手も足も何もかもが足りない」

「そうだよなぁ。昔は俺がほぼ全部一人で法を作ってたから悩みも最小限だったけど。やっぱ関わる人が増えるとその分だけ悩みも増えるな」

「立法までやってたのか君」

「いや本当は人が作った法案を俺が許可する形だったんだけど、いつのまにか俺が全部一人でやってた」

「ダメな上司病に陥ってるぞ」

 

 降谷さんの言葉に俺はブスくれてそっぽを向いた。

 ちぇっ。だって俺一人でやった方が早いから。

 ブツブツ。

 

 駐車場にたどり着くと、降谷さんが運転席に乗り込んで、俺が助手席に座る。

 

 他の公安のメンバーはそのまま警視庁に帰還するらしい。

 俺たちは事務所に向かうから、これでお別れだ。

 公安さん達がぺこりと会釈して去っていく。

 

 降谷さんがエンジンをかけて、静かに前を見た。

 

「───この間。ヒロについて、ヒロのお兄さんと何を話していた?」

「…………」

 

 そりゃ降谷さんならわかるか。

 俺があんなにブルーになっていたのだから、それが流れ込まないはずがない。

 

 俺はぼんやりと背を座席に預けて瞬きした。

 

「ちょっと、言うのは俺の心の整理がついてからにする」

「そうか。なら、タイミングは君に任せた。だがなるべく早いと嬉しい」

「おうともよ。なるべく早く整理をつけるよ」

 

 諸伏さんを治す方法はない。

 あの哀れなキメラゾンビ自体が、俺たちの知る諸伏さんそのもの。

 治した先に諸伏さんはいない。

 

 神格路もがっちり組み上がっていて、クトゥルフの権能に侵食されている。

 俺が解体し切るより先に、諸伏さんの魂の寿命が来るだろう。

 

 今まで通り、静かに過ごすしかない。

 諸伏兄の苦悩を置いてけぼりにして、その絶望に蓋をして、平穏のふりをするしかないのだ。

 

 

 

 事務所に到着すると。

 

 諸伏さんが星の精を頭に乗せてブーーーンと祠の周りを回っていた。

 祠を倉庫から引っ張り出したらしい。

 星の精はゲタゲタ笑って触手を靡かせている。

 

 祠からは次々食事が飛び出し、その食事を星の精が触手を伸ばしてつまみ食いしている。

 こらっまたお腹痛くなるよ!!!

 

 降谷さんが半目で諸伏さんを睨みつけた。

 

「いや何やってるんだ。なんの儀式だこれ?」

『星の精が美味いもん食べたいって言うから。祠の生産品なら星の精も食べれるかなと思ってさ』

 

 星の精がついに癇癪を爆発させて、「星の精も友達と同じの食べる!なんで貰えない!まだ貰えない!星の精が小さいから!?!?」とバタバタ怒ったらしい。

 

 困り切ったコナン君と諸伏さんが試行錯誤して、祠を使うことを思いついたらしい。

 あれならば、概念的に美味しいだけで腹は膨れないし。

 

 最初は、祠の中に星の精を入れてみることにした。

 しかし星の精は肉体を持つ生物。

 祠に入ることは叶わず、ぎゅむ、と星の精が祠に押し付けられるだけに終わったようだ。

 

 そして余計に星の精は泣き、「ヒゲの嘘つき!星の精は美味しいもんの出るところに入れない!」と怒られグスグスと説教をうけたとのこと。

 

 そして機嫌を取るためにブーーンと頭に乗せつつ、諸伏さんは半分だけ自分の体を祠に突っ込んだ。

 なんとかして食事だけを祠から取り出せないか試行錯誤するつもりだったようだ。

 

 すると片手だけ突っ込む形で入ることができたらしい。

 その中から星の精が食べられそうなものを出して、星の精に与えているらしい。

 

 確かによく見れば、机に並ぶ料理達には実体がない。

 これなら星の精が食べても、腹は膨れないが美味しさは感じられるだろう。

 味覚としての美味しさではなく、「概念としての充足感」を摂取する形だからな。

 

 コナン君がぽんぽん飛び出た料理を机の上に乗せながら難しい顔をしている。

 

「本当に大丈夫かなぁ」

『ダメだったら今日の夜星の精のお腹が痛くなるかもな。ちょっとかわいそうか?』

「俺もいるし、特にひどいことにはならないよ」

【ゲタッ!】

 

 星の精は概念体だけとはいえ、正真正銘の人の料理を食べられたのだ。

 心底嬉しそうに嬉しそうにコナン君にも渡した。

 星の精のあげる!一緒に食べると嬉しい!!

 

 コナン君もやさしく微笑んで、渡されたイチゴを頬張った。

 諸伏さんはおどけて、打ち出の小槌のノリでポンポンと料理を出現させている。

 そして満面の笑みを浮かべる星の精をわしゃわしゃと撫でたようだった。

 

 なるほど。

 たしか、諸伏兄はその父のことを教師だと言っていた。

 小学校で教師をしていた、優しい父だったと。

 

 

 だから星の精は一番最初に諸伏さんに懐いたのかもしれない。

 小さな子への慣れと慈しみを、その幼い情緒で察知して。

 

 

 あーーーーニャルに泣きつきたい。

 が、今は太陽系外にいるし、それもできない悔しさよ。

 

 降谷さんの肩にミニタコを出現。

 無意味に揉ませるなどする。

 

 降谷さんがくしゃくしゃの顔をして俺を見た。

 

「何故僕を揉ませた。いや気持ちいいが。気持ちいいが脈絡がなさすぎる」

「むしゃくしゃした。俺に政治戦仕掛けてくる薄情な化身はもみほぐしてやる」

「僕は筋肉ほぐしのプロでな。そこのソファに横たわってもらえたら僕もマッサージでお返ししよう」

「全力で誤魔化してくるやん。じゃあありがたく揉んでもらおうかな」

 

 俺はぬるっと亜空間から太い触手を出してソファに横たえた。

 触手に一列に並んだ目が全部降谷さんを捉えている。

 

「頼む。控えめに15分コースで」

「揉………え、眼精疲労とかか?」

「いや亜空間にずっと体を押し込めてるから凝ってるんだよ。座り仕事の肩こりみたいなやつ」

「揉む、か…どこを……?」

 

 背後に宇宙を背負う降谷さんが、ひとまず目の部分を避けてぶに、と触手をもみほぐす。

 

 俺はくすぐったくて口を大きく開いた。

 皮が裂けて乱杭歯のついた口がずろろろ、と露わになる。

 

【くすぐったい。もっと下で頼む】

「ここ口だったのか。わけわからなすぎないか黄衣くんの生態」

【黒い風に言われたくないけど!】

 

 なお、星の精は食事に夢中でこちらの異様には気づいていない。

 諸伏さんがそっと体で視界を覆ってハスター出現を見えないようにしているようだ。

 優しい。

 コナン君なんて顔全部でげんなりしてるのに。

 

 

 

 そうして、メモリーズエッグへの怪盗キッドの盗みの予告が出たのは、翌日のことである。

 





・ハスターの触手
目がたくさんついている。
口は隠れているが、縦に裂けて乱杭馬が覗く。
目元あたりをグイグイと黒い風が全力で揉むと「ああ〜〜〜〜」って言う。

・メモリーズエッグ
中に魔術細工の仕掛けられたオルゴールが仕込まれている。
光度計が作動してオルゴールがなっている間、他の魔術に鑑賞して無害化する。
皇帝一家に一時の安らぎを与えることを目的に作成された。

・テツチャプトルのチャイム
音声魔術無効化術式。
別にハスターは制作に関与していない。
その効果に音楽の神にあやかって名前をつけただけ。
同じような魔術に「ハスターの歌」「ヨグ=ソトースの拳」などがある。

・ヨグ=ソトースの拳(真)
俺のこの手が光って唸る。
宮殿に忍び込もうとした野生のニャルを前に副王は構えを取った。
FIRST COMES ROCK…。
ニャルは日が悪いことを察して逃げ出した。
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