ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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世紀末の魔術師〈神罰〉

 

 本日は船から降りて、横須賀のお城にやって来ている。

 

 横須賀を一望できる高台にあるお城は、一瞬異界感すら漂う美しさだ。

 ノイシュバンシュタイン城に似た優美な城で、小ぶりであるもののメルヘンチック。

 ニャルなんかがゲーム会場として気に入りそうな、手入れの行き届いた場所である。

 

 城に来たのは、浦思青蘭を含めた怪しげなエッグを狙うメンツも一緒だ。

 意外といい人そうなロシア書記官、気合万全で盗み道具を持って来た古美術商さん、狂信者浦思青蘭。

 そして城の持ち主たる香坂さんとその執事さんと俺たちである。

 

 なお、怪盗キッドも付属してます。

 昨晩はたくさん星の精にマジックを見せてくれて、星の精もコナン君も俺もホクホクであった。

 あれは凄い。

 「ハスターの瞳」で解析しないとわからないレベルの洗練されたトリックだ。

 

 しかし、ここに来てからというもの、俺の気持ちはブルー一直線。

 城を見上げて、俺は大きくため息をついた。

 しっかりと着込んだ内側に暗器と拳銃を隠し持つ浦思青蘭の姿が見える。

 

「あんだけおっきい釘を刺したのにまだついて来た…浦思青蘭……旧支配者に凄まれてまだ諦めないの、肝太すぎかよぉ」

「君の睨みが足りなかったんじゃないか?人間相手だと手心加えるだろう」

「いやだとしても心が強すぎる」

 

 降谷さんのジト目に俺は唇を尖らせて文句を言った。

 旧支配者にあれだけ言われるって、普通は「死んだよ君」って言われてるようなもんだろ!

 それを堂々と船内で殺害してまだ城までついてくるって、お前、命が惜しくないってレベルを遥かに超越してるっつーの!

 

 俺がブツブツは文句を言っていると、諸伏さんに「おー、荒ぶってんなぁ」と謎の感想を受けた。

 そうだよ荒ぶってます。

 

 

 あの船内で殺された被害者は、映像作家の寒川さんだった。

 

 部屋はありったけ荒らされてして、切り裂かれた枕の羽毛が部屋中に散乱していた。

 部屋からは映像作家さんの持っていた指輪がなくなっていて、代わりに鈴木会長の秘書さんの部屋から見つかった。

 少し偶然が重なった事件だったが、そこまで難しいトリックなどはない。

 

 目暮警部と高木刑事も船にヘリで緊急出動してくれたしな。

 なお、目暮警部にはすごくじとっとした顔をされてしまった。

 

「もはや君自身が怪異なんじゃないかね。この頻度で事件に遭遇するのは」

「まさかぁ。俺のせいじゃ無いですよぉ〜」

 

 などという会話付き。

 俺が怪異であることは確かなのだが、事件遭遇率は多分コナン君の仕業なんだよな。

 

 なんにせよ、事件はスコーピオンの仕業で間違いない。

 その場は証拠不十分で解放せざるを得なかったが。

 彼女がこの横須賀の城まで来たということは、彼女の断固たる決意を示している。

 

 降谷さんが冷徹に瞳を細めた。

 

「もうこれは有罪でいいんじゃないか?面倒が起こる前に身柄を確保すべきだろう」

「気持ちはわかるけど、流石にまだ俺の与えた加護やアーティファクトを使って殺人を犯してないからセーフだよ」

「だがあれだけ釘を刺したのに人を殺している」

「うむ。けどそれなら普通の殺人事件と変わりないし。俺が手を出すのはまだちょっと」

 

 俺が渋りに渋れば降谷さんは「仕方がないな」と言うような顔でため息をついた、

 一つ事件が起こってしまえば尻拭いは降谷さんの仕事なので、その憂いはよくわかる。

 

 だからこそ俺も慎重に動かねばならないのだ。

 諸伏さんがムスッとした黒い風を宥めつつ笑顔を作る。

 

『本当に人間相手には優しいよな黄衣って』

「俺の最推し知的生命体なので。でも宇宙の生命体平均でも割と邪悪な方の生命です、人間」

「嬉しいがなぜそれで推そうと思ったんだ」

 

 降谷さんにすごく疑問を呈されてしまった。

 細けぇこたぁいいんだよ!キュンとくることに理由なんて無いのさ!

 

 コナン君が俺らの会話を気にも留めず、ぼんやりしながら星の精をブニブニモミモミしている。

 ゼリー状の体は揉み心地がいいらしい。

 

 星の精の方はと言えば、アニメみたいに大きなお城にテンションが爆上がりしているようだ。

 ぶにんぶにんと跳ね回って、「ゲタゲタゲタッ!!!」と大きな口を満面の笑みにしている。

 

 ともかく、執事さんに着いて城の中に入る。

 

 あえて浦思青蘭に話しかけることはせず、自由にしておく予定だ。

 彼女には賢明な判断を願うばかりである。

 

 

 

 中はとてつもなく豪華な造りになっていた。

 きっと一般開放して入場料を取ったら大人気になること間違いなし、な中世ヨーロッパの世界観が広がっている。

 

 西洋甲冑のたくさん並んだ騎士の間。

 美しい絵画と花の飾られた貴族の部屋のような貴婦人の間。

 緻密で美しいレリーフと本物のシャンデリアがかけられた皇帝の間は、高い天井すらも絵画が描かれてその金の掛け方がわかる。

 うーむ、美しい。

 

 星の精はあちこちを見て回りたいらしく俺の裾を引っ張ってクスクス言っていたので、体から血の色素を抜いて透明にしてやる。

 星の精は喜んでバタバタクスクスしながら駆け出した。

 コナン君に「モノに触ったり壊したりしたらダメだよ!」とこっそり注意されたのを聞いているかいないのか。

 

 執事さんが再三になる文言と警告を繰り返した。

 

「繰り返しますが、私のいる場所から絶対に離れず、お手を触れぬよう。危険ですので」

『それって、もしかして何か仕掛けがあるのか?』

「はい。今巷では『怪異』と呼ばれるものが仕込まれております。この城そのものが、一つの大きな怪異なのです」

「盗難防止の魔術だね」

 

 俺の言葉に、執事さんは頷いた。

 

 古美術商の乾さんが嫌そうな顔で小さく舌打ちする。

 「盗難防止」は魔術としては非常にオーソドックスだ。

 そして古美術商として、それに触れたときのデメリットも理解している乾さんとしては歓迎できないのだろう。

 いかにも重装備で、盗む気満々と言った風体だし。

 

 中身をスキャンすると多少は怪異対策も用意しているのだろうが、そこまで強力なアーティファクトは持っていないようだ。

 その程度でこの城の守りは抜けないのは明らかだ。

 

 最後に来たのは執務室だ。

 

 たくさんの書物と写真が所狭しと並んでいるが、やはり整理整頓されたそこは気品のようなものが漂っている。

 コナン君が素早く、つるりとした入力欄を床のタイルをひっくり返すことで探し当てた。

 地下室への入り口があるらしい。

 

 ロシア書記官さんが「なんだ…手を当てるのか?」と黒いパネルを眺め眉を顰めた。

 たしかに黒いパネルには手の形が書き込まれていて、まるで最新鋭の静脈認証のようだ。

 

 すごく珍しい造りに、俺は感嘆の声を上げた。

 

「これは魂魄認証ですね。古の時代に使われた、歴とした怪異のシステムです。手を当てれば登録者ならば作動します」

「ふむ…ですが喜一様も大奥様もすでに亡くなられていますか」

「おそらく、直系の後継ならば開くかと。香坂さん、どうぞ試しに手を当ててみてください」

 

 香坂さんに進めれば、彼女はやや動揺したようだ。

 

 これはハイパーボリアの時代に使われていたメジャーな個人認証技術だが、大崩壊の際に共に失伝したとばかり思っていた。

 まさかロシアでその技術が生き残っていたとは。

 

 少しワクワクしながら香坂さんが黒いパネルに手を当てるのを見守る。

 認証は完了。

 当時のそれより遥かに機能は原始的だが、十分に役目を果たしている。

 

 大きなからくり機構が動き、床が開いて地下室への階段が現れる。

 

 100年以上前とは思えない技術力に、降谷さんが目を見開いて瞬いた。

 

「どこまでが魔術なんだ?」

「魔術師がからくり師を兼ねてたんだろうね。凄いな、どちらとも分かち難い。魔術師としてもからくり師としてもかなりハイレベルだ」

 

 認証機構は魔術寄りだが、それを電気信号に変えて物理機構で扉を開いている。

 三水吉右衛門の技術を若干取り込んでいる様子も見受けられる。

 

 階段をゆっくりと降りていけば、真っ暗な通路がぽっかりと姿を現した。

 複数人が懐中電灯を取り出し、道を照らす。

 

 行き止まりまで進めば、そこには大きな石碑のようなものが立っていた。

 

 双頭の鷲の背後に太陽が描かれている。

 さらにその背景には、洞窟中を覆うように巨大なイカの如き触手が描かれている。

 周囲にはいくつも触手を模した石像が反り立ち、一種異様な気配を漂わせていた。

 

 コナン君が腕時計のライトを細くして、双頭の鷲がかぶる王冠に光を当てた。

 驚くべき推理の速さだ。

 コナン君の読み通り、それだけで地下通路への階段の入り口が姿を現す。

 さらに下に続いているようだ。

 

 まるで巨大イカの口の中に飲み込まれるように見えて、少しだけ香坂さんが慄いたように身をすくめた。

 

 チラリと諸伏さんが俺に目配せする。

 その通り。このイカは俺の絵だ。

 すなわちこの階段はハスターの胎内を示していると言えるだろう。

 この仕掛けの制作者は、きっと俺の信徒だったのだと思われる。

 

 階段の中は、卵のような閉じた空間になっていた。

 中央には棺が一つ。

 大切に大切に静寂の中眠っている。

 

 中には亡骸が一つと、おそらくはエッグの片割れが入っていた。

 おおっ、とロシア書記官さんが目を見開く。

 

 諸伏さんが得心がいったように頷いた。

 

『なるほど。ここは墓なのか。あのイカのような怪物は、死の眠りを守る守護神なんだ』

「だろうな。一部地域では、人は死後空に跨る大いなる神の腹の中に帰ると言われているし」

 

 ふぅん、とコナン君が相槌を打った。

 ハイパーボリアの伝承が各地に散らばった形だ。

 死後なんてないし俺は言及しないが、クトゥルフによる文明崩壊を経験したハイパーボリアの人々は、亡くした者達を想ってそう願った。

 きっと神がその魂を守ってくれている。きっと神の元で幸せに暮らしている。

 

 そのような祈りが、今に続いている地域もあると言うことだ。

 

「僕たち鈴木会長からエッグを借りて来てるし、試してみていい?」

「え、ええ。どうぞ」

 

 コナン君の問いかけに、香坂さんが控えめに頷いた。

 

 エッグを棺のそばにあった台座にセット。

 変装した怪盗キッドのもっていた懐中電灯を下にセッティングして、そのまましばらく待つ。

 

 静かに。

 だんだんと光が収束していく。

 光をエネルギーに変換し、魔術式が作動し始めたのだ。

 

 光を感知することによって展開したエッグが、魔鏡によって刻まれた魔術式を作動。

 複雑に反射しながら幾つも術式を変化させて魔術を編み上げていく。

 

 エッグの中の皇帝一家の彫刻が、まるで生きているように滑らかに動き、本を開く。

 光と共に壁に映し出されるのはいくつもの写真だ。

 同時に流れる音楽は「彼方より来たりて饗宴に列するモノ」に接続してその都度作成されるモノ。

 内蔵するたびに形を変える、その都度最適化された音楽魔術。

 魔術を無効化してエッグを見る者の安全を守るのだ。

 

 それはまさに。

 この写真とともに思い出の時間と死者の安寧を願う、純粋な慈しみのこもったアーティファクトであった。

 

 

 

 美しい音色が響いた、その瞬間である。

 

 駆け出した浦思青蘭が、己の指輪をはめた手をエッグに伸ばした。

 

 指輪の中には発動仕掛けで封印された魔術「アルワッサの招来」が仕込まれている。

 オルゴールの魔術解除の指向性を操作して、封印を解除しようとしているのだ。

 

 すなわちそれアルワッサの解放、地球への旧支配者召喚に俺の与えた加護を使うということ。

 この優しきアーティファクトを悪用せんと不躾に手を出そうとしたと言うことである。

 

「せっかく見逃したのに」

「ギッ、ガァァアアアアア!?!?」

 

 光と共に浦思青蘭を地面へと縫い付けて、俺はため息をついた。

 浦思青蘭は俺の魔術に貫かれ、悲鳴をあげている。

 

 ワンチャンを狙ったのか、実際ことを起こすまで俺が動かないだろうと思っていたのか。

 なんにせよ舐められたものだ。

 

 怯えた香坂さんが後ずさって執事さんに庇われる。

 ロシア書記官さんが「大丈夫ですか!?」と浦思青蘭を助け起こそうとしたので手で制して前へ出る。

 

 俺は微笑んで、愚かな人間を見下ろした。

 コナン君が口を噛み締めて、それでも発言しようとしない。

 降谷さんは興味がなさそうに棺の装飾を見ている。

 

 キッドが息を呑んで、身体をわずかに震えさせた。

 

 

「俺の慈悲にも限度があると、言ったはずだが」

 

 

 優しく、優しく、ゆったりと口角を上げていく。

 

 えーっと、こういう時なんて言うんだっけ?

 もう殺すしかなくなっちゃったよ?

 それじゃネタ感が拭いきれないか。

 

 ともあれ。

 

 

 ─────神罰の時だ。

 





・浦思青蘭
ある意味狂信者。
全てのロマノフ王朝の遺産を手に入れねば気が済まない。
アルワッサに興味はないが、それがラスプーチンの魔術であるのならば正しく己の手の内になければならない。何があっても!
神などという旧時代の異物に縛られた魔術は終わった。これからは新しきラスプーチンの魔術が怪物を縛り神を超える!

……が、実はこの世界線ラスプーチンは敬虔なハスター信者である。
各地を回ってハイパーボリアの精神の癒やす技術を会得し、皇帝一家のカウンセラーとして活動していたようだ。
その技術が極めて理論立って神由来でないがゆえに誤解されただけである

・アルワッサ
呼び出しランプが点滅したような気がしたけどすぐ消えた。
なんやねんって思って覗いたら地球だったから「怖…近寄らんとこ…」ってなって去っていった。
誰が行くかあんな危険地帯。

・ハスター
流石にちょっとおこ。
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